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魂の器・序章~剣の花嫁IN THE剣の花嫁~

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魂の器・序章~剣の花嫁IN THE剣の花嫁~
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リアクション

 
 
 フーリの祠・道中2 優先順位/嘘

「何か立ち止まってるね。あの人、どんどん先へ行ってるけどいいのかな」
 レッサーワイバーンに乗った四方天 唯乃(しほうてん・ゆいの)の肩の上で、霊装 シンベルミネ(れいそう・しんべるみね)が言う。
「そうね。何かあったのかしら?」
 そんな彼女達の姿を、同じく森の上空を行くミア・ティンクル(みあ・てぃんくる)テレサ・ツリーベル(てれさ・つりーべる)が見つけ、近付いていく。強盗鳥に乗っていた。
「あ、ねえ! ピノって女の人がどっかの祠にいるって聞いたんだけど、知らないかな!」
「祠というからには森の中だと思うんです。見かけませんでした?」
 そう言うミアとテレサに、シンベルミネは答える。
「うん、その女の人なら、森の先に行ってるよ。あっちの方」
「「『女の人』……」」
 その言い方に、2人は顔を見合わせた。
「やっぱり、大人の人だよ!」
「話を聞かないといけませんね!」
 そうして先行する強盗鳥の後方から飛んでくるのは、風祭 優斗(かざまつり・ゆうと)が運転する小型飛空挺である。後部座席には諸葛亮著 『兵法二十四編』(しょかつりょうちょ・ひょうほうにじゅうよんへん)が乗り込んでいる。
 ミア達を追いかけながら、優斗は言った。
「どうも心配ですね……変にご迷惑をかけなければいいのですが」
 抱える事情はどうあれ、ラスがピノを――お互いがお互いを大切に想う気持ちは真実なのだから、きっと何とかなる。彼は、自分達と同じように2人が築いてきた絆の強さを信じていた。
『兄妹の絆』を。
「彼等が現在抱えている不安に負けてしまわないように、抱えた課題を乗り越えられるように、サポートしたいのですが……大丈夫でしょうか」
「なんでこんな複雑な事になったのかしらね〜」
「リョーコさん……」

