蒼空学園へ

イルミンスール魔法学校

校長室

シャンバラ教導団へ

けうけげん?

リアクション公開中!

けうけげん?

リアクション


(2)校内の混乱を鎮めよ・1―生徒たちを守れ―

 クロード捕獲のための作戦とは以下のようなものであった。
 まずクロードを見つけたら、携帯電話で皆で連絡を取り合う。それから学校のプールにおびき寄せ、プールの水に落として雷術などで感電させるのである。こうすればいくら怪物でも気絶するだろう、という考えであった。

「……これで全員ね」
 ミレイユ・グリシャム(みれいゆ・ぐりしゃむ)が携帯電話の連絡先を登録しながら言った。
「私たちは図書館の周辺から探しましょう。他校生で道がわからない方は一緒について来てね」
 ミレイユはパートナーのシェイド・クレイン(しぇいど・くれいん)たちとともに、図書館へ向かうことにした。
 佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)仁科 響(にしな・ひびき)
たちもミレイユたちとともに向かう。

 怪物騒ぎが起こってからずいぶん時間がたち、校内にはクロードを探す者以外の影は見あたらなくなっていた。
 ロイ・エルテクス(ろい・えるてくす)ミリア・イオテール(みりあ・いおてーる)たちも、クロードを探して学校内を歩いていた。ロイは蒼空学園の生徒であるが、ロイはウィザードでパートナーのミリアも魔女のため、魔法の知識を学ぶためにイルミンスールの図書館を利用することもあったのだ。今日もたまたま学校にきていたのだが、こうして事件に巻き込まれてしまった。
「違う学校であっても、元教師を攻撃するのは気が引けるな。けど生徒たちを守るためにも戦わないと……」
「きゃーっ!!」
 そのとき、廊下の向こうから女性の叫び声がする。
 ロイとミリアは急いで声の元へ向かう。
 逃げ遅れた女子生徒が、廊下の奥に追いつめられていた。視線の先には、巨大な毛の怪物がおり、ゆっくりと女子生徒に近づいてくる。
「まて……!」
 ロイはワンドを掲げて、火術の魔法を放つ。
 炎はクロードの足下に命中し、クロードは廊下に転倒した。
「今のうちに逃げましょう!」
 ミリアは女子生徒の手をつかんで、ロイと一緒にクロードの視界に入らないところまで大急ぎで逃げる。
 しばらくして起きたクロードは未だに煙の出る足を髪の毛でさすっていた。しかし、ひときわ大きな声で叫ぶと、みるみるうちに毛が生え変わりはじめていった。

 そのころ、ミレイユたちは世界樹の内部にある校舎の中を、図書館に向かって走っていた。
「まったく、もっと平和なときに図書館へ来たかったな」
 読書好きの響は走りながら皮肉そうに言った。彼は前々からイルミンスールの図書館で本を読みたいと思っているのだが、来る度に騒ぎに巻き込まれてしまい、どうもうまくいかない。
「まあ、騒ぎが収まったらゆっくり読めばいいと思うよ。今はとにかく、先生をなんとかしないと」
 弥十郎は怒っている様子の響きをなだめながら言う。
 そうしているうちに3人は図書館にたどり着いた。
 イルミンスールの図書館は蔵書の数も多く、敷地ももちろん広大である。館内には本棚が迷路のように並んでいた。
「ここに潜り込んでいたら、見つけるのは大変ですね……」
 シェイドが辺りを見回して、ため息をついた。
 そのとき、向こうの本棚から人影が現れる。
「ああ、やっと人に会えた……!」
 そこにいたのはウォーレン・アルベルタ(うぉーれん・あるべるた)であった。ミレイユたちより一足早くクロードを探しにきたのだが、教導団の彼はあまり校内に詳しくなく、道に迷っていたのだった。人影の見えない図書館内をさまよっていたウォーレンはミレイユたちを見つけてうれしそうに近づいてきた。
「大丈夫? クロード先生が来たりしなかった…?」
 ミレイユが心配そうにたずねた。
「うん、結構長い間さまよっていたけど、ここにはいないみたいだ。もし毛羽毛現(けうけげん)、いや先生が来たら一人で太刀打ちできなかっただろうけどね……」
 ウォーレンが少しばつの悪そうに言った。
「そうか……じゃあここにいてもしょうがないな。別の場所を探そうか」
 弥十郎は安心したようだった。図書館の中を探し回るのは正直乗り気でなかったらしい。

 ウォーレンを加えてミレイユたちは人気のない教室を見て回る。もともと夏休みで人が少なかったが、今はどの部屋もがらんとしている。5人の足音だけが廊下に響いていた。
「ここは?」
 教室とは違う雰囲気の扉をさして弥十郎がミレイユにたずねる。
「ええと、ここは女子更衣室。今はたぶん誰もいないはずだから、あけても平気じゃないかしら?」
 普段なら急に扉を開けるのはためらわれるが、今は緊急事態だし、第一人がいないことになっているはずだ。
 ウォーレンが思い切って扉を開ける。
 部屋はロッカーが並んでいるばかりで、人影は見あたらない。
「ああよかった、人がいたらのぞき犯になるところだ」
 ウォーレンがほっとしたようにつぶやいた。
 のんびりしているときならば笑う場面かもしれないが、今は時間が無い。ほかの階を探すことにした。

