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最終決戦! グラン・バルジュ

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最終決戦! グラン・バルジュ

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第五章 イービルブリンガーを目指して

「はい、ちょっと眠っててね〜」
 ヒプノシスで兵士を眠らせつつ先を進む清泉 北都(いずみ・ほくと)。傍らには、超感覚を発動させて周囲を警戒する白銀 昶(しろがね・あきら)の姿があった。
「外壁付近にあるって話だけど、どこなんだろうな」
 ぴょこぴょこと狼耳を動かしながら目を移す昶。
「そんなに遠くはないはず……よっと」
 廊下の端に兵士を引っ張っていくと、北都は後ろに続いていたメンバーに話を振った。
「う〜ん。どうなんだろうな……敵もそんなに多いかんじはしないし……」
 とは言いながらも、即座に対応できるようヴァーチャースピアを構えながら移動しているのは、大岡 永谷(おおおか・とと)。パートナーである滋岳川人著 世要動静経(しげおかのかわひとちょ・せかいどうせいきょう)の前をかばうようにして歩いている。
「探すのは、北都さんたちに任せるぜ」
 永谷は信頼しているのか捜索を丸投げしているのか、判断がつかない言葉を返した。
 北都たちは、グラン・バルジュ侵入以降、破滅賛美ス災厄ノ流星(イービルブリンガー)が設置してあると思われる、外壁部分へと向かって足を進めていた。
「わらわは永谷殿の力になれればそれでよいでござる」
 白雪のような美麗な顔に柔和な笑みを浮かべて、自分の契約者を見つめる世要。
 とその時、
「……!! ちょ、やばいのが来るっ!! みんな、伏せろっ!」
 昶が、他の三人を押し倒すような形で飛びかかった。
 直後に訪れたのは、轟音と爆風。
 耳と肌に容赦なく降り注ぐ衝撃を、四人は確かに感じ取った。
「何なんだ……おい」
 起き上がった永谷の視界に飛び込んできたのは、壁に開いた大きな穴と、つい先ほどまで足をつけていた床に飛び散っている、瓦礫のごとき破片。
 そして、その瓦礫の上に悠然と佇む、二つの影だった。
「やれやれ……どうやらここは違うようですね……」
 魔鎧の形態を解く赤嶺 霜月(あかみね・そうげつ)と彼のパートナー戦闘舞踊服 朔望(せんとうぶようふく・さくぼう)の姿であった。
 彼らは、レッサーワイバーンを使って壁を壊して入ってきたのだ。
「さて、櫟で怪しそうな壁を壊してみたのはいいものの、ここじゃないみたいですね……」
「たぶん、外からじゃ視認できないのではないかと思います。起動したときにのみ壁外に露出するとか、イービルブリンガーはそういう機能になっているのではないかと……」
 人差し指で眼鏡のブリッジを押さえて、朔望は私見を述べる。
「なるほど……。それもそうですね」
 冷静に黙考を始める霜月。
「ちょ、おいおい! オレらのことはシカトか!?」
 今まで事態を黙って見ていた昶が文字通り、狼のように噛み付いた。
「ああ、失礼。無視していたわけではないんです。あと、知らなかったとはいえいきなりこんな乱暴なことをしてすいませんでした」
 慇懃に頭を下げる霜月。それに倣うかのように、朔望も頭の位置を下げた。
「さっきちょっと聞こえたのですけど、あなた方もイービルブリンガーを探していたりしますか?」
 怒りが収まらない昶を制しつつ、北都が尋ねる。
「ええ。外壁からなら見えるかと思ってワイバーンで回っているのですが、見つからないですね」
「そうですか……困りましたね」
 二人して申吟し始めたとき、大勢が走ってくるであろう足音が響いてくる。
「貴様らっ、侵入者だなっ! 覚悟しろ!」
 おそらくは、さっきの音を聞いて駆けつけてきたのであろう。
 大勢の部下を率いた、出っ歯で細い体躯のバルジュの隷使らしき兵士がそこにはいた。
「イービルブリンガーへの道は通行止めなのだぁ〜」
 今度は、太って小柄な兵士が、回り込むようにして、道を塞ぐ。
「あれあれ、今イービルブリンガーの道がどうとか言いましたよね」
「なるほど。道はこっちか。ありがとよ!」
 永谷が皮肉の笑みを浮かべる。
「き、貴様ら、我らが同士を謀って情報を引き出すとは! 何たる奴らだ!」
 ムキーと、頭頂部から湯気を出して怒りだす出っ歯。
「いやいや、そいつが勝手にしゃべっ――」
「問答無用! かかれーーっ!!」
「……くっ、人の話を聞けってのに」
 はき捨てるように苛立ちを口にすると、昶は戦闘態勢へと移った。

