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みんなで楽しく? 果実狩り!

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みんなで楽しく? 果実狩り!

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●のんびり、まったり行きましょう……?

 太陽が天井を過ぎ、西の空に下り始めたところで、環菜が携帯に表示された収穫量の比較を見て愕然とする。
(嘘!? これだけ差がついているというの!?)
 蒼空の圧倒的、最悪でも同等と想像していた環菜の予想を見事に裏切り、現実はイルミンスールが蒼空の七割増しという途中結果になっていた。
(エリザベート……どんな手を使ったかは知らないけど、私を出し抜くとはやってくれるじゃない。……けど、最後に勝つのは私よ)
 バイザー越しに環菜が微笑んで、携帯を操作する。環菜の緻密なデータ計算に基づいた指令が、蒼空生徒に行き渡っていく。

(指令だと……? いい気になるなよ、御神楽環菜。お前はいつか必ず僕のモノにしてやるからな――)
「そこ、ボーっとしないで。テキパキと収獲に移りなさい」
「えっ、あ、は、はい!」
 心の中でほくそ笑んでいた湯上 凶司(ゆがみ・きょうじ)が、通りかかった環菜に急かされ、慌てて作業に取り掛かる真似をする。
(……ちっ、何て尊大な態度だ。……まあいい、あの強気な態度を崩していく楽しみもあるだろう、くっくっく……)
「な、なんかキョウジが怖いよう……きっと危ないこと考えてるんだよね?」
 笑みを表情に浮かべる凶司に、エクス・ネフィリム(えくす・ねふぃりむ)が恐怖と嫌悪が混じった面持ちを見せる。
「ん? どうしたエクス、そんなに怯えて。心配するな、既に作戦は考えてある」
(ボクが怯えてるのは、キョウジが怖いからだよー!)
 心の中でそんなことを叫びながら、エクスが凶司の説明する作戦に耳を傾ける。
「……本当に、うまく行くのかなあ?」
「何だエクス、僕の考えた策に不満でもあるのか?」
 凶司の目が妖しく光り、エクスがぶるっと身を震わせる。
「な、ないです……」
「そうだろう、僕の策は常に完璧だからな! さあ行けエクス、僕の言う通りにすれば勝てるぞ!」
「うぅ、分かりましたぁ……」
 諦め半分投げやり半分でエクスが向かった先には、アルシェ・ミラ・オリヴィラ(あるしぇ・みらおりう゛ぃら)フラン・ウェラヴィース(ふらん・うぇらう゛ぃーす)の姿があった。
「こうしてのほほんっと果実狩りしてれば、横取りしようとしている人はきっと狙ってくると思うんだよねー。そこを正当防衛で返り討ちにして果実をいだだきっ! うんうん、僕なんて頭いいんだろー」
「って、一人で勝手に納得するな! それは正当防衛を通り越して過剰防衛だろ! それに、横取りするようなヤツが果実を持っているとは限らないんじゃないか?」
「うーん、言われればそんな気もしてきたけどー……まぁいいや、とりあえず返り討ち決定ー!」
「決定しちゃうのかよ! ……はぁ、相変わらずで頭が痛いぜ……僕、ちょっと休んでくる」
 アルシェの言動に頭を抱えて、フランが少し離れた木陰に籠を下ろして一息ついていると。
「あ、あのぅ……そこの果実、ボクにくれませんか?」
 近寄ってきたエクスが、凶司の指示した『演技』を完全にど忘れした様子でフランに話しかける。
(あのバカ! ああも直接に言ってしまったら、意味ないだろ!)
 様子を伺っていた凶司が頭を抱える中、言葉をかけられたフランはというと。
(な、何だ……? 相手は蒼空、横取りしようとしているのが見え見えだというのに、どうして僕は「渡してあげてもいいかな」って気になっているんだ?)
 どうやら普段から凶司に弄られたおかげか、懇願するエクスにはある種の人物に対して、何かしてあげなければという感情が働くようである。
「……これでよければ、持っていけ」
 そして、フランが感情に負け、収獲した果実を差し出す。喜び勇んで受け取り、上機嫌で次の人へ声をかけていくエクスを見遣って、凶司が満足げな笑みを見せる。
(やはり僕の策は完璧だな。さて、僕も行くとするか。狙いは……アイツだな)
 凶司が目を付けた人物、アルシェに向かって歩いていく。
「わー、すごいですね……僕、一つも取れてないんですよ――」
 演技を振りまく凶司が次の言葉を言う前に、振り向いたアルシェがどこからかメイスを持ち出し、それを凶司の目の前に突きつけて宣言する。
「来たね! 僕から果実を横取りしたければ、勝負するのだ!」
「…………はぁ?」
 突然そんなことを言われ面食らう凶司を差し置いて、アルシェが勝手に話を進めていく。
「来ないなら、こっちから行かせてもらうよ!」
「ちょ、待て何の話――うわっ!?」
 振り下ろされたメイスが地面を抉り、腰を抜かした凶司が地面にへなへなと崩れ落ちる。
「果実を出せば見逃してあげるよー。抵抗するっていうなら――」
「ま、待ってくれ! 僕はこの通りだ、果実なんて持ってない!」
 メイスを振りかざしたアルシェに、凶司が何もないとばかりに両手を挙げて答える。
「なーんだ、つまんないー。じゃあ倒しても意味ないねー」
 下げられたメイスに、凶司がほっと息をついた瞬間――。
「でもー、他の人のところに行かれても困るしー、しばらく眠っててね♪」
「え――」
 何やら鈍い音が、周囲に響くのであった――。

