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空に轟く声なき悲鳴

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空に轟く声なき悲鳴

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17:20 歌の裏返し



「……そうか、アイリスは以前言語機能がイカれていたルーノの言葉もそのまま理解していた」

 赤嶺 霜月がそう呟いた次の瞬間、洞窟内に汽笛が鳴り響いた。

「何?!」

 フードの女が悲鳴を上げると、その先にはボタルガの列車が猛烈な勢いでこちらへ向かってきていたのだ。だが、上がっていた蒸気が凍りつくような冷気が機関室を包んだ。
 始めはそのまま凍りついたのだが、金属が急激に冷やされたせいか、機関室が音を立てて砕けていった。

「あははー、一度こういうのやってみたかったんだよねーーー」
「おかげで俺たちが巻き込まれてるだろうがああ!!」

 妙な悲鳴が時折聞こえていたが、金属が砕けていく音でよく聞き取れなかった。砕けた金属がブレーキ代わりとなり、大地の割れ目に乗る前に停車することができた。いの一番に列車を降りたのはルーノ・アレエだ。そこにいる仲間達の無事な姿を見て、泣きそうな顔をしながら胸をなでおろしていた。そこで初めて、流れている音に気がついた。

「この、曲は……?」
「……あなたが放つは破壊の音、私が歌うのは絶望の呼び声……」

 緋山 政敏は小さく呟くとルーノ・アレエの前に立った。カチュア・ニムロッドもそれに習ってルーノ・アレエをかばうようにして立つ。

「……その装置は一体なんだ?」
「ただのオルゴールよ。気に入った曲を流そうとして、壊れているのかさかさまに入ると私には聞こえない音を発し始めた。そしたら機晶姫に影響が出た。ただそれだけのことよ。犬や蝙蝠にも影響が出てしまったみたいだけどね……」

 そういいながら、フードの女は身に纏ったローブを翻そうとしていた。そこへ、白いセントバーナードがいつの間にか彼女のローブの裾を加えていた。上に乗っているのは、クレシダ・ビトツェフだ。その手には、ルーノ・アレエがおいていった封筒があった。

「……バフバフが、同じ匂いだって言ってた」
「クレシダちゃんっ!」

 別行動をしていたクレシダ・ビトツェフがいきなり敵のそばにいるのを見て、ヴァーナー・ヴォネガットが真っ青になって駆け出した。そのとき、ロザリンド・セリナのパソコンが鳴った。先ほどかけた検索が終わったようだった。そこに出た検索結果を見て、ロザリンド・セリナは驚きで声を震わせていた。ちょうど、ヴァーナー・ヴォネガットの合図でバフバフが彼女の所に駆け戻ってきた。

「……筆跡と同一の名前……まさか……あなた、あなたの名前、は……エレアノール?」
「偽名は沢山使ったから、覚えていないわ」
『いつまでやっておるか』
『金の機晶姫は無防備だ。いまこそ我らの悲願を果たせ』
「ならば、出てくればいい。こんな女一人に任せていないでな」

 早川 呼雪は武器を構え一層低い声でそう言い放つと、あたりを睨むように視線を配った。エース・ラグランツも前に進み出ると、同じく武器を構えた。

「偶然とはいえ、心を踏みにじる様なマネをするのはいただけません……その上、姿を見せない卑怯者とは!」
『心? 機械人形にそんなものありはしない。お前達が心と呼んでいるのは所詮プログラムだ』
『彼奴等が、創られたモノが、心を得られると本当に思っているのだとしたら、おめでたい話だのぅ』

 人を小ばかにする笑いが、また洞窟内に響き渡る。シルヴェスター・ウィッカーは颯爽と前に進み出ると、ルーノ・アレエの腰に手を回してビシッとフードの女めがけて指差した。

「機械でこ相手に、同情心を引くような呼び出し方した輩に言んさったくない。この借りは100倍返しにするけぇの」
「兵器だというのなら、それも構わない。我らは確かに、人より優れた力をえた。人の力によってではあるが」

 フラムベルク・伏見は感情をできるだけ抑えて声を張り上げた。それに続くように、ホワイト・カラーも声を張り上げた。

「でもそれでも、不安や、すきって気持ち、一番になれなくて悔しい気持ちだって、私たちにはあるんですっ!」
「そりゃ、辛いときとか恥ずかしいときとかあるけど、それでも大事だって思う人がいる。その気持ちは嘘なんかじゃないって信じてるんだ」
「勝手に、きめないで戴きたい」

 ディオロス・アルカウスはネノノ・ケルキックやホワイト・カラーの背を守るようにして立ってそういった。燦式鎮護機 ザイエンデも、武装をフードの女に向けながら進み出た。

