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みんなで楽しく? 果実狩り!

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みんなで楽しく? 果実狩り!

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●私も、お母さんのために頑張ります!

「お母さんが勝負に勝つために、私も頑張って収穫しちゃいます! ……でも、収獲といっても、どうしたらいいんでしょう?」
 道具一式を手に意気込むミーミル・ワルプルギス(みーみる・わるぷるぎす)だが、彼女自身収獲作業は初めてのこともあって、そもそも何をしたらいいのかがまったく分かっていない様子であった。
「あっ、あれは、お母さんが最初に触っていたものです。多分あれは収獲していいものですね?」
 そう言ってミーミルが、地面に落ちていた栗に手を触れようとする。
お待ち下さいミーミル様!
 声が遠くから瞬時に近くに響き、そしてミーミルが気付いた時には目の前の栗が消え、代わりにナナ・ノルデン(なな・のるでん)の姿があった。
「僭越ながら私が、ミーミル様に栗拾いのお手本を示して差し上げます! よく見ていてくださいね」
 呆然とするミーミルを差し置いて、ナナが籠を背負い直し、トングを構えて息を吸い、全身に溜めた力を解放する!

「冥土戦技、覇射吸機威羽空(ハウスキーパー)!」

 説明しよう!
 覇射吸機威羽空とは、地面に落ちた塊のゴミをトングで掴み、瞬時に背中の籠の中に収納する、冥土が身につけた、光速のゴミ拾い技術なのだ!
 目に見える範囲までなら、瞬時にゴミのあるところまで移動することも出来る! 連続で使用すれば、家の中を縦横無尽に駆け回る某Gに追いつくことも出来るぞ!

「あ、あの〜……見ていてくださいって言われても、どうしたらいいんでしょう?」
 およそ人間離れした動きを見せるナナを、ミーミルが苦笑混じりに見遣る。
「ああ、ナナのあれは基本原理は参考になるけど、動作は特殊過ぎて参考にならないと思うよ? まあ、どこか変なスイッチ入ってるナナは放っておいて、ボクが教えてあげるね」
 背後から歩み寄ってきたズィーベン・ズューデン(ずぃーべん・ずゅーでん)に、ミーミルは道具の使い方、そして一通りの収獲の仕方を教わったのであった。

「ただ闇雲に数取ればいいってもんじゃない。せっかくの果物を傷ませないよう気をつけないとな」
 そう言いながら七尾 蒼也(ななお・そうや)が、地面にビニールシートを敷き、果実を落とさないように慎重に扱いながら籠に収めていく。
「そ、そうですよね。私、ただたくさん採ることばかり考えてました……」
 呟いて視線を落とすミーミル、地面には潰れてしまった果実がいくつも転がっていた。一つでも多くと意気込んだミーミルが、急ぐあまり果実を落としてしまった後であった。
「大丈夫大丈夫、これから少しずつ覚えていけばいいんだって! 俺も手伝いするからさ!」
「……はい、ありがとうございます」
 鈴木 周(すずき・しゅう)に慰められて、ミーミルが作業を再開する。
「……なあ、ミーミル。校長とは普段どんな話をしてるんだ?」
 蒼也の問いに、ミーミルがえっと、と呟いて、口を開く。
「お母さんは忙しいみたいで、私に色々と頼みごとをしてくるんです。で、私が仕事を終わらせると、「よくやったですぅ〜」って頭を撫でてくれるんですよ♪」
「……ミーミルちゃん? それって単に便利使いされてるだけじゃない?」
 周の指摘に、ミーミルは「?」と首を傾げるばかりであった。
「あっ、あと、アーデルハイト様は、私が来てからお母さんが変わった、って言ってましたよ。私との出会いは無駄じゃない、きっとお母さんのためになるって言ってくれました」
「へぇ……アーデルハイト様がそう言うんだから、そうなんだろうな……」
 蒼也が呟いて、一呼吸置いて切り出す。
「……俺も、あの子のために何かしてやれてるのかな。ミーミルの時だって俺は、口だけで何もしてやれなかった。……今だって、怪我をしたあの子に、心配していると言いながら何もしてやれてないんだ。……情けない話だよな」
 果実を手に取り、蒼也が今は療養中であろう者のことを思いながら、独り口にする。
「ジーナ……これ持っていったら、喜んでくれるかな。いっぱい楽しい話、聞かせてやるからな――」
「はっはっはぁっ! ミーミルちゃんは俺が頂いてくぜ! 何故ならミーミルちゃんが可愛いから!」
「あ、ありがとうございます……って違います! お、降ろしてください〜」
 周の高笑いに思いの吐露を邪魔された蒼也が、思わず果実を握り潰して周を睨み付ける。
「妨害するのはお前かー!!」
 蒼也の発生させた冷気が地面を伝い、周の走る地面を凍りつかせる。
「うおおっ!?」
 それに足を取られ、周が硬い地面に腰と後頭部を思い切り打ち付ける。
「だ、大丈夫ですか?」
 羽を羽ばたかせて宙に浮かぶミーミルに、周が笑顔を見せて答える。
「こ、これがお仕置きってヤツか……せめてあの子にしてもらいたかったぜ……がくり」

