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リアクション
20:45 喚び声に応えるもの
丁度、暴走族たちが夜の風を感じるためにバイクのエンジンを入れた頃のこと。
「会社に、いってきます」
「いってらっしゃい〜」
レロシャン・カプティアティ(れろしゃん・かぷてぃあてぃ)は眠たそうにあくびをしながら、身支度を整えたパートナー機晶姫、ネノノ・ケルキック(ねのの・けるきっく)の後姿を見送った。このような時間であるにもかかわらず、お互いに寝ぼけているのかまるで朝の光景のように二人は互いに挨拶を交わしていた。
「アイリス? どうしたんだ?」
「……絶望の呼び声……」
丁度同じ頃、赤嶺 霜月(あかみね・そうげつ)はふらふらと外へ出て行った機晶姫、アイリス・零式(あいりす・ぜろしき)の後姿を追いかけていた。銀の髪が夜風にたなびいて、何かに誘われるかのような、それでいて夢心地のような表情をしている。赤嶺 霜月の声が聞こえていないのか、何か詩のようなものを呟きながら歩みを進めていた。
「ねぇキミ、ちょっと聞きたいのだけれど………」
赤嶺 霜月は肩を掴まれ問いかけられ、思わずそちらに振り向いてしまった。深いフードを被った女性のようだった。顔は下半分しか見えず、表情はほとんど読み取れないが、綺麗な声をしていることだけはわかった。
「百合園女学院は、どっちにいけばいいのかしら?」
「あ、えとあっちです」
とりあえず方向だけ指差してまたアイリス・零式の進んでいった方向に目を向けたが、そこには既にパートナーの姿はなかった。とっさに辺りを見回すと、先ほど問いかけてきた声の主も見当たらなかった。
「いいから、お前は留守番だ」
エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)は赤い眼差しをより一層厳しくしてパートナーに冷たく言い放った。ロートラウト・エッカート(ろーとらうと・えっかーと)はかわいらしい顔を困った表情にさせながら、ロボットのきぐるみを着ているかのような重厚感のある体格を、かわいらしい少女のようにくねらせていた。
「ええ〜なんで? なんで? ボクも行きたい〜」
「機晶姫がよくわからない理由で出歩いてるって噂があるんだ。蒼空学園の有志で集まってその調査に行く……前々から行ってあるだろ? お前を連れて行って何かあっても困るんだ」
「つまんない〜」
「とにかくおとなしくしてろ。鍵はかけておくから、さっさと寝るんだ」
いってらっしゃーい、と力なく見送ったロートラウト・エッカートは、小さくため息をついた。
しょんぼりと頭を下げたためか、赤い髪が頬をくすぐっているのでごつい指で耳にかけると、とたんに目の色が怪しく輝いた。先ほどまでころころと変わっていた表情は失われ、背筋をダンサーのように規則正しくすると、目の前の扉ではなく室内にある一番大きな窓を叩き割って外へと出て行った。
エヴァルト・マトリッツは、深夜に部屋へと戻るまでパートナーが出て行ったことに気がつかなかった。
救援信号を送ろうとスイッチを入れて、すぐに首を振って思いとどまるとスイッチを切った。
遠くで汽笛が聞こえる。
これから進もうとする道のその先にあるようだ。
歩みを緩め、振り向いてしまえば、優しい友人達を頼ってしまう。
知り合ったときから救ってくれた友人達ばかりだ。
自分が兵器だからそれをうまく利用するとか、上手に戦うとか……
そんなことよりも、笑うことや楽しい時間の過ごし方を教えてくれた。
自分の生まれを恨んだりしない。
生まれなければよかった、なんて二度と思わないと誓った。
生まれたばかりのころ、同じように楽しむことを教えてくれた人がいたからだ。
自分が生まれるきっかけを作ってくれたとはいえ、非道な……こんな悲しいことをする人たちに、自分に優しくしてくれた人々を苦しめられたのだけは、許すことはできなかった。
ルーノ・アレエ(るーの・あれえ)の赤い瞳は、わずかに怒りが込められていた。
人が、『頭に血が上る』と表現するのはこのことではないかと、少し冷静になってきた頭の片隅で考えていた。
握り締めていた手紙と地図が、荒野の風に飛ばされてしまったのにも気に止めず、頭に叩き込んだ地図を頼りに百合園女学院の制服のすそを持ち上げて歩いていた。
07:00 ご近所騒動と幽霊列車!
