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【カナン再生記】襲い来る軍団

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【カナン再生記】襲い来る軍団

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第1章 現場へ急げ!

「カナンの現状を聞いてはおりましたが、これほどとは……」
 西カナンを訪れたルイ・フリード(るい・ふりーど)と、パートナーのリア・リム(りあ・りむ)を初めとする幾人かの学生たちは、付近を探索していた。
「ん? なんだあの砂煙?」
 視界の先――村の跡地で砂煙が上がっているのを捉えた紫月 唯斗(しづき・ゆいと)が、不審そうな声を上げる。
 風が吹き、砂煙が晴れて来ると、その向こうから大きな影が現れる。
「でかい猪?!」
「逃げ惑う人々もいらっしゃるではないですか……!」
 唯斗とルイが次々と声を上げる。
「これは一刻でも早く助けに向かわねば! リア、私達は全力で現場に向かいますよ。早ければ早いほど逃げ惑う彼らを助けられる確率は上がります!」
 パートナーへと声を掛け、レッサーワイバーンへと乗り込むのは、ルイだ。パートナーであるリアは機晶姫用フライトユニットを起動させ、上昇する。
「俺たちも行きますよ!」
 唯斗もパートナーのエクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)たちへと声を掛けると彼のレッサーワイバーンへと乗り込み、早々に飛び立つ。
 エクスは小型飛空艇オイレへと乗り込み、唯斗の後を追う。
「ティー、俺たちも急行するよ!」
 源 鉄心(みなもと・てっしん)が小型飛空艇オイレへと乗り込みながら、パートナーのティー・ティー(てぃー・てぃー)へと声を掛けた。
 それぞれが砂煙の舞う、村の跡地へと向かう――。



 『シャーウッドの森』空賊団の副団長であるリネン・エルフト(りねん・えるふと)は話を聞くなり、パートナーのヘイリー・ウェイク(へいりー・うぇいく)フェイミィ・オルトリンデ(ふぇいみぃ・おるとりんで)を初めとする有志を募ると村の跡地へと先行し、向かった。



「人の手によって飼いならされたイノシシ油断は出来ませんね……」
 レッサーワイバーンに乗り、肉眼ではっきりと確認できるほど村の跡地へと近付いたルイは、イノシシモンスターの群れの先頭――逃げ惑う人々が居るであろう場所を目指しながら呟く。
「なぁに、援護は任せろ、どれだけルイ……君と一緒に居ると思っているのだ」
「リア、援護は任せましたよ」
 並んで飛んでいるリアがルイへとそう言葉を返すと、ルイは一つ頷いて彼女へと声を掛けた。そして、逃げ惑う人々とイノシシの間に向かって、ワイバーンから飛び降りる。
 それと同時に、鬼の力を覚醒させると、彼の身長のほぼ2倍――4メートルほどまで身体は大きくなり、両側頭部に牛に似た角が生えてくる。
 そして、巨大化したその身体で、逃げ惑う人々に向かって走るイノシシの身体を受け止めた。
「レーザーガトリング二門展開、エネルギー充填完了、これより陽動射撃及び援護射撃体勢に空中より入る……」
 フライトユニットで飛行状態のままのリアは、両手にそれぞれ構えたレーザーガトリングの引鉄へと指を掛けた。
「逃げ惑う人を助けるのも良いが、自分の身の事もちゃんと考えてくれよ? ルイを僕は失いたくないのだから……」
 イノシシが止められたことにより、逃げ惑っていた人々とその距離が開く。その様子を見ながら、リアはぽつりと呟くと、指を掛けた引鉄を強く引いた。
「リア・リム、全力で行く!」
 発射された多数のレーザーが、ルイに止められたイノシシの身体を穿っていく。
 後方からの攻撃に、驚き暴れるイノシシをルイは投げつけ、距離を開けた。
「この鍛えた拳でイノシシ貴方に恨みはありませんが、葬らせて頂きます!」
 怒り、彼に向かってくるイノシシに対して、ルイは構えた拳を繰り出した。牙が拳にぶつかり、反動でイノシシはその場で足踏みをする。
 尚も突進してこようとするイノシシの牙と彼の拳が、幾度と無くぶつかりあった。

