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鏖殺寺院の砦

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鏖殺寺院の砦

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05:空挺降下
 やがて輸送機部隊が到着する。制空権を半分は奪っていたので、安全地帯から降下を始める歩兵と戦闘車両群。
 当然迎撃に敵もイコンと随伴飛行歩兵を送り込んでくる。こうして空挺降下部隊をめぐっての死闘が始まった。

 そんな中秋月 葵(あきづき・あおい)は<空飛ぶ魔法↑↑>で周辺の味方全体に飛行呪文を付与する。500名からの歩兵全体にかけるのは大変だったがこれで全員が落下傘で降下しているうちに迎撃されるというリスクは少なくなった。
 それでも寺院の施設から上昇し、あるいはイコンと戦っっている戦域から降下し随伴飛行歩兵が迎撃にやってくる。
「鬱陶しい!」
 そんな敵にはエレンディラ・ノイマン(えれんでぃら・のいまん)が<天のいかづち>で飛行解除を行う。
 閃崎 静麻(せんざき・しずま)は輸送機の主翼にワイヤーで体を固定し、スナイパーライフルで味方を狙う随伴飛行歩兵を狙撃する。
 無論一撃で命を奪うことはできない。
 だがバランスを崩させることで敵の妨害をするという静麻の目的は達せられていた。
「やれやれ……出来ればもう少し制空権を確保して欲しかったんだがな」
 静麻はそうぼやきながらも着実に自分の仕事を果たしていく。
 ヴァルキリーのレイナ・ライトフィード(れいな・らいとふぃーど)は自前の翼で空中を飛ぶと、空中での戦闘に慣れていない降下兵たちの分まで随伴飛行歩兵を迎撃する。
「静麻の危惧しているとおりになりましたか……」
 レイナの攻撃力では敵に有効打を与えるには至らないが、攻撃の妨害をするだけでも十分に役割を果たしていると言えた。
 機晶姫のクリュティ・ハードロック(くりゅてぃ・はーどろっく)もレイナと共に空中戦を仕掛ける。
「ターゲット……ロック。<六連ミサイルポッド>発射!」
 飛び出したミサイルは複雑な軌道を描きながら随伴飛行歩兵に命中する。
 爆発の衝撃でバランスを崩して攻撃のタイミングを失う随伴飛行歩兵達。
 クァイトス・サンダーボルト(くぁいとす・さんだーぼると)も火力不足を自認しながらも飛空艇と合体して戦場を駆け巡り、<六連ミサイルポッド>を二つ装備してミサイルサーカスを演じていた。
 目的はとにかく敵の妨害。
「…………」
 会話機能がないクァイトスは終始無言でただただ敵の攻撃を妨害していく。
 だが、装甲が不足している彼らでは敵の反撃を受けると大きなダメージを受けてしまう。
 そんな時はレイナの<ヒール>で回復して戦線に復帰する。
 天城 一輝(あまぎ・いっき)も降下する歩兵を支援している一人であった。
 小型飛空艇から機関銃を敵に向けて発射し<弾幕援護>で弾幕を張る。
「いまのうちに、早く!」
 ローザ・セントレス(ろーざ・せんとれす)も小型飛空艇に乗っているが彼女はデジタルビデオカメラで戦場を撮影し、それを銃型HCを経由して味方に流していた。
 その情報はイコン部隊と航空機部隊にも流れ、戦況の把握に大きな効果を上げていた。
 コレット・パームラズ(これっと・ぱーむらず)は着地の際に足をくじいた味方の怪我を回復させ、素早く前線へと送り出していた。地味な支援だがその効果は大きい。
 そしてユリウス プッロ(ゆりうす・ぷっろ)は<指揮>を利用し生前に自分が犯した過ちを繰り返さぬよう降下した歩兵の合流に全力を上げる。そして小隊、分隊に割り振り部隊の指揮をまかせる。
 彼らの支援はけして派手ではない。だがそれは確実に効果を発揮していた。

