蒼空学園へ

イルミンスール魔法学校

校長室

シャンバラ教導団へ

みんなで楽しく? 果実狩り!

リアクション公開中!

みんなで楽しく? 果実狩り!

リアクション



●蒼空流の採り方というものを、教えてあげるわ

『B、Cブロックの収穫は現時点で80パーセント終了……Aブロックの収穫が遅延気味、生徒の補充を要す……』
 携帯のディスプレイにそのような内容が表示され、次の瞬間にはこの場にいる蒼空学園生徒全員にメールとして送られていく。御神楽 環菜(みかぐら・かんな)のパートナーであるルミーナ・レバレッジ(るみーな・ればれっじ)の能力『どんな時でも携帯の電波を切らさない』を存分に生かした環菜の作戦により、蒼空学園の生徒たちは効率的に収穫を行えているようであった。
「環菜、あなたも一緒に収穫に加わったらどうですか? 生徒の皆さんと交流するいい機会でもありますよ」
 環菜の傍に降り立ったルミーナに対し、携帯をぱたん、と閉じた環菜が呟く。
「私がわざわざ出向かなくても、収穫は円滑に行われるわ。……それに、私が行ってもどうにかなるわけではないもの」
 環菜の言葉に、ルミーナがふぅ、と息をつく。こういうところが環菜らしくもあり、そして、これから改善していくべき点なのではないかと考えたルミーナが、一つ頷いて環菜に言い放つ。
「……分かりました。今日はわたくし、あなたを連れ回します」
「……えっ? ちょっと何……きゃっ!」
 言うが早いか、ルミーナが環菜を抱きかかえ、背中の翼をはためかせて宙に浮かび上がる。
「ちょ、ちょっとルミーナ、何を――」
「さあ、行きますよ」
 環菜の抗議を無視して、ルミーナが農園を見下ろせる位置まで浮かび上がる。一度言い出したら頑固なところがあるのを知ってか、環菜もそれ以上抵抗することなく、息をつきつつなすがままにされていた。

「うん、これは見事な林檎です。これでアップルパイを作ったらきっと美味しいでしょうね。……うん、旨い。月夜もどうぞ、あーん」
「あーん……うん、美味しい。じゃあ私は玉ちゃんに……あ〜ん」
「玉ちゃん言うなと何度言ったら……分かった、分かったからそんな目で見るな。……あーん」
 林檎の木の下で、樹月 刀真(きづき・とうま)漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)玉藻 前(たまもの・まえ)の休息の一時が流れていた。
「済みません、お取り込み中のところ申し訳ないのですが、わたくしたちも混ぜていただけますか?」
 その時上空から聞こえてきた声に刀真が見上げると、ふぁさ、と羽を舞わせてルミーナと、抱きかかえられていた環菜が地に足を着ける。
「環菜長にルミーナさん、ようこそいらっしゃいました。どうぞ、お茶くらいしか用意できていませんが」
 刀真が笑顔で二人を招き入れ、お茶を振る舞う。
「刀真、我にもお茶をくれ」
「玉ちゃん、カンナ様の前で失礼だわ」
「よいではないか、改まってかしこまる必要もなかろう?」
 前が気楽な調子で、刀真から差し出されたお茶を受け取り、喉を潤す。
「そうですわね。礼儀は大切ですが、必要以上になされても円滑な意思疎通は図れませんわ。わたくし、今日は環菜にもっと皆さんと交流を持ってもらおうと思いましたの」
「それはいいことだと思います。皆さんも環菜長と話したがっていると思います」
「……そうかしら。私と話をしても、面白くないと思うけど」
 環菜の呟きに、月夜が首を横に振って言う。
「そんなことないです。カンナ様はとっつきにくいところもありますけど、でも、皆さん気になっていると思うんです」
「ふむ……月夜の言う通りかもしれんのう。ほれ、こことそことあそこに、こっちを見てる者がおる」
 前の言うように、環菜とルミーナを加えた一行は、他の生徒たちの注目の的になっていた。
「おいそこのお前、どうだこちらに来て少し楽しまないか?」
 前が自らの胸元を開いて挑発の姿勢を取ると、まずもって自分の存在が気付かれたことに驚いて生徒が逃げ出す。
「ふむ、もう少し刺激を強くした方がよかったかのう」
「……玉ちゃん……」
「な、何だ月夜、だから玉ちゃんと呼ぶなと……ああもう、そんな目で見るなむくれるな」
 月夜と前のやり取りに、一行の中に笑いが生まれる。その中で環菜も、少しだけ笑みを見せたように感じられた。