「よう、張り切ってんな。あんたが収獲に励むその姿、嫌いじゃないぜ。どうだ? 俺と一緒に二人でゆっくり話でもしながら、果実狩りを楽しまないかい?」
 収獲作業をしていたイルミンスールの女子生徒へ、トライブ・ロックスター(とらいぶ・ろっくすたー)が気さくな雰囲気を装って声をかけてくる。
(へっ、俺は俺で、平和的に勝負に貢献してやるぜ!)
 心とは裏腹に、あくまで笑顔を保ちながら話しかけるトライブの横では、ベルナデット・アンティーククール(べるなでっと・あんてぃーくくーる)が周りの生徒の気を惹いてトライブの援護をしていた。
「お兄ちゃん、採った果実を頂戴なのじゃ♪」
 中身はともかくとして、見た目は無邪気で可愛らしい子供のベルナデットに、ある種の人物が抱く「ロリっ子かわいいよロリっ子」を刺激されたイルミンスールの男子生徒が、ほいほいと果実を渡していく。……決して魔法使いがこんなんばかりというわけではないぞ! た、たまたまなんだからね!
「なあ、勝負なんて下らない張り合い止めて、俺とイイコトしようぜ? 大丈夫、俺に任せとけって」
 段々過激になっていくトライブの言葉に、頬を染めた女子生徒が落ちかけたその瞬間――。
「ちょっとキミ達!? ウチの生徒に手を出して、そこまでして勝ちたいの!?」
 黒い鱗に身を包み、青の瞳を光らせたドラゴンの背に乗った如月 玲奈(きさらぎ・れいな)が、トライブを指差して注意する。
「な、何だぁ!? 何でこんなところにドラゴンがいるんだぁ!?」
「ト、トライブ、なんとかするのじゃ」
 驚き慌てるトライブの背後に、すっかり怯えた様子のベルナデットが隠れる。見かけは立派なドラゴン、しかしその実はかつてエリザベートが魔法書のページ回収を依頼した時に生み出された『紙ドラゴン』であった。今ではこうして魔法使いが自由に使役することができるようになっている。前述通り見かけは頑丈そうだが、あくまで紙なので攻撃を受ければそれまでである。しかし相手に与える威圧感は十分なものであった。
「ドラゴンに丸焦げにされたくなかったら、今すぐ妨害を止めて立ち去りなさい! 果実を置いていくならなおいいわよ」
 ちゃっかり果実を強請りながら、玲奈の乗るドラゴンがトライブとベルナデットに迫る。
「こ、怖いのじゃー」
「ちっ、仕方ねえな。ここはひとまず退くとするか。場所を変えて改めて挑戦だ。行くぞ、ベルナデット」
「こ、腰が抜けて、歩けないのじゃ」
「……ったく、態度は生意気なくせに本当は小心者なんだから、面白いヤツだよな」
 呟きながら、トライブがベルナデットを背負ってその場を後にする。
「もう妨害なんてするんじゃないわよー!」
 二人の背中に言葉を投げて、玲奈が上機嫌でドラゴンを操り、高い所に成っている林檎を収獲していく。一方トライブに声をかけられた女子生徒は、去っていったトライブのことがしばらく頭から離れなかったようである。

