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奪われた妖刀!

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奪われた妖刀!

リアクション


★プロローグ



 ――港町カシウナ・密楽酒家――

「頭ぁ〜ッ! た、大変だぁッ!」
 昼間にも関わらず、空賊達で賑わう酒場――密楽酒家――にボルド空賊団の1人が紙切れを握り締めてやってきた。
 その額の汗と切羽詰った声色は、ボルドを非常に不愉快にさせるものであり、気持ちを鎮めるために木製のくたびれたテーブルの上に置かれたウイスキーのロックを一気に煽った。
 ボルドの両脇は色女で固められ、更にその隣、同席を許された幹部が下っ端から紙切れを引っ手繰る様に取り上げた。
「……テメェはこんなことで血相変えて頭に報告に来たってのか?」
「い、いや、だってこりゃ大事ですぜッ!?」
 身振り手振り、事の大きさを強調するような下っ端の様子を傍目に見て、ボルドはその紙を幹部から受け取った。
「――ハッ!」
 片腹痛い、とばかりに、その紙切れ――各校への依頼書――を下っ端の顔に押し付け、そのまま地面に叩きつけた。
「あのネェチャンはサムライの心ってもんすら、オレに盗まれて自棄になっちまったんだなぁ、アアッ!? 落ちぶれてやがるぜ! んでよぉ……お前はそんな落ち目の女の小賢しい足掻きにいちいちビクついて、エエッ!? まるでオレがヤバイみたいに駆けつけてきたわけだ!? アアッ!? オレが、このボルドが……ッ! ガキの集まりにやられるとでも思ってるのかぁッ!?」
「イイイッ!? おも、思ってませ、んんんんっ!!」
 ボルドがようやく解放すると、下っ端は血まみれで潰れた鼻を押さえながら、蹲ってしまった。
「いいか、お前ら! オレ達はボルド空賊団だ! タシガン空峡、ひいては全ての空を縄張りに支配する最強の空賊だ! 相手が誰であろうとビビってるんじゃねぇぞ! オレ達は盗んで、攫って――旨ぇ飯にありついて、極上の女を抱くんだ! いつも通りに空に稼ぎに行こうぞ!」
 ――オオオッ!
 ボルドが酒がなみなみと注がれたジョッキを手に高らかに宣言すると、空賊団達は気勢をあげて応えた。
 別の空賊団の一味も、ボルドが今もっとも波に乗っている男であると確信し、彼に期待するように、同調してジョッキを掲げ、酒を撒き散らした。
 ――かかってこい!
 ――オレが憎いんだろう!?
 ――刀を取り返したいんだろう!?
 あの敗北と屈辱の混じりあった瞳を見せた女サムライを思い返し、彼女に向けた強い言葉を酒と一緒に飲み込みながら、ボルドは己が存在を高めつつあった。



 ――ツェンダ――

 加能 シズル(かのう・しずる)と、フェンリル・ランドール(ふぇんりる・らんどーる)は、クロカス家がチャーターした大型飛空挺のデッキにいた。
 まだクルーもいない明け方の艦内で、ぼんやりと朝日が昇るのを見ていた。
「まだ気にしているのか?」
 フェンリルがコーヒーを差し出すと、シズルは一度笑ってそれを受け取り、ふーふーと冷ましながら口をつけた。
「気にしてない……というのは嘘になりますね。こうなって初めて、自分がどれほど愚かで、無力だったか思い知らされて……少し、落ち込んだ振りで紛らわしているんです」
 客観的でいて、それでいて何故か強気で。
 今のシズルは、妖刀那雫と一緒にいろいろなものを失ったようだった。
 どう声をかければいいのかフェンリルにはわからなかった。
 熱かったはずのコーヒーがぬるくなった頃に、顔をあげてようやく言葉を発した。
「あの空で全てが……」
 終わるのだろうか?
 それとも、始まるのだろうか?
「とにかく、行かねばなりません。それだけはわかります」
「……ならいい。俺もサポートするさ」
「……ええ」
 朝日が昇る空を見つめて、シズルの心は再び芯を取り戻し始めた。
「……行きましょう!」

 始まりと終わりを求めて、

 ――空へ!