空京

校長室

【ろくりんピック】最終競技!

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【ろくりんピック】最終競技!
【ろくりんピック】最終競技! 【ろくりんピック】最終競技!

リアクション

 第5レースに出ることになった関羽と別れ、ケンリュウガーと雅は西側応援席に向かっていた。だがそこで、ケンリュウガーの足が止まる。ある1点に首を向け、何かを注目しているような。
「何だ。気になることでもあるのか」
 訝しみつつ、雅はその視線を辿る。そして、納得したように表情を緩めた。観客の中にセイニィ・アルギエバ(せいにぃ・あるぎえば)の姿があったからだ。セイニィは、西シャンバラユニフォームを着た少年に何か頼まれ、不機嫌な顔をしていた。『パンツ』という単語が聞こえたような……空耳だろうか。
「行ってきたらいい。責任を果たすのも大事だが、素直になるのも大事だぞ」
「…………」
 ケンリュウガーは更に5秒程そうしていたが、セイニィの方へ足を向けた。
「……すぐに戻る!」
「……セイニィも今日は西で来ているのだろう。一緒に応援すればいいものを」
 彼を見送りつつ、雅は1つ息を吐いた。
「セイニィ!」
「……ケンリュウガー」
 振り向いたセイニィに、ケンリュウガーは状況を確認する。
「どうしたんだ? ぱ、ぱ、ぱ……パンツとかいう言葉が聞こえてきた気がしたんだが……」
「別にあんたには関係無いわよ」
 セイニィは腕組みをしてそっぽを向いた。それ以上何か言う気は無いようで、黙ってしまう。そこに、神崎優が非常に申し訳無さそうに借り物カードを出した。そこには『セイニィのパンツ』とはっきりくっきり書いてある。
「悪い。これを借りないと、ゴール出来ないんだ……」
「…………!」
 ケンリュウガー――いや牙竜はマスクの下で愕然とした顔をした。セイニィのパンツが借り物に……セイニィのパンツが……
(誰だ、こんなこと書いたやつは!)
 オフレコではあるが、これまた茅野 菫(ちの・すみれ)相馬 小次郎(そうま・こじろう)のコンビである。

『1番手は水無月選手! 1つ目の障害物は運動会の定番、パン食い競争の飴バージョンだよ! すっごいちっちゃいから分かり難いけど……あれ、飴だよね? うん、焦げ茶色の飴! でも、なんで飴が障害物? 咥えづらい、とかなのかなあ』
「その辺は解説に訊けば分かるだろう」
『うん、そうだね。じゃあ、解説ブースの司さんとシオンさん、お願いしまーすっ!』
《では、1つ目の障害物について解説を……》
《ちょっとちょっと! 今しゃべっちゃうと面白くないから、1人目が飴を食べてからにしましょ♪ まあ、見てれば分かるわよ》
『そうですけどー、うーん、気になりますねー! あっ、水無月選手が飴をGETする前にイーシャンのルイ・フリード選手が障害物にやってきました! 背が高いだけにこれは有利か! 荒井選手も借り物を手に入れたようです! 3人が横並び! ここでルイ選手が抜けてイーシャンが1位を取れば、勝ち越し決定です!』

 怒りに燃えていた牙竜だったが、この実況を聞いて我に返った。西シャンバラチームは、今、総合得点で負けている。今ここで、借り物競争にも敗北したら……。
「セイニィ」
 セイニィの両肩を掴み、真剣な――巫山戯た所や下心など欠片も無い真剣な眼差しで、牙竜――ケンリュウガーは言う。
「パンツを貸してくれ」
「は!?」
 セイニィは一気に眉を顰めた。
「この競技で負けてしまったら、西シャンバラチームの総合優勝は難しくなる。頼む。ここでリタイアを出すのは致命的なんだ」
 マスクで表情は見えないものの、セイニィはその気迫に押されたようにたじろいだ。
「「…………」」
 視線を逸らしつつ、それでもきっちりケンリュウガーのマスクを視界に入れて――やがて、彼女は言った。
「わ、分かったわよ……」
「ほ、本当か!?」
 安堵するケンリュウガー。何だかんだとして、セイニィは、クマさんのアップリケのついたパンツを突きつけた。
「ち、チームが勝つために仕方なく渡すんだからね!!」
 優がパンツを持って障害物に向かっていくと、ケンリュウガーは改めてセイニィに礼を言った。
「セイニィ、協力してくれてありがとう。……ところで、何で借り物の会場に居たんだ?」
「……べ、別にっ! ひまだったから顔出しただけよ! パラミタ内海にもひまだから行くのよ。……それだけだからね!」

