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リアクション
3,砦の内側
「ボクは右を」
「では私は左を」
お互いのターゲットを確認すると、アリア・セレスティ(ありあ・せれすてぃ)と真口 悠希(まぐち・ゆき)の二人は通路に飛び出し、道を塞いでいたコボルドの兵士を打ち倒した。
「お二人とも、お強いんですね」
アイアルは二人のあっという間の活躍を見て、目を丸くしていた。
「そんなことありませんよ」
とアリア。
「いえいえ、謙遜など。お二方の動きを見て、きっと外も大丈夫だろうと思えてきました。私が邪魔にならなければいいのですが」
「大丈夫です。アイアルさまのおかげで、ボク達も助かっています」
悠希はそう言うと、【光学迷彩】で姿を消した。
二人はアイアルの護衛として、一緒に砦の中を進んでいた。本来は、彼の護衛は彼の兵士がするべきなのだろう。ゲリラ兵も何人か潜入したいと立候補した者も居た。しかし、何故かアイアルは彼らの意見を取り下げ、外で戦うように命じたのだった。
アイアルはこの砦の内部に精通しているらしく、ほとんど戦闘らしい戦闘に出くわさないまま三人は奥へと進んでいっていた。これだけこの砦のことがよくわかっているのなら、なおさら自分の兵を連れてきた方がより効率よく動けるだろう。
「あの、聞いていいですか?」
「なんですか?」
「どうして、今まで一緒だった兵士は中に入れないようにしたんですか?」
アイアルはその質問に対して、少し黙った。が、すぐに観念したような顔になる。
「協力者のみなさんに黙っていていい話ではありませんね。お話します。真口様もお聞きください」
そう言うと、少し周囲を確認してからアイアルは話しはじめた。
「この砦の指揮官はウーダイオスというらしいのです」
「うーだいおす?」
「ご存知ありませんか、それも当然ですね、私達の国では有名なのです。この男は、随分と腕の立つ騎士だったそうなのですが、それと同じくらい危険な男だったそうです。学者の家筋だったらしいのですが、人を殺しても怒られないからなんて理由で騎士を目指したという話しで………訓練と称して自分の部下を六人、それでも満足できずに市民を十三人殺したというのです」
「そんな人が指揮官なのですか」
悠希が尋ねると、アイアルは難しい顔をした。
「………もし、このウーダイオスが生きていたとしたらニ百歳は超えているのです。危険な人物ではありましたが、彼は生粋の人間でそんな長生きはできるはずがありません」
「だったら、同名の別人ってことよね」
と、アリア。
「もちろん、そのはずです。しかし………ウーダイオスという名前はその事件から嫌われるようになって、今ではその名前をつけるような事はまず無いのです。もちろん、ただ名乗っているだけかもしれませんが………」
部下を六人と市民を十三人殺した殺人犯が指揮をしている。しかも、その人物はとっくに死んでいるはずである。確かに、その人物の名前を知っている人には驚くような話だろう。
しかし、アリアと真口はどこか腑に落ちない。それは、二人がウーダイオスなる人物の悪行について詳しくしらないからなのだろう、恐らく。
「だったら、確かめましょ。そうすれば、よくわかんないけど、そのもやもやとしたのもはっきりしますよ」
「ボクもお手伝いします」
「そう…ですね。わかりました、先を急ぎましょう」
「くらえっ、ドラゴンキック!」
エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)の強烈なキックを受けたゴブリンは、凄い勢いで壁に叩きつけられた。
「せっかく捕えた侵入者を尋問もしないで放置とは………」
エヴァルトは辺りでぐったりしているゴブリンの群れ見て首を振る。他の面子が潜入するより少し前に潜入し、わざと敵に捕まって様子を見ていたのだが、人間は最初に少し見ただけだった。立派な口ひげをはやした男で、偉そうな服を着ていたのを覚えている。
その時に、殺すなよ元気そうだ、と一言だけ喋っていたが、殺さない理由まではわからない。
人間の兵士を捕まえたら、情報を聞き出すなりなんなりしたかったのだが。
「自由の身になったことだし、他の場所でも暴れるか」
