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エリザベート的(仮想)宇宙の旅

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第12章


「――できた」
 ダリルはボソリと呟くと、ひな壇の方に向けて手を挙げた。
 昨日は順番待ちの人員が並んでいたひな壇には、今は数人しか座っていない。
 そのうちのひとり、天城一輝はダリルの席に駆け寄ると、今し方に作られたファイルを銃型HCへ転送した。
「使い方は?」
「目標の衛星に近づいて、このファイルの実行結果を〈情報攪乱〉で衛星に送り込んでやればいい」
「分かった」
「仕掛けを打つ衛星の目録も、衛星が使っている電波の周波数帯やプロトコル、暗号化形式も、ファイルの中に書き込んである。目標は、『統制』担当及び『統制』からの指示を中継している衛星だ。片っ端から吶喊して、片付けていってくれ」
「破壊した方が早くないか?」
「相手のイレギュラー対応の底が見えていない。あまり強く刺激すると、報復措置で地上管制基地にミサイルの雨が降る、なんて可能性もゼロじゃないからな」
「……戦争なんだな」
「あぁ」
 ダリルは頷いた。
「だが俺は、誰も死なせるつもりはない。仮想ミッションだったとしても、だ」
「心配するな。こっちだって死ぬ気はない」
「……打ち合わせの時にも言ったが、1号機は離陸後、管制とも他の機体とも一切通信が取れなくなる。危険と思ったら、すぐに地球に戻ってくれ」
「危険じゃない戦場なんざありゃしないさ」
「……グッドラック」
「グッドラック」
 一輝は管制室から出た。背中から、他の管制メンバーからの「グッドラック」という声が追いかけて来た。