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闇世界…村人が鬼へ変貌する日早田村

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闇世界…村人が鬼へ変貌する日早田村

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第7章 闇の広がり

「私たちに知られないように進めようとしてるなんて。オメガさんの魂を彷徨わせるだけが目的じゃないでしょうね」
 満夜は眉を潜めて暗闇を進む。
「逸れたら探せないから気をつけるんだぞ」
 先に行ってしまいそうな彼女に、ミハエル・ローゼンブルグ(みはえる・ろーぜんぶるぐ)が注意をする。
「分かってますって。とりあえず倉庫の中を探して見ましょう」
 赤く錆びついているドアを開けて満夜は中の様子を覗き見る。
「ダンボール箱がいくつかありますね」
 何かないか開いて確かめてみる。
「なんだこれは、腐ってるのか?」
 ミハエルも見てみるが詰められている野菜は全て変色し腐っている。
「闇世界化した影響なんでしょうね」
 暗く重たい空気に加え、生命というものをいっさい感じさせない。
 そんな場所にはまともな食べ物すら存在しないのだ。
「追い詰められて苦しい・・・ということでしょうか」
 命の匂いがまったくしないこの場所は、魔女の心を映し出しているのかと呟く。
「特に何もなさそうですね。隣の民家へ行ってみましょうか」
「そうだな」
「鬼はいないみたいです・・・って何ですかこれ!?」
 そこへ行ってみると、無残な光景が瞳に映される。
 周囲を見回すと床や壁がべったりと血に染まっている。
「奥に誰かいるぞ」
「し、死んでいます!」
 身体の半分を喰い散らかされたアリアが床に倒れている。
「なんというか酷い死に方だな」
「鬼の仕業でしょうか」
「たぶんな・・・。そこを見てみろ、何か書いてあるぞ」
 アリアの指先を見ると、そこには争えば争うほど闇が広がる、と書かれている。
「―・・・鬼と戦うなってことでしょうか。元は村人ですし、それがオメガさんの心によくない影響を与える、ということを伝えたいのでしょうか?」
「ふむ、それだけじゃないんじゃないか?村が完全に闇世界化して飲まれる危険性も訴えていると思うんだが」
「そんなことになったら村人たちが、本当に鬼なってしまうってことじゃないですか!」
「おそらくはな・・・」
「早く皆に知らせに行かないとっ」
 外へ出た途端、鬼にクワを投げつけられ腕を掠める。
「うぅっ!」
「満夜!この鬼が、よくもっ」
「やめてくださいミハエル、私は大丈夫ですから・・・」
 痛みに耐えながら満夜は、鬼を殺そうとする彼の裾を掴み止める。
「離せっ、殺さなければ殺されてしまうぞ!」
「シネェエイッ」
 鬼が満夜の脳天目掛けてクワを振り下ろす。
 バシィイイッ。
 通りがかったレオナーズが雷術で鬼のクワを撃ち落とす。
「殺さなくてもこうやって武器を落としてしまってもいいんじゃないかな」
 氷術でターゲットの足元の砂利道を凍らせ、泥濘へ突き落としてやる。
「1度、泥濘にはまってしまうと、簡単には抜け出せないようだからね」
「そうですよね・・・」
 満夜はそんな方法もあったのかと泥濘にはまっている鬼を見て呟く。
「村の地理を理解してるなら、こうやって逆に利用するのも手だよ。でも騙してくる鬼もいるみたいだから気をつけないとね」
「騙すんですか?鬼が・・・」
「敵わないと逃げていったように見せかけて、死角から仕掛けてくることもあるみたいだね」
「なるほどですね」
「他にもいろんな手段でトラップにはめようとしてくるかもしれないよ。まったく・・・こんな時にアーミスはどこに行ったのかな」
 逸れたパートナーを探し、レオナーズは再び歩き出す。