「さあ、次はどこに行きましょうか」
「……どうでもいいけど、この格好どうにかならない? 何というかその……恥ずかしいんだけど」
 再びルミーナに抱えられて空を飛ぶ環菜の苦言に、ルミーナがはたと首を傾げる。
「環菜、何か問題でもありますか?」
「……いいわ、あなたに聞いた私が間違いだったわ」
 また一つ環菜がため息をついた直後――。
「うわぁ、そこの君! よけてー!」
 声が聞こえると同時、人の大きさほどあろうかといった物体が二人目掛けて迫ってくる!
「! 環菜には傷一つつけさせません!」
 ルミーナが羽をはためかせ、物体を避けて低空を高速飛行する。
「……地面に擦られるかと思ったわ……」
 呟く環菜を降ろしたルミーナが、物体を振り回しながら飛ぶ飛空挺――実態は、ロープで吊り下げられた黒脛巾 にゃん丸(くろはばき・にゃんまる)を、リリィ・エルモア(りりぃ・えるもあ)の運転する飛空挺が引っ張っていた――を見遣る。
「きゃー! 楽しー!!」
「り、リリィ……頼むからその辺にしてくれ……って聞こえるはずないか……」
 もはや収穫のことなど忘れて、イルミンスール生徒との縄張り争いを楽しむリリィに、にゃん丸は嘆きのため息をつく。
「さぁて、ヒールしてあげたからもう一回いくわよ! ……ってあれ? 前に誰か――」
 にゃん丸に加護の力と癒しの力をかけたリリィが、もう一度とばかりに加速を始めた直後、進路方向に立ち塞がる人の姿に気がつく。
「あなたたち、危険な真似はお止めなさい!」
「げげっ、ルミーナ様!?」
 突然の来訪者に慌てたリリィが、誤ってブレーキとアクセルを踏み間違い、飛空挺はさらに加速を上げてルミーナへ突っ込んでいく。
「止まるつもりはないようですね……ならば、これで!」
 言ったルミーナの両手に、巨大な槌が握られる。
「うわ、ルミーナ様待って、タンマ!」
「問答無用です!」
 槌が思い切り振り抜かれ、それに直撃を受けたのはリリィ……ではなく、先に回転していたにゃん丸であった。
「どうして俺があああぁぁぁ!?」
「ごめんなさーいっ!」
 にゃん丸の叫びと、リリィの謝罪の言葉が遠くなっていくのを耳にしながら、環菜が一言呟く。
「……ホームラン、ね」

