校長室
【十二の星の華】籠の中での狂歌演舞
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2つの影が、動き始めた。 パッフェルの居る地下演舞場へ、鬼崎 朔(きざき・さく)とアンドラス・アルス・ゴエティア(あんどらす・あるすごえてぃあ)が忍び込んでいた。 外から覗いてみれば、いつも張り付いている邪魔者の姿が見えなかった、パッフェルだけだったのだ。 一切に動かないパッフェルに、2人は足音を殺して歩み寄る。 朔が、さざれ石の短刀を振り上げた時、天井から狙撃された。 反射のようにアンドラスが火術を放ったが、これもソニアのレールガンに撃ち抜かれてしまった。 「…動くな」 朔の背に銃口が突きつけられている。突きつけているのはグレンであった。 「天井に隠れてるなんて、どういうつもり?」 「… お前こそ… 何のつもりだ?」 「何のつもり? 殺すつもりさ、石化してやろうと思ってね。お前ら、なぜパッフェルを生かしている、こいつ等は存在そのものが危険なんだ、石化して、それから取り引きの材料にでも何にでもすれば良い……うっっ」 星輝銃で首を打って気絶させた。 「お前も同じ考えか?」 グレンがアンドラスに銃を向ける。 「…強大な力を持っているから排除するなんて… 獣の世界でももう少しマシだろう…」 「さぁ、それはどうかな?」 光術がグレンを貫き、星輝銃が弾かれた。 「グレンっ!!」 閉じていた瞳を開けて見れば、グレンに駆け寄るソニアにも雷術が放たれた所であった。 「… ソニア…」 「大丈夫…… 大丈夫だから」 「ガードの実力がこの程度とは。パッフェル嬢、ずいぶんと安く見られてるんじゃないのか?」 「フラッドボルグ……」 「こんなに簡単に会えるとは。大量の使い魔を使ったり、程良い殺気を放っていたコイツ等を泳がせてみたりしたんだが…… やっぱり俺が動くのが一番早いようだ」 フラッドボルグが朔の頭を踏みつけた。 「お互い、力はそうでも、性格が裏で動くのを良しとしねぇんだよな」 「…止せ」 「ん?」 グレンが火術を、ソニアがレールガンを、アンドラスが氷術を放つべく構えを見せた。 「おぃおぃ、連れがキレるのは分かるが、貴様等は関係ないだろう?」 「…黙れ!」 パッフェルが叫ぶより先にアンドラスが動いていた。 駆けながらアンドラスは氷術でフラッドボルグの足元を凍らせた。瞬間にソニアがレールガンを放とうと−−− レールガンの銃口に極小のカラスが羽を広げており、背中に積んだ爆弾が爆発した。 ……………… ソ…… ニ……ア…… 星輝銃を拾ったグレンが構えた時、巨大な雷術がアンドラスに墜ちていた。 「よそ見は、いかんなぁ」 頭を鷲掴みにされて、グレンはそのまま地に叩きつけられた。 ……………… グ…… レ…ン…? 「離れなさい!」 ソニアがレールガンを構えている。立っているのが、やっとなはずに瞳だけは大きく開いていた。 「爆薬が弱かったか?」 ………… ダメ………… ソイツには敵わない…… 「離れなさい!」 ソニアがレールガンを放つ刹那、星輝銃が連射を成した。 フラッドボルグがグレンに足を降り下ろすと、見開かれた瞳と共にレールガンが放たれた。 雷が轟き、光りが拡散した、そんな中に。 ソニアに向けられたフラッドボルグの指先に、ランチャーの銃口が突きつけられていた。 「パッ…フェル……さん?」 「… パッフェル… なぜ…」 「さっきのか……」 パッフェルを逃がす為に、自由にする為に両腕の拘束具を撃ち砕いた。それなのに。 「何をしている?」 「お前こそ…… これ以上は、許さない!」 笑い声が男から起こった。低い低い笑い声だ。 「それは我らへの、いや、ティセラへの裏切りだぞ? 分かっているのか?」 「…… 分からない…… でも! ティセラがどう思おうと、私は今、ソニアを助ける!」 直径5メートル近い波動砲が放たれた! フラッドボルグは瞬時に雷術で威力を弱めていた。右腕がボロボロになってはいたが、吹き飛ばされても、地に立っていた。 「パッフェル…… 貴様!!」 フラッドボルグの左腕に雷エネルギーが溜まってゆく。