 後方から別のイノシシが今のうちにと逃げようとする人々に向かって、駆け出していた。
 勢い良く突進してくるイノシシは止まることを知らず、直線状の建物にぶつかる。寸でのところで避けていた人々を首を動かし探し当てたイノシシの瞳が捉えた。
 瞬間、イノシシの目の前を1体のレッサーワイバーンが横切る。何だとでも問うように、ゆっくりとイノシシは首を動かし、自身の目の前を横切ったものたちを探した。
 少し離れた宙に、唯斗たちの乗るレッサーワイバーンを見つけたイノシシは巨体をそちらへと向ける。
「エクス、こいつは俺達で抑えるぞ」
「うむ、解っておる。向こうには行かせぬよ」
 レッサーワイバーンの背で、パートナーへと声を掛けた唯斗は、そのパートナー、エクスからの頼もしい返事を聞くと、周囲の建物の状況を見回した。
 建物の何処をどのように壊せば、どのように倒れていくか――建物を見ながら、それを考えながら、イノシシの目の前を引き付けるように飛び続ける。
 そして、その1点を割り出すと、唯斗はレッサーワイバーンを操り、建物へと近付いていく。
 イノシシも狙った獲物は逃がさないとばかりに、レッサーワイバーンを追い始めた。
「エクス! あそこだ、光条兵器で斬ってくれ!」
「了解した!」
 強く頷いたエクスは、長双剣型の光条兵器の切っ先から、光の刃を放つ。
 光刃は、唯斗が指差した先、建物の脆くなった部分へ向けて真っ直ぐ伸びていくと、それを穿った。
 穿たれたところがボロリと崩れると、まるで積み木の城を崩したかのように、易々と建物が崩れていく。
 そして、その建物に向かってレッサーワイバーンを翔らせていた唯斗は直前のところで、上空へと回避させた。
 だが、追いかけていたイノシシは急には止まることが出来ない。そのまま、崩れる建物へと突っ込んでいった。
「この崩落に巻き込まれたら、流石に無事じゃないだろう」
 崩れた建物が上げた砂煙が晴れて来ると、唯斗はイノシシの様子を覗き込む。
 足をやられたか、立ち上がろうとしてはその場にくず折れるイノシシの姿が露になった。
 唯斗らの狙い通りだ。
 機動力を奪ったところで、2人はそのイノシシを倒すべく、攻撃をし始める。

 『シャーウッドの森』空賊団の名の下に、突撃隊へと参加し、駆けつけた天城 一輝(あまぎ・いっき)は遠くからイノシシの群れを確認すると、それらからは建物を挟んで死角になる場所へと降り立った。
「一輝、これを」
 告げながら、彼のパートナーであるコレット・パームラズ(これっと・ぱーむらず)が差し出したのは、いくつかの毛布だ。
「ありがとう」
 それを受け取ると、カモフラージュの力を用いて、敵に見つからないようにしながら、巨大な落とし穴を作製し始める。

