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リアクション
「なるほど、最後まで生き残ったカップルは、永遠に結ばれる、か」
「らしいよ、だから行っておいでよ」
「え、この花火大会に参加しろって? セディと行って来いって?」
「そう!」
ルナティエール・玲姫・セレティ(るなてぃえーるれき・せれてぃ)は、夕月 綾夜(ゆづき・あや)が持ってきたチラシを見て、頬を染めた。
花火大会、カップル、手を繋いで生き残れば永遠に結ばれる、そんな謳い文句の踊るチラシは、東西が分かたれてよりはじめての大きな祭りだ。
『永遠』というキーワードは、祭りの宣伝としてもでかでかと扱ってあって、傍目にはばかばかしく写るかもしれない。
しかしその言葉を見て、ルナティエールが思いを馳せる相手は確かにいる。まだそんな関係ではないけれど、その言葉をよすがとしてそうなりたいと願っているひとが。
「わが姫、どうか私にその手を任せてはもらえぬだろうか?」
振り向くと、セディ・クロス・ユグドラド(せでぃくろす・ゆぐどらど)が完璧な貴族の礼をとり、彼女の前にひざまづき、手を差し出していた。
「勝利の暁には、式をあげよう」
真剣なまなざしだ、しかしこの問いは、もしふざけた様子で言われたのだとしても、相手がセディである以上、彼女にはおろそかにすることができない。
ルナティエールはそれを受け入れた。
「…そうだな。最初になしくずしに婚約者ってことになって、ようやく俺が想いを返せるようになって…」
まだそのあたりに区切りをつけてはいなかった。これはどちらにとっても、またとない機会となるのだ。
差し出された手にルナティエールの手が重なり、しっかりと握りあった。
中洲でのセディは、文字通り風にも当てぬ勢いでルナティエールを守った。
普段使っている槍では、ルールに則った場合満足には身動きできぬと剣に持ち替えて、縦横にロケット花火を叩き落した。
しっかりと繋いだ手が痛いくらいだが、その痛みが心強い。
禁猟区でセディに警告し、女王の加護が飛んでくるロケットを察知する。
ルナティエールもただ守られるだけでは満足しない、氷術でロケットを凍りつかせていく。
「怪我はないか?!」
「ない!」
微笑みい、守りあい、共に踏み出し、そしてかざした力で未来を掴むのだ。
綾夜はそれを川岸から見守っている。
「ああ、ルナとセディを邪魔するやつはいないかな…この僕が始末してあげるよ」
馬に蹴られてなんとやらだ、あの二人の妨害は絶対に許してなどやらない。
「しかし、妨害が予想外に多いな…」
まず、ロケットの量が多くて、撃った敵がなかなか突き止められないのだ。二人の方へ飛ぶロケットをいくつか撃ち落とせたにすぎない。
彼女らをあたたかく見守り、応援しながら綾夜はつぶやく。
―二人とも、頑張るんだよ。もし生き残れなくても、すごく大事なものを得られるはずだから…
「えっと、手を繋ぐんですよね、ルースさん右手を出してください」
ルース・メルヴィン(るーす・めるう゛ぃん)の右手とナナ・マキャフリー(なな・まきゃふりー)の左手は、硬く握られている。
この繋ぎ方をすると、とても体が近くなって、なんというかナナはすごくどきどきしてしまう。
「こんな手の繋ぎ方があるとは、世界は広いですね…!」
でも、中洲に立つ間は絶対にこの手を放してはならないのだ、ナナは握った手の上から縄でぐるぐる巻きにした。
自分の手だけでは相手を離さないという自信がないのか、というような視線は時々感じる。
ルースは、どう思われようがかまわない、彼女が認めてくれさえすれば、そしてそうまでして自分と手を離さないためを思ってくれているのだから。
「チキンといわれようが何が何でも生き延びますよ、オレとナナで、未来を掴むんです…!」
たとえそれが宣伝としてのプロパガンダだったとしても、それを信じてもらえれば、その意味は形を変え、自分達の未来に繋がるのである。
二人はさらに手を強く握り合い、中洲に立った。『永遠』という言葉をものにし、そのうわさを真実にするために。
そんな彼らに、今まさに大量の花火が降り注ぐ。ルースのスプレーシューターでも撃ちもらし、盾をもつナナは背中に庇っている。
「ルースさん!」
バーストダッシュで強く地面を蹴り、打てば響くようにルースからのレスポンスがあった。ぐっと膝を落としてナナの手を強く握り、縄を逆にサポーター代わりにして強力な引っ張りに耐える。
ルースを支点にして、ナナは回転したのだ。当意即妙な動きが、結果的に彼女の盾が及ぶ範囲を広げた。ロケットの束をひっぱたくようにして跳ね返す。
「ふう、今のを喰らってしまったら危なかったかもですね」
「ナナは、しなないのです。ルースさんが、守るから」
そっと視線をあわせ、かすかに微笑みながらナナはささやく。
「もちろんです!」
ルースは花火の降り注ぐ中穏やかに微笑み返し、…あれっ?