 飛び上がった紫桜 遥遠(しざくら・ようえん)の斬撃で、枝に成っていた林檎が重力に引かれて落ちていく。それを地面に落ちる前に、緋桜 遙遠(ひざくら・ようえん)がキャッチして袋に詰めていく。
「まだまだ、大丈夫ですね。どんどん行きましょうか」
 既に袋にはかなりの量の果実が詰められており、相当の重さになっているはずだが、遙遠は難なくそれを担いで遥遠に頷く。
「分かりました。遅れないで付いてきてくださいね、遙遠」
 言った遥遠が枝を伝って登っていき、高い位置に成っている梨を振るった一撃で落としていく。形も重さも、そして落ちてくるタイミングもバラバラの梨を、それでも一つも取りこぼすことなく遙遠が受け止めて収穫していく。
「まるで曲芸の域ね。息の合った二人の行動には、流石と言う他ないでしょうけど」
 二人の収穫の様子を見遣っていた環菜が、感想を口にする。
「環菜さん。どうです、これだけ収穫してまいりました」
 環菜の姿を認めた遙遠が、果実の詰まった袋を掲げてみせる。
「Dブロックの収穫率の伸びが顕著だと感じていたけれど、そう、あなたたちの所為ね。いい働きぶりだわ」
「お褒めいただき、ありがとうございます。……ところで環菜さんは、果物の好みなどはどうなのですか?」
「しいて好きというものはないけれど、季節を感じさせる果物はいいわね。過ぎ行く時の中でふと足を止めたくなる、そんな気にさせてくれるわ」
 常に時間との戦いを繰り広げている環菜らしい感想であった。
「なるほど。でしたら一度、紅葉を見に行くのもいいと思います。山一面に広がる紅葉を目の当たりにすると、まるで時が止まったかのような、そんな気分にさせてくれますよ。何でしたらご一緒にいっ!?」
 言葉の途中で、上空から落ちてきた林檎が遙遠に直撃する。
「……遙遠、意識が逸れていますよ」
 遥遠が、どこか面白くないといった表情を浮かべて、剣の柄に手を添えた状態で呟く。
「遥遠、済みません。では、遙遠達は作業に戻ります」
 頷いた環菜を置いて、二人が収穫の作業を再開する。
(……紅葉、ね。たまには悪くないかしら、そういうのも)
 環菜が、遠くに見える山並みを見つめて、心に呟く。

「この周囲一角はもうじき収穫が完了するはずだ。フェルとセルもよく働いてくれている」
「Eブロックは計画の85パーセントが終了……予定の進行を見直す必要がありそうね」
 イーオン・アルカヌム(いーおん・あるかぬむ)の報告を元に、環菜が携帯に状況を打ち込んでいく。その間にイーオンは地面に落ちていた栗を慎重に拾い、使い魔として使役しているカラスが、高い場所に成っている果実を咥えて器用に籠に入れていく。
(……こんなところか。一度帰還するか)
 自身の身軽さを失わない程度に果実を収穫したフェリークス・モルス(ふぇりーくす・もるす)が、その果実を据えられた籠に収めていく。
「左後方百五十メートル付近に、未だ手付かずの場所があるわ」
「情報提供、感謝する。フェル、今から指示する場所へ向かえ。後でセルも向かわせる」
「……イエス、マイロード」
 イーオンから場所の指示を受けたフェリークスが、了承の意思を示してその場所へ向かっていく。後ろ姿を見遣ってイーオンが足を向けた先では、セルウィー・フォルトゥム(せるうぃー・ふぉるとぅむ)が小さな鞄から呼び出した小人と一緒に収穫を行っていた。
「……疲れていませんか?」
 セルウィーの問いかけに、汗を拭う真似をしていた小人が「まだまだいけます!」とアピールするかのように腕を前に突き出す。
「……無理しないでくださいね」
 微笑んで、セルウィーが足元に落ちていた栗を、イガごと拾い上げる。トゲは彼女の掌を刺すことなく、まるで滑らかな床に置かれたように掌の上を滑る。
「セル、次はこの場所で収穫を続けろ。先にフェルが向かっているはずだ」
「……イエス、マイロード」
 聞こえてきたイーオンの声にセルウィーが頷いて、手にしていた栗から中身を取り出して残りを処理し、足早に指示された場所へ向かっていく。
「あなたのパートナーは、随分忠実に動いてくれるようね」
 その様子を見ていた環菜が声をあげ、イーオンがそれに答える。
「ああ、頼りになる者達だ」
 それでは失礼、と一礼してその場を立ち去るイーオンを見遣りつつ、環菜が思いに耽る。
(ルミーナも私に対しては、あのような態度で接してくる。それは全然悪いことじゃない。だけど……)
 冬の冷たさを忍ばせた風が、環菜の髪を乱していく。

