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第14章 海京の迷子


 ――夜の街って、ちょっとわくわくするよね!
 天御柱学院の水鏡 和葉(みかがみ・かずは)は、海都の夜景を見つめながら数時間前に言った自分の言葉を思い出した。理由がなければめったに夜に外出などさせてもらえない和葉は、昼間と違う海京の景色に心を奪われたのだ。
 だが、そう無邪気に思えたのも、いつも隣にいるパートナーのマホロバ人の神楽坂 緋翠(かぐらざか・ひすい)がいたからこそなのだろうか。
「おかしいな、さっきより、綺麗に見えないよ……」
 和葉は、先ほどまで緋翠と一緒にプレゼントを配っていた。『ピッキング』で他人様のお家に忍び込むなんて初めてでドキドキしたが、呆気ないほど上手くいった。『ダークビジョン』を使って足音を立てないように歩くのはとても緊張した。でも、子供の寝顔に癒された。緋翠がその子の枕元にプレゼントを置いて、和葉の大好きな声で「来年もいい子で頑張るんですよ?」なんてすごく優しい表情で話しかけるのを見て、なんだか、もやもやして……。それで先に家を出て来てしまったのだが、生来の方向音痴が災いして、今いる場所に見覚えはなく、いつまで待っても緋翠が来ない。
「遅いよ、緋翠」
 和葉は、腹いせに足元の小石を蹴った。
 コロコロと転がった石は道の真ん中で止まり、その場所が陰ったと思うと、上空からスネグーラチカと機晶ロボが降ってきた。
 ドシーンと大きな衝撃音を響かせ着地したそれに、和葉の足がすくむ。思わず顔を上げた和葉は、スネグーラチカの怒りに満ちた目を正面から受けた。
「あなたもわたくしの邪魔をしにいらしたのね!」
 機晶ロボが、和葉に向かって機晶レーザーを撃ち込む。防御態勢をとった和葉を、横から飛び出してきた人物がかばい、道に転がった。
「緋翠っ!!」
 和葉は、自分を守る緋翠の顔を見て、安心する。
「だから、夜遅くに出歩くのに反対したんです!」
 緋翠は和葉を立ち上がらせると背に庇い、『ハーフムーンロッド』を構えた。
「そんなもので、わたくしを止められるとでも思いますの?」
 スネグーラチカの声に答えたのは、緋翠ではなく、近くの塀の上に立つ5人のミニスカサンタ達だった。
「あなたは、私達が止めて見せます!!」
 そういうと5人は塀からジャンプして、街灯の下に降り立った。
「…………」
 しばらく沈黙が続き、真ん中にいたイルミンスール魔法学校の月詠 司(つくよみ・つかさ)が周りから合図される。
「ぇ、私からですか!?」
 赤いミニスカサンタの司は、ズレたメガネを直しながら考えた。どうせ、パートナー達に愉しそうという理由で女装させられ、脚のムダ毛まで剃られ、その上敢えてメイクをしないまま、街中をここまで来たのだ。ここまで来たらやるしかない…というか、やらなかったら更にどんな目に会うかわからない。司はごくりと喉を鳴らし、咳払いすると、覚悟を決めて決め台詞を言った。
「せ、……聖なる夜に舞い降りたっ☆」
 青い衣装を来た同じ学校の霧島 春美(きりしま・はるみ)が後に続く。
「夜空に光る星よりもキュートで可憐な、きらきらサンタガール!」
 投げキッスを贈る春美の隣に黄色の衣装のパートナー、獣人のディオネア・マスキプラ(でぃおねあ・ますきぷら)が並ぶ。
「労働基準法もなんのその。よい子の願いを叶える為に笑顔でサービス残業の憎い奴☆」
「ぇ、よい子ってボク? わぁ〜ぃ、サンタさ〜んプレゼント頂戴☆ ……ぇ、違う? ボクがあげる方? ……なっ、なんだってー!?」
 司のパートナー、剣の花嫁のウォーデン・オーディルーロキ(うぉーでん・おーでぃるーろき)は桃色の衣装で芝居っ気たっぷりに振る舞っている。同時性二重人格のウォーデンの第二人格、ロキが顔を出しているようだ。
 最後に吸血鬼のシオン・エヴァンジェリウス(しおん・えう゛ぁんじぇりうす)が、黒いミニスカサンタ服から伸びたスタイルの良い脚を見せつけるようにして前に出る。
「憐れな子羊(独り身)には愛の手を」
 シオンの右手に他人のリア充写真が現れる。
