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リアクション
刹那の攻防
リーダー格である焔の剣を持つビショップ。次にその強敵に挑むのは葛葉 杏(くずのは・あん)、橘 早苗(たちばな・さなえ)のレイヴンTYPE―Cと十七夜 リオ(かなき・りお)、フェルクレールト・フリューゲル(ふぇるくれーると・ふりゅーげる)が乗るメイクリヒカイト‐Bstだ。
まずはメイクリヒカイト‐Bstが『ツインレーザーライフル』を掃射した、が―――
「なっ……」
リオが瞳を見開いて驚く。厚甲や焔剣で受けるでもなくビショップは目を疑うような速度でそのレーザーを飛び避けたのだ。
「……そういえば機動力も抜群って、データにあったよね」
フェルクレールトは他人事のような口調で言ったが、冷めているわけでも興味がないわけでもない。本人は至ってまじめに過去のデータを思い返して報告したに過ぎない。
「わ、忘れてたわけじゃないよ、忘れてなんかいないさ。なるほど、そうか、そうくるか」
スピード勝負を挑もうとしていたリオにとってそれは屈辱的な速さだった。悔しいが今のままでは恐らく奴の動きにはついていけない。
「ふぅー。そうか、そうか、なるほど。『覚醒』を使うのは僕らの流儀じゃないけど、四の五の言ってらんないか」
「……賛成。やる気でてきた」
想いは揃った。迷いはない。
「全リミッター解除、『覚醒』……始動」
高い機動力を誇るメイクリヒカイト‐Bstが『覚醒』によって更なる機動力を獲得した。
「早苗、私たちは正面じゃなく側面か背面から攻撃するわよ」
「わかりました!」
射撃型のレイヴンTYPE―Cでは接近する事はまず不可能。というより元より狙ってなどいない。
正面からではまともなダメージは期待できない。ならばせめて別方向から強力な一撃を叩き込むことに全てをかける。
「……リオ、ちょっと無理するよ」
『覚醒』を果たしたメイクリヒカイト‐Bstが、
「ヴァリアブルウィングスラスター全基展開、方向修正…………フルスロットル!」
弾けるように飛び出してビショップに斬りかかる。
先程余裕でこちらの攻撃を避けたのだ、予想通り、ビショップはこれを焔剣で受け弾いては、距離を取ろうと飛んで離れた。が―――
「今度はそうはいかないよ!」
メイクリヒカイト‐Bstはぴったりとこれについて行き、『新式ビームサーベル』を打ち続けた。機体の性能はもちろん、『精神感応』でパートナーと繋がっている分、そして『行動予測』による先読みが効いていた。スピードでは決して負けてない。
あとは―――
ビームサーベルが弾かれるまでは予想通り、だけどここから『エナジーバースト』を発動する。
「バリア展開……最大スピードにぶつける」
リミッター解除。『覚醒』の上乗せもある。更に機動性を増した突進でビショップの胸元に飛び込んだ。
「今です! 杏さん!」
「よっし、まかせて!」
ビショップの背後、少しばかり距離はあるがレイヴンTYPE―Cの砲口が奴を捉えている。
「最大出力でいっけー!!」
発射直前に『覚醒』を果たし、文字通り最大出力の『サイコビームキャノン』が放たれた。
前方はメイクリヒカイト‐Bst、背後から『サイコビームキャノン』。完全に獲ったと思ったが―――
ビショップは敢えてメイクリヒカイト‐Bstに弾かれる形で吹き飛ぶと、『サイコビームキャノン』に接近する最中に焔剣を振って「炎の壁」を出現させた。
「ちょっ……」
「……なるほど、それもデータにありましたね」
サイコビームキャノンは炎壁を貫いたが、そこに時間がかかったぶん、ビショップに直撃する事はなかった。
「ほぅら、やっぱり。そんな簡単にはいかないみたいだねぇ」
微かにも緊張感の感じられない声で言ったのは南臣 光一郎(みなみおみ・こういちろう)だ。彼はダイヤモンドの 騎士(だいやもんどの・きし)と共に戦況を見つめていた。
「数で囲んで押せば勝てるなんて、そんな単純な相手ならここまでコジレてなんかない。そうは思わないかい?」
「…………」
「いい加減にしないか、光一郎」
見かねてオットー・ハーマン(おっとー・はーまん)が一喝した。「ダイヤモンドの騎士殿は決戦に向けて集中力を高めているのだ。それを邪魔してなんとする」
「あ〜、相変わらずマジメだね」
オットーが真面目? いや、どう考えても「光一郎が不真面目」の一択だろう。
「ん、まぁいいけどねん。でもさ、怖い顔を作っても「カレーの匂い」で台無しなんだよね」
「そ、それは……」