 早くも別のイノシシが村人たちへと目をつけ、追いかけようとしていた。
 それを阻止すべく、イノシシへと突撃したのは、【『シャーウッドの森』空賊団】の名の下に集った、長原 淳二(ながはら・じゅんじ)だ。
 更に目の前を横切っていくリネンたちの乗った小型飛空挺に、イノシシの視線は釘付けになる。
「待たせたわね、『征服王』の手先ども! ヘリワード・ザ・ウェイクと【『シャーウッドの森』空賊団】が相手よ!」
 村人たちのことなどすっかり忘れ、淳二やリオンたちの乗る小型飛空挺へと巨体を方向転換させたイノシシに向かって、ヘイリーが言い放つ。
 それと同時に彼女に呼び寄せられた魔獣がイノシシの足元を駆け抜けた。
 足へと喰らいつきながら駆け抜けていく魔獣に、イノシシは驚いたような声を上げる。
「カナンをてめぇらの好きにさせてたまるかッ!」
 声を上げ、フェイミィは小型飛空挺を駆り、イノシシの横合いへと周りこんだ。手にする大剣は圧倒的な迫力を醸し出している。
 その大剣でもって、大きく、イノシシの巨体を薙ぎ払った。
「――ッ!」
 痛みを受けているようであるが、大した痛みではないのか、己へと攻撃を加えてきた2人をイノシシは交互に見比べた。
 すぅっと大きく息を吸い込んだイノシシは、次の瞬間、火の玉をヘイリーとフェイミィの両者に向けて、吐き出した。
 咄嗟にそれぞれ小型飛空挺を駆り、避けようと試みる2人だったが。
「わわっ!」「っく!」
 避けきれず、火の玉が掠り、バランスを崩してしまった。
「大丈夫っ!?」
 急ぎ、バランスを立て直す2人の下へリネンが向かい、訊ねかける。
「ええ、大丈夫」
「オレもだ」
「それなら良かったわ。引き続き、惹き付けて、村人たちの方へ向かわないよう、足元を狙うわよ」
 2人の力強い頷きを見ると、リネンは視線をイノシシへと戻した。
「おまえの相手は彼女らだけじゃないぞ!」
 イノシシへと淳二が小型飛空挺を駆ると、抜き放った妖刀村雨丸から冷気を放つ。
 冷気は氷結すると、氷の刃となって、イノシシの身体へと突き刺さっていく。

「皆、今のうちにこっちへ……!」
「我らが守るのだよ」
 イノシシがリネンら4人へと引き付けられているうちに、コレットとユリウス プッロ(ゆりうす・ぷっろ)が村人たちへと声を掛けた。
「有難い……助かったよ」
 村人たちの先頭に立って逃げ回っていた男性――マウロがそう呟き、コレットに導かれて建物の陰に入る。
 プッロは囮の役目にもなれるよう、殿に着いた。
 逃げ回ったことにより疲れてしまっている様子の男性を見つけたコレットは、彼の頬へと魔法の口付けをした。
「おっ!?」
 驚いた男性は、湧き上がる元気に「ありがとう」とコレットの手を取って、喜ぶ。
 他の疲れた村人へもコレットは魔法の口付けを施していくと、見る見るうちに彼らは元気を取り戻す。
「少しの間凌げば、仲間たちも駆けつけてくれるのであろうよ。それまで正直言って、キツいと思うが……」
「大丈夫だ。そちらのお嬢さんに元気も分けてもらえたしな。もう暫くの辛抱なら」
 プッロが言葉に詰まると、マウロがそう答えた。
 村人たちも大きく頷いて彼の言葉に同意している。
「分かったのだよ」
「逃げ回るコツは任せて!」
 出発前に教えてもらったのだと、自信を持って告げるコレットに「力強いね」「頼もしいな」と声が上がる。
 建物の表では4人が先ほどのイノシシの注意を引き付けながら、その機動力を削ごうとしている。別のイノシシは既に機動力を削がれてしまっているようだ。その2体以外はまだ距離があるため、直ぐに直ぐは襲って来れそうにはない。
 建物の裏手で落とし穴を掘っているパートナー、一輝からはまだ連絡はない。大きなイノシシを落とすことが出来る穴を掘り、上に毛布を被せたり、砂を被せることで落とし穴があることを分からなくもさせる作業をしているのだから、易々とは完成はしない。
 今、隠れている建物が時折、表の戦闘の影響か、震えているため、ずっと同じ場に隠れているわけには行かないだろう。
 通りを挟んだ反対側の建物の陰に移動するために、コレットは足を踏み出した。
 マウロ、そして村人たちが彼女の後に続き、更にプッロがその後を小走りに移動する。
 近くのイノシシたちの注意が表で足止めしてくれている者たちへと引き付けられているタイミングを見計らった。そのため、近くのイノシシが方向転換して襲い掛かってくることはなかった。
 けれども、遠くに居たイノシシが気付いたため、地響きのような音と共に、勢い良く駆けて来る。
「走って……!」
 先の建物の陰まで、マウロと村人たちを先行させようとする。
 そこへ駆けて来るイノシシとマウロや村人たちとの間に、何かがばら撒かれるように落ちてきた。
 コレットが咄嗟に上空を見上げると、小型飛空艇オイレに乗り、手榴弾をばら撒く鉄心の姿がある。
 着弾し手榴弾は煙を上げ始めた。
 そこへ何処からともなく、オカリナの音色が聞こえてくる。
 徐々に近付いてくる音色の方に、マウロや村人たち、そしてコレットたちの視線が向いた。
 現れたのはヴァンガード強化スーツに身を包んだ黒髪の少女――銀星 七緒(ぎんせい・ななお)と、彼女のパートナーのルクシィ・ブライトネス(るくしぃ・ぶらいとねす)パーミリア・キュラドーラ(ぱーみりあ・きゅらどーら)ロンド・タイガーフリークス(ろんど・たいがーふりーくす)の3人だ。
「君は……」
「通りすがりの……退魔師」
 マウロの呟きに、七緒が答える。
「任せたよ、通りすがりの退魔師くん」
 マウロがそう告げると、煙幕に隠れながら村人たちと共に先行して通りの反対側に向かう。コレットたちもそれに続くと、彼女らへと近付くように、鉄心たちの乗る小型飛空挺も降りて来た。
「シャンバラ教導団の源鉄心です。彼らが時間を稼いでくれている内に離脱しましょう。…走れますか?」
「ああ。先ほどお嬢さんたちに元気を貰ったからな」
 マウロが代表して答えると、それなら良かったと鉄心は頷く。
「あの……もし、ご協力頂けるのでしたらマントを交換して頂けないでしょうか?」
 ティーが女性の村人へと声を掛けた。
「マントを?」
「ええ。敵に見つかった場合に、村人さんを優先的に狙われるのが一番困るのです。その時にマントを目印にされていれば、代わりに敵を引き寄せることも出来るかもしれません。痛い目に合うかもしれないのは承知の上ですから、是非」
 自ら囮になる、と彼女が口にすれば、危険覚悟のその決意に心を打たれたのか、女性は快く、マントを交換してくれた。
「必ず助かりますから。より安全な場所に移動のご協力を」
 上空から安全そうな道を叩き込んできたことを鉄心が伝えると、彼らは早速移動を開始した。

