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リアクション
第十二章 ――第三層――
・一時の休息
「…………」
魔導力連動システムに関する記述に目を通した関谷 未憂(せきや・みゆう)は、思い詰めるかのように目を伏せていた。その瞳には耐え難い憤りのようなものが窺える。
その様子を心配してか、リン・リーファ(りん・りーふぁ)はそっと未憂に寄り沿い、頭を撫でている。
「リン……」
「辛いかもしれないけど、あたしたちは知らなくちゃいけないのかもね。真実を」
善政だと伝えられているシャンバラ古王国ではあるが、研究に関する文献を見る限り、決して夢のような国であったわけではなさそうだ。読み進めれば古王国の本当の姿が見えてくるかもしれなかった。
「分かった事を他の人にも伝えたいけど、誰か無線は持ってないのかしら?」
彼女達と同じように解読を進めているアルメリア・アーミテージ(あるめりあ・あーみてーじ)が周囲を見渡す。合成魔獣に関する文献を最初に読み解いたのは未憂だったが、魔導力連動システムに関するものを見つけたのは彼女だった。
それらの情報を知らせるためにはこの遺跡内で唯一の連絡手段であるトランシーバーを使う必要があった。なければ直接ベースキャンプまで戻るしかない。
ちょうどその時、螺旋階段を下りてくる二人の人影があった。一人はポニーテールの少女で、もう一人は吸血鬼のようである。未憂達はフロアの隅の方に移動していたため、すぐに気付けたのである。しかも片方はショルダータイプのストラップでトランシーバーを提げていた。
「ねえ、さっそくで悪いんだけど無線貸してくれない?」
頼み込むアルメリア。
「あ、はい、どうぞ」
突然の申し出にやや戸惑ったものの、六本木 優希(ろっぽんぎ・ゆうき)は無線を手渡した。
「あと、よろしけばこちらも」
優希が、ここに来る前に第二層で受け取っておいたデータも提示した。そこには機構化兵や未憂の資料にはなかった合成魔獣に関するものも存在している。
「ここのマッピングデータもあったおかげで難なく来れたが、それにしてもこんな規模だとはな」
優希の契約者であるアレクセイ・ヴァングライド(あれくせい・う゛ぁんぐらいど)がフロアを眺めるようにして呟く。それから彼は無線での連絡内容に耳を傾けていた。
『こちら、図書館一階。魔導力連動システムと合成魔獣に関する記述あり。それから……』
アルメリアがここで分かった事を伝えていく。その内容は同様に無線を持っている人物がいる図書館の三階や、最上層の外周通路にも行き渡っていることだろう。
「こっちはこっちでいろいろ分かってきてるみたいだな。よし、俺様も調べるとするか」
アレクセイは近くの本棚に目星をつけて文献を探し始めた。
「無線、ありがとう。あと、これもう少し見せてもらっていい?」
「どうぞ。アレクさんのHCにもデータとして残っているので、大丈夫です」
アルメリアは書面にまとめられた遺跡の現在までの調査内容に目を通した。それらを未憂とリンにも見せに行く。
「これ、写真かなー? でも古代にあったか分からないから、絵?」
リンが興味津々といった様子で目を通す。それは隠し小部屋で発見されたスクラップブックのコピーだった。
「みゆう、これって合成魔獣じゃないかなー?」
そこにあったのは四足の獅子を思わせる獣の姿だった。
「うん、ちょっと待って」
未憂は最初に見つけた合成魔獣に関する文献を解読している。そこに特徴が記されているのか探しているようだった。
「あった。多分これよね? 『べヒーモス。姿形は獅子と相違ないが、素体となった種よりも凶暴性が増している。闇黒属性の魔力を吸収し糧にすることが判明』」
文面に書かれている特徴と一致していた。さらに魔法との融合によってなのか、魔力を自分の力として取り込む力を持っている事が判明する。
他にも情報があるはずだとして、彼女はさらに解読を進めていった。
「魔道書の光は消えたけれど、遺跡の姿がこのままだということは……これが本来の姿という事ですか? それとも、まだ何らかの術がかかったまま?」
