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新春ペットレース

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    ★    ★    ★
 
「こりゃ、なんで、また私までこういう目に遭うのじゃ!」
 グルグル巻きに縛られて、蓑虫のように木から逆さ吊りにされたアーデルハイト・ワルプルギス(あーでるはいと・わるぷるぎす)が叫んだ。
「あら、だって、参加者は平等であるべきと主張します。本体である小ババ様が参加するのですからペットのアーデルハイト様も人質にならないと不公平ですぅ」
 しれっと、アーデルハイト・ワルプルギスを縛った張本人の神代 明日香(かみしろ・あすか)が言った。
「それでは逆であろうが。おのれ、衆目さえなければ灰も残さず……」
 ぎりりと、アーデルハイト・ワルプルギスが歯がみした。
「だってえ、エリザベートちゃんの言いつけなんですぅ」
「うん、すべての参加者は平等ですぅ」
 エリザベート・ワルプルギスが、パチンと指を鳴らした。
「はいはい、かしこまりましたデース」
 控えていたアーサー・レイスが縄を持って駆けつける。
「あーれー」
 アーデルハイト・ワルプルギスの隣に、同じような蓑虫姿にされた神代明日香がぶら下げられた。
「ふっ、ゴールが楽しみじゃな」
 アーデルハイト・ワルプルギスがほくそ笑んだ。
「大ババ様には、特製の金の墨と筆を用意してありマース。小ババ様がゴールしたら、存分にお使いくだサーイ。もし、ゴールできなかったときは、存分にお使われくだサーイ」
 見るからにカレーの臭いがプンプンする鬱金色の筆と墨をちらつかせて、アーサー・レイスが言った。
 
    ★    ★    ★
 
「いいかい、相手は小ババ様だけです。ぜーったいに勝つんですよ」
 ティーカップの中ででんぐり返りをして遊んでいるティーカップパンダの影虎にむかって、戦部 小次郎(いくさべ・こじろう)は、しきりに言い聞かせていた。
 過去、何回か接近遭遇しているのに、自由奔放な小ババ様は今のところ戦部小次郎など眼中にないというところだ。まあ、それはそれで、小ババ様らしいのだが。ここは、一度完全なる勝利を収めて、小ババ様にこちらを認識させるしかない。
「うむ、その心意気やよし! あんなロリババの分身などに負けてはいけないのじゃ!」
 横で聞いていたフォン・ユンツト著 『無銘祭祀書』(ゆんつとちょ・むめいさいししょ)が、小ババ様、というよりは、アーデルハイト・ワルプルギスへの対抗心を顕わにして叫んだ。
「黒子ちゃんったら、力入りすぎだよね。ねえ、マカロンちゃん」
 ちょっと呆れながら、秋月 葵(あきづき・あおい)が言った。
「気合いを入れて何が悪いんじゃ。主には悪いが、我の優秀なるしもべが優勝じゃ。それより、人質は早く椅子に縛られるのじゃ」
 すでに椅子に縛られているフォン・ユンツト著『無銘祭祀書』が、秋月葵を急かした。そろそろ、スタート時間が近づいてきている。
「ちょっと待って、今ちゃんと変身するから。お願い、マカロンちゃん」
 そう言うと、秋月葵が両手でつつむように持ったマカロンにキスをした。きゅんと、マカロンが鳴き、光が秋月葵の身体に集まってくる。
「いっくよー!」
 ぴょんとマカロンが手から飛び降りると、元気いっぱいのかけ声と共に秋月葵が大きくジャンプした。空中に集まってくる光の中で伸身の後転をする。逆光の中、胸と腰の所で光が弾けた。白とブルーのミニスカートと、マイクロベストが秋月葵の素肌をつつむ。流れるように左右に広がった髪を、青いリボンがしゅるんと結んでいった。
「突撃魔法少女リリカルあおい、参加しまーす♪」
 ちゅどーんと、光が周囲に弾け飛んだ。
『周囲に迷惑な変身は控えてくださーい!』
 会場警備をしていた緋桜ケイが、すかさずメガホン片手に注意する。
「てへっ」
「はーい、さっさと縛られるのデース」
「あーん」
 笑ってごまかそうとする秋月葵を、アーサー・レイスがさっさと縛りあげていく。
『はーい、じきレースが始まりますからねー。さっさと仕事しないとバイト料払わないわよー』
 シャレード・ムーンが、フリーハンズの携帯からアーサー・レイスを叱咤して急がせた。
 
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「いい、狙うはトップかビリ。とにかく、目立つんだよ!」
 カレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)が必死にペットのコットンラビーに言い聞かせるが、二匹はラブラブでチュッチュしていてそんなことはちっとも聞いてはいない。
「この、リア充が……ペットの分際でー……」
 思わず握り潰したろかと手をのばしたが、その指先にふわふわの綿毛がふれたとたん、カレン・クレスティアの目がとろんとしてしまう。
「ううっ、やっぱり、このもふもふ感は最強だよー」
「やれやれ、そんなに目立ちたいのであれば、もし負けた場合は、我が引導を渡してやろう」
 イルミンスール制服の上から襷を掛けて、巨大な大筆を横に立てかけたジュレール・リーヴェンディ(じゅれーる・りーべんでぃ)が、落ち着き払った様子で言った。墨での落書きをちょっとだけ体験してみたいらしいカレン・クレスティアの自虐的な思いに、ここはきっちり答えてやろうという気が満々である。
 
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「ひぇっひぇっ、よろしいですかな」
「もちろん、受けてたつよ」
 内心ちょっとした不条理を感じながらも、『女王の国一握の闇』 ハニバー(じょおうのくにいちあくのやみ・はにばー)鎌田 吹笛(かまた・ふぶえ)に答えた。
 ペットたちの戦いの結果をかけて、二人は勝負をしているのだった。
 『女王の国一握の闇』ハニバーが勝てば、鎌田吹笛が魔法少女の修行をすることになっている。逆に、鎌田吹笛が勝てば、剪定鋏を別のパートナーに贈ることになっていた。
 どうも、鎌田吹笛の方には、まだいろいろと思惑があるようだが、『女王の国一握の闇』ハニバーとしては、あまり気にしていなかった。別段、剪定鋏をプレゼントすることには異存はないからだ。ただ、罰ゲームとして自分がプレゼントするのに、二人からのプレゼントということにしなければならないというところがやや引っかかると言えば引っかかるわけだが。なあに、負けなければいいことである。