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リアクション
16.はっぴーはろうぃん*お菓子をちょうだい!編。
「せっかくのハロウィンなんだから楽しくしなくちゃね」
白波 理沙(しらなみ・りさ)は、腕まくりして口元に笑みを浮かべる。
場所はキッチン。
恰好はエプロン。
目の前にはお菓子作りの道具と材料。
「皆に喜んでもらえるといいな〜☆」
理沙はお菓子作りが得意だから。
配って回りたいなと思ったのだ。
せっかくのハロウィン。
良い子悪い子普通の子。
関係なしに楽しく行こう!
そうして出来あがったものは。
カボチャをふんだんに使ったクッキーに、マフィンに、ケーキ。プリンもある。
「わ〜、理沙ちゃんすご〜い!」
数々のお菓子を前に、魔法使いの帽子とマントを着用したピノ・クリス(ぴの・くりす)が嬉しそうな楽しそうな声を上げた。凄いと言われて嬉しくないはずがなく、理沙は照れくさそうに笑う。
「ピノね〜、理沙ちゃんの作ったお菓子大好きなの〜」
うりゅん、可愛い瞳が理沙を見上げてくる。
うんうん、わかってるよ。
「だからピノも、とりっくおあとりーと、って言うの〜」
がおー、っと、襲うマネ。お菓子をくれなきゃイタズラするぞ! という言葉を、その愛らしい身体で体現しようとしているのだ。
その仕草が、瞳が、行動が、もう全部可愛い。
「もちろん、可愛いピノにもお菓子はあげちゃうわよ♪」
はいどうぞ、とクッキーを食べさせると、幸せそうな顔で「美味しい〜」と言うから。
楽しむことに、一役買えたかな?
そうだったら嬉しいな、と理沙は思うのだ。
*...***...*
お菓子を作る良い匂いの立ち上る、白波 理沙の家の前で。
魔女の仮装をして街に繰り出した椎堂 紗月(しどう・さつき)と、白い布を頭からかぶり、ゴーストの仮装をした死装束 葬姫(しにしょうぞく・そうひめ)。それから、吸血鬼の仮装をし、渋々といった表情をした小冊子 十二星華プロファイル(しょうさっし・じゅうにせいかぷろふぁいる)が円を組んでいた。
「いーか? ハロウィンといえば、『お菓子をくれなきゃいたずらするぞ』だ。
ということは、いたずらされないために。この日の為に、お菓子を作ってる人もきっといる!」
人差し指をぴしりと立てて、葬姫とせーかに説明する紗月。
その表情は真剣そのものであり、それにつられて葬姫やせーかの緊張も高まる。ごくり、唾を飲む音が聞こえた。
「だから、俺たちがお菓子をもらえぬ道理はなーい! 行くぞー! 楽しむしお菓子ももらえるし幸せな日だぞー!」
言って紗月は立ち上がる。
真剣な顔はどこへやら、楽しそうな顔で。
説明するには大事なことだから、真剣だけど。
やる分には楽しまなければ損である。
紗月が日本に居た頃は、こんな――ヴァイシャリーの街全てを使ったような規模でのハロウィンパーティなんて行われたことがないし、仮装だってできなかったし。
だから今日は思い切り楽しみたいのだ。
ちらり、葬姫とせーかを見遣る。
――……大丈夫かなあ?
とりっくおあとりーと、と言って回る相手より、こちらの方が心配だ。
葬姫は紗月の視線に気付いたらしく、上目遣いに紗月を見上げて、
「ドキ、ドキ。します。
それに、いきなり『お菓子をくれないといたずらするぞ』だなんて脅かしていいのでしょうか……」
心情を吐露。
「大丈夫か?」
ふるふる、頭を横に振られた。顔も俯けられる。
――あちゃ、無理か?
