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【海を支配する水竜王】捕らわれた水竜の居場所を調べよ

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【海を支配する水竜王】捕らわれた水竜の居場所を調べよ

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第8章 悲しみの底

「そんな調子じゃろくに動けやしないでしょうに・・・これ使いなさい」
 深手を負い捕まってた仲間に、島村 幸(しまむら・さち)がSPルージュを手渡す。
「男の私がルージュ、だと・・・っ!」
 天 黒龍(てぃえん・へいろん)は首を振り拒否する。
「今そんなこと言っている場合ではありませんよ」
「・・・いや、今は手段を選んでいる場合では・・・・・・」
 ずいっと差し出されたルージュを見て躊躇う。
「・・・・・・貸せ」
 何の躊躇いもなくルージュを使った紫煙 葛葉(しえん・くずは)の唇は真っ赤に染まった。
「し・・・仕方がない・・・・・・この事態だからな・・・」
 それを見た黒龍は、ますます使いたくなくなったが、途中で倒れては仲間に迷惑がかかると思い、ルージュを使うことにした。
「ん?・・・もうないじゃないか!」
「・・・黒龍、・・・すまない」
 1本しかないルージュを、葛葉が使いきってしまったのだ。
「ゴースト兵が来ましたね。さて、作戦開始と致しましょう。蛇目丸、遠慮はいりません。思いっきり吠え立てて、そこの奴らを上の階まで追い立てなさい」
 幸は柱の陰に隠れながら、忍犬をゴースト兵の方へ走らせ、その身を蝕む妄執で巨大キメラに見せようとする。
「何だこの犬、どっから入ってきたんだ?」
 キメラが怖いと思わない兵に対してまったく効かず、投影することが出来なかった。
「失敗してしまいましたか・・・」
 術がまったく効かなかったことに、幸はしょんぼりと落ち込んだ。
「てことは・・・ゴースト兵になりすますことも無理なんですね」
 遠野 歌菜(とおの・かな)は悲しそうに幸の方を向く。
「そうみたいです・・・。相手が怖いと思っていないのですから、効果として現れません」
「うぅっ・・・幸姐さん・・・・・・」
「もっと術のことを理解しておけばよかったです」
 2人は悲しみのどん底に落ちた。
「それなら保管庫の方へ早く行きましょう。私たちの姿も相手に見えてしまうわけですから」
 ガートナ・トライストル(がーとな・とらいすとる)は幸の手を引き、仲間たちと保管庫へ走る。
「ありましたな」
 棚の中から仲間が奪われた武器を取る。
「これですかな?」
「あぁ、・・・これだ」
 黒龍はガートナからバスタードソードを受け取った。
「えぇっと・・・この奥にメイスがありますね」
 棚の奥からブレスドメイスを取ったガートナは、葛葉に手渡す。
 倉庫の中に紛れていた自分のメモ帳を取り、葛葉は“ありがとう”と書いてガートナに見せた。
「私のは・・・あった!カガチさんと真さんのはこれですね?」
 歌菜は試作型星槍を探すと、仲間の分の武器を探して幸に見せて確認する。
「そうですね。たしかそれです」
「では私が持っていましょう」
 ガートナは彼らの分の武器を持っていこうと、歌菜からアーミーショットガンと鉄甲を受け取る。
「皆、急いで!」
 保管庫の外を見張っている佐々良 縁(ささら・よすが)が幸たちを呼ぶ。
「早くっ、ゴースト兵が来ちゃうよ!」
 佐々良 皐月(ささら・さつき)も急ぐように言う。
「んー・・・手持ちできるようにするにはこうするしかないかねぇ?」
 持ち運びしやすいように、縁はガートナから武器を受け取り、自分の着ているコートを脱ぎ風呂敷がわりに包む。
「あぁ〜、脱いだら寒い」
 縁はあまりの寒さにぷるぷると震える。
「・・・では、・・・・・・これも」
 黒龍がワルプルギスの書とカタールを、風呂敷がわりのコートの中へ突っ込む。
「重っ」
 ふらふらとよろけ、縁は倒れそうになる。
「あ、そだ。追いつかれるといけないからぁ・・・ちょいちょいっとぉ」
 まきびし代わりに蜂の毒針を床へ撒き、急ぎ階段を降りる。
 数分後、見回りに来た兵が保管庫へやってきた。
「保管庫が開いてるぞ!」
 武器を取り戻されたことを知り、急いで牢屋へ向かおうとする。
「―・・・何だこれは。トラップを仕掛けたつもりか?」
 トラッパーによる技で仕掛けられている蜂の毒針を見下ろす。
 1本だけしかないトラップの場所を避け、地下4階へ向かった。