「リア充には花束(爆弾)を☆」
 左手には爆弾に似せたおもちゃが握られていた。本物は用意出来なかったらしい。
「夜空に煌めく五つ星!!」
 シオンの最後の台詞が終わるのに合わせて5人はポーズを決めると、ウィンクとともに、
「「「「「サンタ戦隊☆イルミネーデ推参! メリークリスマース☆」」」」」
 と叫んだ。
 春美が一歩前に出る。
「競争はいいけれど、妨害行為はいただけません! スネグーラチカさんは、そんな嫌なコじゃなかった筈でしょ。もっと素直になって、サンタさん同士、仲良くしてくださーい☆」
 びしりと指を差されたスネグーラチカがイラついた顔をする。
「知ったような口を利かないでもらいたいですわ! あなたに、わたくしの何がわかるって言うんですの!」
 スネグーラチカが春美に怒鳴るのを見て、ロキがにやりと笑った。
「ねーねー、偽サンタのお姉ちゃん」
 無邪気さを装って言ったロキの言葉に、スネグーラチカがすっと目を細めた。
「偽…ですって?」
「だって、正式なサンタじゃないんでしょ? それに、この先もなれるかわかんないじゃない」
「わ…わたくしは…っ」
 スネグーラチカが顔を強張らせた。
「だって、お姉ちゃん、子供嫌いでしょ? 子供嫌いのサンタさんなんて、ボク達傷ついちゃうなぁ」
 ロキは、大げさなほど年相応に振る舞って見せる。
「いくら眠っててわかんないからって、そんな人が、本物のサンタクロースになんてなれるのかなぁ?」
 からかうように言うロキの言葉に、スネグーラチカが呻く。シオンが続けてスネグーラチカに毒を含んだ言葉を吹き込む。
「でも、ダメよロキ、女の子を追い詰めちゃ。スネグーラチカだってわかってるはずだもの。どうして自分がサンタクロースになれないか、どうしてフレデリカに叶わないか。自分の方が相応しいとか、自分の方が上だとか一生懸命自分に言い聞かせているみたいだけど、そんな事を口にすればするほど、わかっちゃう事だってあるじゃない。ほら、もうすぐ真実が彼女に追いつくわ」
 青褪めるスネグーラチカを見て、シオンがくすくすと嗤う。
「あら、素敵な表情ね。うふふ、愉しいわ♪」
「……なこと……そんなことありませんわ! 絶対に証明してみせますわ!!」
 雪娘達が司達に向かって一斉に飛び掛かった。
 ロキとシオンが『暁のワンド』で応戦し、春美がディオネアを庇う。その隙に背後から忍び寄った雪娘が司を上空へと持ち上げた。
「ぅわああっ!!」
 春美が慌てて手を伸ばすが届かない。
「司さん!」
 緊迫する中、シオンがぼそりと呟いた。
「男の子のパンチラって初めて見たわ」
 ミニスカートで上空で暴れれば仕方がないが、それを聞いた司はショックで硬直する。司に気を取られている4人に、雪娘達が『氷術』を放った。
 いち早く気づいた春美が皆を背に庇う。
「クリスマスは許しの季節でもあるのに、意地を張って妨害してくるようなコにはおしおきよ☆ それクリスマス☆ファイアストーム!」
 炎の嵐が雪娘達を退ける。ロキとシオンもそれぞれ武器を構えた。
 ディオネアは目の前の争いを見て哀しい気持ちになった。歌で争いがなくなればいいのにと思うディオネアだが、世界が複雑なのもわかっている。だからせめて、ディオネアは歌と楽器で皆をサポートしようとアコースティックギターで『悲しみの歌』を弾き、敵の攻撃力を下げた。
 機晶ロボも5人に向かって機晶レーザーを乱射する。
 それを避けながら、春美は『マジカルステッキ』を機晶ロボに向けた。
「聖夜を騒がす悪いコには、痺れるプレゼントをあ・げ・る☆ クリスマス☆サンダーブラスト!!」
 降り注ぐ雷が、機晶ロボを中心に雪娘達に降り注ぐ。司を捕まえていた雪娘も手を離し、慌ててスネグーラチカの元へ急ぐ。
 落下した司は雪の積もる茂みへと投げ出された。怪我による痛みはさほどないが、心はズタズタだった。
「よりによってシオンに見られた……もう、お、御婿に行けません」
 しくしくと泣き崩れる司をよそに、スネグーラチカが撤退を始めた。
 しかし、その退路を機晶ロボを追ってきたエヴァルトが断つ。
