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破滅へと至る病!?

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第6章 月下にくるくると、狂々と踊れよ契約者


「──間に合いませんでしたか」
 目の前にいなくとも、それは感じ取れた。
 長老は、表舞台から去った。また長い長い時をかけて蘇ることがあるかもしれないが、生きているうちに再び会うことはないだろう。
 長老が憑代としていた少女が解放されたようだが、彼ら月極、いや『深淵の暁闇』の視界にはもはや入らない。
 消えていく意識の残滓に心の中で別れを告げながら、ミオス赤羽 美央(あかばね・みお))はそっと呟き、
「長老が敗れた今、この宴を続行する意味があると思いますか?」
 仲間を振り返った。
「何でそんな必要があるの? 長老は長老、組織は組織よ」
「そうそう、あんな老いぼれ初めっから相手にしてないわよ?」
 荒野のオアシスの元に、ビキニ姿と、レオタード姿のなまめかしい──というには露出度の高すぎる女性が二人。(元々、地元の大学生の二人のこと、正気に戻ったなら自分の姿に悶絶すること間違いないが)
 彼女たちは組織の暗部中の暗部、契約者暗殺部隊に所属する。
 組織に属さずに知られざる深淵なる知識の扉を開いた者。或いは組織の命に背いた者。これらに血の制裁を与えることを生業としていた。
 名をセレンセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと))とセレナセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす))という。
 そんな彼女達を伺うように、物陰からじーっと撮影するビデオカメラがあった。
「……あれは、組織の幹部たちね! いかにも悪役っぽい恰好だわ!」
 ゴミ箱の影にうずくまってカメラを向けているのは、百合園女学院高等部三年・月森ひかり。イルミンスールに通う契約者七尾 蒼也(ななお・そうや)の幼馴染だ。
「ここで待ってれば、きっと組織の企みも暴けるし、いい画が撮れるに違いないわ! うまくいけばネタになるかも!」
 ひかりは映画研究会に所属している。秋の文化祭で上演する次回作のシナリオを任されていた。はりきった彼女は、憧れのシャンバラ生活を映画の中に作りたい──と蒼也からも話をちょくちょく聞いてシナリオを練っていたものの、遅々として進んでいなかった。
 でも、最近やっとツキが回ってきた。
 自分もつい最近契約者になれたみたいで、その上謎の組織から招待状を貰ったのだ。
「契約者同士の戦いを撮影すれば、きっと満員御礼追加上映間違いなしよ!」
 ぐっと拳を握りしめるひかり。
「見つけたわよ、あなたも契約者ね」
 画面を覗きこむひかりに誰かが話しかけてきたが、ひかりは彼女を一瞥すると、
「無駄な戦いはしたくないわ………力を持つ契約者同士の闘いは、この地上には激しすぎる」
 ヒプノシスをかけて眠らせて、カメラを覗く作業に戻った。
(蒼也に無暗に能力は使うな、って言われたからよ。……いいところだからじゃないんだからね)
 ひかりは再び、組織の会話に聞き耳を立てた。どうやら長老という人物が倒されたようだが、三人は舞踏会続行を決めたようだ。
 話し合いは終了したのか、彼女たちが頷き合う。
 そして──レオタードの人物と画面の中で目があった。
 画面の中央に、ランスが円錐ではなく、真円状に映り込む。
「あら、あらら……?」
「無断撮影は禁止よ」
 足音が近づいてきて、ランスが大写しになる。
 ひかりが首だけで頭上を見上げると、酷薄に微笑むセレナが立っていた。ホルターネックのレオタードの首元から下がるタイが、一層彼女のスタイルの良さを強調している。
(あれよね、契約者になったからって急にスタイル良くなったりしないのよね)
 見事なぼんきゅっぼんぶりに感嘆しそうになりつつ、ひかりは腰を上げ、
「──虹炎海っ!」
 ぱちんと指を鳴らした。
 彼女の足元から、鮮やかな炎が燃え上がり、瞬く間に炎は虹色の海となってセレナを包み込んだ。
「きゃああっ!」
「戦いなんてごめんだわ!」
 ひかりはとっとと踵を返すと、人ごみに姿を紛れ込ませて湖を迂回してから、オアシスの生い茂るサボテンの群れに体を隠した。
「待ちなさい!」
 セレナの仇を撮ろうと駆けだそうとするセレンを、ミオスは制止した。
「深追いすることはありません。あれほどの使い手でも、敵意を持たない以上、今は放っておいてもいいでしょう」
「だけど……」
「ご覧なさい、敵が大軍でお出ましですよ?」
 ミオスが赤い瞳で指した先には九人もの契約者が揃っている。
 セレンは楽しそうに、にっと笑むと、二丁のアサルトカービンを軽々と持ち上げた。
「腕が鳴るわ。……セレナ、平気?」
 虹の炎に包まれていたセレナは、ようやく体にまとわりついていた炎を払い終わったところだった。髪や衣服は所々焼け焦げ、何度か咳き込んでいる。
 それは屈辱──だが、屈辱こそが復讐への糧になる。セレナの瞳には好戦的で嗜虐的な色が強く浮かんでいた。
「そう、まだまだ平気ね。──行くわよ」
 各々の手に獲物を携え、二人は契約者たちに立ち向かっていく。
 彼女たちの背中を見送って、一泊置いた後にミオスもまたマントを脱ぎ棄てた。
「私も行くとしましょう」
 こうして再び、月極との戦いは始まった。