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リアクション
ゲイルスリッターの秘密に迫れ
ソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)と雪国 ベア(ゆきぐに・べあ)、は蒼空学園の技術者の元に向かっている。
「襲撃犯だと疑われてしまっているようですけれど、私はリフルさんを信じます。だって、あの素早さならゲイルスリッターは普通に逃げ切れたはずです。第一発見者を装うなんて疑われるだけですよ。それを調べればきっと何か分かるはずです」
そう言ってソアが指さすのは、ベアがもつゲイルスリッターの仮面の破片。先日ラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)が砕いたものだ。
「さすがご主人、目の付け所が違うぜ!」
巨体を揺らしながらソアを褒めるベアの横で、悠久ノ カナタ(とわの・かなた)と共にソアたちと協力する緋桜 ケイ(ひおう・けい)も言う。
「俺としても彼女を信じてやりたいところだ。もう少し有力な手掛かりを見つけて、真犯人を見つけ出さないとな。こいつの映像をもう少し鮮明にできればいいんだが」
ケイが手にしているのはハンディカメラ。とある生徒がゲイルスリッターの様子を撮影していたものを借りてきたのだ。
ソアたちが事情を説明すると、技術者は快く手がかりの解析を引き受けてくれた。未知のものが彼の血を騒がせたらしい。
しばらくして作業を終えると、技術者は雑談をしながら待っていた四人のところへやってくる。
「お待たせ。えーっと、緋桜 ケイ君だっけ? まずはキミの方からいいかな」
技術者に手招きされ、ケイがハンディカメラを覗き込む。
「とりあえず、画質を上げるのはここまでが限界だねー」
「ふむ、いくらか鮮明にはなったが、犯人の顔を特定できるまでには至らないな。ちょうど陰にもなっているし、仕方ないか」
「それもそうなんだけどねー、僕はこれが気になるな。この端っこにちょっと見えるの。これ何?」
技術者は画面の片隅に写った何かを示す。
「ああ、それは鎌の切っ先だな。ゲイルスリッターは大鎌を武器にしているんだ」
「なるほど、鎌ね。物騒なもの持ち歩いてるなあ。でね、この鎌なんだけど、どうもこれを中心にして画像が乱れてるような気がするんだよねえ。おかしな電波でも出てるのかもしれないよ。ま、気のせいかもしれないけどね」
技術者は一口にそう言うと、ケイにカメラを返して今度はソアを呼ぶ。
「次にこっちの破片。いやあ、これは実に興味深いよ。詳しくは分からないけど、何か特殊な素材で作られてるみたいだ」
「特殊な素材……魔法か何かがかけられているということはありませんか?」
「んー、それも否定はできないね。あ、それから、この仮面は単体で機能するものじゃないと思うよ」
「と言いますと?」
「増幅装置とでも言えばいいのかな。多分そんな感じのものだね。僕に分かるのはこんなところ。大した力になれなくてすまないねえ」
「いえ、とんでもありません。今日分かったことだけでも大きな収穫です。お忙しいところありがとうございました」
「うんー。また何かあったらもってきてよー」
説明を聞き終えたソアたちは、技術者に礼を述べてその場を後にする。そこでベアが言った。
「この足でリフル本人に会いにいくってのはどうだ? 蒼空の技術者でも分からないとなると、あの仮面古王国時代の遺物だったりするかもしれないぜ。リフルは古代シャンバラ史に詳しいらしいし、うまくいけば自分の手で疑いを晴らすことができる」
「ベア、ナイスアイディアです!」
ベアの提案に乗り、ソアたちはリフルを訪ねて仮面の破片を彼女に見せた。リフルはそれを念入りに観察していたが、徐々に表情を曇らせてゆく。
「どうかしましたか?」
ソアが心配そうな顔でリフルに問う。
「なにか嫌な感じがする……」
リフルはそう言ったきり、破片をじっと見つめて口をつぐんでしまった。
「嫌な感じ、ですか……。うん、リフルさんありがとうございました。私たちはこれで失礼しますね。実際にお会いできてよかったです。それではまた」
ソアは破片を集めてリフルに別れを告げる。
「ケイ、行きましょう」
「ああ。決定的なものは得られなかったが、分かった情報は一応関係者に伝えておくとするか。何かの役に立つかもしれないからな」
前を行くソアとケイの後ろ姿を見やりながら、これまで言葉少なかったカナタがベアに耳打ちした。
「のおベア、わらわに少し思うところがあるのだが――」
カナタの言葉に、ベアが小さく頷く。
「ああ、実は俺もその線を考えていたところだ。となると、俺が思うにだな……」
「聞いた話ですけど、この間リフルさんが食堂である人物を見て反応を示したらしいんです。私はその人がその後どこに行っていたのかが気になります。リフルさんと関係があるのかもしれません」
六本木 優希(ろっぽんぎ・ゆうき)はパートナーのミラベル・オブライエン(みらべる・おぶらいえん)を連れて蒼空学園内を歩いていた。
「優希様、その方の特徴は何か分かるのですか?」
「グラマラスな体型に長い黒髪。黒のセーラー服にミニスカート、赤のタイという格好で、『赫夜(かぐや)』と呼ばれていたそうです」
「それだけ分かっていれば何とかなるかもしれませんわね」