各学校に出される依頼書は、学校の性質からか朝食時に一読できるよう、朝一番でオンラインで配信される。その後、学校の壁に張り出されることももちろんあるのだが、大半がこの時間に携帯やパソコンから見るのが通例となっている。
それを見た霧雨 透乃(きりさめ・とうの)は赤いポニーテールをたなびかせながらパートナーでシャンバラ人の霧雨 泰宏(きりさめ・やすひろ)のところへと駆けて行った。
「やっちゃん、やっちゃん! この依頼、面白そうだから受けてみようと思うの!」
プリントアウトした依頼書を受け取って、食後のお茶をすすりながら霧雨 泰宏は目を通した。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
各学生への依頼書
ボタルガという町での騒音被害を何とかしてほしい。
一週間前から犬や蝙蝠が、夜な夜な騒ぎ出している。
もともと炭鉱を生業としていたが、その町は閉鎖して、新しく別の場所に作った町へ移り住んだのだが、町の構造に問題があるという噂もある。
可能なら、多くの人手を使いたい。
よろしくお願いします。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「炭鉱ねぇ」
「地図を見る限りは、鉱山の向こう側に作った町だから、もともとのボタルガは今はゴーストタウンになってるみたいだよ」
「……まぁ、たまにはこういう依頼もいいだろ。いいぜ、俺も透乃ちゃんに付き合う」
「じゃ、早速準備しようね! 何ができるかわかんないけど、向こうに行けば、みんなと分担してできるよね」
たわわな胸を揺らしながら、いそいそとボタルガへ向かうための準備を始める。何が必要なのかはいまいちわからないが、とりあえず武器を持つのだけは忘れず、後はおやつとお弁当の用意を始めていた。
「騒音被害ねぇ」
波羅蜜多実業高校の生徒達がひいきにしている食堂で、ラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)はため息交じりに、朝食をとりながら携帯電話に配信されてきた依頼書を眺めていた。同じ波羅蜜多実業高校の国頭 武尊(くにがみ・たける)も飲み物を口にしていると、ガートルード・ハーレック(がーとるーど・はーれっく)が駆けているシルヴェスター・ウィッカー(しるう゛ぇすたー・うぃっかー)の後を追いかけているのが見えた。
「よう、どうしたんだ?」
「ウィッカー、いや、アレエが」
「舎弟のピンチじゃああああああああ!!!!」
有無を言わさぬ勢いで駆け抜けるシルヴェスター・ウィッカーの背中を見失わないように視線だけ送ると、手短に説明をしようと思案した。
「実は昨日の晩、ウィッカー宛にアレエから救援信号があったんです。とにかく、今は急いでるから……すまない」
ガートルード・ハーレックがそういうと、シルヴェスター・ウィッカーは携帯からルーノ・アレエという名前を選択してメールを送る。
『早まるな、加勢しに行くから』
今朝目が覚めて、救援信号が来ていたのだと気がついた瞬間から何度も送っているメールだ。救援信号とはいえ、まるでピンポンダッシュのように、ほんの一瞬だけ送ってきて、すぐにきったのだ。そんな短さでは、目を覚ますことなんて到底できなかったのだ。
「アレエの間違いではないのですか?」
「ルー嬢は、電話んかけ間違いみたいな事はせん! 大方、頼ろうとして、連絡を入れて、思いとどまったにきまっとるんじゃ……兄貴を頼らん舎弟なんぞ、聞いたことがないっ」