「この階にはいなさそうですね」
 シェイドが最後の部屋をのぞきながら言った。
 どこか他の場所でクロードが見つかれば、すぐに連絡が来るはずだが、まだ動き回っているらしく連絡は来ていなかった。
「じゃあ他の階を探さないとな」
 響がそう言いながら階段に向かうと、何か落ちているのに気がついた。
「これは……毛?」
 茶色い長い毛が階段に数本残されていた。先の方が焦げている。
 おそらくクロードのものだろう。焦げているのは、先ほど火術を受けた部分が生え変わっているというところだろうか。
「まったく、すごい回復力だなあ……」
 ウォーレンは驚きながら髪の毛を見ていた。普段オーバーリアクション気味といわれる彼であるが、今回は全く誇張でない。
「先生はこの辺を通ったようですね。この近くにある主な施設といえば……食堂でしょうか?」
 シェイドが言った。
「じゃあ、とりあえずそこへ行ってみよう」
 弥十郎の提案に異論はなかった。5人は急いで食堂へと向かった。

 しばらくすると、ウォーレンたちの目の前に、これまた広大な食堂が現れた。
 学生食堂ひとつとってもイルミンスールのそれはひと味違う。テーブルには白いクロスがかけられ、非常に上品な空間が広がっていた。
 もちろん今は生徒たちが避難しているため誰もいない……はずだったが、厨房の入り口あたりに何か大きな影がもぞもぞと動いていた。
 疑う余地はない。クロードであった。
「先生、もしかしてお腹すいてるのかな」
「いや、精神を乗っ取られているようだから無意識でしょう、たぶん……」
 ミレイユの言葉に、シェイドは自信なさげに答えた。
 そうしているうちに、クロードはミレイユたちに気づいたようで、ウオオとうなり声をあげながらこちらへ近づいてきた。
「あぶない!」
 ミレイユたちはクロードから逃れて急いで廊下に引き返す。すると、連絡を受けた陽太や芳樹たちも駆けつけてきた。
「気をつけて!」
 クロードは長い毛を四方八方に伸ばして陽太たちを攻撃してくる。陽太はなるべく傷つけたくなかったが、いざというときのため銃を構えていた。
 ミレイユたちはいそいで柱など毛の届かない場所へ隠れる。
「教師でありながら校内を滅茶苦茶にするなんて……覚悟しなさい!」
 エリシアが火術をクロードに向けて放つ。魔法の炎に包まれて、クロードは大きな声で呻いた。
「動きが止まった! 今のうちに先生の毛を全部切ってしまいましょう」
 佐々木 真彦(ささき・まさひこ)が提案する。たしかに毛がなくなれば攻撃できないのだから一理あるかもしれない。
 真彦は弱っているクロードを後ろから押さえつけて、ジョリジョリと剣で毛を剃ろうとする。しかし、切っても切っても毛はすぐにモサモサと伸びてきてしまうのであった。
「だめか……うわあっ!!」
 真彦は意識を取り戻したクロードの毛に絡めとられてしまう。
 クロードの毛は真彦を締め上げ、彼は苦痛の声を上げた。
「あの毛、自在に動くところを見ると神経があるのでしょう。しかし……」
 陽太はなるべくクロードを痛めたくなかったが、仲間を見捨てるわけにはいかない。思い切って銃の引き金を引いた。
 ダダダとマシンガンの弾が次々にクロードの毛を打ち抜く。毛はちぎれて真彦は地面に落ちてきた。
「いたた……助かった」
 締めあげられたのと地面に落ちた以外は特に無傷であった。なんとか剣を拾って立ち上がる。
「うおおお」
 クロードは銃撃をうけて怒り狂っていた。そして陽太に向かって突進してくる。
 エリシアが再び火術の準備をするが、一歩先に片手剣の光条兵器を構えた水神 樹(みなかみ・いつき)カノン・コート(かのん・こーと)たちがクロードの前に躍り出た。
「ここは私が相手します!」
 樹はクロードの髪の毛を光条兵器で受け止める。驚いたクロードはもう一本の毛で彼女を締めようとするが、こんどはエリシアの火術で防がれてしまう。
「学校の平和を乱す者は、たとえ先生でも許せませんっ……!」
 樹は力を込めて毛の束を跳ね返した。思わず勢いによってクロードは数メートル地面を転がる。
「さあ今のうちに急いでプールに行こう!」
 カノンが真彦にヒールをかけながら皆に言う。
「わかった!」
 真彦たちは同意し、クロードを引きつけながらプールへ向かうことにした。クロードは起きあがるとよろよろ追いかけてくる。何度も髪の毛で集団を捕まえようとするが、樹たちによって防がれていた。
 そうするうちに、クロードたちはプールに近づいてきた。計画ではここで感電させる準備ができているはずである。果たして作戦はうまく行くのであろうか。