作戦の概要は頭に入っている。自分の役目は暴れて敵兵を引き付ける事だ。なるべく多く引き付け、他の潜入した人が目的を達成できるように援護する、それが自分の役割。
「さて、どこに―――ん?」
「ウオオオオオオオオオオ」
「ワオオオオオオオ」
行こうか、という台詞がどこからともなく聞こえる雄叫びか遠吠えのようなものに止められる。
「誰か戦っているのか、近そうだな。行ってみるか」
何かが爆発する音も続いている。それを頼りに、エヴァルトはその方向に向かった。
開きっぱなしのドアを超えると、中庭に出た。
「うおっ」
いきなり銃弾がエヴァルトの頬のほんの数センチ横を通り抜けていく。
「あ………」
銃を撃った椿 アイン(つばき・あいん)は、少しだけ眉を動かした。驚いたようだ。そして、小さく頭をさげる。
「………まぁ、そりゃいきなり出てきたら敵だと思うよな。敵地だしな。よし、許す! それより、俺も手伝うぜ」
中庭は適度に広く、様々な部屋の窓から見える。敵を引き寄せるにはうってつけの場所だ。実際に結構な数のゴブリンが集まっている。
「頭の上………気をつけて………」
アインは二丁の拳銃で別々の敵を攻撃するなんて器用な事をしながら、エヴァルトにそう助言する。向かってきたゴブリンを蹴散らしながら、ふと視線をあげるとすごそこに矢が迫っている。あいにくただの矢では、エヴァルトのパワードスーツを貫くような事は無い。
「窓から………」
いくつかの窓から、ボウガンが見える。上から撃ってきているようだ。
「ちっ、うっとうしい」
地上も敵と戦いながら頭の上を注意するのは至難の業だ。パワードスーツがあるエヴァルトと違い、アインにとっては危険な攻撃だ。
「大丈夫、アドラーがなんとかしてくれるよ」
椿 椎名(つばき・しいな)は喋りながら向かってきた矢を両手に持った二本の刀を使い、全て叩き落した。見えてないだろう方向から来た矢も叩き落している。
「ちょっとだけ、我慢だよ」
「がまんだよー」
超感覚によって黒く染まった髪をなびかせながら、そのまま一気に敵の群れに飛び込んでいく。そのあとを追って、ソーマ・クォックス(そーま・くぉっくす)もその群れへと向かう。
二人の得物も戦い方も全く違うのに、息のあった連携で次々と敵を倒していく。敵の群れはあっというまに崩れていく。それでも、次々と援軍が来るので減っているようには思えない。
我慢だと言われたので、エヴァルトはとりあえず地上の敵に専念することにした。椎名とソーマは敵の群れに突っ込むことで、飛んでくる矢を減らしているようだ。アインは銃で敵との距離を取りつつ、上にも注意を払っているようである。
「よし、片付いた」
敵もこちらの強さに気づいて、無闇に突っ込んでこなくなったころ、アドラー・アウィス(あどらー・あうぃす)が降りてきた。
「さっすがアドラー」
「アー君さっすがー」
気が付くと、うっとしく思っていた矢による攻撃が止んでいた。アドラーが片付けていたのだ。椎名とソーマにさすがと言われて、ちょっと嬉しそうだ。
「こっちも随分片付いてきたね。さーて、あと一息頑張ちゃうかな」
上からの矢も止み、さらに地上に増援。もうこの場所を制圧するのも時間の問題だ。
「大丈夫、立てる?」
モニカ・アインハルト(もにか・あいんはると)の問いに、正岡すずなは大丈夫と言いながら立ち上がろうとして、その場にへたりこんだ。
「あれ………?」
「あんな無理な体勢でずっといたんだ、無理もないよ、ほら」
そう言って、出雲 竜牙(いずも・りょうが)はすずなに背中を向けてしゃがみ込んだ。背負ってあげるというのだ。
「そんな、私一人で……」
「無理すんなよ。ほら、そんなんで一緒に動いたら逆に足手まといになるし」
そう言われて、すずなも観念したのかおずおずと竜牙の背負われた。
「よし、それじゃあ俺達は一旦外に出よう。中にはもう人が居ないってのも、外に伝えないとだしな」
「だな。道はわかるのか?」
「携帯に見取り図写メってきた。ナビ頼む」
出雲 雷牙(いずも・らいが)に竜牙は自分の携帯を渡した。見取り図は来る前にアイアルが記憶を頼りに書いたものだ。コピーできなかったので写メを取っておいたのだ。
「それじゃ、早く………、お客さんが来ちゃったみたいね」
モニカが砂よけに被せていたライフルの布を取り払う。こちらに向かっている足音の数は一つではなさそうだ。