 煙幕の間から駆けるイノシシが姿を現した。
 七緒の雅刀から聖なる光が放たれる。聖なる光はイノシシの身に傷を付けた。
 煙では怯まなかったイノシシも光の眩しさには目が眩んだか、急ブレーキを駆けるように速度を緩める。
 止まりきれず突っ込んでくるイノシシを七緒は獣特有の鋭い感覚で交わした。
 ルクシィは七緒と己へと祝福を与え、その攻撃力を上げる。
「ほらほら! ちゃんと避けないとバーベキューになるんだからっ!!」
 パーミリアは2人の後方から火炎を呼び出し、イノシシに向かって、放った。
 ぶつかった火炎は、イノシシの毛を焦がすけれど、易々とバーベキューになる気はないらしく、身震い1つで炎を振り払った。
 ロンドは猫特有の軽々とした身のこなしで、リターニングダガーを投げつける。
 ダガーはイノシシに突き刺さった後、彼女の手元へと戻ってきた。
「ただのダガーじゃない、投げたらちゃんと戻ってくるお利口さんさね……あんたと違って、さ」
 彼女は、そう告げて、口元に笑みを浮かべる。
 イノシシが七緒とルクシィ目掛けて吐き出す火炎弾をパーミリアが火炎を放ち、相殺を試みる。
 火炎同士がぶつかり合い、均衡し合うがイノシシの吐き出した火炎弾に、パーミリアの火炎は圧され、霧散した。
 火炎弾は七緒とルクシィへと向かい、痛みを与える。
「……っ」
 痛みに耐えながら、七緒は光条兵器、聖光剣「ルクセイバー」という名の十字架型の剣をバトンのように回転させた後、構えるとルクシィへと視線を向けた。
「一気に仕掛けるぞ……」
「はいっ! せー……のっ!!」
 ルクシィの光条兵器――こちらは十字架型の大型メイスだ――と、七緒の光条兵器がイノシシに向かって同時に一撃を与えた。
「――ッ!」
 傷を受け、叫ぶイノシシにロンドが蹴りかかる。