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謎の古代遺跡と封印されしもの(第3回/全3回)

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謎の古代遺跡と封印されしもの(第3回/全3回)

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間章二 ――第二層――


「なあ、ピエロみたいな格好のヤツ見なかったか?」
 第二層入口にある情報拠点にて、高崎 悠司(たかさき・ゆうじ)が尋ねた。
「その方でしたら、おそらく上層へ向かわれたとはずです」
 ロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)がそれに答える。彼女はしばらく前、ゴーレムと戦っている時にモンスターを掻き分けて走りゆくその人物の姿を見ていたのである。
「ありがとよ。それと、現状はどうなっている?」
 さらに質問を続ける。
「こちらに入った情報では、図書館フロアは沈静化。この階層も大丈夫ですが、上の階には機械仕掛けのガーディアンがいるとの事です。地下にも行けるようですが、そちらの状況は分かりません」
 ロザリンドは説明しつつ、パソコンのキーを叩き、まとめた情報をプリントアウトする。
「その他、この遺跡の内部や発見された資料はこのような感じになっています」
 それを悠司に手渡す。続けてもう二組印刷した。
「なるほどこの地図があれば……急ぐぞ、ユリヤ!」
 拠点で情報を得た樋口 戒(ひぐち・かい)ユリヤ・グリシン(ゆりや・ぐりしん)は地図を確認しながら通路を駆け抜けていった。
「くそ、拠点で情報集まるのを待ってたら出遅れちまったぜ。だけどこういう遺跡は奥に行けば何か面白いものがありそうだ」
 彼はこの遺跡に興味津々のようだ。さらに地下に至っては存在が確認されいているだけで情報が入ってきていない。もっとも、地下はトランシーバーの電波すら届かないのだが。
「それにもし戦闘にでもなってたら、美女を助け出してお近づきに……」
「妙に張り切ってると思ったら……やっぱりろくでもないこと考えてたみたいね。いつも通り1発やっとく?」
「いやいや、冗談だから! 光条兵器をしまってくれ!」
 実際、最深部へ向かう道中に美女がいるかは分からないのだが、いい所を見せたいという動機が彼を突き動かしているのは抗えない事実のようだった。
「機械仕掛けのガーディアンか。上も大変な事になってるかもしれないな」
 図書館フロアから移動いしてきた葉月 ショウ(はづき・しょう)とパートナーの吹雪 小夜(ふぶき・さよ)もまた、ここで情報を受け取った。
「行くぞ、小夜」
 二人は戒達とは反対、最上層のある階段方面へと向かっていった。
「さて、俺も上へ行くとするか」
 悠司もまた最上層へ向かおうとした。が、一度立ち止まる。
「そうだ、そこのトランシーバー一つ貸してくれねーか。今もいろいろ新しい事が分かってきてるようだし、出来る限りすぐ分かるようにしておきたい。気になる事もあるしな」
「リヴァルトの事かい?」
 口を挟んできたのは司城 征(しじょう せい)だ。少し前になるが、この二人はリヴァルトについての会話を交わしていた。
「まーな。この資料じゃ、さっき倒された守護者ってのは桁外れの魔力を持った化物じゃねーか。そいつが記憶消去に失敗するなんてヘマするか?」
「一理あるね。でも魔法というのは絶対じゃない。現にそれだけの力を持っているにも関わらず、調査団は勝利を収めているじゃないか」
 司城の言う事ももっともだった。
「確かに、な。ただ、何かこの遺跡には違和感がある。やっぱり自分で確かめる必要があるな」
 悠司は再び資料に目を落としたかと思うと、上層階へと歩いていった。