「ルースさん! 私達は一緒なのです!!」
「ナナは傷つけさせません!! オレ達は永遠に結ばれるんです!!!」
時に他のカップルを盾にしながらも、踊るように二人は戦場を駆け巡る。
火の粉の降る中を、ともに走りぬけ、望んだ先に繋がる道を明らかにするのだ。
月崎 羽純(つきざき・はすみ)は、隣で真剣にロケットを叩き落としている遠野 歌菜(とおの・かな)を見つめていた。大会前のことをふと思い返す。
「欲しいものがあるんだよっ」
そういって、花火大会に出場したい、コンビでないと出られない、副賞がどうたらこうたら。
確実なソースを出していないからばれていないと思っているようだが、その花火大会のことはすでに彼は知っていた。
手を繋がなければならないルールだからごめん、と言われても彼のほうには断る理由はなかったし、一生懸命な彼女の願いを、叶えてやりたくもある。
「一生のお願いだから…!」
こいつは俺が、そこまでいやがると思っているのだろうか。羽純は少しだけかなしくなった。
中洲に降り立ち、羽純は最初はゴーレムを使役しようとしたが、ふとそれをやめた。
「どうしたの? 羽純くん?」
「いや、何でもない。気にするな」
今ここで相手の手を握っているのは、確かに自分なのだから。
「そっか、じゃあいくよ!」
超感覚で察知し、チェインスマイトで花火を叩き落す。
歌菜はこの大会に自分自身への勇気を願い、羽純は何かが変わるという予感を感じていた。
「羽純くんは、私が守るんだから!」
胸のうちでつぶやき、忘却の槍を握りなおす。
「聞こえてるぞ歌菜。俺にも、お前を守らせろ!」
「上っ!」
「させん!」
椎堂 紗月(しどう・さつき)が叫び、即座に鬼崎 朔(きざき・さく)が反応する。
彼らは手をつなぎあい、幸い利き手は紗月が右、朔が左ということで、カップル繋ぎでの行動に支障はないが、いざ背中を合わせると利き手同士がぶつかりそうになる。その為互いに背後を確認しづらくなっていた。
「殺気看破が通じねえ、ロケットだからか」
朔はオートガードで槍を回転させて叩き落し、紗月の禁猟区はロケットの筒先が自分達に向くときを教えた。
「…くっ…」
そのうちに浴衣がさすがの動きについていけずに崩れてしまった。胸元がゆるみ、襟が浮いている。
「すまん朔! 直せるか?」
「片手では無理だ、直せない。未熟者だな」
しかし彼女は、着物がはだける羞恥よりも、手をつなぎ続けることを選んだのだ。
「悪かった、浴衣着てくれなんて無茶言って」
「っ…いや、私も着たかった…から」
すまなそうな顔にあわてて言いつくろうと、ありがとう、と返ってくる。そんなセリフは、自分のものなのに。
―紗月を守るのは、私の役目なのだ。
彼女にとって、紗月は幸福の象徴だ。
同時にそれは、手の中に掬った水、その中に映る月のようなものだ。
少しでも揺らがせれば月は歪み、力を抜けば水はこぼれ、月は彼女から逃げていくだろう。
「紗月、…離さないから、はなさないで…」
手にさらに力がこめられた。守りたい、守りたいのに、怖くてしかたがない。
「大丈夫だよ、俺そんなヤワじゃねーから、お前ごと守る。
お前も、守りたいものがいっぱい出来たって言ってたじゃねえか」
紗月には、『はなれないで』とも聞こえた気がする。
「これしきのロケット、くぐり抜けたら『永遠』って言っちまえるんだぜ、朔が思うより、カンタンなんだよ」
しかし本当は、『永遠』という言葉にすがってみたいのは自分だ。
―だから思いっきり飛び込んでこいよ、俺もブチ当たってやる、全身全霊でだ。
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