契約者たちの新たな力スーパー鳥人型ギフト。強力な武器であることは間違いないのだが、なにぶん、いやかなり「カレーうどんに酷似した匂い」がするのだ。
しかもこの場にはダイヤモンドの 騎士だけではなく、もう一人、
「ほ、ほーっ、ホアアーッ!! ホアーッ!! ん? 何見てんだコラ」
「………………」
やさぐれ三毛猫の猫井 又吉(ねこい・またきち)もまた「スーパー鳥人型ギフト」を連れているのだ。しかも槍タイプにして振り回している。そりゃあ匂いも拡散するわ。
「じゃあ、まぁ、ここでダベってても始まらないし。行こうか」
「ダベっていたわけではない、機を窺っていたのだ」
「はいはい、そうでした」
ダイヤモンドの 騎士の直衛に光一郎のラ・イーナ、そして「スーパー鳥人型ギフト」を振り回す又吉とそのパートナーが搭乗するダイノザウラーが横に並ぶ。
「ずいぶんと動き回るみてぇだな。春風に揺れる干されパンティってか―――おっと、いけねぇいけねぇ」
国頭 武尊(くにがみ・たける)は慌てて首を振った。煩悩を払うことは出来ないが、今日ばかりはフザケている場合ではない。
―――パラ実生の凄さを改めて周囲に知らしめねば―――
「そのためにも、まずは……あれだ、あれをしねぇと始まらねぇ」
こちらも新たなる力『※ヴィサルガ・イヴァ』を発動、ダイノザウラーを半覚醒状態にまで昇華させた。
「悪くないねぇ。じゃあ、イキますかっ!!」
恐竜型とは思えない程の速度でビショップに向かってゆく。実際にはそこまで速くはないし、ビショップにとってすれば楽々避けることが出来る速さだろう。しかし、それも想定済みだ。
「ほらよっ!!」
ダイノザウラーの腕が伸びてビショップに迫る。巨拳で捕らえたら伸びた関節を戻して引き寄せる、そうなれば煮るなり焼くなり噛みつくなり凍傷させるなどなどヤりたい放題だ―――と考えていたのだが。
「くっ……んのっ……なぁろう……」
「何してんだテメェは!!」
もう一方の腕も『無尽パンチ』で伸ばしたというのに、ちっともビショップを捕まえられない。それどころかそれを追っている内に二本の腕がグニャグニャグニャと絡まりそうになっていた。
「何してんだテメェは!!」
すぐ横を又吉が駆け抜けていった。ダイヤモンドの 騎士も後に続く。まずは挨拶代わりの一撃に、と、
「猫井又吉参上!! カレー臭いギフトで、華麗にてめーを仕留めてやるぜ。」
槍状のアヴァターラでビショップに挑む。二人掛かりの肉弾戦ならば圧倒できるかとも思っていたが、どうにも互角な打ち合いになってしまっていた。
「舐めんじゃねーぞ、この野郎!!」
『※ヴェルサガ・プラナヴァハ』の力でアヴァターラの力を解放。土埃の影から一気に飛び出して槍を突き出した。
まるで重さを感じなかった。これがアヴァターラの解放か。又吉が放った槍はビショップの左上腕部を突き刺した。
「突貫!!!」
そのまま貫ける! と思った次の瞬間―――又吉の頭上で呻声がした。声の主はダイヤモンドの 騎士、その体をビショップの焔剣が斬り裂いていた。
「ダイ騎士ぃー!!!」
ダイノザウラーを駆らせてビショップを遠ざけた。追撃は無かったが、一体これはどうしたことか。いや、どうなったというのか。
又吉が突きを放つ直前、実はその上部空中からダイヤモンドの 騎士もビショップに迫っていた。
手には「スーパー鳥人型ギフト」、おそらく又吉よりも一手早くに仕掛けていて、だからこそビショップは迎撃対象をダイヤモンドの 騎士へと定めたのだ。
ビショップの誤算は又吉がアヴァターラの力を解放していたこと。ダイヤモンドの 騎士を退けた後に悠々と又吉を迎撃するつもりが、まさかの一撃を喰らう事になってしまったというわけだ。
「誰か! 誰か居ねぇか!!」
戦艦土佐に飛び込んでくるなり、光一郎はラ・イーナから転げ降りて叫んだ。
その胸に血に塗れたダイヤモンドの 騎士を抱えているのが分かると、乗組員たちは急いで堀河 一寿(ほりかわ・かずひさ)の元へと案内した。
「これは……」
一寿はすぐにヴォルフラム・エッシェンバッハ(う゛ぉるふらむ・えっしぇんばっは)を呼んだ。イコン整備ならばカジっているが、パイロットの治療となれば彼の方が専門だからだ。
「止血します」
まずは『ヒール』を、場合によっては『ヒプノシス』をかける必要がある。
「心配要りませんよ」絶望の淵に居るような顔をしている光一郎に声をかけた。
「大丈夫、助かります。必ず助けます」
傷口には火傷の痕も見られるが、傷自体はそこまで深くない。順に治療してゆけば命の心配はないだろう。
ただし当然に再出撃は叶わない。ビショップに一撃を入れた代償は……思う以上に大きかった。