「確かこっちの道だったはず」
 地下3階にいる風森 巽(かぜもり・たつみ)は記憶をたどりながら、地下牢へ向かう。
「向こうだよ」
 ティア・ユースティ(てぃあ・ゆーすてぃ)に袖を掴まれる。
「あっ、そうだった」
「牢はこっちの方だね」
「これは・・・・・・愛沢の歌声?」
 効き慣れた声をたどって、巽たちは牢屋へ向かう。
 見張りがいるか物陰で様子を見ると、ゴースト兵がミサたちに歌を止めさせようと怒鳴っている。
 気を引き付けてもらっている間に天井を這い、盛夏の骨気の炎の闘気を込めた拳で、兵に殴りかかる。
 ポケットを漁って鍵を奪う。
「愛沢、怪我は無い?」
「風森・・・!危険だったでしょ。ごめんね・・・でもありがとう」
「いや、愛沢たちが注意を引いてくれてたからだよ」
 ミサの拘束を解いてやり助け起こす。
 彼と手が触れてしまい、彼女は顔を赤くする。
「このガキ、ぶん殴ってやる・・・」
 起き上がった兵が、巽に銃口を向ける。
「拒否すれば殺す。抵抗すれば殺す。開錠以外の行動をすれば殺す。何度も死にたくなければ、素直に従え」
 リュース・ティアーレ(りゅーす・てぃあーれ)が看守の背後から首筋に剣をつきつける。
「やれるもんならやってろ、ガキ!」
 トリガーを引き銃弾を放つ。
 ブシュゥウウッ。
 真っ赤な血が周囲に飛び散る。
 弾丸がリュースの首元を掠り、兵の脳天から血が噴出す。
「鍵はどこだ」
 牢屋を開けようと兵の服を漁る。
「もう見つけたぞ鍵」
 巽から鍵を受け取り、カガチと真が捕らわれている鍵を開ける。
「あとここだけですか」
 グレンたちが捕らわれている牢を開ける。
「・・・助かった・・・感謝する」
 リュースに礼を言う。
「怪我もほとんどないようです」
「お互い、無事を祈る・・・」
 武器を回収するために、地下3階へ行こうとグレンたちは向かった。
「よかった、無事みたいですね」
 捕縛された仲間を助けようと、幸たちが牢へ駆け込む。
「はぁ・・・やっと出られた」
 ようやく拘束を解かれたカガチはぐーっと背伸びする。
「あぁ〜重かった」
 牢から出た仲間たちは、縁から武器を受け取る。
「凍傷になりかけているじゃないか。いったい何をしたらこんな状態になるんだ?」
 リュースは真を睨みながらヒールをかける。
「―・・・おい小僧。聞きたがっていたことを教えてやろう」
 床に倒れている兵が、牢を出ようとするカガチを呼び止めた。
「魔力を集めている・・・場所は・・・・・・資料室よりも・・・上だ」
「何で今頃そんなことを教えるんだい?」
「さぁ・・・な。どのみち・・・お前らじゃ、今・・・から・・・行っても間に合わない・・・」
「―・・・」
「悔しさと絶望・・・に沈む・・・のは・・・・・・もう、すぐ・・・」
 最後まで言い終わる前に首を斬りつけられ、リュースに壁際へ蹴り飛ばされる。
「まだ喋る力が残っていたか」
 冷酷に言い放ち、剣を鞘に納める。