「絆や、つながる想いは、私たちが作り上げたものです。私たちの身体を作った人たちの思惑なんて、知りません」
「プログラムだから守るのではありません。守りたいと思ったから、守るんです」
「そばにいろって言われたからじゃない。そばにいたいからいるんだ」

 ユニコルノ・ディセッテと、プロクル・プロテも気がつけば思いを口にしていた。

『……だがそれでも、その身にあるのは血の通った心臓ではなく、機晶石という冷たい石ではないか』
「違います」

 ルーノ・アレエが進み出て、そばにいた友人達の手をとった。顔を見合わせると、誰もが笑顔を向けてくれた。

「私の胸に宿るのは、私を想ってくれた人たちの心の輝きです。冷たい石ではありません」

 その言葉に、歓声が上がる。緋山 政敏はルーノ・アレエの肩を叩いた。

「兵器と姫の命は等価か……そう聞いたな。俺たちは、ここにいるのが兵器だなんて思ってないぜ」
「……博士、これ以上は不利です。スライムの召喚で、私の魔力が尽きてきました」
『フン、やはりクラスチェンジしたその身では使い物にならんな。時間稼ぎも、もうよかろう。さっさと戻って来い』

 そういうが早いか、フードの女は煙玉のようなものを取り出して放り投げると、あたり一面真っ白な世界に包まれてしまう。世界が元に戻る頃には、フードの女の姿と、従者達はいなかった。オルゴールと呼んでいた兵器は無残にも破壊されており、あたりはただ静かになっていた。

 エルシュ・ラグランツは破壊されてしまったオルゴールに手を置いて、目を閉じた。ディオロス・アルカウスはその後ろからその肩を叩いた。

「……さしずめ、悲鳴を上げて助けを求めていたのは、この壊れたオルゴールだったのかもしれませんね」
「その音色に、呼ばれたのかもしれないであります」

 アイリス・零式は赤い瞳に涙を湛えて巨大なオルゴールに手を置いた。








18:10 帰還 そして……





 ボタルガでは、お祭り騒ぎだった。事件を解決してくれた若者達を祝うため、町をあげてのお祝いの準備をしてのだった。それを手伝っていたのは九條 静佳(くじょう・しずか)だ。無事に帰ってきた伏見 明子と、フラムベルク・伏見とサーシャ・ブランカの姿を見て、満面の笑みを浮かべると「お帰り」とだけ告げた。

 そして夕食時ということもあり、それぞれがパートナーと食事をしながら、再会を喜んでいた。



「……ええと、あの」

 神野 永太は歯切れの悪い切り出し方をした。ティータイムのスキルを使って豪華な食事を出してもらい、さらに町から貰ったご馳走をテーブルいっぱいに並べた燦式鎮護機 ザイエンデは、かむのも忘れてどんどん飲み込んでいく。

「想いが、通じ合うっていうのは、アレだ。パートナーとして、相棒としてだな」
「私は、永太と強い絆で結ばれている。だからあの時言葉を交わせた。いまは、それでいい」

 燦式鎮護機 ザイエンデがそういうと、神野 永太は急に顔を赤くしてしまった。自分でも、何故赤くなったのかはよくわからなかったが、顔から火が出るほど熱くなってしまった。





「このバカ! 意識が戻ってから、何で俺にすぐ連絡しなかった!!」

 如月 佑也は正座をして上目遣いで見つめてくるラグナ アインを、思わず声を張り上げてしかっていた。ラグナ ツヴァイは唇を尖らせて説教を受けている姉の横にちょこんと座っていた。

「ご、ごめんなさい……」
「謝るくらいなら、心配させるな……」

 自らも膝をついて、その両肩に手を置いた。うつむいてよくは見えないが、うっすらと涙を浮かべているのがわかった。ラグナ アインは青い瞳からぼろぼろと涙を流して、如月 佑也にしがみついた。



「ホワイト、本当に無事でよかった」
「はい、エルも……来てくれて、ありがとうございます」
「帰ったら、またおいしい料理を作ってくれないか? ホワイトが作る料理が、ボクにとっては一番だからさ」

 その言葉を聞いて、ホワイト・カラーも思わず涙ぐみながら、「はい! エルの好物のシチュー、作りますね」と答えた。 




「………アイリス、どこも怪我していないか?」
「はい、ご迷惑をおかけして、申し訳ありませんでした」

 ぺこり、と頭を下げるアイリス・零式を後ろから抱きかかえたのは、クコ・赤嶺だった。その顔は、心底うれしそうに微笑んでいる。

「でも、一番心配してたのは霜月なのよ」
「そ、そりゃそうですよ。大事なパートナーなんですから」

 少し照れたように顔を赤らめると、アイリス・零式もうれしそうに笑った。




「申し訳ありません、守るべき私が、助けられてしまうなんて」

 ユニコルノ・ディセッテは早川 呼雪に頭を下げた。それを真っ先にあげさせたのは、ファル・サラームだった。

「さっき、自分で言ったじゃない。守りたいから守るんだって。だから、ボクたちも助けたいから助けたんだよ?」

 台詞をとられてしまったといわんばかりに、早川 呼雪は苦笑しながら二人の頭を撫でてやった。




「ネノノ〜!! ネノノ〜〜〜〜!!!!」

 レロシャン・カプティアティはいつもの眠たそうな雰囲気は全くなく、泣きじゃくる子供のようにネノノ・ケルキックにしがみついた。あんまり泣くので、つられてネノノ・ケルキックも涙ぐんでしまった。