そう思ったら、
「……けど、」
言葉が続けられた。
「さっき見かけたお菓子、すごく可愛かった……。
紗月さん。今日は、そういう日だからいいんです……よね?」
もう一度見上げてきた瞳は、期待と興奮と緊張と、様々なものが綯い交ぜになったもの。
「おぅ! 葬姫が楽しめばいいんだぞっ♪」
わしゃしゃ、白い布の上から頭を撫でて、
「よし、あの家へ突入だ!」
「はいっ! あ、でも、あまり脅かしたくないから、えぇと、ど、どうしよう……?」
まあ、一人では無理だよな。
苦笑して、一緒に行く。
コンコン、ドアを叩いて。
一秒。二秒。三秒。
「はーい?」
ドアの向こうから、応答する理沙の声。
そこからまた一秒経って、ドアが開けられた。
無防備? 違う、今日がハロウィンだから!
「『Trick or Treat!』お菓子くんなきゃイタズラしちゃうぜっ★」
期待に応えるように、紗月は両手を広げて、ばぁ! と驚かす。
「きゃ!」
驚きと笑いが、半分半分のような声。
そんな理沙の後ろから、
「『と、とりっくおあとりーと!』お、お菓子をくれないといたずらしちゃいますっ!」
いつのまに回り込んだか、葬姫が声をかけた。
「ひゃあぁぁ!!?」
これにはかなり驚いたようで、悲鳴が迸った。
「おーおー葬姫、よくやったー♪」
「あ、あわわ。あまり、脅かさないように、って、あの、あのっ」
「あはは、平気よ。可愛いゴーストさんね♪ いらっしゃい、お菓子あげるから」
脅かされても、理沙は笑っている。
ハロウィンマジック。
そうそう、こうして楽しまなくちゃ。
リビングに通されて、お菓子を食べて、幸せそうに笑って――、
「あれ?」
いつまでたってもせーかが来ない。
疑問に思って戻ってみると、家の前に立ち尽くしたままだった。
「どした、せーか」
「甘い、お菓子……」
「美味しいぞー。ほら
もらってきたクッキーを差し出すと、おずおずと手を伸ばしてきて、それを取って食む。
顔を綻ばせたけど、
「ああ!」
頭をぶんぶん、横に振る。
「駄目です駄目です!」
「? 何が」
「紗月だけならまだしも、今回は葬姫もいますし……」
??
疑問符を浮かべたところで気付いた。
そうだ、せーかは甘いものが好きなことを隠しているつもりでいたのだった。
「い、いえ、決してお菓子が欲しいわけではないのですっ!!」
そんな、無理しなくていいのになあ。
「わたくしは子供ではないのですから!」
大人でも子供でも、甘いものが好きでいいじゃないか。楽しいことが好きでいいじゃないか。
どうしたものかと頭を掻いたら、気を遣ったらしい葬姫が家から出てきた。お土産のお菓子を手にして。
「あの、あの。せーかさん」
そしてそれを、差し出した。
「……うぅ。おか、し……」
手を伸ばそうとして、その手をもう一方の手で握り止める、という。何やら果てしない苦行に見えなくもない表情と行動。
しばらくの間が開き、
「仕方なくなのですっ!」
お菓子に手を伸ばした。
「べ、別にお菓子が好きというわけではないのですよ? ただ、紗月も葬姫も行ってしまうし、誘われたのに行動しないのも無粋だと思って……!」
「ケーキあるぞー。美味かったぜ☆」
「ふえ、ケーキっ! ……ではなくて、ですね!? 紗月、わたくしの話の最中に心を奪わないでくださいませんこと!?」
「あ、ごめん。じゃあ続きどーぞ」
「……うぅ、なんだかとっても癪ですわ……。
そう、癪といえば! 紗月や葬姫に取って来てもらうばかりというのが、まさにそれですの。ですから……つ、次のおうちでは、わたくしだってお菓子をもらいに行きますわ」
その言葉に。
紗月と葬姫は顔を見合わせた。
「紗月さん、あの。せーかさんって、もしかして……」
「よーし次の家行くぞー!」
せーかはそれを隠したがっているから、紗月はわざとらしく声を上げて誤魔化して(やりようがなかったけど)。
次の家にと、足を向けた。
*...***...*
今日はハロウィンだ。
だから、ミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)はクッキーを焼いた。
上手かどうかはわからないけど、料理を作ることが好きだから。
それと、ハロウィンを楽しんでもらいたくて。
作るお菓子をクッキーにしたのは、配り易さを考慮して、だった。
家に留まって、ただトリック・オア・トリートを待つばかりというのでは味気ないしつまらないし。
どうせなら自分だって楽しみたいから、配って回れるようにと思って。
そしてそれだけでもどうかなと思い、砂糖細工でジャック・オー・ランタンの人形を作り、ラッピング袋の中、クッキーと一緒に入れておく。
砂糖細工を作るのは、手間のように見えてそうでもない。
砂糖と卵白、水飴を混ぜたベースを型に入れればそれで完成。あとの細工はやすりと針と食紅でできる。
本職じゃないから、すごくきれい! とまではいかないけれど。
「うん、上出来♪」
素人が作ったにしては、とても良い出来。
それに心もこもっているのだ。
「OKだよねっ」
微笑んで、たくさんのクッキーを緩衝材を入れたバスケットに詰めた。
さあ、配りに行こう!
