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黒薔薇の森の奥で

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黒薔薇の森の奥で
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「あの人が、カミロ・ベックマンなんだぁ……なんだか、大変そうだね」
 彼らの様子をうかがっていたミルト・グリューブルム(みると・ぐりゅーぶるむ)は、そう言うとペルラ・クローネ(ぺるら・くろーね)を金色の瞳でちらりと見上げた。少しだけ、その表情は不満そうだ。
 ミルトは天御柱学院の生徒だが、この森に来たのは、黒薔薇めあてだ。以前、少しだけ行動を共にしたサクラ・アーヴィングともっと親しくなりたいと望んで、吸血鬼へのプレゼントには黒薔薇がよいという噂をききつけて、ここに来た。
 人の話し声を聞きつけて近づき、カミロとシフ一行の鉢合わせに出くわしたのだった。
 不満げなのは、ミルトとしてはせっかくなのでカミロと話してみたかったし、遠慮をするような性質はしていない。だがそれを、ペルラが止めたのだ。
「私たちは西側の人間なんですもの。ここであまり騒ぎを大きくするべきではありませんわ」
 カミロの方には、薔薇学の生徒の姿も見えたことだし。温和なミルトが、そう慎重な意見を述べた。
「でもさ! 黒薔薇の場所、きかなくちゃわかんないよ!」
 もー! とじたばたとミルトは暴れる。その拍子か、コントロールしきれない超能力が、うっかり暴走した。
「わっ!」
「ミルト!」
 本来無害なただのツタや草が、ミルトの感情にあわせてか、周囲で一斉に蠢きだす。その動きに驚いて、咄嗟にミルトはバランスを崩すと、ペルラのたわわな胸にぼすん! と顔を埋めてしまった。ふっと暴走が途切れ、あたりがまた静かになる。
「……まだまだ、訓練が必要なようですわね」
「あ、はは。ごめんねぇ」
 そうは言うものの、ひとつも悪びれた様子はなく、ミルトはにこにことしている。
 が、その視界にふとあるものを見つけ、ミルトは「あ!」と大声を出した。
「な、なんですの?」
「黒薔薇! みーっけ!!」
 たった一輪だったが、ぽつんと咲いた薔薇をミルトはめざとく見つけていた。どうも、先ほどの暴走で、隠れていた薔薇が顔を出したらしい。
「わぁい、よかったぁ!」
 念願の黒薔薇を手に入れて、ミルトは無邪気に喜ぶ。その笑顔に、ペルラもふわりと微笑んだ。

 サバイバル訓練で森を訪れていた月谷 要(つきたに・かなめ)霧島 悠美香(きりしま・ゆみか)は、迷子になるうちに、カミロを倒すために訪れていたアシュレイ・ビジョルド(あしゅれい・びじょるど)と出会っていた。
「カミロってのは?」
「寺院のイコンに乗るパイロットです。要は、テロリストってことですけど」
 要の質問に対して、アシュレイは端的に答えた。
 外見は儚げな少女だが、年齢よりもずっと幼く見えるその身体には、強い意志がみなぎっている。それは、日本と西シャンバラの敵は許すことができない、という思いだ。
 要は悠美香と目配せをした後、「そういうことなら、協力するぜ」とアシュレイに告げた。
「ですが、要さんは……」
「まぁ、サバイバル訓練でこの森に来ただけだけどな。鏖殺寺院は見逃せないだろ」
 しかもこんな少女が、一人で立ち向かおうとしているとならば、なおさらだ。テンションがあがっているのか、要はいやに口調も男っぽいものになっている。
「いいよな、悠美香ちゃん」
「ええ、勿論よ」
 要とともに行動することに対して、悠美香に異論があろうはずもない。
「ね、あなた。一緒に、カミロを探そうよ」
「ありがとう」
 冷静な口調で、しかし心からアシュレイは答えた。
 アシュレイの狙いは、カミロというよりもルイーゼだ。さすがに自分一人の力では、カミロに敵うとは思っていない。そのあたりは、彼女の現実的な判断だった。
 とりあえず、身を潜めて待つべきだろうか……そうアシュレイが思ったとき、森の木々を震わせて轟音が響いた。
「……あっちか!」
 要がすぐさま反応する。悠美香とアシュレイも、その後に続いた。