「通った痕跡らしいものが見当たりませんね。ここにはないんでしょうか。ていうか、俺1人で探しているんですよね・・・」
 ホーォホーォと梟の鳴き声が響く林の中、陽太は夜目が利くダークビジョンを頼りに歩く。
「はわわっ!?」
 バササッという羽音に驚き、思わず声を上げてしまう。
「何だ・・・カラスですか。足に何かついてますね」
 カラスに巻きついている紙を取ってみると、それはアヴァロンノヴァが書いたメモのようだ。
「何々、手がかりらしいものを見つけたと書いてありますね。場所は・・・集会場ですか。まだ他の林のところを見てないんですけど、闇雲に歩くより他も探してみた方がよさそうですね」
 林から出ようと元来た道を戻ろうとする。
「たしかこっちでしたよね。ん・・・?あんなところに子供が・・・。どうしたんですか?」
 小さくうずくまっている子供の傍に寄り声をかける。
「お腹すいたの。でも、お父さんとお母さんがいないの」
「(迷子でしょうか。)―・・・お家はどこです?」
「民家の方」
「丁度、林を出るところですし、連れていってあげます」
「ありがとう、お兄ちゃん」
 子供は顔を俯かせたまま、陽太から離れて歩く。
「こんな危険なところに独りぼっちにさせるなんて酷いですね。―・・・て、村の子ですよね?」
「うんそうだよ」
「じゃ、じゃあ・・・もしかして・・・」
 村の人間が全て鬼になるのを思い出し、当然その子供も変わってしまうのだと理解したが、時すでに遅く鬼に囲まれてしまった。
「ありゃりゃ。騙されちゃったみたいだね」
 レキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)は星輝銃を鬼の得物に向け、シャープシューターで狙い落とす。
「チカクニ、ダレカイルゾ」
 武器を落とされた鬼が騒ぎレキたちを探す。
「(早くこっちに来るアル)」
 光学迷彩で木の陰に隠れているレキの向かい側で、チムチム・リー(ちむちむ・りー)は待機中に藁で編んだ縄を手にターゲットへ忍び寄る。
「(ごめんアル!)」
 縄を相手の腕にひっかけ、動けないようにしてやろうと泥濘へ引きずり落としてやる。
「こうやって姿を隠していれば見つかりにくいもんね。カモフラージュで足跡も消しちゃってるし」
 チムチムに貸してもらったSPルージュで回復し、陽太の前に立ち塞がろうとする鬼の武器を撃ち落とし、彼女に泥濘へ落としてもらう。
「なるべく傷つけないほうがいいアルな?」
「うん、ゴーストとかじゃないし。どこかで見てる敵が喜ぶだけだからね」
「陽太ちゃん1人で心配アルからついていくアルヨ〜」
 背の高い草に隠れながらサササッとついていく。
「焼却炉の方へ誰か行くみたいですね」
 林を出た陽太は砂利道を走る泡とメイベルたちの姿を見つける。
「レキ、高台の上に鬼がいるアル!」
「任せてっ。―・・・外しちゃった!暗くて当てづらいよ」
「このままじゃ陽太ちゃんが撃たれるアルヨ」
「待って急かないでよ。あぁっ、銃弾が!」
 弾丸を補充しようとポーチから取り出すが、慌てすぎて手から滑り落ちてしまう。
「どこに落としたのかな、暗くてよく見えないよー」
「見つけたアル!」
「ありがとうっ。よぉし、今度こそ!」
 レキは少年の頭部を狙う鬼が持つ銃身に、スナイプで狙い撃ち泥濘へ落とす。
「はふぅー・・・なんとか助けられたね」
 疲れたように片手で額の冷や汗を拭い息を吐く。
 間髪助かった陽太は、泡たちに駆け寄る。
「何か見つかったんですか!?」
「昼間ちょっとね。ここでオメガの匂いがするって教えてもらったのよ」
「その時は何もなかったんですよね?」
「えぇ、闇世界に変わったことで何か見つかるかもしれないわ」
 問いかけるメイベルに泡が頷く。
「何かに鬼がいるかもしれません。先に俺が入って確認します」
 陽太は赤く錆びたドアを開け、何か潜んでいないか床から天井へと視線を移して確認する。
「もう入っても大丈夫ですか」
「ちょっと待ってください。奥に人影が見えます。―・・・鬼がいますっ」
 目を凝らして見ると、廃材の傍でむしゃむしゃと鬼が小動物を喰らっている。
「出来れば荒っぽいことは避けたいんですけどね・・・」
「でしたら気絶させましょう」
 メイベルはにこっと微笑み、則天去私で鬼に殴りかかり失神させる。
「調べてる途中で起き出したら厄介だよ。どうするメイベル」
「うーん・・・」
「優しく泥濘に投げておきましょう。沈めておけば簡単には抜け出せませんわ」
 セリシアに鬼を放置するわけにもいかないと言われ、フィリッパが代わりに言う。
「何やってるのー?」
 集会場の近くの高台から透乃がメイベルたちに声をかける。
「焼却炉のところにこの鬼がいたんです。殺すわけにもいかないのでとりあえず気絶させたんです」
「へぇーそうなんだ」
「それをどうするの?」
「目を覚まして襲われると困りますから、泥濘に沈めておくんです」
 芽美に聞かれ、その辺りに放置するよりはと答える。
「いくよメイベル」
「はい、せーのっ」
 メイベルはセシリアと鬼を抱え、ベシャッと遠くへ放り投げる。
「戻りますわよメイベル様」
 フィリッパたちは泡と陽太がいる焼却炉へ戻る。
「鬼はここから離れた場所に投げてきたので、目を覚ましてもしばらくは戻ってきません」
「ありがとうね」
「それで・・・何か分かりましたか?」
「うーん・・・・・・今のところは・・・。(お願い、どこにいるのか答えて・・・。こんな暗くて寂しいところに独りぼっちでいないで・・・)」
 泡は目を閉じオメガの魂を連れて返りたいと願う。
 うぅっう・・・っと苦しんでいるのか、悲しんで泣いているのか分からない声音が、彼女に囁くように聞こえた。
「な、何ですか!?どこからっ」
 聞こえてきた声に驚いた陽太は怯えた顔でキョロキョロと周囲を見回す。
「(この声はオメガ?悲しんでいるの・・・いえ、何か違うわ。苦しんでいるように聞こえる・・・)」
 泡の方は落ち着いた様子で耳を澄ませて声を聞く。
「見てくださいメイベル様、焼却炉が!」
 何も入っていない焼却炉の中にゴォオオゥ凄まじい勢いで燃え盛る炎が現れた。
 フィリッパの声にメイベルたちは、そこへ集まり炎をじっと見つめる。
「消えましたね・・・」
 パチパチと音を立てて消えていく炎を陽太は睨むように見る。
「開けてみましょうか」
 蓋を開けてみると底の方が墨で塗ったように黒くなっている。
「焦げたのかしら」
「妙ですね、何も見えないです」
「―・・・妙ってどういうことですか?」
 メイベルが首を傾げて陽太に聞く。
「底が焦げてるならダークビジョンで、焦げ跡が見えるはずですけどまったく見えないんです」
「じゃあ僕が槍で突っついて確かめてみるよ」
 セシリアは幻槍モノケロスを焼却炉の中に突っ込んで調べる。
「おかしいなぁ、全然届かないよ」
「この小石で確かめてみましょう」
 メイベルは砂利道から拾った石を焼却炉の中へ放り込む。
「―・・・落ちた音が聞こえませんわ、メイベル様」
「これがオメガのメッセージなのかしら」
「真っ暗で底のない、燃えるとなくなる場所ってことでしょうか?」
「他の人の情報と合わせると分かるかもしれないわ」
 問いかけるメイベルに泡は考えるように言う。
「寺子屋近くの倉庫へ集まっているはずよ」
「ではひとまずそこに行きましょう」
 メイベルたちは生徒たちが集まっている倉庫へと向かう。



