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第9章 妄想の行方、願いの向こう側


「……ごめんなさい」
 崩れ落ちた蕗の体を抱きとめて、村上 琴理(むらかみ・ことり)は謝った。蕗が眠ったのは、琴理が手刀を軽く叩き込んだからだった。
 そしてもう一人、黒ずくめの少女もまた、契約者によって気絶させられ、一冊の本になって床に落ちていた。
 ビデオ係だったチムチムが、黒い本をビニール袋をはめた手で持ち上げ、ぱらぱらとそれをめくった。
 そこには、古いシャンバラの文字で、妄想小説が書かれている。
 しばらくめくると筆跡は別の者になっていて、今日自称契約者達彼女が作り上げていた設定も追記されていた。
「やはり、わたくしのお仲間だったのですね」
 高務著 『黒歴史帳・第参巻』(たかつかさちょ・くろれきしのおとぼりうむさん)はちらりと黒井 暦(くろい・こよみ)を見てから、再び黒い本に視線を戻す。
「それとも先輩と申し上げるべきでしょうか……」
 パラミタでいう魔導書という種族の生まれる経緯は、それぞれだ。
 この黒ずくめの少女も、始めは誰かの書いた妄想小説だったのだろう。それが何かのアクシデントで(おそらく作者が恥ずかしくなって廃品回収に出したのだろう)捨てられてしまった。
 それが他のシャンバラの住人にしばしば見られるように、地球との影響で復活し、彷徨っていたのだろう。
 まだ意識を持つか持たないかというレベルの魔導書である彼女は、その力を持って人を「黒史病」という魔法にかけた。
 人が無意識の設定を用いて活動する、その空想の力を自分の中に取り込み、書き込むことで自我を作っていったのだ。
 そしておそらく、人と契約することで、力を取り戻す(同時に契約者の力を与える)そうとしたのだ。
「深淵の力とは、契約して与えられる力だったのですね。契約者に憧れる一般の方たちにとっては、そういう表現でも嘘ではありません」
「うーん」
 レキは顎に指を当てて考え込む仕草をした。
「燃やしちゃったほうがいいんじゃないかな、って思うんだけど。最初はその予定だったんだし……」
「正規の場所に保管するのがいいんじゃないアルか?」
 と、これはチムチム。その言葉に、『黒歴史帳・第参巻』も同意した。
「わたくしも、このような姿でいらっしゃるのは不憫に思います。よく見れば表紙も汚れてくすんでおりますし、一度きちんと曝書や修復をして差し上げたいです」
 境遇に同情したのだろうか、目がうるんでいる『黒歴史帳・第参巻』に見つめられ、琴理も無理に燃やす、とは言えなかった。
「そうですね……、今後の身の振り方は分かりませんが、ヴァイシャリーに持ち帰り、図書室に一旦保管していただくことにします」

 こうして、正気に戻った一般人は無事に帰宅し、残った契約者たちは思う存分テーマパークや買い物を楽しむことができ、百合園女学院本校と新百合ヶ丘周辺を騒がせた黒史病事件は一件落着したのだが──、
「素敵でしたわ」
「凛々しいですわ」
「憧れますわ」
 ──事件を解決した契約者のお姉様お兄様に憧れる女生徒は、かえって増える一方だったのだった。


■後日談その1
 地上とパラミタ、それぞれに通う二人の百合園によって撮影されたビデオは、忘れられない黒歴史の一ページとして確かに刻まれることとなった。
 本校の女生徒が撮影した分が映画研究会で上映されるかは定かではないが、それを極秘に見ることができた男子生徒によれば、お嬢様たちの恥ずかしいビデオとして密かにアンダーグラウンドで人気となったらしい。
 そして、演技とはいえパートナーの恥ずかしい姿を見た琴理はええまぁ、とか気にしないでね、とか白々しい台詞をパートナーに言う事しかできず、恥ずかしい姿を取られた彼の方は、顔を手に埋めて悶絶した挙句、一週間ろくに誰とも口をきかなかった、という。
 更に、地球に行った生徒の中には、生徒会役員がいなかったから、ビデオはそのまま報告書の一部になってしまい、生徒会のお姉様の前で上映されてしまうのだった。

■後日談その2
 一人の少女が、海風になぶられながら、白い砂浜に立っていた。
(パラミタに地球でいちばん近い都市・海京。ここになら相棒がいるかもしれない。それとも、強化人間になれるかもしれない。
 今はまだただの人間だけど、きっと二つの大地の為に契約者になる)
「……だって私はルカルカだもんね」
 憧れを胸に、少女は空に向かって笑った。その先にはパラミタがあった。
 ──その後彼女は念願かなって、パラミタの地を踏むことができたのだが、これはまた、別の物語。


担当マスターより

▼担当マスター

有沢楓花

▼マスターコメント

 こんにちは、有沢です。シナリオへのご参加ありがとうございました。また、皆様へのお届けが遅くなり、申し訳ございませんでした。

 今回は今までで一番、アクションが届くのが待ち遠しく、ドキドキしていたシナリオでした。びっくり箱を開けるような楽しみな気持ちと、パンドラの箱を開けてしまうような怖い気持ちと半々でした。
 というのも、挨拶掲示板のレベルが高すぎて、(爆笑しながら)自分についていけるかな……、と思ってしまったからです。
 実際に届いてみますと、シナリオに合わせて称号から自由設定・決め台詞を変更してくださった方も多く、打ち合わせもないのに「定礎」グループを登場させて下さった方々!(「月極」といえば「定礎」ですよね)までいらっしゃいまして、想像を遥かに超えるアクションでした。ありがとうございます。
 反面、皆さんのアクションが素敵すぎまして、十分に活かせたかどうか……と不安でもあります。もっとああしたい、こうしたい、という野望があったのですが、紙幅の関係で入れなかったものもありました(それでも十分に長くなってしまいましたが……)。
 補足として、皆さんの一般人としての名前に関しては、基本的にPC名をもじらせていただきましたが、身内などの設定に関わる部分に関しては、名前は明記せず、とさせていただきましたことをご報告します。
 もし次回があれば、今度はもうちょっとシンプルな舞台設定で、中二を楽しんでいただけるようなものにしたいと思っています。
(PC自体が中二病にかかる、というのが初期コンセプトだったのですが、PC自体強いからかかっても変わらないよね、ということで「一般人で遊ぶ」設定になりました。ですが、分かりにくい説明等でお手数をおかけしたと思います)


 また、黒史病にかかって(およびかかったフリで)参加された皆様には、それにちなんだ称号を発行させていただきました。
 ご自身で名乗られているものから、こちらで勝手につけたものもあります。はっきり言って他シナリオで使い道ないような気もしますが……。記念品みたいなものと考えていただければ。

 それでは、参加者の皆様、本当にありがとうございました!


 ※以下、お詫びになります。当シナリオに関係ないコメントとなりますことを始めにお詫び申し上げます。

 百合園女学院校長・桜井静香につきましては、プレイヤーの皆様及びマスターの皆様に、私の思慮の無さゆえに、お手数とご迷惑おかけいたしまして、大変申し訳ございませんでした。
 一連の判定につきましては、各リアクションの参照、各方面にご相談させていただくなど、判定・描写等慎重に書かせていただいたつもりでしたが、一年以上の長きにわたり、マスタリング運営、リアクション上の描写、コメント等でご不快な思いをさせてしまいましたこと、心苦しく思っております。
 今後一層慎重を期す所存でございます。ただ本当に申し訳ないのですが、状況等により、ご期待・ご希望に添えないこともあるかと思います。その際はどうかご容赦いただきたくお願い申し上げます。
 宜しくお願いいたします。