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クリスマス…雪景色の町で過ごすひととき…

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第23章 どっちも大切な家族だから・・・

「ハードなやつじゃなくって、のんびりと過ごせる乗り物にしようか」
 ヴィナ・アーダベルト(びな・あーだべると)は手にしているマップを開き、家族3人が楽しめる場所がないか探す。
「決まったら教えてよ」
 行く場所が決まるまでベンチのところで待っていようと、カシス・リリット(かしす・りりっと)はとすんと座る。
「うん、分かった!遊園地なんて初めて来たから、どこから行ったらいいか迷っちゃうね」
 彼の方へ振り返って言うと『カシスの日記』 カーシェ(かしすのにっき・かーしぇ)は、マップの方に視線を戻す。
「カーシェはね、ぜーんぶ乗りたい♪」
「あははっ、回りきれるかな」
「えぇ、せっかく来たんだもん。いっぱい乗りたいよ」
「カーシェ、あまりヴィナを困らさないようにね」
 だだをこねる少年にカシスがメッと叱るように言う。
「むぅ〜分かったよ。それじゃあね、この冒険ものっぽいのがいい!観覧車は最後に乗ろうね♪」
「じゃあそれにしようか」
「場所が決まったんだね?」
 ベンチから降りるとカシスは2人の傍へ行き、氷雪のアトラクションへ向かう。
 氷雪の館の門の傍には小さな小人の形をしたガラスのような彫像が飾られている。
 列に並んで待つこと1時間20分、やっと中へ入ることが出来た。
「ちょっと進んだところに汽車があるみたいだけど、どんな旅が出来るんだろうね?中はどうなっているのかな」
「カーシェったらあんなにはしゃいじゃって・・・」
「はぐれたら迷子の呼び出しをしなきゃいけなくなるよ」
「あっ、じゃあ手つなごう♪」
 ぱたぱたとヴィナのところへ戻ったカーシェが彼の手をぎゅっと握る。
「まぁ今日くらいはね」
 先に彼の手を握られたと眉を顰めるカシスにクスッと笑って見せる。
「つなぐかい?」
「あぁ・・・2人がはぐれないようにつないでやらなくもないよ」
 そっぽを向きながら差し出されたヴィナの手を握る。
 カーシェはカシスの方を見上げて“本当、ツンデレだなぁ”と心の中で呟いた。
「いかにも子供が好きそうな作りだな」
 カシスはストライプのキャンディーの形をした橋や、ウェハースのような形のベンチを見て言う。
「うわ〜ぁっ、歩いたところが光ったよ!面白いねっ」
 とことことキャンディー形の橋の上を歩くと足元がポンッポォンと光り、不思議そうにカーシェが目を丸くする。
「奥にも何かあるみたいっ!」
「あっ、離れたら迷子になっちゃうよ。まったくカーシェったら、手を離したらすぐ走って行ってしまったね。本当にはぐれてしまいそうだよ」
「あれほどヴィナを困らせないように言ったのに。カーシェ、止まるんだ」
 困り顔をするヴィナを見たカシスは、1人で奥へ進もうとうるカーシェをの服を摘み、まるで小動物を引き寄せるかのように自分の方へ引き寄せる。
 2日連続で出かけている彼を疲れさせないように、カシスが先に少年を捕まえた。
「うぅ、ごめんなさい」
 カーシェはしゅんとした顔で謝る。
「もう1人で走るんじゃないよ」
「はぁ〜い・・・。あっ、見て!あっちの方、すっごく明るいよ。そこにある乗り物で行けるみたい」
「行ってみようか?」
「小学生が乗るような感じでちょっと恥ずかしいけどね。2人が乗るなら、俺も乗らなきゃいけないか。へぇ〜、下はさらさらした氷だね」
 そう言いながらもカシスは彼らの後ろに乗り、カキ氷の谷の間にある砂漠を見下ろしてアトラクションを楽しむ。
「レールなしで走るなんてちょっと変わってるね」
 列車はシュシュシュッと走り、谷から谷へと移動する。
 汽車から降りると子供の形をしたクッキーたちが、フロアの中央にあるクリスマスツリーを囲むように踊っている。
「あれはソリッドビジョンだね?触れられるなんてずいぶんと手が込んでいるな」
 カシスはガイドブックの説明を見て、クッキーと手をつないで踊るカーシェへ視線を移して呟く。
「コマドリの形をしたランタンが飛んでいるよ。なんだかまるで異世界に来たみたいだね。上のやつもそうかな?」
「上・・・?あっ、灯りから降ってくる星をカーシェが食べているよ・・・っ。仕組みが気になるね」
 ヴィナの声にカシスはカーシェの方を見ると、星のシャンデリアから流星群のように降り注ぐアイスを、少年があ〜んと口を開けて食べている。
「キレイだね・・・」
「うん、本当に・・・キレイだよ」
 ダンスフロアに流れ星が降り注ぐ光景を、楽しそうに眺める彼の姿を見たカシスがぽつりと呟く。
「そろそろ出ようか?」
「うん。もうすぐ昼だからね。カーシェ、もう出るよ」
