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『レメゲトン』
 
 
「この本も読んでよいのでござるか?」
「うむ。少し難しい内容ではあるが、君たち学生の学力向上のために今回は特別に閲覧を許可している」
 『レメゲトン』をさして聞く童話スノーマンに、教師であるアルツール・ライヘンベルガー(あるつーる・らいへんべるがー)が言った。
「本来、魔道書という物は、このような『魔術的知識について書かれた学術書』を指すということをよく知ってもらいたいものだ。そもそもなぜ魔道書というものが存在するかという……」
 えんえんアルツール・ライヘンベルガーが講義のようなものを始めかけたので、童話スノーマンはさっさと読書に没頭していった。内容としては、長講釈よりも魔道書その物の方が面白いに決まっている。
 『レメゲトン』は、ソロモン王が書いたとされる羊皮紙の本を五冊合本したものらしい。内容がラテン語であることや、合本ということでオリジナルではなくて写本だろうと推測できるが、魔術書としては良質な方である。もっとも、著者に関しては、確証がないので鵜呑みにはできないが。
「やや、こんな所にクロセル殿の名前があるでござる!?」
 思いがけない名前を魔道書の中に見つけて、童話スノーマンが炭団色の目を丸くした。
「クロセル(又はクロケル、プロケル)は、悪魔学における悪魔の一人。ソロモン七十二柱の魔神の一柱で、地獄の四十八軍団を従える偉大なる公爵。堕天前は能天使の位にあった。――なるほど、クロセル殿は悪魔でござったか! なんだか納得でござる。しかも、元は天使でござったか! 今ではぺ天使といった感じでござるが」
 一番納得してはいけないところで、童話スノーマンが納得する。
「ちょっと待て、なんでこんな物が我の本体を読んでおるのだ? これ、すぐに手を放さんか、雪だるまになど触られたら、大切なページが濡れてしまうではないか!」
 マスターからの、たっての頼みということで公開を認めたソロモン著 『レメゲトン』(そろもんちょ・れめげとん)であったが、まさか雪だるまの濡れた手で閲覧されるとは思ってもいなかった。すでに、公開したことを後悔し始めている。
「いやいや、拙者は手袋をしておるので大丈夫でござるよ。それよりも、クロセル殿の正体をきっぱりと記述しておられるとはなんともあっぱれ。拙者、感動したでござるよ」
「はあっ? 貴公、何を言ってるのだよ。マスター、この者は、完全に読み違えているのだ。なんとかしてくれないか」
 冗談じゃないと、ソロモン著『レメゲトン』が、アルツール・ライヘンベルガーに言った。
「何事も勉強だ。正しく解釈できるように指導はするが、安直に答えを教えてはいけな……」
「そんなことでは、ずっと誤解されたままであろうが! そういうことだから、写本というのは尾ひれがついて馬鹿になっていくので……」
 何やら、ソロモン著『レメゲトン』とアルツール・ライヘンベルガーが言い合いを始めてしまう。
「あ〜、これ知ってる〜。悪魔さんが、いっぱいの本なんだよね〜」
 そんな二人には構わず、他の本を巡回してきたネージュ・グラソン・クリスタリア(ねーじゅぐらそん・くりすたりあ)が童話スノーマンの持つ『レメゲトン』をのぞき込んだ。
「ハルファスっていうのはねぇ、序列三十八番の地獄の伯爵でぇ、二十六の軍団を率いる悪魔さんなんだよ。すごいね!」
「いやいや、クロセル殿の方が、悪魔っぷりは上でござろう」
 勘違いしたまま、童話スノーマンは譲らない。
「はう……、ネーネ、こんなとこにいたの。変な本読んじゃったから、一緒にその本読んでもいい〜?」
 ネージュ・グラソン・クリスタリアを捜していたエリシュカ・ルツィア・ニーナ・ハシェコヴァがやってきて、『レメゲトン』をのぞき込んだ。
「うゅ……、なんだかこの本も怖い変な本なの〜」
 のぞき込んだ『レメゲトン』の挿し絵に、エリシュカ・ルツィア・ニーナ・ハシェコヴァがちょっと顔を顰めて言った。
「どこが変な本であるか。それ以上我を読みたければ、我を倒して……」
「てい!」
「はう……」
 あまりに騒ぐソロモン著『レメゲトン』を、アルツール・ライヘンベルガーが後ろから叩いて気絶させた。
「勉学にいそしもうとする学生の邪魔をすることは、許さぬのだよ」
 