「ったく、しょうがないな」
雷牙は、受け取った携帯を竜牙に返すと光条兵器『霞断月』を構えた。この武器はブーメランだが、手に持って剣のように扱うこともできる。
「お客さんの相手は私達に任せて、その子をお願いね」
「そういうわけだ。自分の役割、ちゃんと果たせよ」
二人はそう言うと、向かってくる足音に向かって駆け出していった。竜牙も、彼らとは反対方向に向かって走り出す。
「私を置いてってください、一人でもなんとかしますから」
「暴れないで。大丈夫、二人なら心配いらないさ。すぐに敵を蹴散らして合流してくれるっとっとっと」
竜牙は急ブレーキをかける。正面に、ゴブリンが三体待ち構えていた。
「さーて、どうしよっかな、これ」
三体のうち、一体がボウガンのような武器を持っている。隠れる場所の無い通路ですずなを一旦どこかに置くのは危なさそうだ。今の彼女では対処できないだろう。間を抜ける隙間も無い。
ゴブリン達は、もう獲物を追い詰めた気分でじりじりと近寄ってくる。危険を覚悟で突っ込むか、と決断しかけた竜牙の目の前で、一番後ろにいたゴブリンが突然崩れ落ちた。そのまま続けて、残りの二体もその場に倒れる。
「あちゃぁー、お姫様を救出する勇者役は取られちゃってたか」
「もっと素早く行動しないからだよ」
ゴブリンを蹴散らしてくれたのは、本郷 涼介(ほんごう・りょうすけ)とクレア・ワイズマン(くれあ・わいずまん)の二人だった。
「さて、ちょっといいか」
涼介はすずなの手を取り、顔を覗き込んだりしだした。簡単に彼女を診察しているのだ。
「とりあえず、ぱっと見ではひどいところはないか。ただ、手首の皮がむけてるところは、ちゃんと消毒しといた方がいいな」
「ちょっとしみるからね」
「っ!!」
クレアが消毒液のようなものを彼女の手首の傷にあて、さっと包帯をまいていく。
「こんなもんかな。ちゃんとした診察は外でやるとして、とにかく今はここから出よう。彼女を背負ったまんまじゃ戦えないだろ、道中は私達が護衛しよう」
「すまん、助かる」
「それじゃ一気に行くよ。素早くいかないと、敵に囲まれちゃうかもしれないもんね」
「これか、確かに妙でやんす」
レビテートを使い、人質を探していた神矢 美悠(かみや・みゆう)が妙なものを見つけたというので、ケーニッヒ・ファウスト(けーにっひ・ふぁうすと)達はその場所へと向かった。そうしてたどり着いた部屋には、十数体の石像が並んでいた。
「この砦の中に、よくできた石像を集める趣味がある………なんてのはありえない話しよね」
天津 麻衣(あまつ・まい)は置かれた石像を見ながらそう零す。
「集めるにしても、もう少し概観は選ぶだろう。ここにあるのは、年寄りと子供ばかりだ」
「ってことは、これが人質でやんすか? でも、話しでは結構な数が連れ込まれてるって聞いてるし、他には無かっでやんすか?」
アンゲロ・ザルーガ(あんげろ・ざるーが)が美悠に尋ねる。
「全部見たわけじゃないけど、石像を見つけたのはこの部屋だけだよ」
「そうか………どう思う?」
ケーニッヒは一つ一つの石像の状態をチェックしていく。みな驚いたような表情をしている。老人や子供のそんな表情の石像を好んで作る芸術家の作品、というのはありえるだろうか。
「そういや、なんで人を集めてるんでやんすかね。軍隊を作るにしても、あれだけモンスターを操れるんなら人を集める理由はそんな無いでやんす」
「そうね。集めた人に何かをさせているのかしら。ここにある石像は、その何かをさせるにはちょっと無理がある………子供と、老人ばかりだものね」
「だろうな。となると、捕まった人はこうして石像にしてから運び出していたというわけだ。食事も寝床も用意しなくてよく、暴れたり騒いだりもしないといいこと尽くめというわけだな」
「でも、どうしよう? このおじいちゃん、杖をついてるし、この子供達もすっごく痩せてるし。外だって戦闘してるわけだし、石のまま運び出すのも解除してから連れてくのも、あたし達だけじゃちょっと無理じゃない」
石像はほぼ全てが老人と子供だ。それも、みな杖をついていたり、子供はまだ片手で年齢を数えられるぐらいだろう。彼らを引き連れて戦闘中の砦を突き進むのには無理があるし、持ち運ぶにしても数が多い。
「ねぇ、こっちに誰か向かってる」