二人が地道に聞き込みを続けていると、思いの外すぐに赫夜を知る男子生徒を見つけることができた。
「ああ、それなら藤野 赫夜(ふじの かぐや)だろ。勿論知ってるぜ。目立つから有名だと思ってたんだが……まあ最近転校してきたやつだし、知らない人がいてもおかしくはないか。会いたいならついてきなよ」
男子生徒に案内されて、優希とミラベルは一つの教室にたどり着く。件の人物はクラスの中心で級友と談笑していた。
引っ込み思案な優希は、なかなか赫夜に話しかけることができない。だが、男子生徒に「用があったんじゃないのか?」と言われ、思い切って口を開いた。
「あ、あの!」
「ん? なんだ」
赫夜が艶やかな髪をなびかせて振り返る。
「はじめまして。私、六本木 優希といいます」
「藤野 赫夜だ。よろしく」
「よろしくお願いします。それで、ちょっとお伺いしたいのですけれども、リフルさんてご存じですか?」
「今話題になっている生徒か。名前は聞いたことがあるが、それだけだな」
「そうですか……えっと、失礼ですが、一昨日の午後は何をされていましたか」
「一昨日の午後? 確か、授業を受けた後妹の真珠とファーストフード店に寄っていたはずだ」
赫夜はそう言って脇をちらりと見る。そこではゆるやかなウェーブのかかった金髪の少女が、陰に隠れるようにして赫夜の服にしがみついていた。
「あ、そういえばお前もいたな」
今度はクラスメイトに視線を移す赫夜。「私はオマケか!」と突っ込みが入った。
「というわけだが、何か?」
「い、いえ、なんでもないです。ちょっと気になっただけですから。失礼しました!」
赫夜のまっすぐな瞳に、優希はミラベルを引きずるようにして退散する。
「おかしなやつだな」
赫夜は首をかしげて優希を見送った。
「はー、緊張した」
優希が廊下で呼吸を整える。彼女が落ち着いた頃を見計らってミラベルが言った。
「大丈夫ですか、優希様。あの方はリフルさんには関係がないようですわね」
「そうですね。私の勘違いだったみたいです。アレクさんの方に何か収穫があるのを期待しましょう」
優希はちょっぴりがっかりしながらも、大事にならなかったことにどこか安心して、自分の教室へと戻った。
優希がその名を挙げたアレクセイ・ヴァングライド(あれくせい・う゛ぁんぐらいど)は、彼女らとは別行動をとり図書室で調べ物をしている。
「なんとかしてリフルを助けてやりたいものだが……これといって有益な情報は載っていないな」
彼は机に広げた数々の本を眺めて浮かない顔をした。
「あのとき見たゲイルスリッターの感情のない目。あれがどうにもひっかかる。もう少し粘ってみるか」
アレクセイは再び立ち上がって本を物色し始める。だが、結局図書室では彼の求めるような本を見つけることはできなかった。
如月 玲奈(きさらぎ・れいな)とレーヴェ・アストレイ(れーう゛ぇ・あすとれい)も、事件のあった夜リフルが本を読んでいたという図書館に足を運んでいた。
「このところ、夜になると銀髪ショートカットで灰色の瞳をした眼鏡の女の子がここに来なかった? 色白で身長は150センチ前後、3サイズはバスト74、ウエスト53、ヒップ75ってとこなんだけど」
玲奈が司書に尋ねる。
「そんなピンポイントで3サイズを言わなくても……」
「そこはどうでもいいのよ。で、来たの? 来なかったの?」
「その子なら毎晩来てますよ。と言っても、来始めたのはつい最近ですけどね」
「そっか、リフルがここにいたっていうのは嘘じゃないんだ」
玲奈は少し安心した顔をして、話を続ける。
「それで、その子が何をしてたかって分かる?」
「何って、そりゃ本を読んでましたけど」
「そうじゃなくて、えーっと、途中で抜け出したりしてなかったかってこと」
「抜け出しはしませんけど、いつもあまり遅くならないうちに帰っていきましたね」
「それって何時くらい?」
「はっきりとした時間までは覚えていません」
いきなりやって来た少女に立て続けで質問され、司書もだんだん面倒くさそうな顔になっていく。そこで、レーヴェが玲奈に代わった。
「失礼、最後に一つ伺いたいのですが、その女性が読んでいた本がどれかは分かりますか」
「ええ、一番最近のでよければ」
「構いません。教えてください」
「ちょっと待ってくださいね」
司書は本棚まで行くと、一冊の本を取って帰ってくる。
「多分これですね。表紙が特徴的な本なので間違いないと思います」
「助かります。少し拝見しますね」
レーヴェは本を開き、博識を使いながら読み進めていく。
「師匠、何か分かった?」
「これは古代シャンバラ史に関する本ですね。かなり高度な内容だ。このような本をすらすらと読めるのであれば、リフルさんが高い知識をもっていることは間違いありません」
「他には?」
「さすがに本を見ただけは、これ以上のことは分かりません。レナ、そろそろ失礼しましょう。ありがとうございました」
レーヴェは本を返すと、玲奈を連れて図書館から出て行く。
「うーん、結局大したことは分からなかったわね。リフルが図書館にいたことが事実でも、それが何時から何時までか、図書館を出て行った後はどこに向かったかを突き止めなければ意味はないわ。ま、地道に調査を続けていきましょう」
玲奈は帰る道々、早くも次の作戦を考えていた。
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