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リアクション
現在パビリオン
縁の下の人々
蘇芳 秋人(すおう・あきと)は蘇芳 蕾(すおう・つぼみ)に声をかけた。
「蕾、空京万博が始まったね、見に行こうか」
「空京万博……人が多いとこは……苦手なんだけどな……
秋人様が行くというなら……行く」
現在パビリオンは大勢の人で賑わっていた。展示の種類も随分あり、秋人はどの展示を見に行こうかときょろきょろしている。
「へぇいろんな展示があるんだなぁ、オレは設営は手伝えなかったから見る専門だけど。
コンパニオンのお姉さんたちも可愛いなぁ」
一方蕾はコンパニオンの制服にすっかり目を奪われてしまっていた。バイト出来ないかな、と思い、1人ふらりと裏方へ回る。根回しを使い、あっさりコンパニオン制服2着を借り受け、清掃のアルバイトを請け負うことに成功したのだ。ややあって蕾に目をやった秋人は目を疑った。
「蕾……いつの間にか現在のパビリオンのコンパニオン衣装を着ているのは何で?
そしてその手に持ってるもう一着は何のため?」
「さぁ……秋人様も……着て……お掃除するの」
うっとつまった秋人だったが、おとなしく渡された衣装を身につけた。かくして2人とも女性用コンパニオンの衣装を纏い、現在パビリオンの清掃業務にいそしむこととなったのであった。
「意外とゴミ多いね。綺麗にしてみんな気持ちよく過ごしてもらわないと。
……まぁ動きやすいしこんな服もありか」
(やっぱり似合う……可愛い……)
蕾の思惑にすっかりはまった秋人である。
レギオン・ヴァルザード(れぎおん・う゛ぁるざーど)は、今回の万博で現在パビリオンの巡回警備を請け負っていた。当初カノン・エルフィリア(かのん・えるふぃりあ)は置いていくつもりだったのだが、どうしても一緒に行きたいと言い張るカノンに根負けし、2人で見回るということにしたのである。展示コーナーも巡回路に入っているのだが、カノンはどうしても展示品や催し物に目が行ってしまう様子だ。
「レギオンあれ見て、すごい!」
「……カノン、遊びに来ている訳じゃないのは分かってるんだろうな?」
「わ……分かってるわよ! ただちょっと……気になっただけよ」
「……だから俺1人で来ると言ったじゃないか。カノンは見て回れば良い」
「まじめにしてるわよ! ちゃんと仕事だって自覚はあるもん」
と、半べその6歳くらいの男の子が目に入った。どうやら迷子らしい。カノンがすぐさま声をかける。
「どうしたの坊や?」
「お母さんがいなくなっちゃった……」
「なんだ、迷子か?」
レギオンが無表情に屈みこみ、おもむろに子供を抱き上げる。驚いた男の子は泣き出してしまった。
何かきっと独自のおいしいものがある、と現在パビリオンにやってきていたアイリス・レイ(あいりす・れい)は、永井 託(ながい・たく)に言った。
「次はシャンバララーメン試食会に行くわよ」
普段アイリスには迷惑をかけているし、たまにはいいかな、という思いから食べ歩きに付き合うことにした託である。
「了解だよ。 ……ん? なんか子供が泣いてないか?」
そちらの方へ行ってみると、わあわあ泣いている子供を仏頂面で抱き上げたまま、動けなくなっているレギオンと、その周囲でおたおたしているカノンが目に入った。
「あのさ、アイリス」
「……言わなくてもわかるわよ、放っておけないってことでしょ。行きましょ」
「どうかしましたか?」
託が声をかける。
「迷子らしいんだけど、レギオンを怖がっちゃって。 ……ずうっと泣いてるの。
見回りの仕事があるんだけど……」
カノンが困り果てた様子で言った。レギオンは苦虫を噛み潰したような顔をしている。
「それなら私達が引き受けるわ。確か、案内所があったはずよ」
アイリスが言って、レギオンから子供を引き取った。託がしゃがみこみ、ハンドタオルを差し出しながら優しく子供に話しかける。
「大丈夫、お母さんを探しに行こうね? すぐ見つかるよお母さん。
ほら、これでお顔きれいにしよう?」
「……うん」
アイリスが子供の手を取り、レギオンらに手を振る。レギオンは相変わらず無表情ではあるものの、感謝の意を込めて言った。
「助かった。すまない。ありがとう」
子供もようやく落ち着いた様子で、おとなしくアイリスと手をつないで歩き出した。
「アイリス、ごめんねぇ」
「別にいいわよ、私としても見過ごしたいとは思わないし。
さ、早く解決してラーメンを食べに行くわよ!」
2人は迷子案内所に向かった。
「シャンバララーメン試食会」
地球、日本においては知らぬものとてないラーメンだが、シャンバラではまだそうおなじみの食べ物というわけではない。ラーメンは文化である。空京万博では、シャンバラの食材を使用し、地球でおなじみの作り方で開発されたシャンバララーメンを作ってみたい。渋井 誠治(しぶい・せいじ)の思いはそこにあった。
生の声を聞いて改良を重ねるための展示でもあるため、アンケート用紙を設置して試食の感想を集るつもりでもあった。
「とにかく沢山の人にラーメンを食べてもらいたいんだ。
そして、地球とシャンバラの想いが詰まったラーメンを作りたい」
その熱い思いをヒルデガルト・シュナーベル(ひるでがると・しゅなーべる)に語り、熱心にラーメン作りをする誠治。
「ラーメンを作る人手が足りないでしょう? 私も手伝った方がいい?」
ヒルデガルドが尋ねる。
(ね、熱意はありがたいんだけど、ヒルデ姉さんの料理の腕は壊滅的だからな……)
誠治はあわてて、彼女に言った。
「い、いやそれよりほら、箸になじみのない人もいるだろうしさ? そういうの教えたり……
あ、あとほら、宣伝担当がいないから、そっちを頼むよ」
「あ、私は呼び込みね? ええ、分かったわ」
その朝。見るからにお嬢様−実際お嬢様育ちなのだが−といった風情のメイヴ・セルリアン(めいう゛・せるりあん)は、メイヴと出会うまではお嬢様とは無縁であった、ジェニファー・サックス(じぇにふぁー・さっくす)に向かって決意表明をしたのだった。
「今日は私、シャンバララーメン試食会に行ってみますわ! シャンバラでラーメンだなんて。
……地球にいた頃もあまり食べたことありませんでしたし、色々と食べてみたいですわ」
「わーい! メイヴとお祭りっ! 思いっきり楽しまなきゃ損だよね!