「ようやく会えたな、強化パーツ!……あ、いや、機晶ロボ!!」
 そう言って背負っていたパートナーのミュリエルを下ろすと、もう1人のパートナー、アドルフィーネと隠れているように言う。改めてスネグーラチカに向き直ったエヴァルトは、
「ティールセッター!」
 と叫ぶと、『変身!』のスキルで魔法少女に変身する。パワードスーツを着たその姿は自称『蒼空の騎士パラミティール・ネクサー』だ。
「蒼空の公認サンタ騎士、参上!」
 エヴァルトは、臨戦態勢を取りながらスネグーラチカに言った。
「正式なサンタとなったニコラスさんの邪魔をし、立場を奪おうとは不届き千万! そして、昔から連綿と続く方法を捨てる様では、貴女はサンタとしての資格にも欠けるッ! 子供達にとって、サンタはトナカイとソリで配達するという不動のイメージがあるのだ! その邪道な機晶ロボ、俺のパートナーの強化パーツとさせてもらう!」
 エヴァルトはそう宣言すると、ティールランサーと呼ぶ『紺碧の槍』を構え、雪娘達を牽制した。殺気がない以上、女性を傷つける気はない。
 エヴァルトは機晶ロボを狙い、『精霊の知識』でアレンジを加えた『サンダーブラスト』ことライトニングパラテッカを放つ。
 直前、雪娘がスネグーラチカを抱きかかえるようにして、機晶ロボから退避させた。
 パンチラを見られてまだ落ち込んでいた司の前に、雪娘が身を呈して庇ったスネグーラチカが機晶ロボからこぼれ落ちてきた。
「助けてください、サンタさんっ!!」
 司は持て余していたやり場のない感情のまま、思わずスネグーラチカに助けを求め縋り付く。
「な、何をなさいますの、離しなさいっ!!」
 司に抱きつかれてスネグーラチカがもがく。
 そこへ、キマクからスネグーラチカを追ってきた美羽とコハクが『サンタのトナカイ』で現れた。
「トドメは任せて!」
 美羽はそう言うと、機晶ロボ目掛け『雷術』を落とし、コハクもそれに合わせて『忘却の槍』から『轟雷閃』を放つ。
「待てっ!!」
 スクラップになる寸前で攻撃を止めていたエヴァルトが慌てて2人を制止するが、無情にも2人の術はかろうじて動いていた機晶ロボに宣言通りとどめを刺した。
「俺の強化パーツっ!!」
 エヴァルトの悲鳴が爆音にかき消される。
 機械仕掛けのトナカイを失い、スネグーラチカが茫然と呟く。
「なんてこと、わたくしの機晶ロボが……よくもっ!」
 スネグーラチカに睨まれた美羽は、ひるまずに彼女を睨み返した。
「勝負に勝ちたかったら、機晶ロボなんかに頼らないで、自分でプレゼントを配ってみなさいよ!」
 美羽の挑発に、スネグーラチカが唇を噛みしめる。
「そんな…それじゃ、フレデリカに勝てませんわ……」
 泣きそうな声で俯くスネグーラチカは、幼い迷子のように頼りなかった。
 そんな彼女を囲むようにして、それぞれの思惑を持った者達がじわりじわりと近づいてくる。
 雪娘はスネグーラチカを守ろうと牽制に『氷術』を放つ。
 ヴァイシャリーから駆け付けた悠希がそれを掻い潜ってスネグーラチカに向かう。避け損ねた氷術から、ついてきた仔トナカイが盾となり悠希を守った。跳ね飛ばされたその体を受け止めて転がった悠希は、心の中で仔トナカイに謝り、再び攻撃を避けながらスネグーラチカに向かい迫ると、可愛らしいリボンで結ばれたメッセージカードを差し出した。雪娘の攻撃が止む。
 悠希の真意を測りかねながら、スネグーラチカがカードを開くと、『幸せを配る貴女にも、幸せがありますように』と書かれていた。
「……なん…ですの?」
 躊躇いがちに聞くスネグーラチカに、悠希が笑顔を向けた。
「ボクも公認サンタクロースです。貴女にプレゼントを贈ったっておかしくないですよね?」
「わたくしに……?」
 悠希が頷く。
 ディオネアが『銀のハーモニカ』を取り出し、スネグーラチカと雪娘を癒した。
 スネグーラチカが不思議そうに呟く。
「どうしてですの……?」
 こんな親切を受けるような行動をしてこなかった事は十分に分かっている。ディオネアは当然だとスネグーラチカに言う。