 
『占卜大全 風水から珈琲占いまで』
 
 
「大丈夫かなぁ〜」
 はらはらしながら、高峰 結和(たかみね・ゆうわ)は少し離れた所にいる占卜大全 風水から珈琲占いまで(せんぼくたいぜん・ふうすいからこーひーうらないまで)を見守っていた。
 今回の読書会は長時間に渡るということもあり、大図書室の入り口近くのスペースで行うために飲食可能となっている。
 そのおかげで、占卜大全風水から珈琲占いまでは、自らの内容にあるコーヒー占いを普及させるべく、机の一画を借りて占いコーナーをやっていた。もっとも、半分は喫茶店化していたのだが。
「ふむ。トルココーヒーとやらも、たまには趣が変わっていいものであるな。まさに新しきジャンルでもある」
 小さな手鍋でコトコトとコーヒーを煮出している占卜大全風水から珈琲占いまでをのんびりと眺めながら、神拳ゼミナーが言った。
「ふーん、コーヒーで占いができるなんて面白いな」
 物珍しそうに、雪国ベアが言った。
「結和ちゃんも占ってあげようか! ほーら俺との相性は抜群だぜー!」
「間にあってますよぉ〜」
 占卜大全風水から珈琲占いまでに声をかけられた高峰結和は、やんわりと拒絶してみせた。
 現在恋愛中の高峰結和としては、パートナーの占卜大全風水から珈琲占いまでに占ってもらうということは、全容を把握されることになるので、進んで頼む気にはなれなかった。
「はいよ、できたじゃん」
 占卜大全風水から珈琲占いまでが、用意してあったコーヒーカップに、できあがったコーヒーを注いでいった。
「粉が沈むのをしばらく待ってから、上の方だけを飲んでほしいんだなぁ」
 占卜大全風水から珈琲占いまでが、トルココーヒーの飲み方を説明する。
 粉を直接水で煮出すトルココーヒーは、通常飲まれているコーヒーのように豆を漉すようなことはしない。そのため、カップの中にはコーヒー豆の粉が入ってしまうのだ。それがカップの底に沈むのを待ってから、コーヒーの部分だけを上手に啜るのである。
「へーえ、トルココーヒーって、そうやって作るんだ。ちょっと面倒そうだよね。占いは他のにしようかなぁ」
 サーブされたトルココーヒーを見つめて、立川 るる(たちかわ・るる)が言った、
「せっかく淹れてくれたのに、それは失礼だよ」
 ラピス・ラズリ(らぴす・らずり)が突っ込んだ。
「だって、るるは最近、紙パック入りのコーヒーミルクなんだもん。あれって、簡単でいいんだよお」
「まったく、相変わらずずぼらでめんどくさがりなんだから」
 それじゃお嫁に行けないと、ラピス・ラズリが小さく溜め息をついた。
「さあ、まずはコーヒーを飲んでほしいじゃん。占いは、それからだしぃ〜」
 占卜大全風水から珈琲占いまでが、皆にコーヒーを勧めた。
「ふむふむ、飲んだ後の粉の跡で占うのですね」
 『占卜大全風水から珈琲占いまで』と、高峰結和が特別につけてくれた解説書を見比べながら、浅葱翡翠が言った。原書はトルコ語なので、さすがにそのままでは読めないところだったのだが、高峰結和がそれを見越して急遽作ってくれた翻訳のコピー本のおかげで、なんとか内容を理解することができた。
「とにかく、これで宿題の読書感想文を完成しなくては……」
 浅葱翡翠は実際のコーヒーとコピー本を見比べながら、頑張ってメモを取っていった。
「それじゃあ、占いを始めるじゃん」
 何人かがコーヒーを飲み終わるのを待って、待ちかねたように占卜大全風水から珈琲占いまでが言った。
「えー、お願いします」
 占いを楽しみにしていた三笠のぞみが、ニッコリと言った。
「まず、飲み終わったコーヒーカップを、こうやって皿の上でひっくり返すじゃん」
 占卜大全風水から珈琲占いまでが、皿の上でコーヒーカップをひっくり返して見せた。
「うー、こうかしら」
 三笠のぞみたちが、それに倣ってコーヒーカップをひっくり返す。底に残っていたわずかばかりのコーヒーが、滴り落ちて下の皿に溜まった。
「さて、どんな形になったじゃん?」
 少し間をおいてから、占卜大全風水から珈琲占いまでが、みんなにコーヒーカップを再びひっくり返させた。カップの底に溜まっていたコーヒーの粉が流れ落ちて、それぞれ違う形の跡を残している。
「人の形に見える物は、弱気になってて人恋しい証拠だしぃ、鳥の形に見える物は、忙しく暇がなくて気分転換が必要だしぃ、魚の形に見える物は、超ラッキーじゃん」
 占卜大全風水から珈琲占いまでに言われてカップをのぞいた三笠のぞみは、そこにあった形にちょっと首をかしげた。カップの底にポツンポツンと三つほど濃い点の跡がついている。
「うー、これって顔……だよね!?」
 思わず聞き返す三笠のぞみに、占卜大全風水から珈琲占いまでがうなずいた。
「えー、人恋しいって……。確かに、図書館の座敷童と呼ばれている赫映がどこか行っちゃって困ってるよね。これってあたったのかな?」
 はっきりしないなあと、三笠のぞみは首をかしげた。他のみんなも、人によって違う形に見えるコーヒーの跡に、占卜大全風水から珈琲占いまでに詰め寄ったり、浅葱翡翠のコピー本を奪って照合しようとしたりしてもめていた。