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『魔術の真理』
 
 
「ふむ。馬鹿を治す薬の作り方とは、とても興味深いものを読ませてもらった。満足満足」
「ほんと? 次は私にちょうだい」
 パタンと『魔術の真理』を閉じたルシェイメア・フローズンに、日堂真宵が言った。
「まずい、早くなんとしても私の本体を取り戻さなければ……」
 カレン・クレスティアによって勝手に読書会にエントリーされたことを知ったテオフィラス・ヴェン 『魔術の真理』(ておふぃらすう゛ぇん・まじゅつのしんり)は、焦って大図書室に飛び込んできた。
 テオフィラス・ヴェン『魔術の真理』が言うには、たいした魔力のない者が『魔術の真理』を紐解けば、そこには正気を保てない記述しか現れないのだという。なんのことはない、でたらめな内容のダミーページが現れるので、読んだ者が癇癪を起こしかねないという程度の意味なのではあるが……。
「なんじゃあ、こりゃあ!!」
「遅かったか!」
 響き渡る日堂真宵の叫びに、テオフィラス・ヴェン『魔術の真理』は臍を噛んだ。
「これで、うるさいパートナーたちを一気に押さえ込める大魔法が手に入ると期待して読んだのに、何よ、これは。胸の大きさに比例して魔力を強大にする秘術ですって。むきーっ!!」
「ま、待て、本を引き裂くなーっ!!」
 間一髪、『魔術の真理』を引き裂こうとした日堂真宵を、テオフィラス・ヴェン『魔術の真理』は止めることができた。まさに危機一髪である。
「大丈夫だ、シャンバラ山羊のミルクを毎日飲めば……」
「きーっ!!」
 テオフィラス・ヴェン『魔術の真理』のよけいな一言に、日堂真宵がさらに暴れだした。あまりにうるさいので、そのまま二人とも司書さんに襟首をつかまれて大図書室の外にポイされる。
「いったい何だったんだ。そんなに興奮するような秘術でも書いてあったのか?」
 入れ替わるようにしてやってきた春夏秋冬真都里が、机の上に投げ出されたままの『魔術の真理』を拾いあげた。
「俺だってイルミン生の端くれだ。たまにはちゃんとした魔道書でも読まないとな。まあ、どんな魔道書でも、うちのおバカの魔道書よりはましだろうぜ」
 そう考えて読み始めた春夏秋冬真都里ではあったのだが、『魔術の真理』の最初の章のタイトルは「お金持ちになれる秘術」、第二章は「苦手な上司と上手にやっていける秘術」であった。
「ビジネス書?」
 自分はいったいなんの本を手に取ったのだろうかと、春夏秋冬真都里はあらためて本のタイトルを確認してみた。そこには確かに『魔術の真理』と書いてある。
「いや、ビジネス書というよりは、人づきあいの秘法が書いてあると考えた方がいいのか!? はっ、もしかしたら、かわいい年下の子とつきあう方法が書いてあるかもしれないじゃないか。よし、熟読するぞ!」
 勝手な期待をいだいて、春夏秋冬真都里は『魔術の真理』のページを追っていった。
「まあ、そんな秘術が載っているだなんてぇ。私にも見せてくださぁい」
 横から、ひょいと高峰結和が、『魔術の真理』をのぞき込んできた。
「こ、こら。俺は決してロリコンじゃないからな。ただ、恋人は年下がいいってだけで……」
「まあ、ほんとですぅ。恋をかなえる秘術って書いてありますねぇ」
「えっ、どこだ、どこ?」
 高峰結和の言葉に、春夏秋冬真都里がページを凝視した。ところが、封印を解かない限りは真の本文が現れない『魔術の真理』では、見ている者一人一人が違った文章の幻影を見るだけである。
「どこにあるんだよ。頼む、教えてくれ!」
 何か、切実な様子で、春夏秋冬真都里が高峰結和に頼み込んだ。
「ほらぁ、ここの、かわいい女の子と手を繋ぐには……という所ですがぁ」
「どれどれ、ムキムキの年上上司に対しては……って、違うだろうが!」
 高峰結和が指さしたページを見て、春夏秋冬真都里が叫んだ。
 結局、最後まで二人の会話はかみ合わないままに終わった。
 
