蒼空学園へ

イルミンスール魔法学校

校長室

シャンバラ教導団へ

【十二の星の華】湯けむり! 桜! 宴会芸!

リアクション公開中!

【十二の星の華】湯けむり! 桜! 宴会芸!

リアクション


第3章



 廊下が終わり、突き当たりの『湯』と書かれた暖簾をくぐる。
 脱衣所が完備されている。
 ただ、男女で分けられているわけではなく、みんな一緒くただ。
 脱衣所を奥へと進むと竹で出来た引き戸があった。
 その引き戸から温泉へと出ると、そこには広大な荒れ地と真ん中にぽつりと1人がやっと入れる温泉があった。
 旅館の側には巨大なしだれ桜が1本あり、風に揺れるとその花びらを舞わせた。
 広大な荒れ地の周りには旅館の側の桜には及ばないものの綺麗なしだれ桜が囲っている。
「……だいぶ昔と違うよ!?」
 ホイップが全く違う様相に驚く。
「言ったであろう? 埋まってしまったんだ。久しく誰も訪れてくれなくて、ふて寝をしている間に……な」
(どんだけ寝てたんだよ! しかもふて寝!)
 鄙の言葉に皆、心の中で突っ込みを入れた。
「さて、ここにはスコップもある。勝手に使って構わない。さあ、温泉に入る為に頑張るが良い」
 鄙はそう言うと、自分はしだれ桜の下に正座をして、目を瞑ってしまった。
(まだ寝るんかい!)
 突っ込みどころ満載の奴に、皆の心が1つになった。
「じゃ、じゃあ皆でがんばろうね!!」
 ホイップはスコップを持ち、そう言ったのだった。
 こうして素敵な(?)温泉掘りが始まった。

■□■□■□■□■

 スコップを持って黙々と1人で掘り続けているのはリュシエンヌだ。
「イライラするわね……何で私がこんな事を……」
 ぶつぶつ言いながらも自分の為なので、せっせと作業をしている。
「そう言うな、温泉の為だ」
 その隣では瓜生 コウ(うりゅう・こう)がスコップでえっちらおっちら掘り進めている。
 持ってきていた手ぬぐい、桶、肌に良いハーブ石鹸などの入浴セットは脱衣所に置いて来たようだ。
 ホイップも一緒にスコップで掘っていると、ソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)雪国 ベア(ゆきぐに・べあ)『空中庭園』 ソラ(くうちゅうていえん・そら)を連れて側へと寄ってきた。
「ホイップさん! 今日はソラも一緒に来たんです。ちょっと変わってるけど、仲良くしてもらえたら嬉しいですっ!」
「はじめまして! よろしくね!」
 手を止めてソアの方へと向くとホイップは手を差し出した。
「ふ〜ん……あなたがホイップね」
 その手を取りながら、ソラはじっとホイップを見る。
 ある一点でその視線が止まり、さらにじっと見た。
「胸がデカい……あなたは敵ね!」
 ビシっと指を指してホイップを敵宣言してしまった。
「え……えぇ!?」
 胸を押さえて、後ずさる。
「あなたも敵!」
 側にいたコウにもその手は伸びたようだ。
「胸が大きいと言われて悪い気はしないな」
 掘っている手を休めず、コウは冷静に返した。
「ソラ! 失礼ですっ!」
「おりゃーっ! ……って、ご主人たち掘らないのか?」
 気合いを入れて掘っていたベアに突っ込まれ、皆は温泉掘りへと戻っていこうとした。
「ふっふっふっふ……」
 そこへ、すでにタオル一丁になったにゃん丸が腕組みをして不気味な笑顔を湛えながらやってきた。
「ってか、気持ち悪い表情してないでお前も掘れっ!」
 葉月 ショウ(はづき・しょう)がそれにツッコミを入れた。
「力仕事は俺達に任せろ! 君達女性はそこでゆっくりしててよ」
「でも、皆でやろうよ」
 ホイップはそう言ったが、スコップをやんわり取り上げられてしまった。
「まだですの〜? お早くお願いしますわ〜」
「ねっ? あっちでゆっくりしてて良いから」
 カオルが指した先ではロザリィヌがしだれ桜の下で優雅に紅茶を飲みながら催促していた。
「女性は紅茶を飲んで、男性が汗水垂らして掘るのを待っていれば良いんですわ〜!」
 そう言うと、ロザリィヌはホイップ達女性を連れて無理矢理紅茶へと誘ったのだった。
「スキルとか使って温泉掘ろうと思ってたけど……そう言う事なら詩穂が紅茶を淹れますよ〜」
 騎沙良 詩穂(きさら・しほ)はすぐに給仕の用意を始めた。
「この美しい桜を見ながら紅茶なんて、素敵ですわ」
 セルフィーナ・クロスフィールド(せるふぃーな・くろすふぃーるど)はすでにロザリィヌと一緒に紅茶を飲んでいたようだ。
「君も良いよ。ここはやるから」
「えっ……でも……」
 カオルに声を掛けられた神楽坂 有栖(かぐらざか・ありす)はどう見ても女の子だが、実は男の子なのでちょっと困っていた。
「良いから、良いから」
「じゃあ、お願いします」
 有栖はカオルに温泉掘りを任せて、自分は調理場へと向かって行った。
「折角だし、私も何か作ってみなさんに食べてもらいましょう」
 足取り軽く、旅館の中へと入って行った。
 そんなやりとりも目に入らず、よろよろと疲れているのは伏見 明子(ふしみ・めいこ)だ。
「ふ、ふふ……これさえ終われば促成栽培で鍛えすぎて壮絶に疲れた体を癒すことが出来るのね。ホイップ主催とは知らなかったけれど、嬉しいわ……」
 よろりよろり、よろけつつスコップを地面に入れていく。
「そんなんじゃ、温泉入る前に死んじゃうよ! 一緒にあっちでお茶してよう? ここはあっちのカオルやにゃん丸達に任せてさ!」
「へっ?」
 見兼ねて明子の手を取り、無理矢理引っ張ったのはカレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)だ。
「温泉を見る前に倒れる」
 ジュレール・リーヴェンディ(じゅれーる・りーべんでぃ)も明子の背中を押す。
 明子はしだれ桜の下まで案内され、座らされた。
 詩穂が淹れたての紅茶を手渡すと、ほっとしたような表情でそれを一口飲む。
「美味しいですわ」
「アッサムですよ〜。ちゃんとした茶葉使ってますから!」
「どういう意味ですの?」
 詩穂の言葉にロザリィヌが食いついた。
「ロザリィヌちゃんたら、出がらしのをいつまでも使ってるんですもん」
「あれはあれで味があるのですわ」
「じゃあ、さっきのロザリィヌちゃんが持ってた茶葉のと交換します? そのお茶」
「ですが! いただけるものは頂いておきますわ!」
 自分の持っているカップを詩穂には渡さず、ぐいっと飲み干したのだった。
「なんだか楽しそう〜」
 入っていくタイミングを逸してしまった鳳明はパイルバンカーを使って、温泉掘りを続けていた。
「……なんかコレをこういう使い方してると、教導団の罰補習の道路整備を思い出しちゃうなぁ」
 しみじみ呟いていた。
「ここは任せて行って来ると良い。こんな肉体労働(のぞきの為なら)屁でもないからねぇ」
 にゃん丸が鳳明に声を掛けると目を輝かせて、女性陣お茶をするの会に入って行ったのだった。


