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都市伝説「闇から覗く目」

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都市伝説「闇から覗く目」

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SCENE・3 屋敷にて 
 
 議長の屋敷は光零のちょうど中央に位置していた。青楽亭の主人の言う通り、見過ごす心配がないほど、新しく大きな建物であった。光零の建物は全体的に小さくて古いレンガや石造りが多いのに対して、議長の屋敷は白亜の城といった風情で、屋敷の周りを高い塀で囲み、庭には武装した男たちが、見回りをしていた。屋根の上には銃を構えた者たちもいる。
「……話通りに警備は厳しいですね。上からは無理そうですね」
 ナイトのクロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)は空飛ぶ箒に乗り、塀の向こうの警備を観察していた。
「むむ、悪事の匂いがするな」
 クロセルの肩に乗ったドラゴニュートのマナ・ウィンスレット(まな・うぃんすれっと)は、鼻をクンクンさせて言う。
 クロセルは塀の外で集まっている屋敷に侵入するメンバーの元に戻る。そこではウィザードのデズモンド・バロウズ(でずもんど・ばろうず)が駄々をこねていた。
「俺様も空飛ぶ箒を持っているのに、何で偵察に行けねえんだよ!」
「偵察でも見つかれば危ないですから。危ない事は他の大人の方に任せましょう」
 守護天使のアルフレッド・スペンサー(あるふれっど・すぺんさー)は、今にも飛んでいきそうなデズモンドを抱えながら宥めている。
 その様子を眺めるリイヌ・アステリアは、デズモンドは絶対に偵察に向かないなぁと思っていた。 
 セイバーのリュース・ティアーレ(りゅーす・てぃあーれ)はお腹を摩りながら、相棒でヴァルキリーのグロリア・リヒト(ぐろりあ・りひと)に言う。
「すごい屋敷ですから、きっと豪勢な食事をしているんでしょうね」
「……まさか、ご馳走を頂こうなどと思っていないわよね?」
「意外とすんなり客として迎えてくれるかもしれませんよ」
「それは絶対にないわ」
 グロリアは「何でこの人と契約したのかしら?」と一抹の後悔を抱きならも、律儀に答えていた。
 マナはクロセルの頭の上に登り、一同を見渡して言う。
「私たちはこのまま屋敷に強行突破してしまえば、ただの狼藉者になってしまう。そこで、最初はちゃんと議長に取次ぎを頼もう。議長との話の中で矛盾点や、事件解決のヒントが隠されている可能性もある」
 
 マナの作戦通りに一同は門番の傭兵に取次ぎを頼んだが、応対した傭兵二人は鼻で笑う。
「ハンッ、議長殿から誰も取り次ぐなと命令が出ている。もっとも、命令がなくてもあんたらのような怪しい奴らは相手しないがな」「失礼な! 私達のどこが怪しいというのだ!」
「そうだ! 悪人面した貧乏そうなおっさんたちに言われたくねえよ!」
 マナとデズモンドの抗議に、傭兵達の顔色が変わる。
「なんだと! この偉そうなトカゲとチビガキめ!」
「ト! トカゲだと! クロセル! 世のため人のため、悪党どもを懲らしめてやりなさい!」
「俺様がチビガキ……ぶっ飛ばす!」
 
 屋敷の入口で大騒ぎを始めたクロセルたちを見つめる複数の視線。
 屋敷の入口を見下ろせる三階窓からは、ソルジャーのイリーナ・セルベリア(いりーな・せるべりあ)。イリーナは議長屋敷の警護として雇われ、指揮官として議長であるシャックマンの傍にいた。
「外が騒がしいようだが、中の奴らも外の連中を追い払いに行かせた方がいいのではないか?」
 シャックマンは太った白髪の老人で、不安そうに太い指に嵌めている蛇の刻印の入った指輪を弄っている。イリーナは入口のクロセルたちを見下ろしながら答える。
「それはいけません。おそらく彼らはおとりでしょう。騒ぎに便乗して、侵入してくる者たちがいるはずです。特にこの部屋の内と外の警備は動かしてはいけません」
「わかった。まったく、警備を頼んでおいて良かった」
「……出来る限りの警備を整えましたが、安心はできません。私の作戦はあくまでも机上の作戦。あとはどれだけ人間が作戦通りに動けるかです」
 イリーナは油断なく入口以外にも視線を走らせた。
 
 イリーナの視線と外の傭兵たちの視線をクロセルたちが集めている間、屋敷の横に回り込んだ者たちがいた。【インビジブル】の名の下に、ウィザードのソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)とゆる族の雪国ベア(ゆきぐに・べあ)、ウィザードの緋桜ケイ(ひおう・けい)と魔女の悠久ノカナタ(とわの・かなた)が集まっていた。
「ケイ、まだ行かないほうがいいでしょうか?」
 ソアは壁に張り付きながら、横にいたケイに訊く。ケイはまだクロセルたちが立ち往生しているのを見て、
「もう少し暗くなるのを待つか、他の連中が強行突破をした後に侵入した方がいいな」
「ご主人、この態勢はきついぜ。窓ガラスでも割って入っちまった方がいいんじゃねえか?」
 ベアは体を丸めながら、うんざりした声で言った。巨体で発光しているように目立つ純白の毛並みのベアは、出来るだけ小さく見せるために、大きな白い毛玉のように丸くなっている。
 ケイの後ろにいたカナタは、ベアの頭を慰めるように撫でながら言った。
「ベア、もう少しの辛抱だぞ。おそらくあの者たちが強行突破をするほうが早いであろう」
 カナタの言葉通り、デズモンドとマナが怒りの雷術を放っているところだった。
 
「アラミル、潜入のチャンスが巡ってきたよ。これもワタシに地下へ行く運命というわけだ!」
 ウィザードの狭間癒月(はざま・ゆづき)は、雷術の光と音に目を細めながら宣言する。
「ユズ……どうしても潜入するのね。いいわ、一緒に行きましょう」
 吸血鬼のアラミル・ゲーテ・フラッグ(あらみる・げーてふらっぐ)は頷いた。