「敵も味方もないでしょ。クリスマスは赦しの季節でもあるんだよ。みんなが許さないなんて言ってたら、神様にボクらが赦されなくなっちゃうよ。みんな同じだよ。許せない事があったり、寂しい時があったり、みんな同じ。人のいいとこばっかり見て羨ましがってたってなんにもならないよ。だから、みんなクリスマスの力を借りて、相手や自分を許したり愛したりするんだよ。だからね、ボクはキミにも心から言うよ。メリークリスマス☆」
 悠希が傷を癒したスネグーラチカに手を差し伸べた。
「よかったら、一緒に回りませんか?」
 その誘いに、スネグーラチカが目を伏せる。
「でも、わたくしはもう……」
 躊躇うスネグーラチカに、ヒラニプラでの配達を終えて手伝いに来たクレアが言う。
「勝負に勝てないからと言って、サンタを待っている子供達に迷惑をかけるつもりか?」
 クレアは機晶ロボから投げ出されたプレゼント袋を広い上げ、中を確認していた。袋はどういう構造になっているのか、中のプレゼントは傷ひとつついていないように見える。
 クレアはそれをスネグーラチカに差し出した。
「サンタならば、やるべきことはしっかりと果たさなければな。サンタ同士の勝ち負けよりも、今夜ばかりは子供が優先、違うか?」
 じゃわもネグーラチカに歩み寄り、元気づけるように笑顔を向けた。
「じゃわは、サンタさんのお仕事は贈り物をただ配るだけじゃないと思うです。贈り物を配る事で笑顔を配るって事だと思うのです。でも勝負に固執して、サンタさんじゃなくなっていくスネグーラチカ殿を見ていて、じゃわはずっと悲し悲しだったのです。でも、今のスネグーラチカ殿なら、きっと素敵なサンタクロースとして、皆にプレゼントを配れるですよ。じゃわが保証するです!」
 ミュリエルも、じゃわを支持した。
「そうですよ。それに、さっきまでみたいに夢中になって配ってたら、悪い子にもプレゼントしちゃったかもしれませんよ?」
 黎がスネグーラチカの決断を後押しする。
「どうする? 迷えば迷うほどフレデリカ殿との差はひらくが?」
 スネグーラチカは立ち上がり、クレアの差し出すプレゼント袋を受け取った。周りの者達を見まわし、深呼吸する。スカートを握る手が小さく震えていた。
「あ、あのっ、こんなこと頼めた義理でないのは承知していますわ。でも……子供達の為に、残りの配達を手伝っていただける……?」
 スネグーラチカの頼みに、イルミンスール魔法学校のトライブ・ロックスター(とらいぶ・ろっくすたー)は当たり前だと笑った。
「俺はダメだって言われても手伝うぜ。クリスマスの主役は、プレゼントを待っている子供たちだ。あんたからプレゼントを貰った子にとって、サンタクロースはあんたたった一人だろ。そっちの方が正式にどうのってより、価値のある事だと思わねぇか? 嫌じゃなきゃ、俺の『レッサーワイバーン』に乗せてやるぜ?」
 同じ学校の音井 博季(おとい・ひろき)も手を挙げた。
「僕にも手伝わせて下さい。スネグーラチカさん、フレデリカさんなんか関係ない、あなたの望む理想のサンタクロースに近づけるように、僕は協力を惜しみません。フレデリカさんと知り合う前のあなたが、どうしてサンタクロースになりたいと思ったのか、どうして頑張っていたのか。その時、思い描いていた未来を実現するお手伝いがしたいんです」
 博季の言葉に、スネグーラチカは遠い昔を思い出す。
「わたくしは……お祖父さまのように、皆を喜ばせてあげたくて。……サンタクロースになると言ったら、お祖父さまがとても喜んで下さったから……」
 博季の思った通り、出発点は純粋なものだった。きっと、先を越されて悔しかったり、色々な事があって、曲がってしまっただけなのだ。
「なら、皆を喜ばせてあげましょう」
 博季の言葉に、スネグーラチカはこくりと頷く。
 アドルフィーネが転がったサンタの袋の1つを拾い上げ、埃を払った。
「地球文化のサンタクロースって、品行方正な子供にご褒美を配ればいいんでしょう? 夜中にこっそりっていうのが地味だけど。プレゼントを煙突にダンクシュートして、かつ『奈落の鉄鎖』のスキルで衝突を防ぐ、とかいう演出は……冗談よ。ちゃんと手伝うわ」
 他のサンタ達の視線に、アドルフィーネが肩を竦めて見せる。
