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不思議な花は地下に咲く

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不思議な花は地下に咲く

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 4−コウフクソウからの贈り物 ――シアワセノカタチ――

     ◆

 休憩を終えた愛美たちは、再び歩みを進める事にした。が、それもつかの間。
「あれ……」
 突然の光景に、リディアが声を上げた。
「みなさんに質問があるんだけどね」
 一同が彼女の言葉に首を傾げる。
「探しているのって、花だよね?」
 全員が頷く。
「花は地底湖の近くに咲いてる、はずだよね」
 再び頷く。
「地底湖、着いたよ?」

 ………………

 思わず全員で言葉を呑み、リディアの両脇をすり抜けて前方に広がる、開けた空間へと目をやる。
「うわ、ほんとだ」
 未沙が驚く。
「案外早い道のり、でしたね」
 淳二が口をあけたまま、そんな感想を述べた。
「でもさ、でもさ、いいじゃん! 目的はお花だもんね!」
 なずなが慌ててそう言うと、一同は“確かに”と納得する。
「うわぁ……ついにこの時がきたんだ!」
 愛美の声に再び嬉しさが籠る。それをきいていた一同も、愛美の喜び様に笑顔を溢した。が、そこで話は、終わらない。

「うん?遂に来よったね」

 一同、更に首を傾げる。
「遅いですよ。もうお花見、かれこれ三十分はしてますし」
「それはこちらの事情なので、彼女たちには関係ないのでは?」
「いやいや、事実遅かったのは否めんじゃろ」
「どうでもいい、んな事は」
 一同が状況を理解するよりも先に、矢継ぎ早に言葉が流れて行った。
「せや、いきなりこんな事言われたかて、しっくりこぅへんやろ?」
 泰輔が立ち上がり、一行の近くに寄ってきた。
「皆さんは、お花を取りに来たんやろ?」
「そ、そうですけど」
 愛美が恐る恐る返事を返す。
「せやな。それがおたく等の言い分や」
「……言い分?」
 何とも合点が行かないとでも言いたそうに、アニスが首を傾げた。
「せや、言い分やない。ただね、僕たちかて言い分がどうのとか言いにきた訳やないねん。出来れば花見だけして帰れたら、それはそれでラッキーやんな。やから今日は、この花たち摘まんといてやってくれへん?」
 泰輔は後ろ手で花を指差し、そんな事を言った。
「でも、私たちは懸命に此処まできて――……」
「だから、それはそっちの言い分なだけなんとちゃうん?」
「………」
 愛美の言葉をばっさりと切って捨てた泰輔。その横には、先程まで遠くにいた他の四人もやってきている。
「俺たちも最初は花を摘みにきたんだ。でもよ、こうして花見してるだけ、ってのも、案外悪くねぇんだぜ?」
「でも……」
「そうそう食い下がってくれるなよ。わし等だってなるべく話は穏便に済ませたいんじゃ」
 カスケードの言葉は本心からだったようで、しばらく一同は黙りこくる。
と、やはり後ろからやってくる、彼の男。
本当にいいシーンを横から良い所を拾いに行ってしまう程の、奇人にして変人。ウォウル。
「なんだいなんだい、せっかく着いたって言うのに、何もないじゃないか」
 詰まらなそうにそう言いながら、対峙している愛美たちと五人の横をすり抜けて、泰輔たちを見やる。
「君たちは何故此処に?」
 泰輔の隣にいた、レイチェルが答える。
「とある情報筋から話を聞いて、だそうです」
「ああ、成程」
 が、なるほどとは言え泰輔たちもそれで済む程の言い分ではない様だ。愛美たちを見つめたままに、レイチェルが言った。
「わかったのならば、早々にお引き取りいただきたいのですが」
「それを言われる筋合いはないよ。むしろその言葉はそっくりそのまま君たちに返してあげよう」
 ニヤニヤと、ウォウルはそう言換えす。
「何を?せっかくこっちだって仕立てに出てやってるのに……」
「まぁまぁ、昌毅君。そんなカリカリしてもしゃあないやろ。あんな、お兄さん等」
 泰輔が身振りで手振りで話を始める。
「考えてもみぃや。数年に一度しか咲かへん花の、その晴れ舞台に、“自分たちだけが幸せになれる”言うだけで、なんで摘まれてかなあかんの?その犠牲の上に成り立って本当に叶った願い、幸福の元なん?」
 途中からは真剣だった。それこそ、ニコリともせずに最後まで言い放つ泰輔。愛美たちも思わず考え込んでしまうほどである。と、今度は別の方から声がした。
「動物愛護、植物は大切にと、それは確かに聞こえは良いですが、結局それは偽善でしょう?」
「あれ、ラナロック先輩?」