「レロシャン、レロシャンがくれたこのメイスで、皆と脱出できたんです。レロシャンが、いてくれたおかげですよ」

 その言葉を聞いて、またこれ以上にないくらい涙を瞳に浮かべると、ワンワン泣き始めてしまった。



「まったく、家出かと思ったよ。戻ってこないならこないでしょうがないかとか思ったんだからね」

 ケイラ・ジェシータは少し強がってそう言い放つと、背中を向けたまま「ケガがなくってよかった」と告げる。御薗井 響子はしばらく呆然としていたが、周りで涙を流したり、抱きついたりしているのをみて、自分もまねてみようと思い、背中からケイラ・ジェシータを抱きすくめた。

「……響子?」
「ケイラ、ありがとう。助けにきてくれたのは、うれしい」

 あまり感情の篭らない声だったが、回された腕に自分の手を重ねて、ケイラ・ジェシータは目を閉じて一つ頷いた。




 ポカ
 軽い音がフラムベルク・伏見の頭から聞こえた。伏見 明子は鼻を鳴らして杖をしまった。

「うっ」
「はい、この一発で今回迷惑かけた分はちゃらね」
「……マスター」
「さっさと戻ってこないから、張り合いがなくてつまんなかったぞ、デカブツ」

 フラムベルク・伏見は、素直じゃないマスターと、普段なら猛烈に腹が立つ単語も、このときばかりは暖かな言葉に聞こえた。改めてこの居場所を大事にしようと思っていた。丁度そこを、ルーノ・アレエがとおったので、彼は名を呼んで呼び止めた。

「君の噂は、聞いていた。一度、話したいと思っていたんだ。俺は、機晶姫は兵器だと思っている。それでも、兵器じゃない生き方を、マスターたちは教えてくれた。それに答えたいと思っている。君も、きっとそうじゃない生き方を望まれていたんじゃないだろうか? 破壊する兵器である以上の、何かを」

 ルーノ・アレエは黙って聞いていたが、しばらくして顔を上げると、ゆっくりと頷いた。フラムベルク・伏見と話しているのがわかると、他のメンバーもかわるがわるルーノ・アレエの周りを取り囲んだ。

「君の胸の金の機晶石、ボクのスキルでより一層輝かせてみないかい!?」
「エルってば! やめてください恥ずかしい!」

 エル・ウィンドはそういって自分にスキルをかけて試しにどのくらい光るのかを披露するが、ホワイト・カラーが目いっぱいの声を出してそれをやめさせようとする。

「ルーノ、さん?」

 六本木 優希は浅葱 翡翠、アリシア・クリケットとともにこそ、と話しかけてきた。

「捕まっていた機晶姫たちは怪我もなく、町の人たちも誰一人怪我をしていませんでしたわ」
「ありがとう、六本木 優希」
「お役に立てたなら、幸いだわ」

 アリシア・クリケットが柔らかく笑うと、つられて口角だけを持ち上げる笑みを返す。そこに、イレヴン・オーヴィルがやってきた。カッティ・スタードロップも一緒だった。

「どうやら、いまの町長が町の開発資金欲しさに、よくわからない組織に大金で列車を売ったそうだ。ついでに、ゴーストタウン化したボタルガを好きにしていい、そういったらしい」
「元町長は、それを隠すために耳が遠いふりをしていたんだね」
「ま、列車は壊れちゃったし、アジトにはもう何もなかったから……もうここにはこないんじゃないかな?」

 壊した張本人である五月葉 終夏は他人事のように言った。

「まぁまぁ。皆で事件解決のお祝いってことで、写真でもいかが?」

 絹屋 シロはそう皆に呼びかけると、おのおの思うところがあったようだったが、せっかくだからと無理やり集めて一枚の写真に納まった。霧島 春美はそういえば、と思い出したように口を挟んだ。

「ところで、フードを被った女の人ってのは、結局なんだったの? それに、時間稼ぎって?」
「時間稼ぎはぁ、恐らく機晶姫たちから吸い上げたエネルギーをどこかにためていた時間ではないかと〜……」