「(倉庫へ生徒たちが集まっている頃合だな)」
「(えぇ、鬼がそれに気づいてしまうかもしれないわね)」
 渚とカイは仲間たちが襲われないように気をひきしめようと精神感応で伝え合う。
「やはり高台を取り戻そうと来ましたね」
 サーはロングスピアを握り、鬼の胴体を殴りつけて泥濘へ吹っ飛ばす。
「(1匹、倉庫へ向かってるわ)」
「あまり手荒なまねはしたくないんでね、大人しく眠っていてくれ」
 這い上がろうとする相手の後頭部を、背後からカイが剣の柄で叩きつけて気絶させる。
「(ここからじゃ中にいる生徒にあたってしまうかもしれないわ。逃げてカイ!)」
「うっ・・・く!」
 屋根から飛び降りてきた鬼が包丁を振り回し、彼の手首を斬りつける。
「よくもカイを・・・」
「落ちなさいっ」
 彼を傷つけられたことに怒り、キッと眉を吊り上げた渚は鬼の足元に銃弾を撃ち込み泥濘へ追い詰め、サーが槍の柄で突き落とす。
「情報を集めたやつはもうほとんど倉庫へ向かったはずだ。後はもう1箇所の高台にいる者に任せよう」
「そうですね、少し休みましょう」
 イブはカイに駆け寄り、鬼に負わされた傷をヒールで癒す。
 集会場側の高台を守る透乃たちの方は、襲撃してきた鬼どもに奪われまいと必死に戦っている。
「もうしつこいなぁ!」
 屋根瓦へよじ登る彼らの顔面を殴りつける。
「別の高台にも鬼がいるわよ」
「分かってるっ。何度追い払ってもくるなんてきりがないよ」
「面倒ね。やっぱり殺したほうがよさそう」
 芽美は向かい側の高台にいるターゲットの頭部へ銃口を向ける。
「―・・・よくも私を撃ったわね」
 高台と地面にいる相手からの発砲に、避け切れなかった芽美は片足に一発もらってしまう。
「死になさいよ」
 ぎりっと歯を噛み締め容赦なく撃ち殺す。
「さすがに泥濘へ落とすだけじゃ限界があるかもしれませんね」
 殺された鬼を見下ろし、陽子は悲しそうな表情になる。
「起き上がってくると面倒よ。埋まってるのも殺しておこうかしら」
 冷酷に言い放った芽美はスナイパーライフルで狙い首を吹っ飛ばす。
「あらかた片付いたわね」
 前髪を片手で退け、高台へとすんと座り込む。