イルミンスール魔法学校

リアクション

ＳＣＥＮＥ・９　後日　　　

　シャックマンと正気を失ったダンロードは空京の警察に引き渡された。
　そして、事件に巻き込まれた生徒たちには青楽亭で、ご馳走を振舞うことになった。
　事件の全容は、生徒達がそれぞれの情報を繋ぎ合わせ、やっと理解することができた。
　黒崎天音が問い詰めた通り、光零は古から化け物と契約を結んでいた。それは、戦争による略奪から財産を守るためであり、地下を根城にしていた化け物に財産を守ってもらう代わりに、化け物の食事である人間の恐怖を提供すること。もちろん、人を殺さない・契約者である光零の住民には手を出さないのが前提である。
　ずっと共存関係を築いてきたが、最近になって議長のシャックマンは古の先祖が残した財産に手を出し始め、さらに、観光地開発を目指したため、騒動を起こす化け物が鬱陶しく思うようになっていた。元々、光零の住民には危害を加えない契約の為、化け物も直接は手を下せずにいたが、ダンロードは街から離れた別荘だったために呪縛が緩み、手を下すことができた。
　ダンロードは父親が持ち出した財宝を自分の別荘に隠していたが、ある日、友人であったネルソンに見つかり、咎めるネルソンに逆上して、家の蛇の紋章の入った剣で殺害。剣を抜こうにも、ネルソンが最後の力を振り絞って剣を抱え込んでいるために抜けなかった。焦ったダンロードは父親のシャックマンに相談。硬直したネルソンの遺体は、マジックミラーの裏の隠し部屋に入れ、マントだけを地下水路に放り込んだ。
　
　事件のまとめを聞き終わった小鳥遊歌戀は溜息を吐く。
「結局、一番怖いのは化け物の闇ではなく、人間の闇だったんですね。でも、シャックマンさんやダンロードさんはどういう気持ちだったんでしょうね。大広間のマジックミラーの裏で、ずっとネルソンさんが見ていたんですよね」
　青楽亭にいた面々の脳裏に、じっと見つめるネルソンの青い瞳が浮かび上がりぞっとする。
「うわぁ……今夜は鏡を見るのが怖くなりそう」
　カレン・クレスティアの呟きに、何名かは頷いていた。
「そういえば、ナトレアのマリオネットが見れなくて残念です」
　高潮津波が溜息を吐く。ナトレアは困った顔をしたが、急に立ち上がりロボットみたいな動きで言う。
「コンド、ガッコウノセンセイニデモ……」
「学校の先生に見せたら、面白そうですね！　驚いてくれるかも！」
　高潮は目を輝かせたが、まわりはナトレアの素晴らしいリアルマリオネットに引いていた。
　
　夕暮れの黒喜館。店主が商品の埃を落としていると、ソルジャーの永夷零（ながい・ぜろ）とセイバーのルナ・テュリン（るな・てゅりん）が入ってくる。
「いらっしゃい」
　ルナは店の小物を弄り始めるが、零は店主に声を掛ける。
「店主、この前の事件は大変だったな」
「……ずいぶん学生さんたちに助けられたね。事件の関係者かな？」
「地下水路ではずいぶん化け物に世話になった。……店主は古くから店を開いているそうだが、いつからだ？」
　店主は少し首を傾げ、苦笑いをする。
「……過去は振り返らない主義なので、忘れてしまったよ。ところで、そちらのお嬢さんは変わったモノを頭につけているね」
　店主はルナの頭を見ているが、ルナはきょとんとしている。
「そんなに変わった髪型ではございません。ところで、ゼロ」
　ルナは紫に赤いブチ柄のウサギの置物を手に取り、零に差し出す。零はしばらく毒キノコを連想させるウサギの置物を見つめ、ルナに訊く。
「……これが欲しいのか？」
　ルナは満面の笑みで勢い良く頷いた。零は溜息を吐き、財布を取り出した。
　零が店を出る直前、ふと思いついて振り返り店主に訊く。
「……化け物とばかり言ってるが、名はあるのか？」
　店主の姿は影で見えなかったが、声だけがはっきり聞こえた。
「光零では古より『ダークウォーター・レディ』と呼ばれているよ」