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リアクション
TRACK 18
白馬にまたがった男が観客席を突き抜けてステージに飛び乗った。
「貴様のその歌っ! この俺様に対する挑戦と受け取った!!
薔薇のマントのほか一糸纏わぬその男。人呼んで変熊 仮面(へんくま・かめん)である!
……ステージ上は全裸だったり半裸だったりボディーペイントだったりするので、案外違和感はなかった。
“一糸纏わぬ”とは書いたが、局部に洗面器、脇にはカスタネット、乳首には鈴が取り付けられているため大事な部分は観衆には見えない。背中にはフライングV(ギター)を背負っている。察するに、温泉の帰りかなにかであろう。
変熊仮面は演奏中の曲にあわせて腰を振り始める。徐々にテンションが上がるにつれて、洗面器の角度が変わってくると、今度はリズムに合わせて洗面器を叩き始めた。
「ヘイ!ヘイ!へヘイ!バラン!バラダギ!
ポン!ポン!ポポン!バラン!バラダギ!」
あまりのことに観衆はテロの心配も忘れてステージに目を奪われた。
その視線を感じてさらに変熊仮面大興奮。最高潮に達してエアギターを弾き始める。
「お、おのれ変熊仮面! 僕たちのステージをだいなしにしたばかりか、まともにギターも弾かないとは!!」
美形に対して敵愾心を抱くぽに夫が怒って叫んだ。
「だごーん様! おられるならこの不信心者に天誅を!」
その声に応えるかのように、名状しがたくも震慄たる咆哮が大地を揺るがし大気を震わせた。
TRACK 19
人類の卑小なる精神においては、巨獣 だごーん(きょじゅう・だごーん)が如何なる経路を通じこの古き火山まで姿を現したのか、それを理解することは叶わない。
其は見る者を錯愕とさせつつ、ステージへと向かって歩を進めてゆく。
「おお! だごーん様が! だごーん様が姿を現したもうたぞー!!!」
『だごーん様秘密教団』のメンバーは一斉に額ずき、歓喜の声を上げた。
「フフフ……俺様の友人にふさわしい相手ではないか! 来るがいい!!」
変熊仮面の声に応えて、ステージ上に巨大な山のヌシが出現した。
顔には歴戦の傷跡。巨熊 イオマンテ(きょぐま・いおまんて)である!
「森はワシの縄張りじゃい! 海の者は引っ込んでもらおうかっ! クマーッ!!」
そう吼えるとイオマンテはだごーんに飛びかかる。
「巨熊がだごーん様に襲いかかるとは!」
激しく動揺するぽに夫。それをコウが制する。
「待てぽに夫。
かの“無貌の神”は“七つなる太陽の世界”から訪れると伝えられている。その世界がどこであるかは神ならぬ身には定かならねども、一説には北斗七星ではないかと言われているんだ」
北斗七星、別名“おおぐま座”。
「つまり、あの熊はあの神の化身のひとつであると……」
「わからん。しかしそうであればだごーん様と互角以上の力があっても不思議はないぞ」