パッフェルも迎え撃つべくランチャーを構えた、その時−−− 「そこまでにしとけよ! オジサン!」 声とは逆の方向からリターニングダガーが飛び来て、更に上空からは葉月 フェル(はづき・ふぇる)が木刀を振りかぶっていた。 フラッドボルグは迷いなく左腕をフェルに向けたが、巨大な雷術が放たれるより前に、葉月 ショウ(はづき・しょう)がフェルに飛びついて、共に避けた。リターニングダガーがフラッドボルグの脚を斬りつけたのを見て、ショウとフェルはガッツポーズをした。 「どうだ! でっかい雷術、一発無駄にしてやったぜ」 「くっ、また貴様か……」 「おっ、覚えてくれたんだな、光栄だぜ」 「ふっ、汚らしいゴミほど印象に残るからな」 「くっくっくっくっくっ」 高い、高い笑い声が室内に響いた。 「そのゴミにしてやられたのは、どこの汚物かな?」 「ノーム……」 教諭の姿と共に、多くの生徒たちが室内に姿を見せた。それはすぐに男を取り囲んでいた。 「あれあれ? パッフェルにも見切られたのかぃ? 相変わらずモテないねぇ、くっくっくっ」 「ふんっ、珍獣にばかり好かれる貴様よりはマシだ」 「おや? アリシア、彼には君が珍獣に見えるようだよ?」 「……………… それは…… どの口が言っているのでしょう………」 アリシアが肩を鳴らすのを見ても教諭は変わらずに。パッフェルの横に立ち並んだ。 「今から、あの男を潰すけど…… 構わないかぃ?」 「言われなくても…… 協力するわよ」 「くくくっ、頼もしいねぇ」 相手は一人。負傷している上に、こちらにはパッフェルが居る。逃げ場は無い。 「相変わらず詰めが甘いな、ノームよ」 「何っ?」 演舞場の壁をぶち破って、漆黒のグリフォンが突っ込んできた。スピードを落とすことなく向きを変えると、そこにフラッドボルグが飛び乗った。 「女王像の胸部は頂いてゆく」 フラッドボルグは、脚でグリフォンの腹部を蹴り示した。 「くっ!」 パッフェルは波動砲を放ったが、グリフォンがこれを避けては飛び去ってしまった。あっという間の出来事であったが、フラッドボルグ撃退の喜びに、場はすぐに活気を取り戻した。 「パッフェルさんっ!」 ソニアがパッフェルに抱きついた。 「ありがとうございます…… ありがとう……」 抱き締められて、再びにティセラの顔が浮かんだが、今の温もりはソニアの温もりだ。 …… ティセラは助けに来てはくれなかった…… …… でも、ここで私を迎えてくれる人がいた…… …… 今は、その人たちと、一緒にいても、いいよね…… 頬を膨らせたままのアリシアと共に教諭は部屋を後にしようとして。 「良いのか? あんな嘘ついてて」 とショウが問いた。 「パッフェルのやつ、ガラク村で気を失ってから2週間以上経ってると思ってるぞ? 実際は5日目だろ? まだ」 「良ぃじゃないか、全て丸く収まったんだ、これ以上の結果はないよ」 「嘘がバレれば、ミルザム様の解毒をしないと言いだしかねません」 言った刀真には肩を手で撫でて。 「あの様子なら、それはないと思うけど。早めに済まそうか、君のパートナーの負担も減るだろうからねぇ」 とだけ言って、歩み過ぎていった。 パッフェルが捕らえられたと分かった時点で、自らを抑えつけたのだろうと考えれば……以前のティセラのイメージとは大きく異なるが……。 まぁ、変化しない者など、死んでいるのと同じだからねぇ。 くっくっくっくっくっくっくっくっくっくっくっくっくっ。
▼担当マスター
古戝 正規
▼マスターコメント
お疲れ様です。古戝正規です。 十二星華の一人「パッフェル・シャウラ」と、 五獣の女王器の一つ「青龍鱗」を巡るお話は、今回で完結です。 さみしい限りですが、お付き合い頂いた方、本当にありがとうございました。 楽しんで頂けたなら幸いでございます。 思えば「青龍鱗」を初登場させた回も含めると、なんと! 全10話という事に! なんという事だっ!! と思うと共に、懐かしい感じさえしてしまいました。 そろそろ短編を〜♪ なんて思ってもおりますので、 また再びにお会いできる事を楽しみにしております。