「歌菜さんにはいつもお世話になってます。今日はよろしくお願いしますね」
「……あ、ああ」
 内心の緊張を隠しながら、あくまで自然体で振る舞おうとする譲葉 大和(ゆずりは・やまと)に対し、ブラッドレイ・チェンバース(ぶらっどれい・ちぇんばーす)はまるで『花嫁の父親』の如く、仏頂面を崩そうとせずに言葉少なに頷く。そのどこか気まずい雰囲気は、二人が箒に乗って果実の収穫を始めてもなお続いていた。
「その……ブラッドレイさん」
「…………なんだ?」
 相変わらずの態度を見せるブラッドレイに、少しの間の後に大和が口を開く。
「よろしければ、レイさんとお呼びしてもいいですか? いえ、お近づきの印にと思ってのことですので、お気に召さない場合は――」
「……いや、いい。そう呼んでくれて、構わない。……済まない大和、何を話したらいいのかよく分からなくて、あんな態度を取ってしまった」
「それは俺も同じですよ。どんなことを言われるか、内心ヒヤヒヤしてましたから」
 はは、と笑う大和に、つられるようにブラッドレイも笑顔を見せる。少しずつ、だけど確実に、強張っていた身体がほぐれていくのを二人は実感していた。
「……大和」
「何でしょうか?」
 収獲していた手を止めて、大和が振り返る。箒を操作するブラッドレイは背中を向けたまま、言葉を紡ぐ。
「その、なんだ。……よろしく頼むな」
 誰のことかは、言わずとも分かるだろうという雰囲気に、大和が理解したとばかりに頷いて答える。
「もちろんです。さあ、イルミン生として、収獲に励むことにしましょう。運転の方はお任せしますね」
「ああ。任せてくれ」
 頷き合った二人が、的確に果実を収獲していく。

「あはははは、あの大和ちゃんが緊張しちゃってるー! 珍しいもの見ちゃったなー」
 箒を操りながら、大和の様子を伺っていたラキシス・ファナティック(らきしす・ふぁなてぃっく)が可笑しげに声をあげる。
「そうなのかい? 大和くんは見た目、誠実そうで真面目な人に見えるのだけど、ラキちゃんから見て大和くんってどういう子なのかな?」
 その後ろで、果実を小さな籠から大きな籠に移す作業をしていたリヒャルト・ラムゼー(りひゃると・らむぜー)の問いかけに、ラキシスが考えて口を開く。
「どうなんだろ? 周りからは『ダメオヤジとよくできた娘』って言われたことあるけど、結構的を得てるかも!」
「そうなんだ。意外だね」
「でしょ? ……でもね、案外大和ちゃんは、そうやってダメな振りをしてるんじゃないかって思うことがあるんだ。何か色々あったみたいだしね」
「なるほど……流石は大和くんのパートナーだ、大和くんのことをよく見ているね」
「そ、そんなことないよ!? もー、勝手なこと言うとその耳触っちゃうんだから! えいっ!」
「言う傍から触ってるね。僕は別に構わないけど、前見てないと危ないんじゃないかな?」
「えっ、わわっ!!」
 前方に迫る木々にラキシスが慌てて進路を変え、その後ろでリヒャルトが微笑む。

