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創世の絆第二部 最終回

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創世の絆第二部 最終回
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激闘を支える者たち

 数的有利な状況を作り出した上で対抗する。それを鉄則とすることで契約者たちはインテグラルナイトの軍勢と戦ってきたのだが、それ故にどうしても戦況は押し込まれているように見えがちだ。
 それでもどうにか確実に、敵の数を減らして来ていたはずだったのだが―――
「そんな……まさか……」
 その分析結果に島津 ヴァルナ(しまづ・う゛ぁるな)は言葉を失った。LSSAHに同乗するクレーメック・ジーベック(くれーめっく・じーべっく)がすぐに気付いて問いたが、彼女は小さく首を振って呟いた。
「敵の数が減ってません」
「なに?」
 目視だけではない、索敵システムに通信システムを駆使して戦場の情報を収集しているのだが―――
 開戦直後、30体近く居たインテグラルナイトの数が、おおよそ今も変わってはいなかった。
「なぜだ。いや、増援がきたとしか考えられんか」
 信じがたいがそれが事実だろう。ナイトがそれだけの数存在していたという事にも驚きだが。吉井 ゲルバッキー(よしい・げるばっきー)が引っ張り出してきたという事だろうか。
「こちらジーベック。応答願う」
 最前線にいる機動要塞に通信を入れた。ナイトの軍勢はもちろん、ビショップとの戦いも確認できる位置に居るはずだ。
 戦況の報告を受ける中で彼が注視したのは機動要塞内のドッグの状況だった。
「人手不足に関してはもはや何も言わないわ」
 応えたのはイーリャ・アカーシ(いーりゃ・あかーし)、今回は整備班として機動要塞に赴いている。
「ただし今回はもっと深刻よ、このままだとイコンの部品が足りなくなる」
 ドッグには損壊したイコンが次々と運び込まれてくる。損傷の軽いものから重いものまで様々だが、それら全てを万全の状態にまで修復することは元より不可能、ここは戦場だ、一刻も早く再出撃ができるよう補修することが何よりも求められている。
 ドッグ内にジヴァ・アカーシ(じう゛ぁ・あかーし)の声が響きわたる。彼女は機体の損傷度合いを判断して振り分ける、いわばイコン版のトリアージを行っているのだが―――
「これは、ちょっとダメね。ごめんなさい、パーツ、使わせて貰えないかしら」
 直しても再出撃は不可能、また修復に時間がかかりすぎると判断した機体に関しては「共食い整備のパーツ」に使わせて欲しいと交渉していた。戦場での修繕としてはよく行われる手法だが、パイロットの気持ちを考えれば出来ることなら避けたい手法でもある。
「再出撃までの時間を短縮するためにも修理は出来るだけパーツ交換で済ませたいの。でも今回は『覚醒』や同一効果のニルヴァーナの秘宝を使う機体が多いから、リアクターや四肢のパーツはどうしても足りなくなってくる」
「了解した。すぐに補給部隊を向かわせる」



 ジーベックの指示を受けて、すぐに3機のイコンが動いた。機動要塞ネーデルラントを中心とした補給部隊である。
「急げ! すぐに発つぞ!!」
 要請を受けたハインリヒ・ヴェーゼル(はいんりひ・う゛ぇーぜる)ネーデルラントに搭載しているイコンパーツをランゲマルクに移すよう教導団員たちに指示を出した。空中での戦いが激しさを増している今、ランゲマルクで地上を行く方が安全だろうと判断してのことだ。
 安全と言ってもここも戦場。端部で待機していたとはいえ―――
「させんっ!!」
 ギュンター・ビュッヘル(ぎゅんたー・びゅっへる)ニーベルンゲンインテグラルナイトに体を当ててこれを防いだ。
 戦場の端部とはいえナイトによる襲撃は当然にある。頻度は少ないがその度にニーベルンゲンが身を盾にして部隊を守ってきた。
 すでに左腕を失っているが、それでもまだ戦える。
「つーか、んな所でくたばってる場合じゃねぇよなあ」
 サブパイロットであるサミュエル・ユンク(さみゅえる・ゆんく)が笑みを浮かべてそう言った。この状況を面白がっているようにも見えるが、実は誰よりも冷静に戦況を見つめている。切り札である『覚醒』を使うことなく部隊を守ってきたことも、彼の判断力と卓越した操縦技術を裏付けている。
「前線まで物資を運ぶって事は戦場を突っ切るって事だろ? こいつだって死ぬなら戦場の「ど真ん中」で死にたいよなあ」
 ニーベルンゲンが応えるわけはないが、代わりにギュンターが「死なせはせん。ニーベルンゲンも、サミュエル、お前もな」なんて言っていた。相変わらずにお堅い奴だ。
「物資の積み込み、全て終えました」
 川原 亜衣(かわはら・あい)ヘンリッタ・ツェーンリック(へんりった・つぇーんりっく)に報告した。先刻まではダメージを負ったイコンとパイロットの受け入れを行っていたが、この時ばかりはランゲマルクへの物資搬入を手伝っていた。
「ルートの解析は如何ですか?」
 報告を受けたヘンリッタは次にオットー・ツェーンリック(おっとー・つぇーんりっく)に問いた。戦場に安全な場所などあるわけがないが、それでも彼は少しでも危険を避ける事ができればと前線までのルート解析を行っていた。
 ずっと難しい顔をしていたが、彼は遂に「お待たせしました」と振り向いて言った。
「少しばかり遠回りになりますが仕方ありません。しかしこのルートしかありません」
「前線部隊と機動要塞には連絡致しました。受け入れの準備と護衛の援護も依頼済みです」
 準備は整った。最前線で戦う者たちへ、戦う意志を持つ者たちを支援するべく、イコンパーツを含めた物資が前線部隊へと必ずに届けてみせる。