(環菜はわたくしの狙い通りに動いているようですわね。もう少し独りにしておいてもよろしいでしょう)
 環菜の気配が点々と動いているのを確認したルミーナが、農園の見回りとばかりに空を舞っていると、人だかりが出来ている場所を発見する。
「そっちが先に手を出してきたんだろ!」
「俺たちは何もしていない!」
 蒼空の生徒とイルミンスールの生徒が双方に別れ、言い争いをしている。既に一悶着あったようで、何人かが肩や腰を押さえて蹲っていた。
「参りましたね……こうも血気盛んな者たちが集まっては、説得するのに骨が折れそうです」
 二つの集団の間に位置していた橘 恭司(たちばな・きょうじ)が説得を試みるものの、事態はなかなか収束しそうにない。
「お姉ちゃん……怪我してる人、いる」
「うぅ、ルミーナさんと収穫を楽しみたかったんですけど、そうもいかないみたいですね……でも、今入っていったら巻き込まれそうですし……」
 服の端を掴んで見上げる天穹 虹七(てんきゅう・こうな)に頷きつつ、アリア・セレスティ(ありあ・せれすてぃ)が出るタイミングを図りかねているところへ、その背後に降り立ったルミーナの声がかかる。
「どうしました?」
「あっ、ルミーナさん! なんだか蒼空の生徒さんとイルミンスールの生徒さんが険悪な雰囲気なんです!」
「これはよいところに来てくれました。これ以上騒ぎを大きくしないよう、説得してもらいたいのですが」
「分かりました、わたくしが話を伺いましょう」
 アリアと恭司の言葉を受けて、ルミーナが二つの集団の間に分け入っていく。
「皆さん、どうか怒りを鎮めて下さい」
 ルミーナの優しげな、それでいて凛と通った声に、言い争いを続けていた者たちもその口を鎮めていく。
「何故争いが起こったのか、わたくしに話していただけますか?」
「えっと、私たちはこの辺りで収穫作業をしていたんですけど、突然あの人たちが「ここは俺たちの縄張りだ!」って言ってきて、それにうちの生徒が怒って手を出しちゃったみたいで、それから……」
 ルミーナに話しかけられた蒼空の生徒が、緊張した面持ちで状況を説明していく。
「……なるほど、分かりました。では、あなたたちはここを離れ、今から指定する場所へ向かいなさい。環菜にも追って連絡を入れさせます。……イルミンスールの皆さん、わたくしの不手際、どうかお許し願えないでしょうか」
「いや、そんな、俺たちが言いがかりをつけたのにも原因がある、謝るのはこっちの方だ」
 ルミーナに謝罪の言葉をかけられ、イルミンスールの生徒も慌てて反省の言葉を口にする。
「お見事です。俺ではこうはいかなかったでしょうね」
 事態が急速に収束していくのを見計らって、恭司が声をかける。
「いいえ、双方の生徒さんとも良い心を持っているからこそ、こうして事態の収束が図れたのです。イルミンスールも、生徒の教育は為されているようですね」
「……あちらの校長のことを思うと、にわかに信じ難い話ですがね。まあ、そういうことにしておきましょう」
 苦笑する恭司の横で、アリアと虹七が怪我をした人の治療に当たっていた。
「これでよし……と。大丈夫だと思うけど、無理はしないでね。……虹七ちゃん、消毒をお願い」
「うん……いたいの、いたいの、とんでいけ」
 二人の献身に、ギスギスしていた雰囲気が少しずつ和らいでいくのを、恭司とルミーナは実感していた。