「よしっ、一番になれるように頑張りましょうね……って忍さん!? どうして私に抱きついてくるのかな!?」
「うぅむ……歌菜殿、わしは疲れたのじゃ……歌菜殿からはいい匂いがするのじゃ……こうしていると気持ちよくなって、眠ってしまいそうなのじゃ……」
 いかにも眠そうな素振りを見せながら、九ノ尾 忍(ここのび・しのぶ)が背後から遠野 歌菜(とおの・かな)に甘えるようにしなだれかかる。実際は忍がただ単に歌菜とキャッキャウフフしたいだけである。
「もー、ちゃんと収獲しようよー!」
「収獲なんて後でも出来るのじゃ。それよりも歌菜殿とスキンシップじゃ♪」
「ちょ、ちょっと、そこはダメだよっ……うぅんっ!」
 歌菜が、敏感なところをまさぐられて、くぐもった声をあげる。
「歌菜殿は大和何ぞのどこが良いんじゃ? それよりもわしにせんか? わしならほれ、歌菜殿を心行くまで可愛がってやるぞ♪」
「んんっ……ダメだよ、大和さんは大切な人だもん」
「……むぅ、そこまでハッキリと言われてしまうと、わしも手の出しようがないの。大和を怒らせても後が面倒じゃし」
 ぱっ、と手を離す忍に、歌菜が尋ねる。
「大和さんって、怒ると怖いんですか?」
「ありゃ怖いなんてものじゃないの。このわしが思わずたじろぐくらいじゃからの」
「う、うーん……そう言われるとそうでもないように思っちゃうのは、私だけかな?」
「なにおう!? 前言撤回じゃ、今日はわしがとことん調教してやるから、覚悟しておれ!」
「い、一体何を――!!」
 ……その後、歌菜が忍に何をされたかは、ご想像にお任せする。
「むふふ、満足じゃ♪」
「うぅ……忍さんがそんな人だなんて、思わなかったよ……」

「わぁ〜い☆ 果実ってこのように成っているのですわね。知りませんでしたわ」
 果実狩りは初めてのチェルシー・ニール(ちぇるしー・にーる)が、早乙女 姫乃(さおとめ・ひめの)と共にはしゃぎながら成っている果実に手を伸ばして収獲していく。
「あまり遠くに行っちゃダメだからねー」
「分かってますわー」
 白波 理沙(しらなみ・りさ)の呼びかけに、分かっているのかいないのか曖昧な返事をして、チェルシーと姫乃が駆けていく。
(もう……まぁ、折角だし、少しくらい羽目を外してもいいわよね? ちゃんと収獲していれば文句言われることもないでしょうし。……カンナ校長も、普段は冷静な方なのに、イルミンスールの校長が絡むとどうしてああなるのかな?)
 心の中で呟いた理沙が、校長である環菜のことを思う。その時、大きな爆発音と衝撃が、理沙そして他で収獲作業を続けている生徒たちを襲う。
「ひゃあ!? な、何ですの!?」
「こ、怖いです……」
 衝撃で落ちてくる果実から身を守ろうと、チェルシーと姫乃がその場にしゃがみ込む。
「チェル、姫乃、大丈夫!?」
 そこに、理沙が駆け寄ってくる。
「理沙さんっ、一体何が起きましたの?」
「私も分かんないけど、多分二人の校長のせいなんじゃないかしら――」
 理沙が振り返った先では、小規模な爆発が絶え間なく続いている。その方向はちょうど、環菜とエリザベートが収獲作業をしていた場所と一致していた。
「理沙さん、向こうで何かおかしな事をしてる人たちがいるようですが……」
「見ちゃダメ! あれは多分カンナ校長とイルミンスールの校長の仕業だろうけど、普通の果実狩りじゃないから真似しちゃダメよ!?」
「そうなんですか……? わかりました〜。……あ、理沙さん」
「何? 次はどうしたの?」
 すっ、と手を上げる姫乃、その方向に理沙が視線を向けると、そこにいるはずのない人物が悠然と農園を闊歩していた。
「……か、カンナ校長!?」