「椿、掘って掘って掘って掘りまくりなさい! いつも部活に使ってる分、今日は働いてもらいますわ」
 にゃん丸とカオルが掘っている側ではイリス・カンター(いりす・かんたー)が言葉の鞭を浴びせながら椿 薫(つばき・かおる)にスコップで掘らせていた。
 イリスの背中には『温泉同好会【湯の花】』のノボリがはためいている。
 いつの間にか総司も加わっている。
 どうやら真面目に掘っているようだ。
 少し深く穴が掘れるとカツンとスコップが固いものに当たる。
 どこも似たような深さで固い岩に当たるようだ。
 どうやら元々きちんと岩が敷き詰められていたようだ。
 土が簡単に掘れるのもその辺に理由があるのかもしれない。
 掘れたら真ん中の湧いてる温泉と繋げれば、湯が張れるだろう。
「おバカなのぞき部なんかに体力を使うよりよっぽど有意義ですわ」
「にんにん……」
 力なく項垂れながらも、掘る力だけは緩めなかった。
 3人で掘っているのでなかなかの大きさになってきた。
 その掘っている穴を外側から広げているのは小次郎だ。
「力仕事は得意だからな」
 そう言うと、スコップに爆炎波を乗せて、凄い勢いで掘っていく。
「この岩は……あとで温泉の飾りに使えそうだな」
 掘っていて、出てきた小さめの岩をどかして、邪魔にならないところへと移動させておく。
 菫はそれを見物しながら桜の下でお茶を楽しんでいた。


「おんせん、おんせ〜ん。よ〜し、みんなの分まで頑張っちゃうぞ〜!」
 エト・セトラ(えと・せとら)は歌いながらスコップを使っていく。
「うぅ〜……穴掘りは疲れるですよぉ」
 アポクリファ・ヴェンディダード(あぽくりふぁ・う゛ぇんでぃだーど)はスコップを投げだした。
「なんで? 楽しいよ!」
 エトは不思議そうな顔でアポクリファを見た。
「エトさんは楽しそうですぅ……」
「うん! 体動かすの大好き!」
 キラッキラした笑顔でエトは言った。
「アポクリファもあっちで給仕に徹してくるですぅ」
「ええ〜!? 1人じゃさみしいよ〜!」
 そんな2人のパートナー夜薙 綾香(やなぎ・あやか)はすでにしだれ桜の下にいて、みんなと談笑しているのだった。


「こんなに掘りやすいとはびっくりですね」
 さくさく掘り進めていくのはウィングだ。
「掘りにくいようなら色々と策はあったんですが……これなら必要ないですね」
「俺も破壊工作とかしようと思ってたぜ。……あっちでは爆炎波を使ってやっているみたいだが」
 レイディスが小次郎を見てそう言った。
「それより男女はやっぱり別の方が良いよな」
「そうですね……でも、もうこんなに大きく掘ってしまったんですし、水着で入ったりするみたいですから大丈夫ではないですか?」
「う〜ん……」
 レイディスは首を捻っていたが、とりあえず掘るという結論に達したらしい。
(気が紛れるな)
 そんな事を考えながら2人の側で黙々と掘り続けているのはケイだ。
「……」
「……」
 そんな様子をウィングとレイディスが見て、自分も負けてられないと気合いを入れて掘り出したのだった。
 カナタはホイップと一緒に緑茶をすすりだしたようだ。