麻衣に言われて、全員が武器を構える。しかし、やってきたのは敵ではなく瓜生 コウ(うりゅう・こう)だった。走っていたのか、だいぶ息を切らしている。
「見つけたぜ! はぁ、はぁ………聞いて、ここに運び込まれた人はみんな運び出されてるって、あと、捕まってたすずなちゃんは見つかったって」
「………そうか。という事は、彼らは数にも入っていないということなのだな」
「え?」
振り返るケーニッヒの奥に、十数体の石像があるのにやっとコウは気づいたようだ。
「なに、この石像?」
「連れ出されていなかった人たちよ。まだ、よくできた石造の可能性も若干あるけどね」
「全部運び出されたって話しだったんだけが、どういうことだ?」
「全部おじいちゃんと、ほんとに小さな子供だけなんだよ」
「たぶん、運び出された人はどこかで何かをさせられてるんでやんす。そして、ここにあるのはそれに適さないと思われた人たちってわけですねぇ」
「おいおい、そんな話し聞いてないぞ。もう、結構な奴らに人質居ないから安心しろって言っちゃったじゃないか」
「俺達もついさっき見つけたんだ。それより、彼らをどうするか一緒に考えて―――むっ!」
ケーニッヒが入り口に視線を向けた。気配が近づいてきている。少人数だが、殺気だっているようだ。恐らく、今度は味方ではないだろう。
「こんなところで暴れたら、石像が壊れちゃうかもしれないわね。どうする、誰か囮になって敵を引き付けるべきかしら?」
「………いや、いい方法がある。丁度、このすぐ下の道は地下通路に繋がってるんだ。オレ達が潜入した時に使ったな。で、オレは今丁度近道を作るに最適のものを持ってる」
そう言って、コウが取り出したのは爆弾だった。プラスチック爆弾を取り出した。
「これでここに来るまでの通路を塞いで、下に直接いける近道を作ろう。この人たちには悪いけど、運び出すまでは石像でいてくれた方がいいだろうな。怖い思いもしないで済むし。あとは………さっきの話しを伝えるのに、見つけた何人かをこっちに引っ張ってくればいい」
「なら、今来てる奴らはやりすごすべきでやんすね」
全員は頷いて、入り口から見えないところに隠れて気配が遠ざかるのを待った。最悪の場合を備えて武器を構えていたが、こんな場所に価値は無いと思っているのか少し中を見ただけで去っていった。他の場所で派手に暴れている仲間が居るのも大きかっただろう。
「爆破をするなら、余計なとこまで壊さないように手伝うでやんす」
「では、我らは人を呼びにいこう。大体でいい、場所をおしえてくれ。下で待っていればいいのだろう?」
「ああ。んじゃ、ここから一番近いのは―――」
砦の奥にあるトイレの中に、一人の男がうずくまっていた。今日、彼は何度もトイレを出たり入ったりを繰り返しており、顔には影が浮かんでいた。
「くそっ、何か悪いものでも食べてしまったのか………しかし、うぐぐ………」
立派な服を着たこの男は、昨夜奴隷と思わしき少女に夜食を作ってもらってから体調が悪くなっていた。普通に考えれば、あの少女の作ったものに毒でも入っていたと考えるべきなのだが、用心深い彼はちゃんと毒見をさせてから食べたのだ。
もっとも、腹をくだすなどというのは彼の人生においてそこまで珍しいものでもない。これも、いずれは収まるだろう。問題なのは、タイミングが悪すぎるという事だ。
今、外では戦闘が始まっている頃だ。どうせ寄せ集めの素人集団だと思っていたレジスタンスの奴らは、これで中々粘っているらしい。さらに、中も先ほどから慌しい。どうやら、この砦に忍び込んだふとどき物がいるようだ。
「ぐぅ………腹さえ、腹さえこんなことになっていなければ………」
戦争というのは、時間と共に状況が変わっていくものだ。それに対応し、ちゃんとした指示を出すのが指揮官の役目である。しかし、腹を下した彼は戦場の様子を確かめることもできない。
「くそ………これでは奴の思い通りではないか………いや、まさか奴がこのワシに毒を………、あの男ならば、やりかねん。うぅぅ」
彼と共にこの砦に赴任した、ウーダイオスという男は神職である彼と違いただの兵だ。腕が立ち、なおかつモンスターは操れども戦争の経験などない彼のアドバイザー兼護衛という立場なのだが、それにしてはウーダイオスは好き勝手にやりすぎている。