 幸たちは地下3階へ駆け上がり、休憩出来そうな場所を探す。
「どこかで休憩しましょうか・・・」
 ぐったりとしている真を見て、休めそうなところがないか歩く。
「沢山ドアがあるね、よすが」
「ちょ、ちょっと!やたら開けちゃだめだよ」
 休めそうなところを探そうと、適当にドアを開けようとする皐月を、縁が慌てて止める。
「ここにいたんだね」
 響が手を振りながらやってくる。
 Gの煮汁を入れた瓶を、真に手渡す。
「飲むわけ?これ・・・」
「大丈夫だよ、薬だから」
「何の煮汁・・・?」
「Gだよ」
 飲むのを躊躇う真に、響は笑顔で言う。
「さっさと飲め」
 リュースが無理やり真に飲ませている傍ら、ミサは巽の方をじーっと見ている。
「何?愛沢」
「あの・・・助けに来てくれて、本当にありがとう・・・」
「仲間を助けるのは当然のことだからな」
 礼を言うミサに巽が笑いかける。
 彼の笑顔に直視出来ない彼女は顔を俯かせた。
「雪・・・?ここ・・・建物内だよね?」
 ミサの手の平に雪が落ちる。
「あっ!」
 武器を取り戻そうと保管庫へ向かっているナタクが、向かい側の通路を通りがかり小さく声をあげる。
 彼の視線の先には冷たく笑う知った顔の女がいる。
 女は巽とティアを見てクスリと笑い、寒氷陣の中へ閉じ込めた。
「―・・・巽・・・・・・、巽ーっ!」
 ミサの声が悲しく地下3階のフロア内に響き渡る。



「ここは・・・?愛沢は・・・」
 寒氷陣の中へ閉じ込められた巽はキョロキョロと見回すが、隣を歩いていたはずのミサの姿はどこにもない。
「寒っ、どこ・・・ここ」
 ティアは寒そうに震え、フェイスフルメイスを握り締める。
「董天君か?」
 槍を握り冷たく笑う女を見つけた巽が小声で言う。
「どうせ注意を引付ける役だったからな」
「道産子流寒さ対策ー!」
 氷術でかまくらを作ったティアは、その中へ入り温まる。
「へへーん、ここに足止めできれば、それだけ他の人が安全に進めるもんねーだ」
 闘いは巽に任せようとじっと屈む。
 巽は盛夏の骨気で手足の闘気を熱に変換しようとするが、猛吹雪で消されてしまい、溶けた雪が彼の身体に貼りつく。
「冷たぁああっ!?くっ、こうなったら・・・」
 少しでも寒さを和らげようと、心頭滅却で精神を集中させる。
 目を瞑り殺気看破で術者の場所を探る。
「そこかーっ!」
 大よその相手の位置を探知し、遠当てをくらわす。
 ドスゥンッと轟音が轟く。
「目を開けておいたほうがよかったもなぁ?」
 そっと目を開けると相手は掠り傷1つ負っていない。
「だいたいの位置は分かっても、確実に分からなきゃ意味がねぇぜ!」
「んなっ、そんな・・・」
 巽の放った遠当てで、雪崩が起こる。
「自分の技の影響で負けるなんて笑えるなぁあっ。あーっははは!!」
「ぐぁああぁあっ」
 雪崩に飲まれた巽は雪の中へ埋もれてしまう。
「なっ、何?」
 迫り来る轟音を聞いたティアが、かまくらの外を覗く。
「え・・・えぇえー!?きゃぁああーっ!!」
 かまくらの中にいる彼女は、そのまま生き埋めになってしまった。
「フンッ、そんなところにいるなんざ、どうぞ埋めてくだぁあ〜いって言ってるようなもんだぜ」
 董天君は2人をバカにしたように大笑いする。
 術を解くとゴースト兵に命じ、巽とティアを簀巻きにさせて牢へ放り投げさせた。