「お、いい感じじゃないか、ミーミル。大分コツを掴んできたみたいだな」
「はい、ちょっと分かってきた気がします! 私、お母さんに誉めてもらえますか?」
「ああ、きっと誉めてくれるぜ! その調子で収獲を続けようぜ!」
 緋桜 ケイ(ひおう・けい)のアドバイスを受けて、ミーミルが慣れた手つきで林檎を収獲していく。思い出の品でもある林檎を見つめるミーミルの表情は、とても生き生きとしていた。
「ミーミルさん、とっても楽しそうですね」
「ああ、イルミンの生徒共にもすっかり馴染んでる感じだな」
 横で収獲作業をしていたソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)の言葉に、下でソアを肩車していた雪国 ベア(ゆきぐに・べあ)が答える。
「ああして少しずつ、独りで何でも出来るようになっていくのを見ると、何でしょう……淋しい思いがしますね」
「ご主人……」
 ソアの呟きにベアが言葉を返しあぐねていると、悠久ノ カナタ(とわの・かなた)の声が響いてくる。
「おぬしたち、ここらで一つ休憩せぬか?」

「……猿は、高い所に成った柿を、採ることが出来ぬ蟹に振る舞ってやったのじゃ。この『さるかに合戦』という昔から伝えられておる民話は、猿と蟹のように人と人も助け合うことの大切さを説いた話なのじゃ」
「ううっ……いい話です……」
 カナタが語る話に、ミーミルが感極まって涙を流し、ソアに拭いてもらっていた。
「おい、カナタ。その話は実は……」
 そこにケイが、『さるかに合戦』の真相を伝える。
「なんじゃと? ……まあ、よい。わらわは皆が幸せに終わる物語が好きなのだ。……それに、わらわたちがミーミルに伝えていかねばならぬのは、きっとこういった話であろう?」
 カナタの言葉に、ケイも納得したように頷いて、切り揃えられた果実に手を伸ばす。
「はい、ミーミルさん、あーん」
「あーん……はむはむ、う〜ん、美味しいです! このリンゴ、ウサギみたいで可愛いです〜」
「ミーミルさんも練習すれば、作れますよ。今度一緒に練習しましょうね」
 林檎を置いたソアがそこで、落ち着かなさげにそわそわとしながら、おずおずと口を開く。
「あのっ、ミーミルさん……」
「? 何ですか?」
 林檎を頬張り終えたミーミルの目を真っ直ぐに見て、ソアの口から言葉が紡がれる。

「私、ミーミルさんのことが好きですっ!」

「ぶっ!!」
 ソアの突然の告白に、ケイが口に含んでいた果実を吹き出してしまう。
「こりゃ、ケイ、汚いではないか」
「ご、ゴメン、でもソアが――」
 抗議の声をあげるカナタにケイが弁明する横で、ソアの言葉が続く。
「初めて会った時から、ずっと、ミーミルさんのことが好きです。……だから、私……」
 降りる沈黙が、やけに長く感じられる――。

「私、ミーミルさんのお姉さんでいさせてほしいんですっ!」

「だああっ!」
 ソアの次の言葉に、身を乗り出していたケイが思い切りコケる。
「ケイ、先程から騒がしいぞ。静かにせい」
「だ、だってソアが――」
 ケイとカナタのやり取りが繰り返される中、告白を受けたミーミルが微笑んで、ソアに告げる。
「いいですよ。……私も、ソアさんのこと、好きですから。これからも、よろしくお願いしますね」
「ミーミルさん……うっ、うう……」
 ソアの目から、溢れた涙が頬を伝い、シートに弾けて流れていく。そこにミーミルの手が、ソアの頭を撫でるように伸ばされる。
「お母さんは私によくこうしてくれました。とっても落ち着くんですよ」
「うう……うわああああぁぁぁぁ!!」
 感極まったソアがミーミルに抱きつく、まるで思いを全て吐露するかのように。
「よかったな、ご主人……ううっ、俺様までもらい泣きしそうだぜ」
「ベアさんも、私の素敵なお兄さん、ですよ。それにケイさんも、カナタさんも、私のお兄さん、お姉さんです。皆さんがこうして私に付き添ってくれたから、今の私がいるんです。……そしてこれからも、一緒にいてくれたら、嬉しいです」
「うおおぉぉ!! そんな嬉しいこと言われて泣かないなんて、ゆる族の恥だぜぇ!!」
 ついにベアまでも号泣し出す中、ケイとカナタは互いを見遣って、そして微笑んで、温かな光景を見守っていた。

