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【十二の星の華】双拳の誓い(第6回/全6回) 帰結

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【十二の星の華】双拳の誓い(第6回/全6回) 帰結

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「なんで、あたしをこんなとこに入れるんだよ」
 牢の中で目を覚ましたメイコ・雷動(めいこ・らいどう)が、外にいるシニストラ・ラウルスを睨んで叫んだ。装備はすべて取りあげられ、下着だけという姿だ。顕わになった褐色の肌が、弱い光の中で艶やかに光る。
「よく言う。葦原島で、お嬢ちゃんを狙っただろうが」
 敵対行動を取っておいて、よくもぬけぬけと姿を現すことができたものだと、シニストラ・ラウルスが答えた。
「姐御とちょっと勝負したかっただけなんだよお。それぐらいいいじゃん」
 いけしゃあしゃあメイコ・雷動が言った。
「ああ。お前が、お嬢ちゃんのアンクレットを壊そうとしたことだけはよく分かっているさ。しばらく頭を冷やすんだな。後は、好きにしろ」
 カチンと南京錠に鍵をさし込むと、シニストラ・ラウルスはそれを回した。
『てすてすてす……』
 シニストラ・ラウルスの持つ無線機から、声がする。
「ああ、聞こえている。これから持ち場へむかう」
 そう答えると、シニストラ・ラウルスはさっさとその場を去っていった。
「こらー、待てー!」
「もう、本当にうるさいのだよ。少しはどっしりと構えられぬのかな」
 メイコ・雷動の隣の牢に入れられたリリ・スノーウォーカー(りり・すのーうぉーかー)が、迷惑そうに声をかけた。
「何!? 他にも捕まっている人がいるわけ?」
「捕まったのではない、これは潜入なのだよ」
 ララ サーズデイ(らら・さーずでい)の声がした。
「さあ、ロゼ、あそこに無造作に積まれているリリたちの荷物を使って、鍵を開けるのだ」
 余裕綽々で、リリ・スノーウォーカーがロゼ・『薔薇の封印書』断章(ろぜ・ばらのふういんしょだんしょう)に命じた。彼女たちの所持品はすべて取りあげられて、牢の隅の箱に無造作に突っ込まれている。アイテム管理がずぼらだと言ってしまえばそれまでだが、リリ・スノーウォーカーたちにとっては実にありがたい状況だった。
「それが……」
 ちょっと困ったように、ロゼ・『薔薇の封印書』断章の声がする。
「小鞄の中の小人さんなのですが、出てきてくれないのです」
 どうやら、取りあげられた持ち物の中の小人に鍵を開けてもらおうと思っていたようだが、直接所持していないアイテムが使えるわけもない。なにしろ、今の彼女は肌襦袢一枚の姿だ。ロゼ・『薔薇の封印書』断章の命令は、むなしく響くだけであった。
 火術で鉄格子を溶かして逃げだせばいいようなものだが、先ほどまで全員が気を失っていて、何をするにも力が入らない。まるで何かに気力を吸い取られてしまったかのようだ。そういえば、何か赤いねっとりした物を押しつけられたような記憶もあるが、はっきりとは覚えていなかった。だいたいにして、今の彼女たちは、全員がほぼ下着姿にされている。
「こうなったら、ユリに連絡をして、光条兵器を……」
 パートナーの剣の花嫁であるユリ・アンジートレイニー(ゆり・あんじーとれいにー)のことを思ってリリ・スノーウォーカーが言ったが、携帯電話が手許にない。
「ううっ、出すのである。出せー!!」
 思わず、鉄格子を激しくゆさぶりながらリリ・スノーウォーカーは叫んだ。
「やれやれ、これじゃあてにできないじゃん。ああ、まこちがここにいてくれたらなあ……」
 なんとか牢を逃げだす方法はないかと周囲を調べながら、メイコ・雷動はつぶやいた。
 
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「てすてすてす……。聞こえるかー、夜空」
 海賊島の一画に通信設備を揃えた日比谷 皐月(ひびや・さつき)が、パートナーの如月 夜空(きさらぎ・よぞら)を呼び出して訊ねた。
『ああ。よく聞こえるじゃん』
 島の外縁部の高台に陣どった如月夜空の元気な声が返ってくる。
 海賊島には、携帯電話の中継基地は存在しない。もともと、広い海の上では、専用の通信衛星と対応する携帯機器が存在しなければ、不特定対象と携帯で通話を行うことは不可能なのである。それゆえ、唯一、パートナー同士の会話だけが可能となるわけだ。
 だが、それでは、海賊たちの情報連携が困難になる。だいたいにして、パラミタ人のすべてが携帯電話を使いこなしているわけではない。蛮族ともなればなおさらである。とりあえずの連絡手段は必要不可欠だ。
 そう考えた日比谷皐月は、無線基地を新たに構築したのだった。そんなことを言うと大仰に聞こえるが、なんのことはない、船舶無線を利用して、端末にあたる小型通信機を各位に配ったというだけのことだ。
『とりあえず、周囲に敵の姿はないね』
「了解。このまま無事に出発できればいいんだがな」
 如月夜空の報告に、日比谷皐月はそうつぶやいた。
 
