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桜井静香の冒険~出航~

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桜井静香の冒険~出航~

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「とうとう最後の出品者の登場です。皆様ご存じ、主催者桜井静香校長です」
 イレブンの紹介に、静香が雛壇の上に立った。
 出品台の上には、静香お手製のゆるスター用のうさぎの着ぐるみがある。大和撫子としてラズィーヤに見出されただけあって、裁縫も得意なのだろう。店頭に並んでも恥ずかしくない見事な出来映えだ。
「静香校長、一言お願いいたします」
「今日はゆるスター用の着ぐるみを作ってきました。みんなのゆるスターにも着せてあげて欲しいなっ」
「300からのスタートです!」
 司会の掛け声と共に、会場のあちこちから手が上がる。
「1000!」
 シルバ・フォード(しるば・ふぉーど)が手を上げる。最初から強気の入札価格に、場がどよめいた。シルバもパートナーの雨宮 夏希(あまみや・なつき)と相談し合って、着ぐるみを落札することに決めたのだ。
 ──価格は瞬く間につり上がった。
「2900!」
 静香のファンを自認する葛葉 翔(くずのは・しょう)は積極的に入札していく。
「……3000!」
 真口 悠希(まぐち・ゆき)が手を上げるも、翔がすかさず声を上げる。
「3100!」
「うっ……3200!」
 悠希は焦る。どうも見たところ、あちらの方が余裕があるらしい。
 勿論、静香大好きな悠希としては、静香のためのチャリティーにお金が集まるなら、沢山集まった方が勿論いい。けれど、全財産つぎ込んでも着ぐるみが欲しい、という気持ちもある。このペースだと、限界を超えてしまう。出品した“静香さまミニ人形”、もし売っていれば資金に余裕ができたかも……などとよこしまな考えが胸をよぎる。
「3500」
 シルバが再び手を上げる。
 値段が上がるうちに、手を上げる人は会場で三人となってしまった。妙な緊迫感が漂う。
 財布に余裕が無くならないように、100ずつ値上げをしていく悠希、まだ余裕があるのかそれ以上にガンガン値を上げていくシルバ、そして、静香フィギュア等を涙を呑んで我慢した翔も、所持金を投げ打って真剣勝負に挑んでいる。
「ギリギリまでは値上げ勝負……っ」
 慈愛の精神が広まるのはいいことだと、着ぐるみにこだわらないシルバと夏希に比べて、他の二人は必死だ。
 しかし、とうとうその瞬間がやってきた。
「ええい、5700!」
 翔の声に、会場は静まりかえった。今回出品物の最高値をたたき出したのだ。
 ぴたりと手が止まる。シルバも財布の許容量を超えたのか、腕を組んでしまっている。
「他にどなたかいらっしゃいませんか? いらっしゃらない?」
 カツン、とオークションハンマーが鳴る。それが決定となった。
「──おめでとうございます、お名前をどうぞ!」
「蒼空学園の葛葉翔だ。今回は校長に直接お目にかかれて嬉しいぜ」
 マイクを向けられた翔は照れくさそうに頬をかく。そこに静香が直接、着ぐるみを持ってきて手渡す。
 初めて目の前で見る憧れの静香の笑顔に顔を赤くしながら、ぺこんと彼はお辞儀をして受け取った。
「おめでとう、そしてありがとう」
「いえ、そんな大層なことはありません」
「──見事落札されました葛葉さんに拍手を!」
 ぱちぱちぱち、会場に拍手がわき起こる。
「そんな……静香さま……」
 悠希はがっくりとうなだれた。悔しい。他の二人は他校──蒼空学園生の、しかも悠希が苦手な男の子だ。手に入れるまで夢に描いていた、保存版にするか、自分のゆるスターにお手製の着ぐるみを着せてもふもふ〜な妄想はもろくも崩れてしまったのか。
「──次は、猫の着ぐるみの入札に移ります」
「えっ?」
 うなだれる悠希と、がっかりするシルバの耳に、イレブンの声が届く。
 着ぐるみは一着ではなかったのだ。
 こうして無事に二人とも、着ぐるみを手に入れることができたのだった。

 落札が終わると、静香から着ぐるみを手渡された悠希は、久しぶりの会話に背筋を正した。校長と一般生徒、同じ百合園で生活しているとはいえ、なかなか直接話す機会もない。
「静香さま、新入生歓迎会ではお声掛けありがとうございました。まだ未熟ですが百合園を守れるナイト目指して頑張っています……友人もできて、ボク……ここに入学して本当に良かったです。これも静香さまのおかげです」
「そんなことないよ。友人ができたのも真口さん自身が魅力があるからだよ。僕も、真口さんが言ったことを覚えてもらってて、とっても嬉しいな」
 真っ赤になって俯く。
「そうだ、できたらこの着ぐるみにサインをお願いしますっ」
「サイン? ステキなのは書けないけど、いいかな」
「はい」
 静香は渡されたぬいぐるみに、さらさらと自分の名前を書いた。
「静香さま、ありがとうございます……あ、そうだ……ボクはいつも静香さまの味方と言いますか、何か困っている事があったら、ボク、静香さまの力になりたいですっ……!」
 そう言われた静香は、少し困ったような笑顔になる。
「チャリティーに参加してくれた、もうこれだけで充分だよ。それに──」
「それに?」
「──ううん、何でもない。そうそう、今からみんなでラウンジ行ってお茶にするんだ。一緒にどうかな?」