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七草狂想曲

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七草狂想曲

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 カレン・クレスティアが叫んだところへ、七草がセリをチェーンのようにブンブンと振り回して、モーニング・スターの鉄球よろしく先端についたスズナを飛ばしてきた。
「危ないですぅ! ええーい」(V)
 メイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)が、飛んできたスズナ・スターをカキーンっと野球のバットで打ち返した。みごとなホームランだ。そのうち、新設された野球リーグからスカウトが来るかもしれない。
「ああ、だめだよ、場外ホームランにしたらあ。食べられなくなっちゃうんだもん」
 飛んでいって見えなくなったスズナを遥かに見送って、セシリア・ライト(せしりあ・らいと)が言った。
「ああ、そうでしたぁ。ごめんなさいですぅ」
 あらためて、敵は食材であることを思い出して、メイベル・ポーターが謝った。
「やっと分かりました。メイベルさんたちがいつもバットを持っている意味が。こうやって、食材を確保するためだったのですね」
 ポンと手を打って、ステラ・クリフトン(すてら・くりふとん)が何やら一人で納得する。
「そういうわけじゃないんだけどもね」
 ちょっと困ったように、セシリア・ライトが言った。
 ステラ・クリフトンとしては、ずっと撲殺天使用の野球のバットが気になっていたらしいのだが、これは早合点である。だいたい、いつもメイベル・ポーターたちの周りに合体七草が現れるわけではない。それに、これでは、メイベル・ポーターたちが元凶のようだ。
「ミスティルティン騎士団預かりメイド、明日香ちゃん参上ー。布紅ちゃん、助けにきたよ……って、少し遅かった?」
 楽しげにバットを振り回しているメイベル・ポーターたちを見て、駆けつけた神代 明日香(かみしろ・あすか)が、呆然と立ちすくんだ。
「あらまあ〜。えーっと、とりあえず、キャストオフ!」(V)
 戦意を喪失した神代明日香が、装着していた魔鎧のエイム・ブラッドベリー(えいむ・ぶらっどべりー)を身体から外した。
 透明感のある赤い鎧が、いったん胴手足の五つのパーツに分かれた後再び一つに集まって人の姿に戻る。
「退治しなくてもいいんですの?」
 人形に戻るときにふわりと翻して身に纏ったワンピースの裾を広げながら、クルリと一回転して見せたエイム・ブラッドベリーが神代明日香に訊ねた。
「えっとお、やっつけるのは、手が足りてるんじゃないですぅかぁ? それにしてもどうしてこうなったんですぅ?」
「分かってたら、苦労はありません」
 フィリッパ・アヴェーヌが野球のバットで七草を粉砕する。七草から飛び散る青汁をよけながら、布紅が叫んだ。
「だから、後で食べられなくなっちゃうよ」
 なるべく根元を野球のバットですくうようにして七草を倒しながら、セシリア・ライトが言った。あくまでも、七草は食材だ。
「でも、これ、戦うには使いにくいです」
 慣れない野球のバットを振り回しながら、ステラ・クリフトンが言う。
「大丈夫。いつかは慣れますですぅ」
 ポンポンとステラ・クリフトンの肩を叩いて、メイベル・ポーターが意味ありげに言った。
 だんだんと人が集まり始め、同時に七草は元気に増殖し、福神社は草刈り、もとい、戦場と化していった。このままエスカレートしていったら、また本殿がぼろぼろにされてしまうかもしれない。
「なんとかしなくちゃ」
 反射的に布紅が飛び出していく。
「危ない!」
 そんな布紅にむかって飛んできたスズシロミサイルを、水無月 零(みなずき・れい)陰陽の書 刹那(いんようのしょ・せつな)が氷術で凍らせた。間髪入れず、連携した神代 聖夜(かみしろ・せいや)が、ショットガンで凍りついたスズシロミサイルを粉砕する。できたての凍ったみぞれおろしが、派手に周囲に飛び散った。
「無茶はしないでください」
 ラウンドシールドでみぞれおろしが布紅にかからないように防ぎながら、水無月零が言った、
「よくやった零。ここは俺たちに任せてください。行くぞ、刹那」
「はい。雄々しき者に祝福を!」
 呼ばれた陰陽の書刹那が、神崎 優(かんざき・ゆう)にパワーブレスをかける。
「布紅様は、とりあえず下がっていてください」
 巫女装束に着替えて七草粥の会をやる気十分だった久世 沙幸(くぜ・さゆき)が、七草たちの前に立ちはだかって叫んだ。神通力でなんとかなるのであればいいが、単純な戦いだとすれば布紅には似合わない。ここは、安全な所に下がってもらった方がいいだろう。
「うん、その方がいいんだもん。むこうで、七草を料理する気満々の人たちが集まってるみたいだから、そっちへ行こっ」
 神代明日香とエイム・ブラッドベリーが、自分だけ避難するのはと渋る布紅の背を押して、安全な所へと連れていった。
「さて、布紅様に使える巫女として、もう遠慮はいらないんだもん。負ける気がしないよー。美味しく食べられるように切り刻んであげるんだよ」(V)
 両手に刀を持つと、久世沙幸は七草に突っ込んでいった。
 あちこちで、みんなが七草と戦い始めている。
「緋炎・紅月で消し炭にするわけにはいかないからな」(V)
 爆炎波は使わず、陰陽の書刹那にかけてもらったパワーブレスで強化された一太刀で、神崎優が七草を大上段から真っ二つにした。だが、切り分けられた七草がそれぞれ別の群体となって襲いかかってくる。
「やっかいだな」
 後で食べられるようにと手加減すれば、倒すのには手間がかかりそうだ。
「お下がりください」
 水無月零の声に、素早く神崎優が後退する。分裂した七草を取り囲んで動きを封じるように、サンダーブラストがリング状に発現した。
「今だ、優!」
 神代聖夜が、神崎優をうながした。
「その隙、逃す訳にはいかない!」(V)
 動きの止まった七草を、神崎優が今度はソニックブレードで上下に切り分ける。
「まったくやっかいだな」
 手間がかかると、神代聖夜がぼやいた。どうやら、こうやって地道に切り刻んでいくしかないようだ。