◆◇◆

「今の音、何だろう……」
 グラン・バルジュを彷徨する神野 永太(じんの・えいた)燦式鎮護機 ザイエンデ(さんしきちんごき・ざいえんで)ミニス・ウインドリィ(みにす・ういんどりぃ)もまた、ワイバーンの轟音を聞いた。
「なんだかすごいことになってそうだね。行ってみようか。ザイン、ミニス」
 苦笑いしつつ、一緒にいたザイエンデとミニスへと問いかける永太。
「はい。お供します」
「よーし! 張り切っていくわよ!」
 各々、やる気を見せる。
 そんな二人の反応を見て、走り出す。
「とりあえず、敵が集まってそうな場所に行けば、何かありそうだね――と」
 先ほどの音が聞こえてきた方向を大まかに思い出しながら二、三辻ほど曲がっただろうか。
 永太の目の前に、狼狽しきっている兵士たちの姿が見えた。
「な、何なんだよさっきのは!?」
「何でもイービルブリンガーの方かららしいぞ!」
「おいおいまさか……。やめてくれよな――って、何者だっ!」 
 ラスターエスクードを前面に押し出すようにして、永太はダッシュローラーで敵群に突っ込んでいった。
「うおおおおおおおっ!!」
 雄たけびを上げながら、敵兵をボーリングのピンのように跳ね飛ばしていく。
 まるでモーゼの奇跡のごとく、永太の通った跡の部分だけ綺麗に床が露出している。
「ええいっ! 調子に乗るなよ!」
 永太の軌道の脇へと避難していた兵士たちが、一斉に永太の背部へと迫り来る。
 大量に押し寄せる殺気に反応し、振り返る永太。しかし、間に合わない――

「後ろの敵は――まかせろっ!!」

 言葉と共に、光が起こる。
 次の瞬間、その場所に立っていたのは、後頭部で結んだ長髪を揺らして微笑む御剣 紫音(みつるぎ・しおん)だった。
 永太の危機を察し、飛び込みながら則天去私を放ったのだ。
「紫音、さすがやわぁ〜」
 一緒に来ていた綾小路 風花(あやのこうじ・ふうか)が、うっとりとした表情で紫音を見つめる。
 風花と並ぶアルス・ノトリア(あるす・のとりあ)アストレイア・ロストチャイルド(あすとれいあ・ろすとちゃいるど)に至っては呆けた表情だ。
「助かりました。紫音さん」
 永太が礼を言う。
「いや、気にしなくていい。それよりも、さっきの音……」
「ええ。イービルブリンガーの方です。私たちもそれが気になって、イービルブリンガーを目指しているんです」
「はは。これは都合がいいや! 実は俺たちもイービルブリンガーを目指してたりするんだ。ここで会ったのも何かの縁だ。一緒に行こうぜ!」
「はいっ! お願いします」
 永太の快諾を聞いて、パートナーへと振り返る紫音。
「みんなも、それでいいだろ?」
「紫音がいくとこなら、どこでもついてきますぇ」
「わらわの力を見せてやるわ」
「我、魔鎧となりて我が主を護らん」
 紫音にアピールするかの如く、風花、アルス、アストレイアはやる気を見せる。
「決まりだ! 急ごう!」
「ああ!」