「きゃー。きゃー。高い。怖いいいい」
 高所恐怖症の志方 綾乃(しかた・あやの)が叫びながら降下していく。
 降下して着地し、ぐったりしている綾乃を魔鎧の天衣 無縫(てんい・むほう)が助け起こし綾乃に纏わる。
 そしてまだぼーっとしている綾乃の体を動かすと葵とともに戦場を移動し始めた。
「あくまで寺院の拠点制圧が目的だよ。目的地まで交戦はできるだけ避けて進もう」
 葵の指揮で分隊は安全地帯に降下すると魔鎧ルータリア・エランドクレイブ(るーたりあ・えらんどくれいぶ)を纏ったウィングの
「文化的な生活を営んでいるならば、地下インフラが存在している可能性が高い」
 と言う発言を受けて下水道に入り込み、銃型HCを持っているものがマッピングしながら内部を進む。
 汚物にまみれての行軍となったが、イコンにやられたり敵との戦闘を行うよりはいいだろうというのが一同の意見だった。
 穂波 妙子(ほなみ・たえこ)はコームラント【与一】に乗り込み寺院の拠点に向かうと、迎撃に上がってくる敵イコンの、まさに出現するタイミングに大型ビームキャノンを叩き込んだ。
「狙い撃ち! やで!」
 大きなエネルギーを受けて消滅する敵イコン。しかしチャージの合間に飛び立つイコンもありモグラたたきのごとく叩きまくるという訳にはいかない。
 それでも、彼女に向かってくる敵イコンは味方のイーグリットが退けて護衛し、妙子の作戦のサポートをする。
 近づきすぎた敵には汎用機関銃で攻撃し、牽制する。そこに味方のイーグリットからの援護射撃が飛び、敵を打ち倒す。
 しかし目立ちすぎたのかコントロールを奪われ、【与一】のビームキャノンが降下中の戦車に命中する。
「ああっ! なんてことや!」
 戦車の装甲ではコームラントのビームキャノンを受けきることはできない。一瞬での消滅だった。
 ここで少々解説をすると、装甲的には戦闘機<MBT<イーグリット<コームラントとなる。
 主力戦車といえどもイコンの攻撃力防御力にはかなわないのだ。
「妙子、敵のコントロールを奪う電波は地下から出ているようじゃのう。いっそ敵の施設を攻撃して停電させてみてはどうじゃ?」
 朱点童子 鬼姫(しゅてんどうじ・おにひめ)がそう助言すると妙子は狙いをイコンの出現口から寺院の拠点に変更した。
 大型ビームキャノンのエネルギーをフルチャージし、拠点に叩き込む。
「きゃあああああああああ!」
「メニエス様!」
 落盤からメニエスをかばうミストラル。
 そして鬼姫の狙い通り施設は停電した。モニターが何も映さなくなる。
「くっ……指揮官、自家発電は?」
「生憎と、そちらもやられた模様で……」
「ちっ……」
 メニエスは舌打ちをする。
「仕方が無いわね。この拠点は放棄するわよ。脱出しなさい。私は書類とサーバーを始末しておくわ」
「はっ!」
 ミストラルの開けた穴から脱出する鏖殺寺院の幹部たち。
 そして人がいなくなるとメニエスは<ファイアストーム>で書類とサーバーを焼却し、ついでに建物に火をつけた。
「急ぎなさい。火が迫ってくるわよ」
「メニエス様は私がお守りいたします」
 ミストラルの忠節をありがたく感じながらメニエスは抜け道を駆け抜けていく。
 志方 綾乃などが敵幹部を捕まえようとしていたが、メニエスの行動のほうが早く、幹部たちは無事に逃げおおせてしまった。
 しかしその後謎の電波がこちらのイコンのコントロールを奪うこともなくなったので、戦況は一気にこちらの有利に傾き始めていた。