「さあ、こんな飴、ちゃっちゃと食べて一気にゴールよ!』
『荒井選手、何だかすごいエネルギーです! 中華屋台は無視する気満々です! まあ、そうでしょう! 正直、私もなぜ障害物が中華屋台なのかさっぱりです! その辺はどうですか? 司さん!』
《そうですね。これについてはきちんと解説を……していいですよね?》
《んー、いーんじゃない?》
《ごほん、では……まだ選手が1人も到達していない中華屋台ですが、こちら、イレブン・オーヴィル(いれぶん・おーう゛ぃる)選手のパートナー、カッティ・スタードロップ(かってぃ・すたーどろっぷ)さんの提供になります。カッティさんは……ん? こちらに手を振っていますね。実況の遠野さん、近付いてみてください》
『りょーかいですっ! カッティさん、どーしました? え、マイクがほしい?』
 歌菜が予備のマイクを渡すと、カッティは溌剌とした声で言った。
『今日は、中華料理の有名所をかたっぱしから作って屋台に並べたよ! この美味しそうな匂いをかいだら、競技中でもついつい屋台の前で立ち止まるはず! ……ふっ、このあたし……ぺんぎん方面軍中華担当大佐の作る「至高のメニュー」に勝てるかな選手諸君!』 
『……なるほど! 思わず立ち寄りたくなってしまうというわけですね! 誘惑という名の障害物! かく言う私もおなかが空いてきました。チャーハンください!』
「……おい」
 羽純がツッコむ。
『屋台の味を確認するのも実況の仕事ですっ!』
『はい、チャーハン1つ入りましたーーーー!』
 カッティはマイクを脇に置いて調理を始めた。じゅーじゅーというなんとも食欲をそそる音が会場に響く。
 出来上がったチャーハンを食べて、歌菜は一言はっきりとマイクに叫んだ。
『美味い!』
『でしょーっ! 他にラーメンや餃子、何でもあるよ!』
『おっとぉ、こんなことしてる間に、飴の方はどうなったでしょうか! えーと……あ、神崎優選手が飴食い競争に加わっています! 裏椿選手、緋桜選手も参戦……! 今、荒井選手が飴を食べました! あ……! 何でしょう! 口を押さえました! 片手で……いえ、借り物のリボンをブルマの腰部分に挟んで両手で口を押さえています! 何が起きたのでしょうか! 荒井選手の反応に、他の選手達の動きが止まります!』
《カメラさんは、飴をきちんと食べているかどうかちゃんと撮ってね~》
《では、改めてあの飴について解説させていただきます。あれは商品名「サルミアッキ」といいまして、フィンランドで作られている飴ですね。塩化アンモニウムの味がするそうです》
『塩化アンモニウムー? よくイメージできないですねー!』
《一言で説明しますと「世界一まずい飴」です。本当に、世にも奇妙なとんでもない味がするそうです。北欧ではよく食べられているらしいですが、日本のレビューサイト等を覗きますと、少なくとも私や遠野さん、荒井選手のような日本人には絶大なダメージがあることが予想されます》
「世界一まずい飴っすかあ。食べてみたいっすね!」
 その時、選手入場口から御人 良雄(おひと・よしお)(日本人)が姿を現した。東シャンバラチームの助っ人として呼ばれたが、競技中の呼び出しは無くヒマしていたのだ。『世界一まずい飴』と聞いて好奇心がむくむくと湧いてきたらしい。
「その飴、僕が食べてあげるっすよ!」
 良雄の申し出に、司が確認する。
《御人選手は東シャンバラチームの助っ人です。食べるのは2つだけということになりますが。そしてこれを食べてしまうと、第5レースでは呼ばれませんがいいですか?》
「いいっすよ! 2個食べれるんすね!」
 そう言って良雄はサルミアッキに近付いた。ぶらさがったその飴を2つまとめて取って口に放り込んだ。そして――
「ぐあー! 頭が痛いっすーーーー! 消しゴムの味っす! 消しゴムがひどくなったような味っす! 苦いっす!」
 のたうちまわる良雄。
「良雄さん、ありがとうございます! あなたの犠牲は無駄にはしませんよ!」
 ルイは彼に素晴らしきかなスマイルを見せると、ゴールに向けてダッシュした。
『ルイ選手、サルミアッキ突破! 荒井選手も口を押さえながらゴールへ……いや、屋台へと直進です! 口直しです! 口直しー! 西シャンバラ選手これは痛い! 口直しせずに何人がゴールへと走れるのか! 荒井選手、餃子を一気に食べてゴールに急ぎます! タイムロスを最小限に抑えた! 緋桜選手、水無月選手、神崎選手もサルミアッキクリア! 神崎選手は水無月選手を気遣っているようです! そして、屋台へは行かずにゴールに直進! ゴールへは……あ! ルイ選手が落とし穴に引っ掛かりました! さっきの落とし穴がご丁寧にカモフラージュされ直されていた模様! 荒井選手と神崎選手が迫ります! ルイ選手這い上がる!』
《えー、スタッフから連絡がありました。落とし穴ゾーンは避けずに上を通ってくださいとのことです》
「落とし穴……大丈夫、力の限りに頑張って乗り越えますよ! もう落ちません!」
『ルイ選手が落とし穴に気をつけつつ進んでいきます! 神崎選手、超感覚を発動! 荒井選手はルイ選手の後を追うように走る! 遥遠く……おっと、緋桜選手は地獄の天使で落とし穴の上を飛んでいきます!』
 実況からは分からないが優は博識も使っていた。熱い想いと共にルイが叫ぶ。
「チームの勝利の為に! 今ここに限界突破をーー!」
『これはデッドヒートです! さて、誰が1着になるか……! 神崎選手、ゴールしました! 次にルイ選手と緋桜選手、荒井選手がゴール! 水無月選手も、屋台で水を飲んでから……こちらは飛行能力を活かして落とし穴をクリア! ゴール! 裏椿選手もゴールに向かって走ってきます! しかしこの第4レース、改めて見ると西シャンバラチーム、全員日本人です! なんでしょうかサルミアッキに合わせたんでしょうか!』
《運営スタッフによると「何かいつの間にか……」だそうです》
『あと、来ていないのは……あっ、久世選手が縦ロールの女の子を連れてきます! ザカコ選手も……って、何あれ、大っきい! でも、どっかで見たことあるような……』
《あれはジェイダス・観世院校長が普段からつけている赤い羽根ですね。借り物にそういう指定がありました》
『ええええええっ!? それはスゴい! そしてザカコ選手、前が見えないながらバーストダッシュを使っています! ヘル選手がメガホンを持って……! なるほど! 確実に先の情報を伝えているようです! また、久世選手がサルミアッキを攻略する必要があるのに対し、こちらはゴールに進むだけ! おっと、今、飴に悶える久世選手を抜きました!』
「次の障害物は落とし穴だぜ! 注意しとけよ!」
「落とし穴……」
 一旦止まってふさふさを持ち直す。
「よし、そこからまたバーストダッシュをすれば一気にゴールだ!」
 ヘルが方角を指示すると、ザカコは最後のバーストダッシュをかけた。
「小鳥の様に繊細に、虎の様に大胆に……ですね」
『ザカコ選手、ゴール! 久世選手は……2人で慎重に落とし穴を回避し、進んでいます。そして………………今、ゴール! 第4レース、終了です!』
《では、最終結果を発表します。