最も、モンスターを操る神官がこの様子で今もなんとか外が持ちこたえているのは、ウーダイオスの指示あってこそである。モンスターを大量に操るのではなく、それぞれに縄張りを指定し、干渉しないように配置していく。こうすることで、擬似的な防衛線を張っているのだ。空を守るワイバーンや、砂の中に配置していたモンスターは砦を守っているのではなく、自分の縄張りを守っているだけなのだ。
しかしそれでは、単に好き勝手暴れているのと変わらない。誰かが、縄張りのシステムに気づくことがあれば、この方法では対応できなくなる。そのためにも、全体を見て確かな指示をすべきなのだが、お腹の調子はそれを許してくれないでいた。
それから少しして、なんとか大きな一つの波は引いていった。
「くぅ………はぁ、とりあえずしばらくはなんとかなりそうかの。そうだ、胃薬が確か調理場に………」
おぼつかない足取りで、ふらふらとしながら神官はトイレ出た。その途端、走っていた誰かにぶつかってしまう
「きゃっ!」
「おうっ! ………貴様! おぅふ、ショックでまた腹が………っ!」
神官はお腹を押さえながら、ひょこひょことトイレに戻っていった。
一方、彼にぶつかってしまったゾリア・グリンウォーター(ぞりあ・ぐりんうぉーたー)はきょとんとした顔でトイレに戻っていた背中を見ていた。
「今のは随分と偉そうな服を着ていましたわね」
ザミエリア・グリンウォーター(ざみえりあ・ぐりんうぉーたー)が倒れた彼女の手を引いて起こす。
「そうみたいですね。これは………大物を見つけてしまったかもしれないにょろ?」
「おいおい、あんな三流っぽい髭のおっさんが指揮官なのか?」
ロビン・グッドフェロー(ろびん・ぐっどふぇろー)はどこか不満そうな顔をしている。
「どうですかね。とりあえず、お腹を痛めてしまっているようですけど………どうします? トイレに乗り込みますか。できればー、私は待ってあげたいにょろ」
トイレにこもっているところを襲撃されて、というのはさすがに少しかわいそうではある。
「そうですわね………さっきの台詞、今の状況を理解しているとは思えませんわ」
「おいおい、ますます指揮官っぽくねぇな。名前だけ指揮官ってのもあるとは思うが、護衛も居ねぇみてぇだし、扱いがひどすぎるだろ」
「どうですかね。でも、一兵卒の格好とは思いませんし、先ほども随分と偉そうな口調でしたよ。それに、私達が見つけた最初の人間です。情報を得られるかもしれませんし、捕える価値はありますよ。それで偉い人なら、GW総合警備保障のいい実績にもなりますしね」
それからしばらくそこで待っていると、相変わらずお腹をおさえながら先ほどの神官がのっそりと出てくる。
三人は、それぞれ武器を彼に向けて微笑んだ。
「うぬぬ、まさかもうこの砦が落とされたというのか」
「さーて、それはどうかしら? それより、あなたはここで何をしていらして?」
ザミエリアの問いに、神官は何も語ろうとしなかった。しかし、今度は武器を向けられている緊張からか、神官のお腹の具合がまた悪くなる。
「お話してくれるなら、トイレに行かせてあげるにょろよ」
その一言が決めてになって、神官は自分がここに派遣された身分であり、反抗的な人を捕まえて、別の場所に移すことをしていたことを語らせることができた。だが、彼はその話しの中にさらりと嘘を混ぜてきた。
「モンスターを操っているのは………ウーダイオスという男だ。ワシは、あ奴が変なことをしないように監視をしている。モンスターどもをなんとかしたいと思っているのなら、あの戦闘狂をなんとかしなければどうにもならん」
この神官が見るからに文官であることが、そんな言葉に真実味をまとわせた。今この場では、ゾリア達には真実を確かめる術もない。
「んで、これからどうするよ?」
「そうにょろね。お腹を痛めたおじさんを連れまわすのも面倒ですし、外の様子を見ながら安全そうな場所を確保しましょうか。もっと詳しい内情とかも欲しいですし、このおじいさんを奪還されたりされてしまえば、せっかくの手柄が不手際になってしまいます」
「少し派手に暴れてみたかったのですが、仕方ありませんわね。今回は実を取りにいきますわ」
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