 ベータ小隊
「こちら【ベータ1】桜葉、みんな機体の調子はどうだ」
 桜葉 忍(さくらば・しのぶ)が小隊の各員に尋ねる。
「こちら【フォーチューン】の祠堂 朱音(しどう・あかね)。戦況、機体状況共に良好」
「こちら【スプリング】の和泉 直哉(いずみ・なおや)。問題無し。システムオールグリーン」
「こちら【デザイア】の月谷 要(つきたに・かなめ)。謎の電波もなくなり良好」
「こちら【アガートラーム】の榊 朝斗(さかき・あさと)。問題なし」
「よし、この作戦が無事成功したら俺が料理を皆に振舞ってやる、だから皆絶対に帰還しろよ」
 忍がそう言うと今度は各機のパートナーから返答があった。
「【フォーチューン】の須藤 香住(すどう・かすみ)。期待していますね」
「【スプリング】の和泉 結奈(いずみ・ゆいな)です。楽しみにしています」
「【デザイア】の霧島 悠美香(きりしま・ゆみか)です。お腹すかせてまってますね」
「【アガートラーム】のアイビス・エメラルド(あいびす・えめらるど)です。私は機晶姫なので食べられないかとは思いますが、朝斗の分まで期待しています」
「おーけー。じゃあ、戦闘続行だ」
『了解!』
「忍はよくこんな状況でそんなに落ち着いていられるわね、少しは緊張感を持ったほうがいいわよ」
 忍のパートナーのノア・アーク・アダムズ(のあ・あーくあだむず)がそう話しかける。
 たいして忍は
「いや俺だって少しは緊張してるさ、初めてイコンに乗って戦うんだ今でも武者震いしてしまってるからな」
 と言う。
「そう、それなら早くその武者震いをやめて戦いに集中しなさい、あんたはイコンでの戦闘経験はないんだから、その分周りの状況をちゃんと把握して味方と協力しあうこと!」
「わかった」
 忍がそう答えるとノアは
「それに、忍。あんたにはこの私がついているんだから忍は攻撃に集中すること。私はそれ以外を全部やってあげるわ」
「ああ、ノアお前に任せた」
 そして一拍おいてから忍は言う。
「こちら【ベータ1】、【レイ】。謎の電波はなくなった。戦闘機の援護もある。おもいっきり戦おう!」
『了解!』
 そして忍は指揮をとりながらベータ小隊としての戦線を維持していく。
「はあああああああああああああああああああ!」
 魔鎧ジェラール・バリエ(じぇらーる・ばりえ)を纏った朱音、は香住に操縦を任せると、接近したタイミングでビームサーベルをシュメッターリングに斬りつける。
 シュメッターリングは振動剣でそれを切り払うと、バルカンを撃ってきた。
 正面装甲への命中なので大したダメージにはならないが衝撃で機体が揺れる。
「くっ。こっちも!」
 朱音もバルカンを撃ち返しながら後退し、敵のマシンガンの射程外、こちらにビームライフルの射程ギリギリのところでビームライフルを発射する。
「米軍もタイミングあわせてくれたみたい」
 香住がそう報告するとおり、ミサイルがビームと同時に何発も命中する。
 それでシュメッターリングは撃墜し、朱音は新たなる敵へと向かう。
「よし、振動剣の性能を確かめるぞ!」
 直哉は接近戦を挑むとシュメッターリングに斬りつける。
 シュメッターリングも振動剣でその攻撃を受け止めると、結奈がスロットルを全開にして鍔迫り合いの補助をする。
 敵もスロットルを全開にして押し合いが始まった。
「兄さん、引くよ!」
 結奈はそう宣言すると後退する。
 直哉はそれに合わせてバルカンを発射する。
「前進するよ!」
 そして再び前進し、バルカンを発射しながら斬りつける。
 敵の振動剣をわざとビームサーベルの柄で受けて切断させる。振動剣の威力を探るのが目的だ。
「なかなかのものだな……」
「兄さん、ビームライフル戦に移行します!」
 結奈は開放祭の時に教官から教わった『直感と計算で敵の行動を先読みし、敵に先読みされない動き』で敵機を翻弄する。
 敵のマシンガンの射程内にはいっても、マシンガンの弾が【スプリング】に命中することはない。
「兄さん、今です」
 一時的に足を止めロックオンの時間を待つ。
 味方のイーグリットと共にビームライフルを発射し、シュメッターリングを撃墜する。
「一方的に攻撃できるって楽だよねぃ」
 要はそう言いながら大型ビームキャノンを発射する。
「死んでくれないかな? 鏖殺寺院にゃ、いい加減何度も被害を被ってるからさっさと潰したいんだよね。ハタ迷惑だし」
 ネクロマンサーになってから倫理観が弱干歪み始めた要は敵を殺すことを雑草を踏みつぶすことと同じように軽い感じで捉えながら攻撃をしていく。
「悠美香ちゃん、敵の上空をとって」
「了解、要」
 悠美香は要の指示通りに敵の上空に機体を移動させると、【アガートラーム】に通信を入れた。
「タイミングを合わせてください」
「【アガートラーム】了解」
 アイビスが【デザイア】の砲撃と同時にトリガーを握る。
 ニ本のビームがシュメッターリングを襲う。弱点は分かっている。その弱点に打ち込む。
 弱点に直撃し爆発し、消滅するシュメッターリング。
「よし、ベータ各機、シュヴァルツ・フリーゲに一斉攻撃だ!」
 忍が指揮をとると、各機から一斉にビームが飛ぶ。
 回避することかなわず、消滅するシュヴァルツ・フリーゲ。
 回線に子供の悲鳴が聞こえる。
 まだ15〜16の子供だろう。
 その声に対する反応は各々違っていたが、士気が落ちることだけは確かだった。

「……なに? 煙?」
 地下を進む葵一行のところにも、煙がやってきた。
「マッピングの予想からすれば、この先には拠点があるはずだ。この煙は拠点からきている」
 戦闘舞踊服 朔望(せんとうぶようふく・さくぼう)を纏った赤嶺 霜月(あかみね・そうげつ)がそう言うとクコ・赤嶺(くこ・あかみね)
「熱いわね。火事かしら?」
 と問う。
「やられた!」
 綾乃が叫ぶ。
「多分敵が拠点に自分で火をつけたんだわ。作戦は失敗よ! 戻りましょう。火事に巻き込まれるわ!」
「とするとデータは?」
 ウィングが問う。
「当然抹消されてるでしょうね。戻りましょう。戻って地上の部隊の支援をしましょう」
 綾乃のその言葉に葵も同意し、部隊はすぐ近くにあったマンホールから地上に出る。
 そこで彼らが見たものは、燃え上がる鏖殺寺院の拠点だった。