 小型カメラを破壊している間に、パラミタキバタンは空へと飛んでいってしまった。ピノの肩にはずっといたのに……
「むー、何処へ行ったのでしょう」
 さみしそうに空を見上げる赤羽 美央(あかばね・みお)に、魔鎧 『サイレントスノー』(まがい・さいれんとすのー)は言う。
「やはりあの鳥は訓練を受けているようだな。何か目的があるのだろう」
「目的、ですか……」
 美央がそんな会話をしている一方で、ノルニル 『運命の書』(のるにる・うんめいのしょ)
下草の間に何かが落ちているのを発見した。定期入れのように見える。
「何でしょうか」
 ノルニルが近付いていく。
「そんなのいいから早く行くぞ……って、それ!」
 上空から彼女を見ていたラスは、落し物の正体に気付いて慌てて飛空挺から飛び降りた。ピノにパクられた電子マネーだ。止めようとするものの時既に遅し。ノルニルは電子マネーを拾って、中を改めた。
「ノルンちゃん、何か面白いもの入ってますか〜?」
 彼の様子に秘密の匂いを感じた神代 明日香(かみしろ・あすか)も箒から降り、エイム・ブラッドベリー(えいむ・ぶらっどべりー)もそれに続く。
「あ〜、これって……」
「かわいい子ですの」
「何が入っていましたの? わたくしにも見せてくださいませ」
「私も見るんだもん」
「あっ、こら、お前ら……!」
 藍玉 美海(あいだま・みうみ)久世 沙幸(くぜ・さゆき)は、箒に乗ったままその中身を覗き込む。明日香達の頭上からである。
「やっぱり……そっくりだよ」
 沙幸は、ノルニルの持っている写真を見て言った。電子マネー入り定期入れの中に入っていた写真。黒い髪をした、10歳くらいの少女の写真。それは、ピノにそっくりだった。
「妹さんなんですか?」
 ノルニルが振り返り、諦めたように立ち止まるラスに聞く。彼は、苦々しい顔で肯定した。目を逸らして、片手で頭を掻き毟った。
「……ああ、そうだよ」
「そうですかぁ〜」
 明日香は、珍しくからかうような事を言わずにしんみりと写真を見ていた。ノルニルも、しゅんとして少女を見つめる。ピノが似た姿をしている以上、剣の花嫁の性質上から考えて妹は亡くなっているだろうと思ったのだ。
 沙幸と美海も、黙ったまま箒に乗って浮かんでいた。一緒に来た皆も何だか元気が無い。剣の花嫁について知識を持っていないエイムだけが、状況が分からずにきょとんとしていた。
「皆様、どうしたのですの?」
「……あーーーもう! 俺が何も言ってないのに何を通夜みたいになってんだよ! いいから、それ返せ!」
 ずかずかと歩み寄ってきたラスに、ノルニルは素直に写真と定期入れを渡す。
「……亡くなっていないんですか?」
「……いや、死んでるけどよ」
「……紛らわしいこと言わないでください。一瞬期待したじゃないですか」
「そうかぁー。それは大変やなあ……」
 陽気だった日下部 社(くさかべ・やしろ)もしんみりし、何だか全体がしょんぼりとする。
「だから、そーいうのがうっとーしいんだよ! いいから、行くぞ! 今のぐだぐだで随分離され……って、スピード出せよこら!」
 飛空挺を再発進させるものの、皆、士気が下がりまくりでのろのろと付いてくる。その中で、沙幸が前に出てきてラスの隣に並んだ。
「私、いつも思ってたんだけど……ラスがピノの事を大切に思うのはとても素敵なことだと思うんだよ。でも、ちょっと過保護な気がするんだよね。ピノは妹さんに似てるけど、それが関係してるのかな。身代わりっていうんじゃないんだよね?」
「身代わり……じゃない。けど、それに近いのも確かだ」
「え?」
 意外な言葉に、沙幸がびっくりしかけた時――
「その話、詳しく聞かせてください〜」
 明日香が逆隣にすっとんできた。春夏秋冬 真菜華(ひととせ・まなか)も小型飛空挺をその下に付ける。
「ピノちゃんが身代わりなんて、聞き捨てならないよ! ピノちゃんはピノちゃんだよ!」
「ピノはピノだ。んなことは分かってんだよ。あいつは妹を直接は全く知らないんだからな。性格だって違う」
「妹さんが亡くなっていることは知ってるんですか〜」
「契約の時から知ってる。お互いに承知してることだ。妹の代わり扱いされる事が多いのも、割り切ってると思ってた。だけど、やっぱりショックだったんだな……」
「当たり前なんだもん。ピノだって誰かの身代わりだなんて思いたくないはずなんだもん」
「だから、身代わりじゃなくて、近い存在ってだけだって……妹と同じくらい……」
「……大切。それだけ……なんですよね……」
 下から、御薗井 響子(みそのい・きょうこ)が前を見たまま言う。
「ああ……いろいろと複雑なんだよ」
「じゃあ、その複雑な部分をぺろっと言っちゃってください〜。全部、ぺろっと!」
「何でそんなに聞きたがるんだよ!」
「途中まで聞いて、気持ち悪いじゃん!」
「そうですわ。ちゃんと聞かないと納得いきませんわよ」
 真菜華と美海が口々に言う。
「それに、あのスカスカなじゆうせって……いえ、なんでもありません〜」
「……楽しい話じゃないぞ」
 ラスはため息を吐くと、淡々と話し始めた。
「俺は、妹の死に目に会えなかった。間に合わなかったんだ……。妹はずっと入院してて、体調も良くなかった。それが、駄目かもしれないと聞いたのは、バイト中のことだった。そろそろじゃないかとは言われてたんだけどな。バイトっていっても、人数ぎりぎりで回してたから、休めなかったんだ。急いで病院に行ったけど、遅かった。もう死んだ後で……話を聞くとどうやら、俺に連絡した、と伝えた直後だったらしい。
 ……待ってたんだ。妹はその日、俺が来るのをずっと待ってた。会って、一言別れを言おうと待ってたんだ。でも、間に合わなかった。話したいこともあったろうにな。
 仕事よりも学校よりも、家族の方が大事だった。家族の為なら、仕事を投げ出せると思っていたし事実、そうした。ただ致命的だったのは、仕事先と病院の僅かな距離。
 俺は怖いんだよ。また――離れてるうちにピノに何かあって、間に合わなかったらって。だから、いつでも傍に居たいんだ。過保護だと言われようと、ピノに迷惑がられようと、それだけは譲れないんだ」
 残ったのは後悔。何故あの日に休みを取らなかったのか、いっその事、辞めてしまっても良かったのに。結局自分は、全てを彼女に捧げてはいなかった。どこかで、日常生活を、普通の生活に埋没していた。
 絶対的な罪として、やり直しのきかない罪として、それは自分の中に残っている。
 ただ、誰の顔も見ずに、独り言のように、彼は言う。
「ピノは妹とは違う。でも、あれだけそっくりだと、どうしてもあの時の事をおもいだしちまう。だから、身代わりに近い存在……ってとこか」
 そこで初めて、ラスは後ろを振り返った。明らかに、さっきよりも雰囲気が暗い。