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リアクション
リフルは俺たちが守る
「あんな言い方をしなくてもいいと思いますわ……」
リフル・シルヴェリア(りふる・しるう゛ぇりあ)が武ヶ原 隆(むがはら りゅう)とリニカ・リューズの二人に尋問されている。その様子を扉の間から覗き見て、甲斐 ユキノ(かい・ゆきの)は甲斐 英虎(かい・ひでとら)の服の裾をぎゅっと握りしめた。
「確かに。武ヶ原がクイーン・ヴァンガードとして一生懸命なことや、仲間を思っていることはすごくよく分かるんだけど……リフルってそんなに悪い子には見えないんだよねー」
「当たり前です!」
「うわ、びっくりしたー」
背後から聞こえた声に英虎が振り返ると、そこにはリース・アルフィン(りーす・あるふぃん)が立っていた。リースは肩を震わせて言う。
「元々クイーン・ヴァンガードの人たちのやり方には納得できませんでしたけど、こんなの酷すぎます」
「まあまあ、落ち着いて。武ヶ原たちに聞こえちゃうよー。……あ、出てくるみたいだ。ほら、二人とも隠れて隠れてー」
英虎たちは廊下の陰に身を隠す。反対側の扉から隆とリニカが教室の外に出てきた。
「リニカ、行くぞ。どうせそいつが罪に問われるのも時間の問題だ」
「べーっ、だ!」
「こら、見苦しい真似をするんじゃない。さて、監視の方はあいつらに任せるとして……」
隆が仲間に連絡をとろうとする。と、彼の前にずいと三人組が歩み出た。
「そこまでだ……これ以上シルヴェリアに手出しをしようというのなら、彼女が襲撃犯であるという証拠を今ここで出せ……ないのなら失せろ」
三人のうちの一人が隆に詰め寄る。
「なんだ、貴様?」
「俺は教導団のグレン・アディール(ぐれん・あでぃーる)だ……お前たちのやっていることは最早決めつけの域に達している……見過ごすわけにはいかんな……」
「ふん、英雄気取りの愚か者が。部外者は黙っていろ」
そう言って立ち去ろうとする隆を、ソニア・アディール(そにあ・あでぃーる)が呼び止めた。
「待ってください。リフルさんの言葉を何一つ信じないで一方的に疑うのがあなたたちのやり方なんですか?」
李 ナタ(リ ナタ)もソニアに続く。
「全くだ。クイーン・ヴァンガードが聞いて呆れるぜ。やってることは恐喝まがいじゃねえか」
「貴様らがどう思うと勝手だ。だが、邪魔をするつもりならこちらにも考えがあるぞ」
「ふーっ!」
隆が三人を見据え、彼の陰からリニカが威嚇する。一触即発の雰囲気だった。
「うーん、これは止めないとまずいよねー」
英虎がグレンたちの元へ向かおうとしたそのとき、教室の中から声が聞こえてきた。
「やめて」
リフルだった。
「私なら大丈夫だから」
「シルヴェリア……」
グレンがリフルを見つめる。
「いい心がけだ。尤も、それで疑いが晴れるわけではないがな。じきに俺の仲間がやってくる。大人しくしていろよ。……さあ、そこをどいてもらおうか」
隆とリニカは三人を押しのけてその場を後にする。グレンたちは教室に入ってリフルへと駆け寄った。
「悪いが、俺たちは俺たちで勝手にお前の身辺警護をさせてもらうぞ……今後、手荒な事をする奴が出てくるかもしれないからな……」
「リフルさん、もし何かあったら遠慮せずに言ってくださいね。私たちに出来ることなら協力させてもらいます」
「そうそう、俺達が護ってやるから安心しろよな。それに、護衛中はなんでも奢ってやるぜ。グレンが!」
「ナタク、お前な……まあ、なんでもとはいかないが、ある程度なら色々と奢ってやる……好きでつきまとわせてもらうんだからな……」
自分のために一生懸命になっている三人を、リフルは複雑な目で見つめていた。
「色々と噂の絶えないリフルさんですが、怪しいからといって襲撃犯と決めつけるのはどうかと思いますね」
まだリフルと接触したことのない緋桜 遙遠(ひざくら・ようえん)は、休み時間を利用して彼女の教室へ向かっていた。
「――ここですね。おや、どうしたのでしょう? なにやら騒がしいようですが……」
教室からは何やら言い争うような声が聞こえてくる。
「教室の中まで入ってくるこたねーだろ」
「そうよ、権力の濫用だわ!」
遙遠が中に入ると、隅に佇む一組の男女がクラスの生徒たちに非難されているのだと分かった。
「隆をいじめるなぁー!」
「構うな。言わせておけ」
生徒たちにくってかかろうとする背の小さな少女と、非難を気にもとめない様子の男。
「なるほど、あれが武ヶ原さんとリューズさんですか。お二人はお二人で大変そうだ」
遙遠は喧噪の中、数名のクラスメイトに囲まれた銀髪少女の元に歩み寄っていく。外見特徴を聞いていたので、リフルのことは一目で分かった。
「わたくしは『あなた自身』の味方ですわ。ご安心ください。なんと言っても同士ですから」
隣に座った荒巻 さけ(あらまき・さけ)がリフル(の主に胸)を見ながらにっこり笑顔を浮かべると、リフルはこくりと頷く。そこに遙遠が声をかけた。
「こんにちは、あなたがリフルさんですね」
「あら、またリフルさんを疑っている人ですの?」
「いえいえ、違いますよ。まだお会いしたことがなかったものですから、実際におしゃべりしてみたいと思ってお訪ねしたんです」
「それは失礼いたしましたの。リフルさん、お客さんのようですわよ」
さけにそう言われると、リフルは「何か用?」といった表情で遙遠を見上げた。
「これといって用事があるわけではないのですが……」
遙遠は教室を見回して話題を探す。
「えー、リフルさんは人望がおありのようですね。多くの生徒があなたを庇っている」
「……」
リフルは黙って視線を戻す。
「えーと……」
結局、こんな調子で会話が弾むことのないまま休み時間は終わりを迎える。
(なるほど、あの愛想のなさでは疑われもするでしょうね。まあ真偽のほどは分かりませんし、とりあえず彼女に行きすぎた態度をとる生徒がいないか注意しておきましょう)
そんなことを考えながら、遙遠は教室を出た。
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