 ランチにしようとカシスはカーシェを呼び、3人はアトラクションから出てフードコートへ行く。
「―・・・うーん、カレー系が見つからないな」
 カシスはキョロキョロと見て探してみるが、なかなか見つけられない。
「ねぇ、カレーが求められているよ。あの3人家族だね」
「うん求めるならカップルじゃなくても、家族さんたちにも振舞ってあげなきゃね。ちょっと・・・辛いけど大丈夫かな?」
「辛さを控えめにしたやつならいいんじゃない?」
「そうだねぇ」
 サンタに言われクランプスが移動式の店を彼らの前へさっと引っ張る。
「クランプスとサンタのクレープ屋があるよ!ねー、食べたいーっ」
「カーシェ、店の中で食べない?」
 この寒い日になぜ外で食べるのかと、カシスが首を左右に振る。
「やだぁ、ここがいいっ」
「あまりだだをこねると、クランプスにかごの中へ入れられて連れて行かれるよ」
「むぅ〜、だって美味しそうな匂いがするんだもん。それに、カーシェはいい子だから連れて行かれないよっ」
「クレープ屋か・・・まぁそれでもいいんじゃないか。カレーものがあるみたいだし?」
「はぁ〜仕方ないな・・・」
 暖かい店の中で食事したかったが、他の店で特に食べたいものがなかったため、カシスはクレープ屋で食べることにした。
「サイコロを振って、出た目で決まるからね」
「1のぞろ目が出ればいいってことかな」
 クランプスからサイコロを受け取ったカシスが、テーブルの上へ転がす。
「カーシェも転がしたい〜♪ヴィナもやろうよ」
「この2つのサイコロを転がせばいいのかな?」
 コロコロコロンッ。
 カシスは1と3でカーシェは6のぞろ目だった。
 そしてなんと・・・ヴィナがカレーの1のぞろ目、ファンブルを出してしまう。
「交換してあげようか?」
「ありがとう。じゃあ俺の出目の方は、自由に注文していいよ」
「そうするよ。ソーセージとチーズのパスタのクレープにしようかな。待っていると冷めちゃうからカーシェは先に食べててよ」
「紙で包んだ方を持って食べてね」
「うん!クリームシチュー美味しい〜」
 サンタから受け取ったカーシェは冷めないうちにもぐもぐと頬張る。
「お待ちどうさま、パスタのクレープだよ」
「チーズがきいてていい味だね」
「カレーの方、どうぞー」
「ほかほかだね。なんか・・・不思議な味だけど」
 ハバネロを控えめにして別の香辛料を入れたカレークレープを口にしたカシスが眉を潜める。
「そうそう俺さ、ハロウィンのパティシエコンテストに8位入賞したんだよ」
「へぇ〜どこでそんなのがあったんだ?」
 クレープを食べながらカシスはヴィナの方へ顔を向ける。
「イルミンスール魔法学校でだよ」
「(あの料理音痴がよく頑張ったもんだ・・・。褒美がてらに一口くらい分けてやるかな)」
「くれるのかい?」
「あぁ、ただし一口だけね」
 カレーのクレープをご褒美としてヴィナに食べさせてやる。
「食べさせてくれるなんて嬉しいね」
 ぱくっと一口食べさせてもらい、ニッコリと微笑む。
「カーシェのヴィナにあげるから、そっちの食べさせて」
「うんいいよ」
 ヴィナは少年の背丈に合わせて屈み、食べさせてやる。
「ごちそうさま」
「美味しかったよ♪」
「―・・・まぁまぁだったと思うよ」
『また来てね♪』
 クレープ屋から離れていく3人に、クランプスとサンタがふりふりと手を振るった。
 コーヒーカップやミラーハウスへ行って遊び、日が沈んでアトラクションがライトアップされる頃、ヴィナたちは最後に行こうと決めていた観覧車に乗る。
「もうすぐ頂上に着くね。―・・・う〜ん、」
 観覧車がてっぺんへ着きそうになる頃、カーシェは眠たそうに欠伸をする。
「ふぁ〜・・・ヴィナ膝枕して」
 ぽふっと彼の膝の上へ頭を乗せる。
「いろんなアトラクションを回って疲れたんだろうね」
 眠ってしまったカーシェにヴィナが膝枕をしてやる。
「(だいぶはしゃぎ回ったから眠いんだろうな・・・。まぁ、俺もさすがに少し疲れたけど、楽しかったな)」
 カシスはくぅーと寝息をたてるカーシェを見て心の中で呟く。
「(よい子のカーシェは寝たふりするのだよ。恋のきゅーぴっどなの)」
 しかしこの少年は本当に眠ってしまったわけではなく、2人きりの時間を作ってあげようと眠ったふりをしているのだ。
「俺ってさ、果報者だよね。人によっては軽蔑するかもしれないけど、俺は今の形が凄く幸せだよ」
 カーシェの頭を優しく撫でながらヴィナはカシスの肩を引き寄せて、彼にありがとうの感謝の気持ちを伝える。
「―・・・俺も、そうだよ」
 腕の中におさまっているカシスは照れくさそうに彼を見上げる。
 観覧車が下の方へ着く頃、カーシェはぐーっと背伸びしをして起きたフリをする。
「(ゆっくり話せたかな・・・?)」
 2人の会話をこっそり聞いていた少年は、彼らを見てニッコリと微笑んだ。