*...***...*
ハロウィン、ヴァイシャリーの仮装行列で賑わう広場には。
クッキー、ケーキ、スコーン。
甘い香りがそこら中に漂っていた。
また、スイーツ系でないパイや、ふかしただけのかぼちゃだったり、甘党ではない人への気遣いも万全。
そんな中。
「おにいちゃん、おねえちゃん。お菓子めぐんで?」
うりゅん、と、いたいけな青の瞳をうるませて、小林 翔太(こばやし・しょうた)はおねだりをする。
「ど、どうぞっ」
その愛らしさに、お菓子を配っていた女性は思わず渡してしまう。男性も、それを「どうぞどうぞ!」と勧めてきた。
そうしたくなってしまうほどに、可愛らしいのだ。
黒猫の耳としっぽをつけた、ミニスカ&ニーソックスのゴスロリ女装――もとい、仮装姿は。
「わーい♪ やった、お菓子ー♪ おねえちゃん、ありがとうっ」
満面の笑みを浮かべて、綺麗にラッピングされた袋を大事そうに持って。
「はっぴーはろうぃん!」
お約束の言葉を残して、たったかたーと走り去る。
翔太はお菓子が大好きだ。
世界中のお菓子を全て食べ尽くしたいくらい、大好きだ。世界征服になんて、頼まれても興味を持つことはないが、お菓子征服だったら頼まれなくても常に興味津津。
死ぬ時はお菓子の山の中で眠りたいと思うくらいの、お菓子好き。
むしろ死ぬほどお菓子が食べたい。
そんな翔太にとって、ハロウィンというイベントは至福なのであった。
すでにたくさんのお菓子を、バスケットに詰めていた。食べるのが楽しみである。
でもまだ足りないぞ、と広場を駆けまわっていたら。
「ふ、ふえ……」
泣き出しそうな少女の声と、
「ちょっと! 葱のこと泣かせないでよ!」
怒る少女の声。
「え、俺はそんなつもりじゃっ……!」
慌てる男性の声。
「ど、どうしましょう?」
混乱する中性的な声が聞こえてきて。
なんだろう? と疑問符。
声のところにたったかたー。
すると、ラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)が、九条 葱(くじょう・ねぎ)、九条 蒲公英(くじょう・たんぽぽ)、浅葱 翡翠(あさぎ・ひすい)を前におろおろとした様子で居るのが見えた。
*...***...*
そんなつもりではなかった。
ラルクは悔やむ。
目の前で怯える九条 葱を前に。
ただ、悔やむ。
事の発端は、ラルクがお菓子好きなことにあった。
「べ、別にいい大人が仮装してお菓子をもらっても、いいよな?」
自分を肯定する言葉を口にして、それに自分で頷いてさらに自己肯定して。
フランケンシュタインの仮装をし、ヴァイシャリーへ出向き。
「トリック・オア・トリート!」
お菓子を持っていた人へ、がおっ、
と脅して見せたのだけど、
「大人にはダメだよ」
拒絶された。
「大人がお菓子をもらったらおかしいか?」
「おかしくはないけど、僕が持っている分は子供にあげる用なんだ」
そう言われたら仕方がない。