 メイベル・ポーターは思案しながら口にする。それを補うように、緋桜 ケイが口を開いた。

「現にどの機晶姫たちも疲労が激しいからな。ある程度の機晶石のパワーを吸い取られたと見て間違いないか」
「あんなに機晶姫に対してひどいこと言ってたってのに、図々しく機晶姫から力を吸い上げるなんてな。腹が立つぜ」

 ミューレリア・ラングウェイも鼻息を荒くしながら語った。

「……それで、あのフードの女性なんですけれど」


 ロザリンド・セリナは、先ほど対峙していたときに照合が完了したデータを呼び出した。
 そこには、『筆跡一致:エレアノールの手記』と書かれていた。御陰 繭羅は小首をかしげた。アシャンテ・グルームエッジも同じくその画面を覗き込んだ。

「エレアノールって?」
「……ルーノ・アレエさんを作った技術者で、鏖殺寺院のメンバーです……既に、故人の筈なのですが」
「鏖殺……寺院?」

 アシャンテ・グルームエッジの瞳の色が、金色に変化した。御陰 繭羅は様子がおかしくなったパートナーの肩をしっかりと掴む。だが、アシャンテ・グルームエッジは金色の眼を動かすことはしなかった。

「エレアノールの筆跡を真似た、ということか?」
「最初はそれも考えました。でも、真似ることに意味はありますか? ルーノさん自身気がついていないですし……ルーノ・アレエなんてつづり、見本はどこから引っ張ってきたのでしょう?」

 緋山 政敏の問いかけに、ロザリンド・セリナは首を振り、逆に問いかけた。その答えは、出ることがなかった。




















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 薄暗い、さびた鉄の匂いが充満する部屋で、彼は目覚めた。姿の見えない声だけの存在が、ただでさえすっきりしない寝覚めをさらに不愉快な気持ちにしてくれた。

『ようやく起きたか』
『吸血鬼の癖に、遅い復活だな』

 目覚めたいと思っていなかったからだ。そう呟きたいのを押さえて身体を棺の中から起こす。棺の外は血だまりになっており、それが自分の体内へ吸い上げられていく。いままで吸ってきた血なのか、それとも復活に必要な血を集めてきたのか、彼にはわからなかった。

「……どうせならもっと若いのを使えばいいだろうが」
『いやいや、次は君に出てもらわねば困るのだよ』
『そこにいる、《ニフレディル》と共にあの金の機晶姫を捕まえてきてほしいのだから』

 ニフレディル、と名前を聞いて睨む勢いで顔を上げた。フードを目深に被っていてわからない。

「顔がよく見えないが?」
『ほれ、ちゃんと挨拶をせい。お前の先輩に当たるのだからな』
「はい、初めまして、ニフレディルといいます」

 お辞儀をして、顔を上げると今度はフードをとった姿を見せた。そこにあったのは、白い肌、青い髪、青い瞳をした女性。忘れるはずもない、既に死んでいるはずの姉の姿だ。

「えれあ、のーる……」
『ニフレディルだ。名前も覚えられぬのか』
『イシュベルタ・アルザス。次の失敗はお前の消滅を意味する。そこのニフレディルもな』

 老人達の卑下た笑い声が聞こえた。ニフレディルと名乗った女性は、表情をピクリとも動かさなかった。



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担当マスターより

▼担当マスター

芹生綾

▼マスターコメント

 お疲れ様です。前回の不手際にもかかわらず参加希望を出してくださった皆様、本当にありがとうございました。

 さて、初めてのミステリーでしたが、本格ではないので読み応えに欠けてしまったかもしれません。ともあれ、このシナリオに参加した皆様はルーノ・アレエや機晶姫たち、ボタルガの人々を窮地から救ってくださった英雄です。

 情報も共有している、という扱いにはしてありませんが「情報交換」をアクションに書かれた方と近しい人たちは自動的に情報を共有していることにしました。

 それと、アクションではそうでもなかったかもしれませんが、推理を投稿して下さった方々はほとんどの方が合っておられました。なので『謎を解いたもの』という称号を差し上げています。他に活躍の場があった場合は、そちらを優先していますので、ご了承くださいませ。

 今回のシナリオに参加するために、過去のシナリオを読んでくださった方もおられたようですね。本当にありがとうございました。
 イシュベルタ・アルザスは、『砕けた記憶の眠る晶石』で、爆死したと思われていた人物です。
 次は、どんな形で皆さんと対峙するのでしょうか。
 いきなり出てきたら驚くかと思いましたので、こんなところで複線を引かせていただきました。

 次回もまた、お逢いできましたら幸いです。


 追記:招待させていただきたいと、何人かの方にコメントさせていただきましたが、こちらの不手際で招待枠を作成することができませんでした。真に申し訳ありませんでした。