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リアクション
第16章 決 着
すべてのプレゼントを配り終え、皆はスタート地点の駅前へと戻ってきた。もう数時間もすれば夜が明ける。
皆が見守る中、フレデリカとスネグーラチカが対峙し、立会人のルカルカと黎が並ぶ。
スネグーラチカはすでに諦めてフレデリカと視線を合わせようとしない。最初からずっとスネグーラチカの配達を手伝っていたカレンは、落ち込むスネグーラチカに声を掛けた。
「結果がどうあれ、キミならロシアで立派なサンタになれるよ、今日これだけ頑張ったんだからさ」
カレンは、今の彼女ならきっと分かってくれるはずと信じていた。
黎が手元の集計表を見ながら口を開いた。
「では、結果を発表しよう」
「ちょっと待った!」
空京から戻ってきたレンが黎を止めた。
「もう勝敗なんてどうでも良いんじゃないか? 子供たちの笑顔をお前たちも見た筈だ。子供たちにとってサンタは素敵なプレゼントをくれる人。だからお前たちのどちらかが優秀なサンタクロースかなんて関係ない。それに街の様子も見た筈だ。サンタクロースじゃなくても大切な誰かにプレゼントを配る人たちがいる。俺には皆がサンタクロースになれる素敵な日……誰かにほんの少し優しくなれる素敵な夜だと思うがな。それで充分じゃないのか?」
レンの言葉に、スネグーラチカの側にいたカレンも頷く。
「そうそう。折角のクリスマスイヴなのにさ、いがみ合ったってつまんないよ〜」
カレンは向かい合う2人のサンタ少女の肩を叩いた。
黎の傍で何事かを考えていたじゃわが、ぽよんと飛び上がると黎の手から集計結果の紙をもぎ取り、空へ向かって投げつける。
「じゃわ、何を…っ!?」
黎が止める間もなく、じゃわは宙を舞う集計用紙めがけて『クロスファイア』で炎熱属性を持たせた『機晶ロケットランチャー』を撃ち込んだ。
集計結果が、跡形もなく燃え尽きる。
じゃわは、2人のサンタ少女を振り返り、ぺこりと頭を下げた。
「ごめんなさいです! じゃわが間違えて結果をなくしてしまったです!……だから、この勝負は、……だから」
涙をこらえるじゃわの頭を、黎がやさしく撫でる。
そこへ、赤い髪をした小学生くらいの女の子、英霊の天津 麻羅(あまつ・まら)が進み出た。
「間違えたならば仕方あるまい。わしが新たな勝負方法を決めてやろう。神(の分霊)であるわしを喜ばすプレゼントをしたものが真の勝者じ……」
「こらっ、麻羅、何言ってるのよ!」
パートナーで葦原明倫館の水心子 緋雨(すいしんし・ひさめ)のげんこつが麻羅の頭に落ちる。緋雨が2人のサンタに謝った。
「ごめんね、麻羅が見た目どおりの子供なのか年を重ねた偉い神様なのか、私もときどき私も分からなくなるわ」
「…冗談じゃ、冗談に決まっておるじゃろ……」
殴らなくてもいいのにと小声で抗議した麻羅は、咳払いして改めて2人のサンタに話をする。
「まあ…さっきの冗談はひと先ず置いておくとしてじゃ、よいか、サンタクロースとは本来子供を喜ばすのが目的のはずじゃ。それに対して勝負をして優劣を決めようというのがもともとおかしな話だったのじゃ。そうは思わんかのう? おぬしらはまだまだ若いから競いたいと思う気持ちはわからんでもないし、若いうちから競い合いお互いに磨こうとする向上心があるのは良いことじゃ。じゃからどうしても勝負したいのであれば、次は配る速さではなく喜んでくれた人の多さを競うがよかろう」
麻羅の言葉に、緋雨も頷く。
「私も麻羅の言ってる通り、サンタクロースが配る速さで勝敗を決めても意味がないと思うわ。それどころか妨害し合って街の中を騒がせたりして迷惑に思った人もいたんじゃないかしらね。だから、今回の勝負はなしっていうの、私は賛成するわよ。来年以降も勝負したいのなら、麻羅の言うルールの方が相応しいと思うわ」
「私はいいよ」
フレデリカはそう言って、じゃわに歩み寄りその肩に温かい手を置いた。
「間違えたなら、仕方ないもんね。スネグーラチカは、どう思う?」
フレデリカに問われ、スネグーラチカはどう返事をするか迷ったのち、ようやく頷いた。
「わたくしだって構いませんわ。だって、……間違えたんですもの」
スネグーラチカとフレデリカの言葉を受け、ルカルカがほほ笑んだ。
「じゃ、この勝負、今回は引き分けって事でいいよね!」
ルカルカが勝負の終了を宣言しようとした時、歩がプレゼントを抱えてやって来た。
「待って、まだ配ってない人がいますよ」
歩は、フレデリカとスネグーラチカにプレゼントを渡し、2人を見つめる。フレデリカは分かったようだが、スネグーラチカはまだ歩の意図する所がわかってないらしい。
フレデリカがスネグーラチカにプレゼントを差し出して初めて気付き、動揺する。
「わ、わたくしは……」
文句を言おうとしたスネグーラチカを、歩が止める。
「渡せなかった方が負けですからね。サンタさんがケンカしてちゃ、良い子で待ってた子供たちに笑われちゃいますよ?」
それでも渋るスネグーラチカにたまらず涼子も口を挟んだ。
「せっかくサンタさんが2人も居るのに、仲良くしてほしいです。私は、フレデリカさんともスネグラーチカさんともお友達になりたいです!」
そこに、サンタ大好きっ子の翡翠が奥義を繰り出した。
「今年一年いい子にしてたので、クリスマスプレゼントとして仲良くしてる2人を見せて下さい!」
翡翠にそうお願いされて、フレデリカはますます楽しそうに、スネグーラチカはますます居たたまれない様子を見せる。
フレデリカがスネグーラチカに言った。
「どうする? サンタなら、このお願いは聞かなくちゃだと思うけど?」
スネグーラチカは本当は不満なんだと態度に表わし意地を張るが、
「仕方ありませんわね。……サンタですもの」
2人がプレゼント交換するのを見て、まわりから喜びの声が上がる。
そこへ、ルカルカの携帯に着信があった。
「もしもし?……うん……わかった。いまどこ?……了解、気をつけてね!」
通話を終えたルカルカが皆に内容を教える。
「教会の女の子のお母さん、そろそろキマクに到着するって!」
捜してくれるように依頼した和輝とクレア、稔が顔を見合わせる。クレアが手を挙げて合図した。
「あのっ、私たちが教会までご案内しますわ。小さい教会で、とても見つけにくいんです」
「わかった」
クレア達と待ち合わせ場所を話し合い、ルカルカは朔達にそれを知らせる。クレア達は小型飛空艇に乗り込み、その場所に急いだ。
それを見送るフレデリカが独り言のように呟く。
「なんだか、皆の方が私達よりよっぽどサンタクロースらしいって思うよ。スネグーラチカに煽られて判断を間違うようじゃ、私もまだまだ勉強不足ってことだよね。もっともっと頑張らなきゃ!」
そんなフレデリカと正悟の目が合った。正悟が苦笑する。望みはまだまだ遠そうだ。
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