 呆然と泰輔とウォウルの話を聞いていた愛美が新たな登場人物の名を読んだ。
「随分順調そうには見えなくてね、途中からずっとみていたんだけど、もどかしくなっちゃって。ごめんなさいね」
 苦笑を浮かべて一同を見やると、しかしその笑顔をどこにしまったのか、なんとも冷たい表情を浮かべたままに泰輔たちを向く。
「自分たちの為に、動物が、そして植物の命が使われる事に対して、何を今更言っているのかしら?私たちは既に、数万、数十万と言う動物や植物たちの亡骸の上に築いてきた文明でしょう?今になって幸せだから、と言っても、今までの行為が、犠牲がなくなる訳じゃないと思いますのよね」
 そこで、ウォウルが彼女を静止する。
「彼女はこの手の類の話になると饒舌になっていけない。だから此処はどうだろう。愛美ちゃんたちの意見を聞いて、君が決めてみたら如何だろうね」
「………」
 一行の行く手を阻む五人は、愛美の顔を見た。
「私、最初は……最初は確かに、コウフクソウって植物を手に入れて、不思議な魔法を確かめたいと思いました。でも、今はただ、それが目的であるって、人がたくさん協力してくれたからこそ、最後までその噂話の真偽を確かめたいだけなんです」
 切実な言葉に、五人は声を上げずに話を聞く。
「それにねぇ、結構誤解されがちなんだけど……」
 と、苦笑しながらウォウルが申し訳なさそうに口を挟んだ。
「君たちの言う“幻の花”。あれは案外丈夫な植物でね。ちゃんと正しい手段で抜けば一日くらいじゃしない品種の花なんだってね。僕の友人が言ってた。
「ちょ、待っとって」
 途端、泰輔が他の四人を集めて会議を始める。その間、一同はその地底湖の景色を堪能している。
「凄いね、この洞窟……」
 結がぼんやりとしながら辺りを見回し、そんな事を呟く。
「この洞窟の存在を知ったの自体、今日が初めてだっていうのにねぇ」
 フィオレッラは笑いながら言った。
「そうだよね、ワタシたち、結構お散歩してるわりに、ここら辺は詳しくないものね」
 リディアがフィオレッラに返したところで、五人組の会議は決着を迎えたらしい。
「それでも摘むんはならんのと違う?道理はあっても、やっぱそれは可愛そうに思うねん。僕たちはさ」
 と、しばらく考え込みながら、泰輔がそう言った。
「一輪だけでも、駄目ですか?」
 セルファが唐突に口を開く。その内容には流石に、殆どが驚きを隠せずにいた。
「一輪だけ……って、不思議な花って一輪だけじゃないの?」
 満夜が探り探り、そんな質問を投げかける。
「あのね、ウォウル先輩から聞いたんだけど、私たちの探す“コウフクソウ”って、実はそれなりに数があるんだって。確かに数年に一度しか咲かないらしいけど、少なくとも一輪ではないほどの数は生えてくるらしいの」
「じゃあ、せめて小谷さんだけでも!」
 エースが突然、今にも泣きそうな表情で泰輔たちに近付いていく。
「こんなに頑張った彼女に、些細なお土産があったっていいじゃないか!これで、何もなく帰るなど、あんまりすぎるじゃないか!」
 短いとはいえ、道中共にした身だからだろう。エースは真剣にそう訴えていた。
隣に立っている未沙は、ふと彼のパートナーであるエオリアの言葉を思い出した。
「そっか、エース先輩も……好きなんだっけ。お花」
 その彼が、自分はいいから、と言って、愛美に花を取らせようとしている事に、少なくとも彼女は、その大きな意味を理解した。
「なぁ泰輔、一輪だけくらいなら、良いんじゃねぇのか?抜いたってちょっとやそっとじゃ死なねぇって言う話だし、よ」
「そうじゃの……わしらも道中楽しかったが、彼らもやはり、楽しかったのはわかる。その思い出にだけでも、一輪くらいは良いじゃろう?」
 泰輔は暫く考え込むが、どうやら全員の熱意が伝わったらしい。
「……一輪だけやったら、僕等も見逃したるさかい……」
 少しだけ、本当にほんの少しだけ跋が悪そうにしながら、泰輔はそう返事を返した。
 彼らが立ちはだかっていた道をあけると、地底湖が愛美たちを待ち受けていた。何とも綺麗な水面に反射して、天井にある巨大な岩盤の様なものが光り輝いている。そして――その周りには。
「……わぁ、可愛い!」
 誰の声ともつかない声が、至る所から湧き上がる。それは幻の花、“コウフクソウ”の群生する姿を見た、一行の反応である。幾らウォウルが先程いった様に、生命力が強かったとしても、数年に一度しか咲かない野生のコウフクソウを見れるのは、随分と心が弾む事なのだろう。
 まるで粉雪の様な白い花びらは小ぶりで小さく、風もないのに揺れている。
花びらの淵はピンクやら黄色やらに彩られていて、どうやら水と根との距離で色が違う様であった。
 こうして、コウフクソウを探す旅は、無事コウフクソウを見つけ出し、終幕となる。