 一方その頃、環菜はといえば。
「私は止めるように言ったはずだけど!? もっと速度上げなさい、追いつかれるわよ!」
「リンゴ百万個採るよりも、皆をあっと言わせるものを収穫した方が勝ちに決まってますわっ! ……そして、こうして食人植物的な何かに追われるのも、お約束ですわね!」
「うわっ!? 何で果実に歯が――いったぁ! 尻、尻噛まれてる!」
 狭山 珠樹(さやま・たまき)に案内される形で影野 陽太(かげの・ようた)と向かった先で、見たことのない果実の成っている木を見つけたものの、醸し出すいかにも危なげな雰囲気に帰ろうとしたところ、珠樹が果実に手を伸ばし、突如牙を向いて襲い掛かってきた果実にこうして追われているといった始末である。

「なかなかのスリルでしたわねっ! 他にも探せばまだあるはずですわっ!」
 何とか果実の追跡を振り切り、満喫したといった感じの珠樹が乗る箒から降りて、環菜がどっと疲れたようにため息をつく。
「どうして私がこんな目に……」
「あら、エリザ様と一緒の時は、このくらい日常茶飯事ですわ。一度ならずともドラゴンの炎が脇を掠めた時は、流石に生きた心地がしませんでしたわ」
「……私はそんな思いをするのは御免だわ」
 環菜がふらついた足取りで、近くの木に寄りかかるように腰を下ろす。
「か、環菜会長、大丈夫ですか」
 陽太の心配する声にも、環菜は答えることなく目を閉じる。そのまま流れる沈黙の時間。
(ど、どうしよう……何を話したらいいのか、思いつかない……)
 陽太が話題に困っていると、珠樹が物怖じすることなく環菜に話しかける。
「エリザ様は環菜さんのことを随分ライバル視しているようですが、環菜さんはどうなんですの?」
 その問いに、環菜が少しの間を置いて答える。
「向こうが手を出してくるから、お返ししているだけよ。特にライバルだなんて思っていないわ」
「あれ? でも環菜会長、その割にはエリザベート校長のこと、結構話題に出しますよね? それにエリザベート校長の挑戦をあっさり受けたりしますし――」
「……何のことかしら?」
「ああっ、ご、ごめんなさいごめんなさい!」
 環菜のバイザー越しに光る鋭い視線を受けて、陽太が萎縮する。それを見遣って環菜が、ふぅ、と息をついて話し出す。
「……そうね。エリザベートは誰に対しても我侭で、傍若無人。学園で『カンナ様』と恐れられている私に対しても、ね。……私は、そのことを有難く思っているのかしら。エリザベートにちょっかいを出すことを、楽しい、と思っているのかしらね。魔法の才能とやらは認めるけど、中身はまったくの子供だから。……あなたたち、今のことは皆には内緒よ。特にエリザベートに漏らそうものなら……分かっているわね?」
「も、もちろんですわ」
 鋭い視線を向けられて、珠樹が背中に汗を浮かべながら頷く。
「……さて、と。そろそろ行くわ」
 言って立ち上がった環菜の耳に、イルミンスールの生徒の呟きが聞こえてくる。
「おい、校長が行方不明だってさ」
「へっ、あの校長だろ? 死んだって平然と出てくるような人だぜ」
「それはアーデルハイト様だろ。そのアーデルハイト様が見失ったって言うんだ、只事じゃないぜ」
(……なんですって?)
 呟きを耳にした環菜が、素早い動作で携帯を操作する。ディスプレイにエリザベートの不敵な笑みが映し出され、次いで周辺の地理と、微弱に光る点が映し出される。点は農園から徐々に離れているようであった。
「環菜会長、やっぱりエリザベート校長のこと、気にかけてたんですね」
「……いざという時に貸しを作っておくだけのことよ。余計なこと言うようなら、あなたの資産を没収するわよ」
「そ、そんなぁ!?」
 陽太と珠樹を置いて、環菜が駆け出す。連絡を入れる前にルミーナが、環菜の背後からその身体を抱え、羽を大きく羽ばたかせて宙を翔ける。
「……見てたわね?」
「さあ、何のことでしょう?」
 問いかける環菜にルミーナがとぼけるように答え、そして二人はエリザベートを追う――。