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うそ~

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うそ~

リアクション

 
    ★    ★    ★
 
「さあ、今こそ、私と契約をするんだよね!」
 鷽をつかんだ手を突きあげて、カレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)が叫んだ。
「世界樹イルミンスールよ、私と契約を!」
 その瞬間、カレン・クレスティアの身体に、雷で打たれたかのような衝撃が走った。周囲から、怒濤のごとく力が注ぎ込まれてくる。
「ふふふ、これでボクは最強の魔法使いだよ。今なら、大ババ様だって校長だっていちころなんだもん」
「それは聞き捨てならんのじゃ」
 カレン・クレスティアの言葉に呼び出されたかのように、アーデルハイト・ワルプルギス(あーでるはいと・わるぷるぎす)が現れた。
「なんでこんな所に大ババ様が……」
「校長室のあるフロアで騒いでおいて何を言っておるのじゃ」
 ちょっと驚くカレン・クレスティアに、アーデルハイト・ワルプルギスが呆れて見せた。
「ちょうどいいんだもん。手合わせを願うんだよね。最強の魔法使いはボクだって証明してみせるんだから」
 無謀にも、カレン・クレスティアがアーデルハイト・ワルプルギスに挑戦状を叩きつけた。
「やれやれ、少しばかりの力を手にすると、とたんにこれじゃ。よしよし、かかってこい。ちょっとだけ相手をしてやろう」
 軽く溜め息をつくと、アーデルハイト・ワルプルギスが、ちょいちょいとカレン・クレスティアを手招きして挑発した。
「悪いね……でもこれが、ボクの伝説の始まりなんだ。このみなぎる魔力、すべて解放するよー。思いっきり、いくからね〜! まとめて吹っ飛べ〜!」(V)
 カレン・クレスティアが、生み出した火球を手の中で圧縮してプラズマ化させた物を打ち出した。
 迷わず、プラズマ火球がアーデルハイト・ワルプルギスにむかって飛んでいく。
 命中と共に大爆発が起こると思ったとたん、アーデルハイト・ワルプルギスの直前でプラズマ火球がとまった。アーデルハイト・ワルプルギスが開いた手を閉じると、そのまま握り潰されたかのように火が消えてしまう。
「そんな……。大ババ様の力は、世界樹以上だって言うんだもん?」
「甘いな。そなたが世界樹イルミンスールと契約できるのであれば、私は他のすべての世界樹と契約しているのだ」
「そんなの嘘だもん!」
 言ってしまってから、カレン・クレスティアがしまったという顔になった。嘘空間では、嘘が本当なのだ。
「ほいっ」
 アーデルハイト・ワルプルギスがちょいと動いて手を叩くと、それに合わせたかのように見えない手の圧力が左右からペチッとカレン・クレスティアを潰した。
「はうぅ〜」
 あっけなくカレン・クレスティアが床に倒れる。
「この程度で……」
「目からビーム!」
 アーデルハイト・ワルプルギスが放った目からビームで、カレン・クレスティアが黒焦げになってぶすぶすと全身から煙をあげる。
「こうなったら、校長先生の方を……」
 ギャグ補正で生きのびたカレン・クレスティアが、ズルズルと這い進みながら校長室へとむかった。
「そうはさせないですぅ!」
 バンと、校長室の扉を開けて飛び出してきたのは神代 明日香(かみしろ・あすか)だ。
「エリザベートちゃんと私の牙城には、なんぴとたりとも近づけはしないですぅ!」
「ただの校長室でしょうが!」
 カレン・クレスティアが反論したときには、すでに校長室の扉はなんだかお城の門のような物に変化していた。
「エリザベートちゃんに危害を与えそうな鷽は、実力で排除するですぅ!」
 そう言うと、神代明日香が、取り出した魔道銃にぺたっとメモを貼りつけた。それには、『この魔道銃はエリザベートちゃんへの愛の力に比例して強力になり、敵を誘導して殲滅する』と書いてある。
「この私の愛の偉大さを思い知るのですぅ!」
 言うなり、問答無用で神代明日香が発砲した。
 だが、弾が出ない。
「あれれれれ?」
 おかしいなと、神代明日香が魔道銃を確かめていると、もの凄い勢いで鷽とカレン・クレスティアが飛んできた。敵を誘導してきたのである。
「んきゅっ!」(V)
 神代明日香とカレン・クレスティアが激しくぶつかり合い、間に挟まれた鷽が潰されて消滅した。同時に、校長室の中からスライムが溢れ出してきて、二人を呑み込んですっぽんぽんにして気絶させた。直後に扉が元に戻り、アーデルハイト・ワルプルギスもが消滅する。どうやら、鷽の作りだした偽物だったらしい。
 
    ★    ★    ★
 
「さあ、買った買った。最新刊「ウソから出たマコト」だよー! 今なら、このカラー鷽もつけるよー」
 大図書室の一画に勝手に陣どった宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)が、自分の書いた同人誌をならべて売っていた。
「今回は内容が凄いよー。イルミンスールの森には温泉が湧き、天罰はそこら中に落ち、ナラカテレビは絶賛放送中、巨大幼女がゴロゴロ転がり、校長室からはスライムが噴き出し、大ババ様は必殺技目からビームを開発する。オフセ三十二ページでカラー表紙、頒布価格は10ゴルダ! さあ、買ってけ泥棒!」
 宇都宮祥子が手に持ったティセラ人形でテーブルをバンバンと叩くと、司書さんがギロリと睨みつけた。
「もらったあ!」
 その一瞬をついて、テディ・アルタヴィスタ(てでぃ・あるたう゛ぃすた)が同人誌を一部とおまけのカラー鷽をひったくって逃げる。
「し、しまったあ、本当に泥棒があ!」
 口は災いの元と悔やんでも遅かった。
「ま、まあ、一部ぐらいどうってことないわよ」
 そう思って、宇都宮祥子が気をとりなおすと、新しい客が机の前に立っていた。
「ほーう、同人誌を売るなど、俺の同業者、いや、敵か?」
 背中に「ゴゴゴゴゴゴ……」と書き文字を背負った土方歳三がそこに立っていた。なぜか、頭にたんこぶができている。
「どれどれ、なになに、天罰が落ちまくるだとお」
「そ、それがどうかして?」
 同人誌を手にとってパラパラとめくった土方歳三に睨みつけられて、宇都宮祥子がちょっとたじろいだ。
「いや、日堂真宵が、高い枝に登っては天罰と言って落ちてきてな。一度だけ避けそこねた。まさか、ここにその元凶があろうとはな……」
「えっと、それは偶然?」
 宇都宮祥子が、思いっきりとぼけようとした。まさか、被害者が現れるとは思いもよらなかった。
「許さん。貴様などこうだ!」
 言うなり、土方歳三が宇都宮祥子を鉄拳制裁……などはせずに、おもむろに取り出したペンで、彼女の同人誌のイラストを修正し始めた。
「ここ、デッサンが甘い。背景のパースが狂ってる。ベタがはみ出している場所がこことこことここ! あたり線がちゃんと消してない。トーンが曲がってる!」
「うきゃあ、やめてー、もうやめてー」
「いや、まだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだ!!」
 無限大の精神ダメージを受けて、宇都宮祥子がへなへなと床に座り込んだ。