「ミュリエル、どうせ当分あのままだと思うけど、エヴァルトを頼むわよ」
 アドルフィーネの言葉に、ミュリエルは機晶ロボの前で同じように燃え尽きているエヴァルトにちらりと目をやる。
「で、でも」
 エヴァルトと一緒でなくては暗所恐怖症がひどくなるミュリエルが、暗い家の中を歩き回れるとは思えない。アドルフィーネは自分だけでも大丈夫だとミュリエルを安心させる。
「キミ達の分まで配りまくってくるから任せなさい」

 そこへ、イルミンスールで情報を得て、本物のサンタを捜していたアキラがやって来た。
「やっと見つけたぜ! まいったよ。キマク捜してもいないからさぁ。で、誰が本物のサンタなんだ?」
 アキラの問いに、皆の視線がスネグーラチカに集まる。
「サンタか!? サンタなのか!? 本物のサンタさんなんだな!?」
 アキラの勢いに、思わずスネグーラチカが頷いた。
「ようやく会えた!! 地球じゃサンタなんて親だとか幻想だとか、時にはバカにされたりしていつの間にか信じる事すら忘れてたけど、こっちには本物のサンタがいるって聞いてさ、もしかしたら地球にも本当にいたんじゃないのかって思ったら、会ってみたい! それでもって本物のサンタから直接プレゼントがもらいたい!って思って捜してたんだ。白ヒゲのじーさんじゃなかったのがちょっと残念だけど、可愛いからいいや! な、俺にもプレゼントあるんだろ? 出来れば、記念に形の残るものがいいな」
 期待に満ちた目をまっすぐに向けてくるアキラに戸惑いながら、スネグーラチカは黎を見た。リストを確認した黎が頷く。
 スネグーラチカは手にした袋から取り出したプレゼントを、アキラに渡す。リボンを解き、筒状のそれを開くと、A1判の手書き彩色鳥瞰図、ご当地動物のイラスト付きだった。
「やったー! 本物のサンタからのプレゼントだぜ!!」
 喜びするアキラを見て、スネグーラチカが不思議そうに訪ねた。
「そんなに、嬉しいんですの?」
「当たり前だろ! 誰だって嬉しいさ。そんなこともわかんないのかよ?」
 笑顔でからかうように言うアキラの言葉に、スネグーラチカが独り言のように呟く。
「……わたくし、わかっていませんでしたわ」
 はしゃいでいたアキラが、思いついてスネグーラチカに申し出る。
「プレゼントのお礼にさ、俺も配達手伝うよ!」
 屈託のないその笑顔に、スネグーラチカがくすくすと笑いだした。
「俺、へんなこと言った?」
 スネグーラチカは、初めて皮肉のない笑顔を皆に向けた。
「あなた達ときたら、ずいぶんと変わった方ばかりですのね」
 トライブが、集まっているサンタ達を鼓舞した。
「よっしゃ、一年に一度のクリスマスだ。最後まで気合い入れていこうぜ!」
 おーっ!と一斉に声をあげ、連帯感を得たサンタ達が1つの目的に向かい、それぞれに与えられた仕事をこなそうとその場を後にする。

 スネグーラチカが暴走する心配がなくなったのを見届けた美羽とコハクは、キマクのフレデリカの元へ戻る。
「青サンタちゃん、みんな、またあとでね!」
 美羽はそういって、宙に浮きあがるソリの上で立ち上がり、眼下のサンタ達へと手を降った。
「もう、美羽! ちょっとは大人しく座っててよ! スカートが……」
 コハクは顔を真っ赤にして、それ以上言うのを躊躇った。コハクに怒られ、美羽は大人しくソリに腰を下ろした。
「そんなに気にする事ないのに!」
 ぷぅと頬を膨らませる美羽に、冗談じゃないとコハクは思った。ただでさえ目のやり場に困っているのだ、これ以上悩みを増やさないで欲しい。純情な少年の悩みは尽きない。

「よし、なんだかわかんないけど、ボク達もどんどんプレゼントを配るよ、緋翠!」
 和葉が緋翠の手を掴んで歩きだす。
「和葉、逆方向です」
 ほら、と緋翠が地図を見せる。
「何言ってるのさ、合ってるって! ほら、急いで!」
 和葉は笑って緋翠の手をぐいぐい引っ張っていく。
「だから違う方向だと…待って、俺を引っ張るのは止めなさい、和葉!」
 しかし、和葉に強く出られない緋翠は、ずりずりと引きずられるまま和葉に付いていくしかなかった。