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【カナン再生記】砦へ向かう兵達に合流せよ

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【カナン再生記】砦へ向かう兵達に合流せよ

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5,城壁の崩壊


「あとはこの二人だけか」
「この二人を外に運び出せれば、人質は全員助けたことになるんだな」
「はやく運び出しましょう。あまり長いするわけにもいきません」
 武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)橘 恭司(たちばな・きょうじ)ミハエル・アンツォン(みはえる・あんつぉん)の三人は、ケーニッヒらに声をかけられて石像の運び出しを行っていた。他にも数人がこちらの手伝いにまわっており、今頃は入るのに使った地下通路を走っているところだろう。
「ぐっ、やっぱちょっと重いな。落としたりぶつけたり絶対すんじゃねーぞ」
「わかっているさ。よし、行くぞ」
 地下への近道として、床にぽっかりと穴が開いている。この中に入ってしまえば、暗くはあるが一本道、ひたすら走るだけだ。
 恭司と牙竜が石像を担ぎ、ミハエルは前を進んで安全を確認しつつ進む。何人かはこの辺りの敵を駆逐するのに動いているが、すり抜けてこないとは限らない。そうして通路を進み、地下通路の入り口までたどり着いた。
 随分昔に作られた井戸が地下通路の入り口になっている。恐らく、身分のある人を逃がすための最後の通り道に用意されたものなのだろう。今は、先に石像を運んだ人が石像を簡単に降ろすためにロープと板で簡単なエレベーターを作っておいてくれている。下と上で一人ずつ居なければ使えないが、背負って降りるよりはずっと効率的だ。
「よし、じゃあ、俺が先に下りるぞ」
「わかった」
 牙竜が先に一人で中に入っていき、ロープをひっぱって板をあげる。それに石像を乗せて慎重に降ろしていく。残っている石像は二つだが、一つは子供のものだった。恭司はうまく寄せたらしく、一度に二つ降りてきた。
「よーし、どこも欠けてないな………あれ?」
 石像を板から下ろしている最中に、生暖かいものが手にべっとりとついた。暗がりだから気づかなかったが、なんだろうと牙竜は目を凝らしてみる。色はどす黒く、そして生暖かい。
 それが血だと気づいた瞬間、彼に寒気が走る。
「橘さーん!」
 上の小さな穴に向かって声を張り上げた。返事が無い。
「くそっ、何なんだよ!」
 慌ててボロボロの梯子を駆け上がっていく。外に出ると、恭司の背中がすぐそこにあった。
「橘さん、大丈夫か」
「なんだ、まだ居たのか。さっさと行けよ、こいつらは俺が足止めしといてやる」
「な………だったら、俺も!」
「馬鹿言うなよ。そしたらアレを誰が運ぶんだ。あんなジメジメしたところに残される奴の気持ちも考えてやれ………ってわけで、ほれ」
 どん、と牙竜は突き飛ばされて井戸の中へ落ちていく。
 地下通路に落とされた牙竜は、もう一度梯子を上ろうとしてぐっと堪えた。今は、ここにいる二人を助けないといけない。それに、もう一度梯子を上っても恭司はまた突き飛ばすだろう。
 しかし、石像についていた血は尋常ではなかった。あのほんの少しの時間ではわからなかったが、どこか大怪我をしているかもしれない。
「くそっ………、そうだっ!」

「井戸から何かあがってきてます」
「あの馬鹿、まだわかってないのか………」
「いえ、何か凄いスピードです。梯子ではなく、板があがってきました」
「板?」
 魔鎧となって装着されているミハエルの報告に、恭司は前方の敵の様子を伺いながらあがってきた板とやらに目を向けた。
「………なんだこりゃ?」
 あがってきたのは、紙が一枚。そこには、血文字で『伝票 届け先 俺 届け物 橘 恭司』と乱雑に書かれている。これは、危険物以外なら何でもお届け、(株)特殊配送行ゆるネコパラミタへの依頼、という事なのだろう。恐らく。
「やれやれ、なんて無茶な依頼だ………けど、確かに受け取った! 注文が入ったからには、ここは何としても切り抜けないとな」
 恭司の前には、かなり分厚い鎧を装備し巨大な斧を手に持った二人組みが威圧感をまとって立ちふさがっている。その重装備に反して、つい先ほど物凄い速さで接近されてしまった。
「しかし牙竜の奴、俺の腕が無いのに気づいたかな」
 不意に一撃だったため、ロープを守るために体を盾にしたのだがあの斧の一撃は凄まじく、左腕を持っていかれてしまった。出血もこのまま放っておくわけにはいかないだろうが、目の前の二体をなんとかしないと手当てもできそうにない。
「この二人、今までのモンスターとは空気が違いますね」
「さて、あの鎧を剥がさないととわからないが、ただの雑魚だと思って相手をすると泣きを見そうだな。やれやれ………厄介な話だよな」
「来ますよ」
「あの鎧をぶち抜くのは面倒だ。俺を狙ってるようだし、少しここから遠ざけるぞ」
「はい。腕を拾うのをお忘れなく」