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「いいかい、壊したら承知しないからね」
「ああ、よおく分かっているって。だからこそ、慎重にな」
 ゾブラク・ザーディアに言われ、波羅蜜多ツナギを軽く翻しながら、国頭 武尊(くにがみ・たける)は自信満々で答えた。
 彼らがいるのは、海賊船ヴァッサーフォーゲルの艀のそばにある複雑な機械の前だ。その一部は巨大なコンデンサーとチャージャーで、セットされたエネルギーカートリッジに光条エネルギーを溜めるための物だった。そして、それらに接続された円筒形の輝くシリンダーの中に、アルディミアク・ミトゥナがいた。光条によって満たされたシリンダーの中で、まるで水に浮いてでもいるかのように白いドレスの裾をゆらめかせながら浮遊している。その目は軽く閉じられていて、意識があるのかは不明だった。
「現システムへの接続の遮断、およびヴァッサーフォーゲルへの積み込みは急務だ。急げよ」
「機械物ならまかせろだぜ」
 ヴァイスハイト・シュトラントに急かされて、猫井 又吉(ねこい・またきち)がコンソールをいじりながら安請け合いした。着ぐるみの猫の手で、器用に機械を操作していく。
 ゾブラク・ザーディアたちは、アルディミアク・ミトゥナをシリンダー内に捕らえたまま、ヴァッサーフォーゲルに積み込む算段でいた。そのまま、直接光条砲と接続してしまおうというのである。
 洗脳が解けてしまった今、マ・メール・ロアにある機械で再戦脳を行うまでは、アルディミアク・ミトゥナを自由にはできないというのがゾブラク・ザーディアの都合であった。また、光条砲のエネルギーカートリッジはとりあえず五発分は確保できたが、万が一を考え、低出力でもいいので発射できる態勢を整えておく必要があった。そのためには、アルディミアク・ミトゥナをエネルギー吸収装置ごと光条砲に接続するしかない。だいたいにして、本来はそういう形で運用されていたものだと、アルディミアク・ミトゥナ本人の口から聞かされていたのだから。
葦原島で貢献したと聞いたのでこの役を許可したんだ。期待には応えなよ」
 ゾブラク・ザーディアはヴァイスハイト・シュトラントとともにヴァッサーフォーゲルへと戻っていった。彼女たちとて、光条砲の方の調整と、ヴァッサーフォーゲルの発進準備などがあり、ゆっくりと休んでいる暇はない。
「とりあえず、カートリッジを先に上にあげろ」
「りょーかい」
 ヴァイスハイト・シュトラントに言われて、国頭武尊がクレーンを手招きする。
「又吉、ココたちが来るまでの辛抱だ。特別丁寧に、特別ゆっくりな」
「ふっ、任せておけってんだ」
 人に聞かれないように、国頭武尊たちはそう囁きあった。時間の問題で、ココ・カンパーニュ(ここ・かんぱーにゅ)はここに乗り込んでくるはずだ。そのときに思いっきり恩を売ることができれば、さすがに今までのことはチャラにできるだろう。その上で、あらためてパンツビデオ出演の交渉を行うつもりであった。
「聞こえるか、朱鷺。アルディミアクは島の中央にいる。空から入れるが、当然守りが堅い。突入するのならば、送ったデータの入り口から、内部施設を通ってやってこい。いいな」
 クレーンの操縦席の中で、トライブ・ロックスター(とらいぶ・ろっくすたー)がこれまた他の人間に悟られないように、情報をココ・カンパーニュたちの許にいる千石 朱鷺(せんごく・とき)へと流していた。洞窟を改造して造られたらしい海賊たちの施設は、事前に丹念に歩き回って作ったマップを銃型ハンドヘルドコンピュータに記録してある。
「さてと、ゆっくりついでに、オレはアルディミアクのパンツを……」
 エネルギーカートリッジのそばから離れると、国頭武尊がやにわに地面に身を伏せた。縦におかれたシリンダーの中に浮かぶアルディミアク・ミトゥナを、地面すれすれから見あげようと近づいていく。
 ドスン!
 もう少しという所まで近づいた国頭武尊の目の前に、いきなりクレーンのフックが落ちてきた。直撃していたら、今ごろ頭がぺっしゃんこになっていたところだ。
「何しやがる!」
 すぐさま跳ね起きて、国頭武尊が叫んだ。
「いや、すまない、慣れていなくてな。大丈夫だ、今度はうまくやる」
 仮面を被ったトライブ・ロックスターが、しれっと言った。
 いったい、今度はうまく何をすると言うのだろう。
「ははははは、よろしく頼むぜ」
「ははははは、頑張らせてもらう」
 お互いに乾いた愛想笑いを交わすと、国頭武尊とトライブ・ロックスターはちんたらと手抜き作業を再開していった。