子供の分を奪ってまで欲しいわけではないのだ。……そりゃあ、欲しいには欲しいけど。
大人なんて……! と悲しみに暮れること一秒未満。気を取り直して、今度こそもらえる人を、と視線を廻らせ、見つけた。
ミルディア・ディスティンがたくさんのお菓子を持ってきょろきょろと辺りを見回していたのだ。
あの子なら、もらえる。
なんとなくそう思った。
そして同時に、演技してみよう、と思った。
だってせっかくのハロウィンだから。仮装したのだから。
それにその方が面白そうだし。
「がおー! フランケンシュタイ……いや、これじゃ狼男か?」
予行演習を、と人がこちらを見ていない隙に、演技の練習。
「うがー! フランケンシュタインだぜ! お菓子をくれねぇと悪戯しちまうぞ!」
これだ! しっくりきた。ぴったりきた。
――よし、これで脅かすぜ!
そう思って振り返り、お菓子をもらいに行こうとして――足元で、葱が怯えた顔をしていたことに気付いた。
「……あ」
「フ、フランケンさ……ごめ、なさ、私、お菓子持ってな……!」
「いや、今のはお前に言ったんじゃなくて……!」
「で、でも、お菓子ないと、悪戯って……!」
ああ、言った。
言ってしまった。
葱が居ると気付かずに、葱に対して言ってしまった。
悔やむ。が、もう遅い。
「あ〜……。泣くな、泣くな。ほら、フランケンさんだぞー!」
自分でも何を言っているのかわからない。
――子供の扱いは得意じゃないんだよ!
どうすればいいのかわからないのだ。
ラルクは強面だ。
そのせいで、よく小さい子に泣かれたり、した。
だからだろうか、苦手意識があるのだ。決して嫌いではないのだが、仲良くなる前に恐れられてしまう。
「ほら、肩車!」
ひょい、と葱を抱きあげて、肩に乗せる。泣き声と震えがぴたりと止まった。
――お、こういうのが好きか?
思って、葱の顔を見上げる。葱は、目を輝かせていた。
「仮装行列がよく見えるだろ」
「はい」
「おっさんの言ってた悪戯ってのは、これのことだ。たかーく抱っこして、いろいろ見せちまうぞ! ってな?」
いい加減な言い訳だが、葱は疑ったりしなかった。
「こういう悪戯なら、そんなに嫌じゃないです」
と言って。
機嫌が直ってよかった、と思っている所に。
「トリックオアトリート! ……って言っても、あげる側だけどね」
先程もらいに行こうか、とラルクが見定めていた、ミルディアが近付いてきた。
「お菓子がほしいなら、みんなにあげる!」
はい! と、可愛くラッピングされた袋を渡される。
翡翠に、蒲公英に、ラルクと葱に。
「おお……! お菓子! サンキューな!」
「おねぇちゃん、ありがとう!」
「いえいえ、どういたしまして♪」
ラルクと葱がお礼を言うと、
「僕も、少しだけなら分けてあげるよー」
小林 翔太が中身の詰まったバスケットから、お菓子の袋を出してよこした。
「頑張って集めたんだけどね!」
「おいおい。いいのか?」
「いいよ。僕、食べるの好きだから」
その言葉と、この行動は矛盾していないだろうか?