「よーし、このくらいで十分だろう。爆弾を設置したら退避するぞ」
 三船 敬一(みふね・けいいち)は即席で作った見取り図に、最後の×印を書き込むと、作業を行っていたみんなに声をかけた。
「ふう、疲れたわ。けど、これで厄介な城壁は崩れ去るんちゅうわけやな」
 大久保 泰輔(おおくぼ・たいすけ)が持っていたスコップを放りだして息を吐いた。その横では、讃岐院 顕仁(さぬきいん・あきひと)がボロ雑巾のように横たわっている。
「確かに、もうヤケクソだと、任せろとも言ったが………ここまでコキ使われる事になるとは………」
 顕仁が担当した地点は地盤が少し脆く危険な場所だった。何度か生き埋めになりかけたりと一番大変な思いをしていた。そのたび、回復スキルなどでたたき起こされて作業に戻らされ、肉体的には健康だが精神的には大変なアレな状態になっていた。
「しょうがないですよ。外では皆さんが必死になって戦っています。少しでも早くなければいけませんでしたから」
「それはわかっているのだが………」
 レイチェル・ロートランド(れいちぇる・ろーとらんと)は、スキルを用いて一気に穴を掘っていた。対して、顕仁はスコップとツルハシが武器だった。別に文句があるわけではないが、少しばかり釈然としない気持ちがあるのは確かである。
「それでは、爆弾を仕掛けますよ」
 フランツ・シューベルト(ふらんつ・しゅーべると)も穴掘り作業に従事していた割りには元気である。
「これで、城壁が崩れるんですね」
 レギーナ・エアハルト(れぎーな・えあはると)は敬一の見取り図を覗き込みながら尋ねてきた。
「いや、崩れるというわけもないんだ。今は中も外も戦ってるだろ。どちらに倒れても問題だからな。丁度、この一帯だけ陥没するように穴を掘ってある。しっかりと確かめたわけじゃないが、随分とあの城壁は古く手入れもされてなかったからな、うまく行けば一部分がごっそりとここに落ちてくるはずだ」
「そんなにうまくいきますかね?」
「そのためにこうして穴掘りをしたんだ。うまく行ってもらわないと困るだろ。まぁ、時間の関係で深さをそこまで取れなかったから、落ち込んで三分の一ぐらいだが、その衝撃で石を積んだだけのあの城壁は形を保ってはいられないだろう。そうしたら、徒歩でも乗り越えていけるはずだ」
「爆弾を置いてきましたよ」
 フランツの報告を聞いて、敬一も最後のチェックを行う。
「………うむ、爆弾もこれで大丈夫だろう」
「しかしほんまに崩せるとは思わへんかったなぁ」
「大久保さんのアイデアあったからだ。俺もまさかこんな方法があるかもなんて考えていなかったからな」
「でも、三船さんが居なかったらうちらには技術はあらへんかったからな。ま、あとはうまく行くことを願いましょ」
「では、讃岐院さんあとはお願いします」
「お願いしますよ」
 フランツとレイチェルに声をかけられて、顕仁はむっくりと起き上がる。皆が退避したのち、彼がここの爆薬に火を入れる。問題なければ、あとは携帯で連絡をいれて召還でここから撤退するのだ。
「任せておれ。泰輔も頼むぞ」
「任せとき」
 全員が出ていっくのを見送り、携帯の時計を見ながら時間を待つ。安全な地点までどれだけかかるかは前もってレギーナが計測しているので、向こうからの連絡は待つ必要はない。
 時計が時間を告げて、顕仁も立ち上がった。
「誰にも見えない花火の時間であるな」
 火術を用いて、爆弾に火をいれていく。中央に力がよっていくように、爆破する順番は決められている。問題が無いように、確認しながら導火線に火を灯した。そこから、少し離れた場所で、問題なく爆破が行われるのまで確認して顕仁は携帯を取り出した。
 あとは召還で引き上げてもらうだけだ。うまく城壁が落ちるかどうかまでは、さすがにここで確認するわけにはいかない。
「む………呼び出しされぬ………?」
 はっとなって、もう一度画面をよく見ると、圏外の文字。カナンには携帯の基地局は無いが、パートナー同士なら繋がるはずである。携帯同士で電波が届けば―――。
「そうか、ここは地下であったな。はっはっは、失念しておったわ」
 泰輔が気づいて召還で引き上げてくれるだろうか。
 しかし、もう奥の方で爆破が始まっている。のんびりしていたら、間違いなく生き埋めだ。今度は本物の。しかも、誰も助けに来てくれる保障はない。
「………うおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」
 顕仁は、走りだした。崩落させる地点は、ごくごく狭い範囲だ。走れば抜けられるかもしれない。というか、走って抜ける以外にこの状況では何も思いつかなかった。
「なんでっ、毎回っ、このような目に合わねばならんのだぁぁぁぁ!」