 1位、西チームの神崎 優選手
 2位、東チームのルイ・フリード選手
 3位、西チームの緋桜 遙遠選手
 4位、西チームの荒井 雅香選手
 5位、西チームの水無月 零選手
 6位、西チームの裏椿 理王選手
 7位、東チームのザカコ・グーメル選手
 8位、西チームの久世 沙幸選手

 となりました。皆様お疲れさまです。後は第5レースを残すのみです!》

 レースが終わると、西チームの選手達と良雄はこぞって中華屋台に向かった。
「どんどん食べてね! いっぱいあるよ!」
 口直しを終えて、それぞれ借り物を返しに行く。カッティは残った中華料理を、応援団やチアガール達に配っていった。
「借り物として受理されました。ありがとうございます」
 ルイはソートグラフィーで写した『馬鹿笑いするコリマの写真』の入ったデジカメを天御柱の2人に返した。
「良かったな、お前、これ今度コリマ校長に見せるんだよな?」
「え、……えっと……」
「見 せ る ん だ よ な?」
「…………」
 その頃、ザカコはふさふさを持ったまま、VIPルームへと引き返していく。
「これは、早くお返ししないといけないでしょうね」
「……ああ、興味を持ったやじうまが何人かVIPルームに行こうとしてるな。双眼鏡とか構えてるやつもいるし」
「しかし……なかなかレアなものを見せてもらいましたね。順位が落ちてしまったのは残念ですが……」
「まあ、借り物が物だからな……」