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都市伝説「闇から覗く目」

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都市伝説「闇から覗く目」

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SCENE・7 再び別荘と屋敷の地下  

 別荘の地下へ入った空井雫とアルル・アイオン、清泉北都、一乗谷燕、春告晶。
 最初は先頭を歩いていた北都だが、遅れ気味の晶を心配して、晶の後ろの殿を歩いている。
「大丈夫かい?」
「……ん。……だ……い……じょうぶ」
 晶は言葉はたどたどしいが、しっかり頷く。
 北都は晶の頭をわしゃわしゃ撫で、
「いざとなったら、僕が背負って逃げるから心配しないでいいよ」
「あり……が……とう。あ……しで……まといに……なら……ないよ……に……がんばる」
 前を歩いていた雫は振り返り、優しく言う。
「足手まといなんてとんでもないですよ。このメンバーで魔法に詳しいのは、ウィザードの春告だけですから助かります」
「そうだよ! この雫は目つきは悪いけど心は優しい女の子だから、心配しないでよ!」
「……アルル……余計なことは言わないでください」
 そんなやりとりをしていると、先頭を歩いていた燕が足を止めた。
カランッ
 燕は持っていた懐中電灯を落とし固まる。
「どうしたんですか?」
 雫がすぐに燕の腕を掴むが、燕は無言で前を指差す。雫は怪訝な顔で、地面に転がった懐中電灯を拾い上げ、前を照らす。
「これは……!」
 そこは輝いていた。黄金で作られた鞘に、柄は色とりどりの宝石が埋め込まれている。ブレスレットには一目で魔力が封じ込められているのがわかる。他にも様々な宝物が、無造作に袋や剥き出しで置かれている。
 
「ひぃ!」
 地上では、ダンロードが悲鳴を上げていた。カレンたちも井戸から異様な空気を感じ取り、後ずさっている。
「この……ドロッとした嫌な感じ……まさか……!」
 カレンが思い出した時、井戸から黒い液体の塊が溢れだしてくる。一方は別荘の中に、もう一方はダンロードのほうへ溢れて行く。「なんだこれは!」
 カインは後ずさりながら、横で立ち尽くしているカレンに訊く。カレンは際限なく溢れる黒い液体をじっと見つめながら答える。
「地下水路の化け物……」
 黒い液体は一直線にダンロードの向っていく。最初は足首に巻き付き、そのままうねりながらダンロードの全身を巻いていく。
「やめてくれ! 俺のせいじゃない! 全部オヤジが言い出したんだ! 助けてくれ!」
 ズルズルズル!
 ダンロードの体は凄まじい速さで井戸に引き摺られ、そのまま井戸の中へと消えていく。
 あとには、大蛇が這った跡のようなものが地面に残った。
 
 
 
 ダンロードが井戸に引き込まれて、約一時間後。
 議長屋敷の地下を捜索していたソアたちは全力で走っていた。
ドドドドド!
 地響きを立てながら、大量の水がソアたちに迫っている。
 入ってしばらくは罠もなかったが、先をずんずん歩いていたベアが、うっかり色の違う石畳を踏み、
がっこんっ!
 何かが動く音ともに、通路一杯の水が流れてきた。
 ソアはベアが担いで走っているから良かったが、体育が苦手なケイとカナタが遅れ始めていた。
「や、やっべぇ……」
「……はぁはぁ」
 ケイは完全に息が上がり、隣を走るカナタは呼吸をするのが精いっぱいの状態だった。
 前を走っていた癒月は振り返り、ベアの背中に乗ったソアに叫ぶ。
「氷術を! 氷術で水を凍らせれば!」
「あっ! そうでした!」
 ソアはすぐに氷術を使うが、一発では凍らず、ソアは立て続けに氷術を使い凍らせた。
「はあはあはあ……危なかった。ありがとな、ソア」
「はあはあはあ……わらわからも礼を言う。情けないことに走るのに夢中で、氷術を使う余裕もなかった」
「そんな……。癒月さんが教えてくれなければ、私もパニックになっていて思いつきませんでした」
 ケイとカナタはその場に倒れこみ、ベアから降りたソアは照れたように言う。
 その癒月は地面をノックして音を調べていた。ちょうど前が行止りになっていて、癒月やソアたちがいる地面には魔方陣が描かれ、中央には赤い色の石が組み込まれていた。
「ユズ、もしかしてここは何か特殊な場所なのかしら?」
 アラミルは地面を調べる癒月の横に座り、同じように地面を探り、軽く叩いてみる。明らかに音が違っていた。
「たぶん、この下に何かがあるようなんですが……」
「これが怪しいんじゃねえか?」
 ベアは赤い石を叩く。
「あっ!」
パカッ!
 ベアが叩いた瞬間、魔方陣が左右に開き、悲鳴を上げる間もなく滑り台のような大きなトンネルから、更なる地下へ滑って行った。 どれくらい滑ったかわからないが、トンネルから放り出されるように地面に倒れ込んだソアたち。
「ぐえぇえ! 重すぎだぜ! どけよ!」
 一番下敷きになったベアは悲鳴を上げた。
 あたりを見渡すと、横に水路がある。地下水路に行ったことのないカナタ以外は、一目でここがどこなのか理解した。
 そして、目の前の化け物にも。
 化け物は女性のような形をとっていた。ただし目鼻がないので、黒い泥人形のようである。しかし、化け物と同じくらいに興味を深いのが、傍の若い男が虚空を見つめ、ブツブツ呟いている。そして、化け物の黒い液体に覆われているが、僅かに見える箇所からは黄金と宝石が見える。
 化け物はくぐもった女性の声で喋る。
「この者は愚かだ。親子そろって愚かなことだ。財宝を己の欲望に使い、咎めた者を殺す。愚かだ」
 ソアたちは姿を見たことはなかったが、正気を失っている男がダンロードだと気づく。
「ダンロードさん……」
 化け物はソアたちがダンロードの身元が分かったことを確認すると、
「この者を地上に連れて行け。このまま逆方向に進めば、よく見知った場所へ辿り着くであろう」
 そう言って、財宝ごと奥の闇へと消えて行った。