「ちょ、ちょっと。俺、今やる事あるんだよ。邪魔しないでくれ」
「何をしたいのかなんて知らないけど、やらせないよ。その偉そうな鎧といい、君がこの砦の指揮官だね!」
 カレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)は通路で偶然であった鎧の男に向かってびしっと指をさした。
「もうこの砦が落ちるのは時間の問題だろう。今が投降のしどきではないだろうか?」
 ジュレール・リーヴェンディ(じゅれーる・りーべんでぃ)が剣を向けながら言う。
「あーあー、全く、今は人探しで忙しいってのに………いーぜ、少しだけなら遊んでやってもさ。けど、負けたからって泣くなよ? 時間無いから本気でいかないといけないからなっ!」
 剣を抜きながら、偉そうな鎧の男、もといウーダイオスはカレンに向かった。すかさず、ジュレールが間に入り、一撃を受け止める。
「ぐっ、重い………」
「ほぉ、そのちっこい体でよく受けたな」
 感心したように言いながら、ウーダイオスは距離を取り直す。剣での押し合いでは彼に分はあったが、カレンが使おうとしたしびれ粉をちゃんと見ていたのだ。
「思ったよりはめんどそうな相手だな………なぁ、あとで相手してやるから、今は見逃してくれないか? 急いでるんだ。うちのクソ役立たずがずっと見当たらなくてね。どこかで見なかったか」
「知らん。例え知っておったとしても、お主に言う義理などないであろう? それに、ここでお主は捕えさせてもらう、見逃したりなどするわけないであろう」
「もっともらしいお答えで………さて、どうしたもんかね」
 ジュレールは剣を持っていて、カレンは後ろで構えている。ウーダイオスには、カレンがどのような手で援護を行ってくるのかわからない。物理攻撃なら対応もしやすいが、魔法となると面倒だ。逃げるにしても、射程範囲が読めない以上はただ背中を晒すだけだろう。
「あの役立たずめ、偉そうにしといて人に迷惑かけてきやがって」
 ぶつぶつ言いながら、仕方無さそうにウーダイオスは武器を構えなおした。その様子を見て、カレンとジュレールも投降の意思無しと判断、臨戦態勢を取った。
 そこへ、突然大きな揺れが襲い掛かる。
「な、なになに?」
「なにをした!」
「知らねーよ。あんたらのお友達だろ!」
 突然の大きな揺れは、城壁の一部が陥没した時にできたものだった。城壁を破壊する作戦は見事に成功したのだ。しかし、この場所では悪い方に作用することにとなった。
 カレン達の立っていた床が、振動に耐えられずに崩れ落ちたのだ。
「痛た………あ!」
 下の階に落ちたカレンとジュレールが見上げた先、先ほど二人が居た通路にできた大穴から、ウーダイオスがこちらを覗き込んでいた。
「悪いな、二人共。片がついたら相手してやっからな。じゃ!」
 そう言って、ウーダイオスはできた穴を飛び越えて行ってしまう。
「追わないとっ!」
「ちょっと待つのだ」
 追いかけようとしたカレンを止めたのは、ジュレールだった。
「なんで、どうしたの?」
「あそこに人が倒れておる」
「え?」
 言われて、少し奥に人が倒れているのを発見した二人組みで一人は血だらけだ。しかも、血だらけの人の方は繋がっているはずの左腕を、右手に持っている。
「大変っ、でも………」
「歯がゆいが、見捨てるわけにもいかないであろう。なに、もう間もなく砦は落ちるはず。あの男が捕まるのも時間の問題だ」
「そうだね。だったら、早く手当てしてあげないと………」
 倒れていた人、恭司は自らの傷口を焼いて止血していた。本人は声をかけても意識を失ったままだったが、隣で倒れていたミハエルは意識を取り戻した。
「すみません、助かりました」
「いいのよ。それより、この人は大丈夫なの?」
「ちょっと傷口を焼く痛みが想像以上だったようで………敵は撒いたのですが」
「それは、鎧を着た男ではあるまいな?」
「いえ、重装備の二人組みです。見た目以上に速く動く厄介な相手でした」
「あなたはどうして意識を?」
「彼を運んでいたところ、先ほどの地震で降ってきた瓦礫に頭をぶつけてしまいまして………」
「ってことは、まだこの辺りに君たちを襲った相手がうろついてるのね。だったら、外に出るまで私達が護衛してあげる。いいよね、ジュレール?」
「仕方なかろう。見捨てるわけにはいかんと言ったの我であるしな。お主は、彼を背負ってやるといい。道は我々で切り開こう」
「助かります」