ランツェレット・ハンマーシュミット(らんつぇれっと・はんまーしゅみっと)は守護者が現れた時のまま元の姿に戻らない遺跡に対し疑問を感じていた。五千年前当時のままの姿が再現されているのは、守護者の魔力によるものだと考えていたからである。
「どうしたの、姉ちゃん?」
パートナーの一人、ゆる族のミーレス・カッツェン(みーれす・かっつぇん)がランツェレットを見上げる。
「最初に入ってきた時と今、どっちが本当の姿なのかと思って……」
「考えてすぐに分かることじゃないよ。もしかしたら実は守護者が生きているのかもしれないし、何らかの力の源がどこかに隠されているのかもしれないし」
シャロット・マリス(しゃろっと・まりす)が静かに呟く。
「まだ戦いの疲れが抜けてないんじゃないかな? 姉さん、少し休憩しようよ」
彼自身もまだ完全に疲れが癒えていたわけではなかった。一階にいた者達の大半はそうであろう。
そこで、シャロットは手荷物の中から種もみ袋や蜂蜜を取り出した。
「本のある場所で火を使うのは気が引けるけど、料理をするくらいなら大丈夫かな」
準備をしつつ、調理をしていく。料理は彼の特技であった。
遠目ながら、その様子を捉えた者がいた。道明寺 玲(どうみょうじ・れい)である。
「やはりさっきの事もあって皆さんお疲れのようですな。それがしらも一息入れるとしますか」
彼女とパートナーの二人、イルマ・スターリング(いるま・すたーりんぐ)とレオポルディナ・フラウィウス(れおぽるでぃな・ふらうぃうす)はようやく一階に来たところであった。それまでは二階にて守護者の攻撃から身を守っており、ようやく解読に戻れたのだ。
「せやなあ。一息つきながら皆さんと情報交換しはりますか」
この遺跡内には膨大な資料があるため、おそらくそれぞれが持っている情報はバラバラだろう。無線を持っていれば、三階の解読結果は入ってきていたのだが、先程までは誰も持っていなかった。
再びシャロットの方一瞥し、玲達が歩み寄っていく。
「皆さん、解読お疲れ様です。さっきの戦いの疲れもあるでしょうし、ここは休憩しながら情報交換でもしませんか?」
と、玲がお茶を配っていく。
「皆さんどうぞ」
レオポルディナがそれを手伝っている。彼女達だけでなく、シャロットもまた料理を配っていく。
「せっかくなので、こちらもどうぞ。疲れたままでは頭も働かないからね」
一階の解読組は食事を取りながらフロアの一箇所に集い、それぞれの状況を話した。幸いトランシーバーが今はあるので、それらを上手くまとめつつ報告していった。
「それにしても、やはり一番謎なのはこの魔道書の存在ですね」
ランツェレットが首を傾げる。今彼女の手元にはそれぞれの魔道書が一冊ずつ手元にある。イルマが何冊か持っていたため、譲ってもらったのである。さらに守護者が使っていたものの成れの果ても。
「術式と理論はどれも同じどすなぁ。しかも使い捨てときてはる」
二人の魔法使いは魔道書について考えていた。表面の魔法陣に共通点こそ見い出せたものの、それ以外の役割については依然として判明しないままだ。それだけでなく、これだけの蔵書にも関わらず人の姿を取っているのがいる気配もない。
「一つは魔力供給、もう一つはその魔力を他者へ分け与えるもの。最後の一冊は中の魔力を放出する……『魔導力連動システム』と何か関係があるのでしょうか?」
あれほどの力を持っていた守護者が、わざわざ自分にとって不利になるものを放置していたとは考え難い。
「なぜわざわざ三つに分けはったんかなぁ? 術式だけなら一冊にまとめて記しておけば効率的な気がするんどすけどなぁ」
「ひょっとすると、身体強化や攻撃は本来の役割ではないのかもしれませんね。そのシステムの副産物、というよりも弊害でしょうか」
少しずつではあるが、この二人は核心へと近付いてた。そしてランツェレットはまだ目を通してなかった守護者の持っていた魔道書の残骸を手に取った。
「こんな状態になってしまっていますが、まだ読める部分がありますね」
書かれている内容に目を通していく。非常に高度な術式が組み込まれていた事が、一部の文面が欠けていても漠然と理解出来た。
分かったのはそれだけではない。
「これは……」
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