「さて、随分いろいろ分かってきたみたいだね」
 司城がパソコンの画面を見遣る。手元にはトランシーバーと一枚の紙が握られている。
「上層の機械仕掛けのガーディアンとは、これの事でしょうか?」
 ロザリンドが映し出された画像を指し示す。
「『機甲化兵計画』とやらの成果だろうね。多分動力源は機晶石だよ。ただ、普通に製造したら暴走する確率が上がる。そこで機晶石の改良と、感情を一切排除したプログラムを組み込んだ。完全に戦闘に特化させるためにね。完全なるロボット兵というわけだ」
 司城が推測する。
「しかし、図書館三階からの報告では、実戦投入されることなく廃棄されたとなっています」
「だからこそ制作者は自分の成果物を守るためにここに配備した、のかもね。単に廃棄するには惜しいほどの力を持っていたため、手放せなかったんだろうさ。もしくは十数体なんて記述が誤りで、実際は試作品がそれだけの数、他に量産型も造っていたから処分出来なかった、とかね。廃棄なんて簡単に言うけど、それにしたってコストはかかるものだよ」
 中性的な風貌の教師は淡々と説明する。その口調は軽い。
「確かにそうですね。あとは廃棄するにしても公に出来ない事情があったために隠す必要があった、とも考えられますね。『中央の方針により』ともあるようですし、古王国は戦争のための兵器開発には否定的だったと思います。ここが女王の管理下でも、私設でも、このようなものがあると知られないよう秘密裏に処理するのは難しかったのでしょうね」
 ロザリンドが付け加える。善政下では、例え国の方針にそぐわなくても、それらが存在していた事実だけで不信感を与えかねないのだ。
「それはどうだろうね?」
 司城が異を唱える。
「例えば女王器。あれも立派な兵器だ。星剣を操る十二星華。彼女達は見方によっては大量破壊兵器になる。歴史とは都合のいいことしか後世には語られないものさ」
「そうなると、ここは国の直接の所属ではないにしても、援助は受けていた施設なのでしょうか? 女王の絶対王政とはいえ、きっとその下には彼女のやり方に異を唱える者はいたはずです。その人が女王ほどではなくても高い地位を確立していたら……」
 そこまで口に出した所で、一度思考が止まった。もし考え通りだったなら、古王国の前提が揺るぐ事になりかねない。
「その考えはなかなか的を射ているよ。あるいはその人物が表と裏の顔を使い分け、上手く立ち回っていたとか。資金繰りとかはそれでどうにでもなるものだよ。そう考えていくと、この施設は……ん?」
 と、司城が言いかけたところで新たなる来訪者が現れた。その小柄な影は怯えるかのような、それでいて慎重な足取りで壁沿いを歩いている。
「ここ、どこ? あれ、誰かいる?」
 セレンス・ウェスト(せれんす・うぇすと)であった。最初に入って来た時は遺跡内にテントはなかったために、驚いてもいるようだ。
「情報を受け取りに……という訳ではなさそうですね。どうしたのですか?」
「その、図書館でいきなり戦いが……気付いたら道に迷って、ウッドともはぐれて」
 どうやらセレンスは守護者戦の最中、パートナーとはぐれてしまったらしい。砂が服についている事から、ゴーレムにも襲われたようだ。
「なるほど。それは大変ですね。でも図書館ではぐれたのなら……」
 ロザリンドはトランシーバーに手を伸ばす。
「多分もう一人の方もあなたを探しているでしょう。他の階層の方に連絡してみます」
 送信ボタンを押し、セレンスがパートナーとはぐれているという事を伝える。おそらく彼女のパートナーも探しているだろうから、何かしら動きがあるはずだ。
「デパートでの保護者の呼び出しみたいだね。とりあえず、ここは安全だから少し休むといいよ」
 司城が冗談交じりに、セレンスに言い聞かせた。


            ***

 その頃、セレンスのパートナー、ウッド・ストーク(うっど・すとーく)は図書館の三階にいた。
(兵器開発の施設だったか……古代の市民図書館だと思いきやこんなつまんねー場所だったとはな。くそ、胸糞悪い)
 彼は本棚に向かって槍を払いつける。
(……直ぐにでもぶっ壊したい所だが、そんな事しても過去起きた事は無くなりはしないな。それにこんなんでも歴史の一部だ、歴史は何も綺麗なことばかり教えてくれるわけじゃない)
 落ち着きを取り戻し、深呼吸をする。
(さて、さっさとセレンを探すか。ほんと、どこ行ったんだ?)