 
『不明』
 
 
「あらまぁ〜。これがイコンさんの御本なんですかぁ?」(V)
 キューブ型の真っ黒い箱を前にして、神代明日香が困ったように言った。
 書名は『不明』となっているが、これが『ブラックボックス』アンノーンの本体である。
「これ、どうやって読むんですぅ?」
 ちょっと困り果てて神代明日香が訊ねた。
「それが、オルフェリアにも分からないんです。なにしろ、現在のイコンの物ではないらしいので、少なくても過去の大戦時の物ではないかと……」
 オルフェリア・クインレイナー(おるふぇりあ・くいんれいなー)の言うことが本当であれば、これは五千年前の物ということになる。よくも原形を保って残っていたものだ。
「自分も、中に何が記録されているのか分かれば嬉しいのだが……」
 それを知りたいと、『ブラックボックス』アンノーンも言う。彼の記憶は、本体と連動して封印されたままなのだ。
「任せてくださいですぅ。こういうときこそ、朝野ファクトリーの出番ですぅ」
 突如、朝野 未那(あさの・みな)が名乗りをあげた。
「機晶姫の次に、イコンには興味があるのですぅ」
 それは心強いと、その場にいた誰もが思った。
「それで、何か端末のような物はあるですかぁ?」
 ブラックボックスの一面にある接続端子らしき物を見つけだして、朝野未那が訊ねた。
「銃型ハンドヘルドコンピュータならありますが……」
 ポーチの中から銃型ハンドヘルドコンピュータを取り出して、オルフェリア・クインレイナーが言った。
「充分ですぅ。ええと、当然コネクタはないですから、直接ハンダづけしてとぉ……」
 それしか方法がないとはいえ、なんとも乱暴に銃型ハンドヘルドコンピュータからのばしたケーブルをブラックボックスの端子に接続する。
「さてとですぅ。プロトコルは分かるでしょうかぁ」
「ええと……」
 簡単に聞かれたが、さすがに誰も答えられない。
 当然、現在のイコンは地球で整備されているために、データ通信プロトコルも決まっている。だが、さすがにそれを持ち出す許可など一生徒に降りるはずもない。仮に、通信用のプログラムがあったとしても、データの記録方式が同じである保証はまったくなかった。なにしろ年代が離れすぎているし、ブラックボックスのような物を統一規格にする必要などまったくない。むしろ、敵に情報を引き出されないためには、まったく独自のプロトコルとデータ記録方式にすべきだろう。だいたい、中に収められているデータの媒体自体謎なのである。
 朝野未那としては意地でもなんとかしたいところであるが、同じ機晶技術が使われているとはいえ、機晶姫とイコンではまったく別の物であった。
「結局、これが何かは分からないのであるな」
 残念そうではあったが、一応予想の範囲内だから大丈夫だと『ブラックボックス』アンノーンが言った。
「ええ。フライトボックスなのか、制御用プログラムなのか、暗号解読器なのか、FCSなのか、ナビゲーターなのか、まったく分からないですぅ。でもでも、アンノーン様が魔道書として覚醒したのであれば、記憶装置であることは間違いないはずですぅ」
 ごめんなさいと、朝野未那が謝った。
「まあ、何かお困りですかぁ」
 いろいろな本を読みながら巡回していたメイベル・ポーターたちがそこへやってきた。
「このブラックボックスが開かないのですか? でしたら、私たちにお任せいただければなんとかできるかもしれません」
 話を聞いたフィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)が、自信たっぷりに言った。
「まっかせといて。じゃあ、いくよ!」(V)
 言うなり、セシリア・ライト(せしりあ・らいと)が野球のバットを振りあげた。
「や〜め〜る〜の〜だ!!」
 『ブラックボックス』アンノーンが悲鳴をあげた。
「壊したらだめですぅ」
「外箱を叩けば簡単に中身が出てくると思ったんだもん」
 朝野未那に言われて、セシリア・ライトが唇をとがらせた。
「勘弁してほしいのだ」
 お気持ちだけで充分ですからと『ブラックボックス』アンノーンに必死に言われて、すっきりしないままにメイベル・ポーターたちは別の魔道書の方へと移動していった。
「でも、あのイコンの一部だったなんて、格好いいですぅ〜。壊されなくて、本当によかったですぅ」
 目をキラキラと輝かせて神代明日香が言った。
「いつか、中のことが分かったら教えてくださいねぇ〜」
 そう言い残すと、神代明日香は自分を待っているであろうノルニル『運命の書』の許へと帰っていった。