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新春ペットレース

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新春ペットレース

リアクション

 

10

 
 
『さあ、次々に選手たちがゴールしてきます。
 やっと罠を抜けた納羽選手、無事にゴールです。
 順当に、ダイヤ選手が続きます。
 右介選手左介選手、最後でテオル選手を追い抜きました。あっ、どこへ走って……あーあ、行っちゃいました。
 白選手雪選手、最後で意地を見せました。テオル選手や小ババ様と同着です。
 次は、なんと、最後の猛ダッシュでうたまる選手が駆け込んできました!』
「さあ、皆様お待ちかねのカレーパーティーデース。どうか参加していって……あれれれれ?」
 最後の最後で待ち構えていたアーサー・レイスが、必死で呼び込みをしている。だが、今までの選手は、ちゃんと空気を読んで、すべて無視してゴールしている。
 かしょこん、かしょこん。
 村雨丸が、無料カレー配布所の前にさしかかった。
 見た。
「さあ、どうぞ、最高のペットカレーデース」
 アーサー・レイスが、もの凄く怪しいスパイスの香りを発散させている謎カレーを大盛りにして差し出した。
 ぷいっ。
 何かが気にくわなかったのだろう。村雨丸が横をむいて歩きだす。
「ノー、なぜ、みんなカレーを無視しますカー」
 アーサー・レイスが頭をかかえた。
 そんな彼の肩をちょんちょんと叩く者がいた。レイちゃんだ。
「なんですカー、食べたいのですカー。えらいデース。特別サービスしますデース!」
 狂喜乱舞したアーサー・レイスが、謎カレーをレイちゃんにふるまう。
「ちょっと、なんで、よりによって、あんなカレーの罠にかかるわけ。そんなことじゃ死んだゴーちゃんが泣くわよー! まさか、アーサー・レイスとレイスのレイちゃんだから、レイス繋がりってわけ? お母さん、そんなの許しませんよ!!」
 最後の最後でと、『空中庭園』ソラが絶句した。
『何やら、ゴール直前からカレー臭い臭いがしてくるようですが、それで我に返ったのか、華麗にトランポリンで飛び跳ねながらチュッチュとかしていたコットン選手ラビー選手、やっとレースに復帰しました』
 
    ★    ★    ★
 
「よくやった、納羽、こっちだぞぉー、こっち」
 マティエ・エニュールに縄を解いてもらいながら、曖浜瑠樹が納羽を呼んだ。
 ゴールしたはいいが、納羽は飼い主を見つけられなくてふらふらしていた……というか、助ける気があったのだろうか?
「なんにしても頑張ったねぇ。まあ、ちょっと残念なところもあったけどぉ……。はい、これは御褒美」
 トランポリンの罠にかかったのは残念だったが、怪我もなかったのでよしとするしかない。曖浜瑠樹は、猫用のタシガン空峡の高級マグロ缶を開けると、納羽に差し出した。
 
    ★    ★    ★
 
「お帰り、ダイヤ」
 ペットがゴールしたのはいいが、七尾蒼也はちょっと複雑な気分だった。まだ、ジーナ・ユキノシタのはやぶさがゴールしていないからだ。
「大丈夫。はやぶさは、どんなことがあっても必ず戻ってくるから。そう願って、はやぶさって名づけたんだ」
 七尾蒼也が、そうジーナ・ユキノシタに言った。
「ええ、信用してます。順位なんて関係ありませんもの。ペットたちにとっては、一緒に何かをしたということが大切なのですから」
 椅子に縛りつけられたまま、ジーナ・ユキノシタがニッコリと笑った。
「ええと……、そうだ、少し寒いだろう? いい物持ってきてるんだ。椅子に縛られてたからさっきまで使えなかったんだけど……」
 そう言うと、七尾蒼也が、コタツを持ってきてジーナ・ユキノシタにあたらせようとした。だが、椅子に座っているので、当然のようにコタツがななめにジーナ・ユキノシタの膝に載っかる形になる。
「さすがに、これはちょっと……」
 言葉を選びながら、ジーナ・ユキノシタが引きつった笑いを浮かべた。
「ご、ごめん。じゃあ、はやぶさが早く帰ってくるのを祈ろうぜ。戻ってきたら、みんなでこいつを囲もう」
 あわててコタツをジーナ・ユキノシタの手前に移動させて、七尾蒼也が言った。
 
    ★    ★    ★
 
「ゴールしたよー、久ー!」
「プギィィィィ!!」
 光る箒に乗ったルルール・ルルルルルが、右介左介と共にやってくる。
「よくやったぜ。さあ、この縄を……って、ちょ、待て、お前ら止まれ! 止ま……うわっ!!」
 喜んだのも束の間、ゴールから突進してきた右介左介が、夢野久を思いっきり跳ね飛ばした。
「きゃあ、久!」
 あわてて駆けつけたルルール・ルルルルルが、地面に倒れた夢野久にヒールをかけた。
 その間にも、右介と左介がゴールした興奮そのままに暴走し、あろうことかシャンバラ宮殿の中へと突入していった。
 後日、新聞に「シャンバラ宮殿に、パラミタ猟友会出動」大きく報じられる事件となるのだが、果敢にも銃口の前に立ち塞がってペットたちを守る夢野久の姿は、一部の者たちの感動の涙を誘ったとか誘わなかったとか……。
 
    ★    ★    ★
 
「ふう、なんとかゴールしてくれました。よかったです」
 頭の上にテオルをちょこんと乗せながら、ソア・ウェンボリスがほっと安堵の息をついた。
「よくないわよ、レイちゃんはカレーよ、カレーなのよ!」
 すぐ横で、縛られた『空中庭園』ソラがジタバタと暴れている。
「まあまあ、レイスですから、もう死んだりはしませんよ……たぶん」
「ちょっと、なんで目を逸らすのよ! あーん、レイちゃん、変な物食べちゃだめだったらあ!!」