シルヴェスター・ウィッカーは携帯を取り出して、通話を試みてみるがルーノ・アレエの携帯は、通話が出来ない状態になっているようだった。パートナーではない間柄では、電波が届かなければ通話もできないのを、いらだたしく思いながら足を前へと蹴りだしていた。
「ルー嬢、阿呆なことをしたらただじゃおかんぞ……」
その二人の背中を見送ると、国頭 武尊はラルク・クローディスの目の前に地図を広げる。シャンバラ地方の地図で、わかっている限り詳細に書かれたものだ。
「そうだ、面白い話があるぜ?」
「面白い話?」
「昨日の晩、幽霊列車が出たって話だ」
「んなのは俺も聞いたよ。オカルトが駄目なやつらだったから、純粋にびびってんだろ?」
「まぁまぁ聞けって。その場所が、ココだ」
国頭 武尊が指差した場所には、ボタルガの町……旧炭鉱の町、ボタルガの名前があった。ラルク・クローディスはガートルード・ハーレックたちが向かった方向を見やった。丁度、ボタルガのある方向だ。
「幽霊列車には女の子が沢山乗ってたって話だ。お宝の臭いがしないか? 幽霊なら幽霊で面白いし、もし幽霊じゃないなら、何か大掛かりな組織犯罪の臭いもするぜ?」
「………鏖殺寺院か」
「あ? なんだ、確証でもあるのか?」
「いや、そんなんじゃないさ。ま、暇つぶしついでに行くとするか、その幽霊列車を見によ」
「おう、いくなら列車じゃなくとりあえずこの駅を見に行こうぜ」
国頭 武尊が言っている傍らで、地図を改めて見直す。旧ボタルガの町と、新ボタルガの町は昔炭鉱に使っていた鉱山が挟まれた位置にある。依頼があったのは新ボタルガの町、幽霊列車の無人駅は、旧ボタルガの町に近い。
「無関係じゃ、なさそうだけどな」
小さく呟いた声は、晴れ渡った冬空に吸い込まれていった。
「は?」
休日ということで、無精ひげを伸びたい放題にさせていた斎藤 邦彦(さいとう・くにひこ)は、パートナーのネル・マイヤーズ(ねる・まいやーず)が持ってきた書類に目を通して、素っ頓狂な声を上げて黒髪の美女を改めて見つめなおす。
「息抜きがてら、噂の幽霊列車でも見に行きませんか? と、そういったのですよ」
「休暇に見に行くものでもないだろうに……ま、だらだらしてるよりはいいか」
そう答えてパートナーの顔が明るくなるのをみると、口の端を持ち上げて笑った。たまには物見遊山で遊びに行くのもいいだろう。そんな気楽な気持ちで、出かける支度を開始していた。
「美少女探偵MADOKA出陣!!」
ペンギンのきぐるみを身につけているのは桐生 円(きりゅう・まどか)だ。その後ろでほわわんと、和やかな表情で彼女をめでているのは神倶鎚 エレン(かぐづち・えれん)とパートナーの機晶姫、プロクル・プロペ(ぷろくる・ぷろぺ)だ。
「さぁ、いくぞ! この騒音の謎を解明しに行くのだ!」
「む、これは謎なのか?」
「美少女メイ探偵桐生円がそうおっしゃるのなら、全て謎なのですわ」
くすくすと上品な笑みを湛えながら、歩き出して時折転んでしまう桐生 円の後姿をほわわんとした空気をかもし出しながら追いかけていた。
「そうだ! この探偵ごっこにロザリンドくんも誘おう! 助手のエレンくん、早速連絡してくれたまえ!」
「了解ですわメイ探偵」
起き上がって何事もなかったようにそう言い放つ桐生 円の言葉通り、神倶鎚 エレンは携帯電話を取り出した。時計には、7:45と表示されていた。
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