校長室
学生たちの休日6
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★ ★ ★ 「年末年始鍋パーティー!! ぱふぱふぱふー!!」 芦原 郁乃(あはら・いくの)が、コタツに集まったパートナーたちを前にして高らかに宣言した。 さすがに、今回は闇鍋ではなく、ちゃんとした鍋パーティーとなっている。パートナーたち全員一致の多数決の結果だ。 だが、鍋自体がトラウマとなりかけていた蒼天の書 マビノギオン(そうてんのしょ・まびのぎおん)は、鍋その物を頑なに反対していた。とはいえ、宴会自体は賛成であったので、今回は妥協した形だ。 鍋の調理は秋月 桃花(あきづき・とうか)が一人で担当し、芦原郁乃には指一本触らせなかったので、今回こそは救急車を呼ばなくてもすむだろう。 「こほん。それでは、開会にあたって、わたくし芦原郁乃から、一人に一言ずつ申しあげさせていただきます」 立ちあがった芦原郁乃が、小さく咳払い一つして話し始めた。 「えーっとまずは桃花! 今日のセッティングありがとう!」 わーいと、なぜか荀 灌(じゅん・かん)が力一杯喜ぶ。 「それと鉄壁の守りでみんなを守ってくれてありがとう」 あらためて褒められて、秋月桃花はちょっと恥ずかしそうだ。 「次はマビノギオンだな! いつも後方からの支援が心強いよ。それから荀灌! 最年少ながら一緒に戦ってくれてありがとうね!」 「私たちって、なんだかいつも戦ってばっかりなの?」 荀灌が、小声で蒼天の書マビノギオンにささやいた。 「それじゃ……」 「ちょっと待ってください」 いざ乾杯となるところで、秋月桃花が割って入った。 「いちにのさん……、郁乃様も、お疲れ様!」 タイミングを合わせて、三人が一斉に言う。 「じゃ、じゃ……。あらためて、かんぱーい!」 「かんぱーい!!!」 ちょっと感動して、涙ぐみながら芦原郁乃が叫び、パートナーたちがそれに唱和した。 「すっごいおいしいですっ!」 荀灌が、鍋を一口食べて叫んだ。今までとくらべたら天国だ。 「ふふっ。ありがと。いっぱいあるから遠慮なくおかわりしてね♪」 嬉しそうに、秋月桃花が答えた。 「やはり、食事は一人よりもみんなと一緒の方が美味しいのですね」 しみじみと蒼天の書マビノギオンが言う。 「あたりまえじゃない」 間髪入れず、芦原郁乃がそう言った。 ★ ★ ★ 「たまには、こういう何もない日もいい物だな」 自宅のソファでゆったりとくつろぎながら、イーオン・アルカヌム(いーおん・あるかぬむ)は、セルウィー・フォルトゥム(せるうぃー・ふぉるとぅむ)の淹れてくれたコーヒーを口に運んだ。 「今ごろ、セレスティアーナはどうしているだろうか」 居間に流れる四重奏のBGMとともにヴァイシャリーにいる東シャンバラ代王であるセレスティアーナ・アジュア(せれすてぃあーな・あじゅあ)に思いを馳せていると、突然電話が鳴った。 「こんなときに無粋な電話をかけてくるのは……やはり実家の者たちか」 アンティークなファッション電話を一瞥して、イーオン・アルカヌムが軽く眉間に皺を寄せた。 実家からの専用回線電話であるから、内容など決まっている。パラミタでの魔術的な研究の成果を早く送れというのだ。彼らがイーオン・アルカヌムに見出している価値というのはそれだけだ。それ以上でも以下でもない。自らパラミタに来ることもせず、結果だけを享受しようとしている者のことなど、考えてやるにも値しない。 「チッ、しつこい……」 鳴り止まない電話に、穏やかだったイーオン・アルカヌムの顔が変わっていった。 「コーヒーを、お持ちします」 セルウィー・フォルトゥムが、電話の音を無視しつつも、横目でそれを睨みつけてからイーオン・アルカヌムに訊ねた。 「ああ。頼む」 イーオン・アルカヌムが、それだけ言う。 キッチンからポットを持ってきたセルウィー・フォルトゥムが、わざとらしく何もない絨毯の上でつまずいたかに見えた。ポットから零れたお湯が、電話にかかる。軽くショートする火花が飛び、電話が沈黙した。 「失礼いたしました」 何ごともなかったかのように、セルウィー・フォルトゥムが床に零れた水を拭き取り、電話を取り去る。 「セルウィー」 イーオン・アルカヌムが、あらためてセルウィー・フォルトゥムに呼びかけた。 「なんでしょう?」 「私の分のコーヒーを頼む」 「イエス・マイロード」