「ここらで一息入れよう。ミーミル、君のおかげでこんなに果実が集まったぞ」
 アルツール・ライヘンベルガー(あるつーる・らいへんべるがー)が、白馬から降ろした籠をミーミルに見せる。
「わぁ♪ これだけあれば、お母さん勝てますか?」
「ああ、勝てるとも。そしてミーミルが一番の功労者だ。みんな君のことを祝福してくれるぞ」
「えへへ♪」
 アルツールに誉められて、ミーミルが満面の笑みを浮かべる。
「あなたもお疲れさまです」
 傍らの白馬をミーミルが労うと、白馬は一声啼いて答える。
「おやミーミル殿、馬に興味がおありですかな? なんなら背に乗って下さっても結構ですぞ」
 シグルズ・ヴォルスング(しぐるず・う゛ぉるすんぐ)が白馬の背を指してミーミルに問いかける。
「えっ、い、いいんですか? じゃ、じゃあ、せっかくですから……」
 恐る恐る、ミーミルがシグルズの助けを借りて白馬の背に跨る。
「うわぁ……世界が違って見えます。こんなに広くて、こんなに壮大なんですね……」
 シグルズの導きで、ミーミルが乗馬を楽しむ。それを微笑ましげに見つめながら、木陰に腰を下ろしたアルツールがおもむろに紙とペンを取り出す。

 『ヴィオラ、ネラへ。
 元気に旅を続けているか?
 今、こちらは秋の実りが最盛期を迎えている。先日は校長やミーミル達と果実狩りに行って来た。
 いつか、君達が帰ってきた時には、ミーミルも連れて皆で行ってやりたいと思う。
 果実狩りのときの写真を同封する。撮る写真に、君達二人の姿が加わる日が来ることを何よりも楽しみにしている。
 父より』


「手紙ですか?」
 背後から、ミーミルが顔を覗かせて呟く。
「ああ。娘達は今頃どうしているだろうか」
「そうですね……連絡は、取ろうと思えばいつでも取れるんです。でも、姉さまとネラちゃんが改めて連絡をしてくるまでは、私から連絡しないようにしてるんです。きっと二人も、やるべきことをやろうとしている。それが終わった時に改めて、再会を喜び合えたら、それが一番いいな、って思うんです」
 ミーミルの言葉に、アルツールが頷く。きっとこの同じ空を、ヴィオラとネラも見つめているのだと信じて。
「……手紙、貸して下さい。私が姉さまにお届けします。私は連絡をしませんけど、お父さんの言葉なら、届けてあげていいと思うんです」
「出来るのか? なら、頼む」
「任せてください、お父さん」
 アルツールから手紙を受け取ったミーミルの掌に光が生まれ、それは手紙を包み込む。やがて白い翼を生やした手紙が、青く澄み渡った空へ大きく羽ばたいていった。

「さて、そろそろお母さんのところへ戻らないと――」
 ミーミルがエリザベートの気配を辿ったところで、ミーミルの表情が固まる。気配が移動しているのはまだいい。問題は、気配のすぐ傍に邪な気配が控えていたということであった。
「おお、こんなところにおったか」
 直後、上空から箒に跨ったアーデルハイトが降りてくる。
「エリザベートが行方をくらましおった。どうやら相当離れた位置におるようじゃ。おまえなら分かると思って来たのじゃが――」
「お母さん……そんな……」
 籠を取り落としたミーミルの胸中に、自らへの叱責が渦巻く。私が傍にいれば、お母さんがこんな目に遭うことはなかったはずなのに――!
 ミーミルの三対の羽が、一際大きく羽ばたく。次の瞬間、ミーミルは地を蹴って遥か上空まで舞い上がる。
「お、おい、ミーミル!?」
 アーデルハイトの声を無視して、ミーミルがエリザベートの気配を追って空を翔ける。
(ごめんなさい、お母さん……! 今、助けます!)