疑問を浮かべたら、
「だから、食べれなくて悲しんでる人が居るなら嫌なんだ」
「お前……いいやつだなー」
じーん、と感動して、ありがたくお菓子をもらい、葱を肩から降ろす。
「あたしは別の人にも配るから、じゃあね!」
ミルディアはそう言って別れ。
残った五人は、座れるスペースを見付けてそこに腰掛けた。
行列を見ながら、お菓子を食べて。
「ハッピーハロウィン」
誰からともなく、その言葉。
甘いお菓子と楽しい行列。
それを見ながら、幸せな言葉。
*...***...*
シャンバラ教導団、装備科。
レイヴ・リンクス(れいう゛・りんくす)は、
「これ、お借りしますー」
寒冷地方仕様の白いギリースーツを手借り受けた。
無事に借りられたこと、目当ての装備があったことに対し、にこにこ笑顔を絶やさず自室まで戻ると。
借りた装備に手を加え始めた。
およそ一時間後。
「できた!」
晴れやかな顔で、レイヴは誰にともなくそう言った。
出来上がったものは、改造されたスーツ。
スーツの顔の部分を切り取って、顔が見えるように改造したのだ。ただ切っただけじゃなく、切った部分から糸や繊維が零れないよう、縫い合わせていたら思いのほか時間がかかってしまった。
時刻は昼を過ぎ、おやつの時間に近付いていた。
早く、向かわないと。
スーツを着込み、部屋を出る。
目指す場所は、ヴァイシャリー。
目的は、ハロウィンの仮装行列!
「Trick or Treat! お菓子をくれなきゃいたずらしちゃいますよ〜」
白波 理沙の家を訪ねて、そう一声。
玄関から顔をのぞかせた理沙と、ピノ・クリスの驚いたような顔にちょっぴり満足。
――きっと、仮装に驚いてくれたんだ。
初めてギリースーツを見た時に思ったのだ。「ああ、雪男っぽいな」……と。
それで、今回仮装行列があるということを聞いて、思ったことを実行に移してみようと思い立ったのだった。
それすなわち、装備の改造。
今のレイヴは立派な雪男に見えるだろう。
「はい、お菓子。お待たせ」
「ありがとうございます」
もらったお菓子を見て、心が躍った。
クッキー、マフィン、ケーキ。
どれもこれも美味しそうで、笑顔になる。
「あはは、可愛いね」
「え、可愛いって?」
「無邪気〜に笑うから!」
言われて、ぼっ、と顔が赤くなった。それを見て理沙がまた笑う。
「そ、そんなことないですよ。そんなこと言ってると、食べちゃいますよ」
「食べる?」
「僕は雪男ですから!」
「雪男だったんだ! 可愛いから何かと思ってた」
……酷い。
レイヴは、自身作だったのに……、と肩を落とす。
「きみは小柄だし、中性的な顔をしているから……そういう、厳めしい系の仮装よりも、魔女とかの方が似合ってたかもね?」
「うう。参考にします」
試合に勝って勝負に負けた、なんだかそんな気分で理沙の家を後にして。
――……あれ、魔女って女の子の仮装じゃない?
そんなことを思い、僕は男だ! と少し憤慨して、それからもらったお菓子を見て、やっぱりいいや、いい人だった、と思い直し。
「Trick or Treat!」
お菓子をもらって、回る。
「レイナ、喜ぶかな……?」
大量にもらったお菓子を抱え、帰途に就く。
思い浮かべるのは、パートナーの顔。
――一緒に食べたいな。でも、美味しそうだな。一個くらい……。
つまみ食いしそうになる衝動を必死で抑え、帰りつき。
先に装備を返してきちゃおう、そう思って返しに行って。
「この切りこみは何です?」
「え、あの」
「綺麗に縫えていますが……これをまた別の人に貸し出すのは無理ですね」
「……えっと。どうすれば」
装備科受付のお姉さんは、電卓をぽちぽち叩いて、ついっと翔太に突き付けた。
「弁償ということになります」
「……はい」
「今後二度とないように」
怒られつつ、ギリースーツの代金を払いつつ。
レイヴはしょぼくれても、めげてはいなかった。
「来年は……きっと、怖い雪男になるんだ! ここをもっとこう改造すれば……」
意見をもらった魔女コスのこともどこへやら。
あくまでも雪男に執着するレイヴであった。