◆◇◆

 永太たちが再びイービルブリンガーへと向かいだした頃。
「もう少しですわよ〜。がんばってくださいまし〜」 
 グラン・バルジュの壁を登りながら、リリィ・クロウ(りりぃ・くろう)カセイノ・リトルグレイ(かせいの・りとるぐれい)に激励の言葉を掛ける。
「うわ……ちょ、結構高ぇ!」
 下を見て、ちょっとした恐怖感に襲われるカセイノ。
 グラン・バルジュに侵入後は、外壁の周りを歩きながらイービルブリンガーを目指していたリリィたちだったが、当然見つからなかった。
 一度計画を立て直そうとしていたその時、あの壁破壊が起こった。
 しばらくは呆然としていた二人だったが、リリィが何かを感じたのだろう。あの穴へと向かうことを提案したのだった。
 こうした経緯があって外壁を上がっているのだが――
「最初はあんまり高そうじゃなかったのによー!! 詐欺だ詐欺!!」
「はいはい。文句をおっしゃる暇があるなら登ってくださ――あら」
「つかまってくださいー!」
 常緑のサイドヘアを揺らしながら、ヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)が穴の中から外に向かって手を伸ばしている。
「んー……! んしょっ!!」
 小さな手で、最初に上がってきたリリィを一生懸命引っ張る。
「ありがとうございます」
「いえいえー」
「ああ〜。がんばってるヴァーナーちゃんめっちゃ可愛えええ!! なでなでしていいかい?」
 ヴァーナーの救助活動を見ながら、恍惚と目を細めるクド・ストレイフ(くど・すとれいふ)
「いいですよ〜。ただもう一人いらっしゃるので、その後でもいいですかー?」
「いいよいいよー。待ってますよー」
「わかりましたー。よっと――ふぐぐっ!」
 しばらくして穴に到達したカセイノを引き上げるヴァーナー。
「ふへー。ちょっと疲れちゃいました……。ふきゅっ」
 尻餅をつくヴァーナー。その頭に、クドの手が優しく置かれる。
「よくがんばったねー」
「ク、クドおいにちゃん、くすぐったいです〜」
 きゃはは、と明るい笑い声を上げる。