「大勢は決したようですね」
 鬼崎 朔は城壁が崩れていくのを確認し、そう判断した。中もだいぶ騒がしくなっている。ややこしい事になる前に、もう引いておくべきだろう。あとは何食わぬ顔で、レジスタンスに加わってしまえばいい。
 そう思って部屋を出ようとすると、朔が扉に触れる前に勝手に扉が開いた。
「………っ」
 咄嗟に朔は武器を構えようとして、それを無理やり押しとどめた。入って来た顔は、またしても知っている顔だったからだ。
「鬼崎さん、どうしてここに?」
 北郷 鬱姫(きたごう・うつき)は、見知った顔をこのような場所で見つけて、驚いているようだ。
「いや、それは………」
 今回はまったくもってついていないらしい。マッシュにしても、彼女にしても、どうしてこう見知った顔ばかりに出会ってしまうのだろうか。
「主、どうしたのじゃ?」
「また石像があったの?」
 奥から、タルト・タタン(たると・たたん)パルフェリア・シオット(ぱるふぇりあ・しおっと)の声が聞こえる。
「………済みません。皆の助けになるかと思って、一足先にここに忍び込んでいたのですが………力及ばず捕まってしまいました。この騒ぎに乗じてなんとか動けるようになった次第です」
「そうだったのですか。大変でしたね。でも、もう間もなくこの戦いも終わるそうですよ」
「そうですか………、何もお役に立てず申し訳ありませんでした」
「ところで、一つ聞くのじゃが」
 と、パルフェリアが入ってきた。
「お主はなぜ石になっておらんのじゃ?」
「石に………? よくわからないのですが………?」
「ふむ。すずなも石にはされてなかったという話じゃし、今はたまたま石化を担当する者がおらんかっただけかの」
「………どうやら、私は運がよかったようですね」
 自分で言いながら、運のよさに感動してしまいそうになった。
「怪我とかは大丈夫? 私達は他にも捕まっている人がいないか、最後の確認をしてるんだけど」
「大丈夫です。よろしければ、私もお手伝いしたいのですが」
「助かります。一緒に行きましょう」
 これでなんとか、レジスタンス側に回れただろう。内心かなり焦ったが、なんとかうまく立ち回れたように思う。できれば、二度とこのような心臓に悪い不運は繋がって欲しくないところだ。
「よーし、頑張って他にも捕まっている人が居ないか見つけるぞー!」
「全く、城壁が落ちたからといって騒がしくしていいというわけではないのじゃぞ? ほれ、とっとといくぞ」