何々?ラーメン食べに行くの?
あたし、簡単に食べれて美味しいラーメンて好きだよ! 楽しそう、行こう行こう!」
2人は連れ立って会場へ行ったのだが、とにかくすごい人出である。
「うわ〜、すごい人だね〜」
御神楽 陽太(みかぐら・ようた)は夫婦で仕事中で、万博には来られないため、ノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)は1人現在パビリオンを散策(探検?)していた。
「うーん。 ……向こうへ行きたいんだけどなかなか……」
ノーンはシャンバララーメン試食会に行きたいと思ったのだが、人が多く、小柄な彼女はなかなか思うように動けない。人波に翻弄されもがいていたところを、ジェニファーに声をかけられた。
「あら、あなたどうしたの? 迷子?」
「ううん、あのね、1人で来たの。
シャンバララーメン試食会に行こうと思ったんだけど、動けなくって……」
「まあ、偶然ね、私達もそこへ行くのよ。よかったら一緒に行きませんこと?」
メイヴが言うと、ノーンは嬉しそうに頷いた。
「わあ、いいの? 嬉しいな、ありがとう。わたしはノーンっていうの。よろしくね」
「私はメイヴ。こちらはジェニファーよ」
3人は会場へと向かった。ものめずらしさも手伝って、ラーメン試食会はなかなかの人出だ。ヒルデガルドも説明や給仕に奔走している。
「あ、お箸はこう使うのよ。あ、その食材はね……」
誠治は調理に給仕にと忙しい。
メイヴ、ノーン、ジェニファーの3人は何種類かをオーダーし、取り分けていろいろ食べてみることにした。
「同じ釜の飯じゃなくて、同じラーメンを食べて友達になろうぜ!
味はどれも保証つきだ」
誠治が言って、出来立てのラーメンと、取り分け用の小どんぶりを運んでくる。
「うわぁ、美味しそう!」
ノーンがニコニコする。
「あら、ここのラーメンは殿方が調理をするんですの……?」
「なに言ってるの! 料理人に男も女もないわよ」
不安そうなメイヴに突っ込みを入れ、ジェニファーは早速食べ始める。
「うーん、シャンバラの食材を使っているんでしょう?
地球のと変わらないって言ったら変だけど、これは美味しいね」
3人ともあっという間に食べてしまった。
「ううーん、美味しかった!」
「堪能いたしましたわね」
「よかったら、より美味しいラーメンを作るためのアンケートもご協力お願いしまーす」
ヒルデガルドが言って、用紙を手渡す。ノーンは真剣な表情で、用紙に記入したのだった。
『わたしは、チャーシュー麺っぽいのが1番良かったよ! スープは味噌味が好みかな?
とっても美味しいラーメン食べれてすごく嬉しかったよ!!
これからもいろんなラーメンが出来るの楽しみにしてるよ、頑張ってね!!』
クリスティーナ・テスタロッサ(くりすてぃーな・てすたろっさ)は、堂島 結(どうじま・ゆい)が先にラーメン試食会を見つけてしまったことを無念に思っていた。本来ならだいぶ前に知人の展示についているはずだったのだが……。結はそんなクリスティーナの懸念など気にもしていない。
「このラーメン、おかわりくださーい!」
「ちょっと結! まだ食べる気???
いい加減行かないと見れるものも見れなくなっちゃいますよ〜!」
クリスティーナは結をつつくが馬耳東風。対牛弾琴である。現在の結の頭の中はラーメンのことだけで、100%占められているのだ。
……すでにラーメン10杯目なのだが。
ほどなくヒルデガルドがラーメンを持って席にやってきた。
「ラーメンお待たせしました! よほど気に入ってくれたのね、嬉しいわ」
「んー、ラーメンはやっぱり美味しいです〜! 最高!!」
至福、といった表情で、底なしにラーメンを食べ続ける結。
「はぁあ……。もう、結のラーメン中毒には困ったものです〜」
やけになったクリスティーナは半ばあきれ、半ばあきらめ、嘆息した。どうやら知人の展示には、最後の方に顔をちょっとだけ出す羽目にになりそうだ。
「……私にもラーメンひとつ、お願いします」
あきらめたクリスティーナは、自分もラーメンを楽しむことにしたのであった。
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