(……まだバレてないみたいね。色んなところが似てるのが幸いしたかしら。……それにしても、あんなことまでして、対立に巻き込まれる身にもなってほしいわよ……)
 リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)が、自身の特徴を生かして環菜になりすまし、農園を歩いていく。その変装はパッと見ただけでは偽者とは判断されないらしく、蒼空の生徒は遠慮がちに挨拶を交わし、イルミンスールの生徒は遠巻きに何かを囁きながら環菜(リカイン)を見つめている。
(……カンナの心証がよく分かるわね。私が少しでも柔らかな言い回しにしたなら、心証も変わるかしら?)
 そうすれば環菜とエリザベートの対立を後押しする雰囲気も弱まるだろうか、そんなことを考えていた環菜(リカイン)を見かけたソウガ・エイル(そうが・えいる)が駆け足を続けた状態で声をかけてくる。
「カンナ校長! 見回りお疲れさまです!」
「え、ええ、お疲れさま。調子はどうかしら?」
 尋ねた環菜(リカイン)に対し、自信ありげとばかりにソウガが答える。
「絶好調です! アリアもルディも頑張ってくれてるんで、いい感じです!」
 言って、ソウガが背中に背負った籠を見せる。中には果実が溢れんばかりに詰められていた。
「お、追いついたよ……あっ、こ、校長先生!? どうしよう、こんなところで会うなんて思ってなかったよ!?」
「お、マジだ! あれ? ってことはあの爆発は誰が起こしてんだ?」
 後方から追いついてきたアリア・エイル(ありあ・えいる)が予想していなかった人物の登場に慌て、その横のルディエール・トランス(るでぃえーる・とらんす)が疑問を口にする。その疑問は他の生徒にも共通していたものであり、「またパラ実の奴らか!?」「校長でなければ、誰があんなことを?」「まさか、最近パラミタに来たっていう『あの子』か!?」などと憶測が飛び交っていた。
(……カンナのせいにするのは防げるかもしれないけど、別の噂が立ちそうね)
「カンナ校長、イルミンスールには絶対に勝ちましょうね! 俺も今回ばかりはイルミンスールをライバルのつもりで戦います!」
 心に呟いた環菜(リカイン)に、ソウガがガッツポーズを決めて言い放つ。
「……そのことだけど。勝負事とはいえ、熱くなりすぎては目的を見失うわ。あくまでも冷静に、そして相手には敬意を持つことが大事よ」
「こ、校長先生……自分の学校の生徒だけでなく、相手の学校の生徒まで気にかけているだなんて、なんてお優しいのでしょう……」
「なんだよ、勝負事なんだろ? ……まあ、争いをしろと言われるよりは、いいんだろうけどさ」
 環菜(リカイン)の言葉にアリアが感銘を受け、水を差された形のルディエールが、渋々ながら言葉に従う。
(不自然にならず、かつ対立を和らげる発言……上手くいったかしら? ……そういえば、トモエはどこにいったのかしら。近くにいないようだけど、まさか――)

「リカイン殿にはあまり離れるなと言われていましたけど、騒ぎを見過ごすわけにもいきませんものね。ここはあたしが一肌脱ぎましょうか」
 能力を発動させた影響で、若々しい姿を取り戻した中原 鞆絵(なかはら・ともえ)が、馬を駆りながら爆発の起こっていた地点へと向かう。だが不思議と、爆発や爆風は木々にほとんど影響を与えていなかった。
(あらあら、意外ですわね。もしかしてお二人とも、手加減なさったのかしら?)
 そんなことを思いながら現場に辿り着いた鞆絵が見たものは。
「お二人は学校を統べる立場にあると聞きましたが、これは一体どういうことですか!? 自覚が足りません、お仕置きです!!」
「流石は日本で最初の天皇とされているだけあって、言葉に重みがあるわ……」
「どーして私までこんな格好しなくちゃいけないですかぁ……」
 環菜とエリザベートを正座させて、豊美が腰に手を当ててお説教を下していた。
「あら、懐かしい顔が見れましたわ。リカイン殿にお知らせしないと。「ドドメちゃんが来ましたよ」って」
 相変わらず名前を間違えたまま、微笑んで鞆絵がリカインのところへと戻っていく。