「き、貴様ら〜! まじめに戦わんか〜!!」

 ほんわかな雰囲気を打ち砕いたのは、バルジュの隷使の兵士だった。
 偉そうな態度のまま怒鳴っているのは、出っ歯で細身の兵士。
 ん、とクドが周囲を見渡すと、永谷や霜月が敵兵を蹴散らしていた。そんな真面目な仕事ぶりを見て、少し罪悪感を覚える。
「おっと、そろそろ萌え萌えタイムは終わりにしましょうかね〜」
 表情を引き締めて、魔道銃を構えるクド。
「ルイさん! そろそろお兄さんもがんばりますよ〜」
「おお! クドさん! 休憩は終わりましたか?」
 白い歯を反射させながらルイ・フリード(るい・ふりーど)が嬉しそうに笑顔を浮かべる。
「バッチシっすよー」
「はっはっは! では――」
 クドの前でしゃがむと、棒っ切れのように彼の足を持ち上げた。
「えっ、あれれ?」
 急に視界が上下反転し、ぱちくりぱちくりと瞬きを繰り返すクド。
「いきますよーーーーーーーー!!!!!」
「えええええええええええっーーーーーーーーーー?????」
 クドを武器にして振り回していくルイ。
「ひっ! 味方を……な、なんてヤツだ」
 文字通りの“人間兵器”に、敵がドン引きしている。
「そりゃーーーーーっ!」
「ふげっ、ぼごっ、ぎびっ、がべっ、へぎっ、ぐがっ、どぎゃっ、あびっ」
 敵兵とぶつかったときの短い悲鳴。
 その種類のギネス記録を更新するように、周りにいた多くの敵兵を倒していくルイ――と、クド。
「あちゃ〜。あれは大変そうですね……。クロスさん、もし彼が怪我したら、リカバリお願いしますね」
「ははは……、り、了解です」
 北都の言葉に苦笑しながら、自身も敵へと向き直るクロス・クロノス(くろす・くろのす)
「まだまだ敵が増えそうですね。パワーブレスッ!!」
 裂帛の気合を放ち、敵兵たちへと向かっていくクロス。
 強い踏み込みと同時に繰り出される槍の一撃で瞬殺した後、槍を旋転させ、複数の敵を殴り飛ばす。
 精妙な槍使いを見て、敵の顔にも焦燥の色が浮かんでくる。
「く、くそっ! この屈辱は必ず倍にして返すからな!!」
「だ、大体0.7倍ぐらいにして返してやるんだな〜」
「ば、馬鹿者っ! それでは減っているではないか!」
「す、すいません。たいちょー!」
 どひー、とそのまま逃げていく出っ歯と小柄の太っちょ。
 それに続いて、生き残っていた兵士も各々散るように逃げていく。
「すげーなぁ。あいつ、隊長だったんだ……」
 静まり返ったその場所で、場違いなコメントをこぼす永谷。

◆◇◆

「そういえば、みなさんはどうやってここに?」
 敵の逃亡からしばらく後、リリィが口を開いた。
「あ、はい。私はあの音を聞いて、グラン・バルジュを必死で走り回っていたらここに来ていました。途中でヴァーナーさんとルイさん、クドさんと会ったといった流れですね」
 う〜ん、と両目を回しているクドにリカバリを使用しながら、これまでの経緯を説明するクロス。
「最初にここにいたのは、僕たちだったんだけどね〜。霜月さんが急に壁を壊してやってくるんだもの。びっくりしちゃったよ」
「あはは……」
 気まずそうに頬を掻く霜月。
「待て。今の話を整理するとだ。外壁をわざわざ登らなくても、ここに来ることは可能だったってことじゃねーのか……?」
 引きつった顔のまま、リリィへ疑問を投げかけるカセイノ。
「し、しらんぷり〜」
 冷や汗を浮かべつつ、カセイノの視線から逃げるように顔を逸らす。
「ぐっ……この」
「ま、まぁまぁ……。敵と全く会わずにここまで来れたというのは良いことだと思いますよ」
「そ、そうですわ〜。わたくしはそれを見越してましたの。ほほ、ほほほ〜」
 霜月の意見を利用し、自己弁護を図る。
「……うまく誤魔化しやがったな」
「と、とりあえず先に進むか」
 永谷の掛け声に、皆が頷いた。

◆◇◆

 永谷たちが去ったその頃。
 新しくその場に来た者たちがいた。
「兄さん、こっちから邪悪な気配を感じますっ!」
 ディテクトエビルでイービルブリンガーの場所を掴んだ紫月 睡蓮(しづき・すいれん)が、紫月 唯斗(しづき・ゆいと)へと叫ぶ。
「っぽいな。今行った奴らもおそらくきっと、イービルブリンガーを狙っているだろうな」
 あくまでも冷静に返す唯斗。
「ほう、では今からでも追いかけて一緒に行ったほうがいいのではないか?」
 長い銀髪を掻き揚げながら、エクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)が提案する。
「確かにその方がいいかもしれん……。だが、俺もいろいろ考えているんでね」
「なるほど。さすがはマスター」
 賞賛の言葉を送っているのは魔鎧、プラチナム・アイゼンシルト(ぷらちなむ・あいぜんしると)だ。
「さて、無駄話もここまでだ。先を急ごう」
 先に行ったメンバーたちの後を追いかけ始めた。