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激闘、紳撰組!

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激闘、紳撰組!

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 ――隊士達を日の中に残したまま、安全な場所で見守るわけにはいかない。
 そう決意した紳撰組の局長、近藤 勇理(こんどう・ゆうり)は、指示を出すふりをして、火の気があがっている逢海屋へと突入した。
「げほ、ごほ、っ」
 煙にまかれそうになり、一度咳き込んでから、袖で口元を拭う。
 すると正面には、待避しようとしている負傷した玄武の姿があった。
 朱辺虎衆の者達に両肩を預けているその姿に、勇理が剣を抜く。
 だが一歩遅くは以後にも朱辺虎衆のモノが迫っていた。
 ――丁度その時の事だった。
「何だよこれ、討ち入りって奴?」
 そこへ場違いに明るい声がかかった。立っていたのは鈴木 周(すずき・しゅう)である。彼は勇敢なるナンパ師としての魂で、勇理の動向をずっとうかがっていたのだ。彼は、勇理の背後にいた朱辺虎衆の一人の攻撃を大剣で受け止める。
「何故ここに? やはり、不逞浪士共の――」
 驚いて瞠目した勇理に対して、周が肩をすくめる。
「事情はわかんねーけど、女の子の危機は放っておけねーよな!」
 彼は明るくそう告げながら考えていた。
 ――やー、俺は国がどーとかわかんねーけど。困ってる女の子助けるのに理由とかいらねーよな?
 勇理の効きに飛び込んできた彼は、『ブレイドガード』を駆使した後、熱血漢じみた赤い瞳を、まじまじと局長へと向けた。
「室内でこの剣は振れねぇけどよ、『金剛力』の怪力で押し返して壁に叩きつけてやるぜ! 死なない程度に! ――あ、敵が女なら受け止めるだけだぜ!」
「わかった、女性と仮面越しにでも判別できれば、そちらは私が引き受ける」
 背中合わせに、二人はそれぞれ朱辺虎衆へと刃を向けた。
 その時不逞浪士達の用心棒をしているトライブ・ロックスター(とらいぶ・ろっくすたー)が、飛び起きた。隣には王城 綾瀬(おうじょう・あやせ)の姿がある。トライブはこれまで、待ちくたびれてやる気が削がれ、踏み込まれても驚かず寝ころんだまま様子を眺めていたのである。――襲われても寝ころんだまま、上手いこと避けていたのは、実力があるからとしか言いようがない。
 ――このまま帰っちゃおうかなぁ〜とすら考えていたトライ部だったが、勇理の姿を一目見て跳ね起きたのだ。唐突にやる気を出した彼は、とりあえず邪魔な紳撰組の隊員たちを蹴散らしたり横を擦り抜けたりして、勇理へ近づいた。そして軽く斬りかかりながら親しげに挨拶する。
「よぉ、小さいお嬢さん。ちょうど退屈してたんだ……俺と一手死合って貰えねぇか?」
「断る!」
「俺が勝ったらデートしない?」
「勝てるもんならな。それに私は侍だ!」
普通に女の子だと勇理の性別に気づいているトライブに対し、勇理が声を荒げた。


 そこへ勇理の不在に気がついた如月 正悟(きさらぎ・しょうご)が追いかけて突入してくる。
「なにやってんだよ、勇理!」
 ガンブレード型の光条兵器『ディバインダンサー』を正悟が放つ。
「ちっ。じゃあな、お嬢ちゃん」
 劣勢と見て取り、トライブ達が察そうとその場から姿を消す。そうしながら彼は有利に対して、ウィンクしてみせる。
 するとその時、通りかかった玄武が決意するように立ち上がった。
「紳撰組の壱番隊組長だな。私が相手をする」
「しかし玄武様……」
 他の朱辺虎衆の者達が止める前で、玄武が刀を握りしめた。
「私は四天王の一人だ。この命、紳撰組の組織を崩す為ならば、いくらでも捧げよう。お前達は行け、そして朱雀と白虎に着いていけ」
「逃がすか――周といったな、力を借りても良いか?」
 玄武の指示の元逃避を開始した朱辺虎衆を睨め付けながら、勇理が尋ねる。
「勿論」
「壱番隊組長、任せる。信じているから!」
「言われるまでも無ぇ」
 こうしてその場には、正悟と玄武が残された。
「覚悟!」
 襲いかかってきた玄武に対し、冷徹とも言える表情で、正悟が引き金を引く。
「私が倒れても皆が居る事を忘れるな」
 銃声が辺りに谺し、胸を穿たれてもなお、玄武は突進してきた。
 その額に銃を宛がい、正悟が目を細める。
「俺にも、俺たちにも、熱い思いを抱く者が大勢いるって事を忘れるなよ」
 二人が居る部屋の外の廊下では、その時血飛沫が、障子を汚す様が粘着質な音共に見て取れたのだった。


「中に入るたぁ、一体どういう了見だ」
 如月 正悟(きさらぎ・しょうご)同様、追いかけて中へとやってきた棗 絃弥(なつめ・げんや)が、険しい声を上げた。
「すまない。いてもたってもいられなくてな」
 その声に罪と呪い纏う鎧 フォリス(つみとのろいまとうよろい・ふぉりす)が溜息をつく。
「周、助かった。出来れば、消火活動の手伝いに廻ってもらえないか」
「女の子の頼みとあれば、任せとけって」
 鈴木 周(すずき・しゅう)はそう応えると、逢海屋の外へと出て行く。
「行っては駄目か?」
 勇理が問うと、絃弥が腕を組みながら、視線を周囲へ向けた。
「……近藤さんが行くって言うんなら、着いていくぜ」
「有難う」
 こうして彼ら三人は、逢海屋の階段を駆け上っていったのだった。
 未だ火の気配がない二階のその部屋では、レティシア・ブルーウォーター(れてぃしあ・ぶるーうぉーたー)達と黒野 奨護(くろの・しょうご)達、そして海豹村 海豹仮面(あざらしむら・あざらしかめん)が剣を振るっていた。
 レティシアのカニばさみを交わした白虎が、続いてレギオン・ヴァルザード(れぎおん・う゛ぁるざーど)の刀を受けながす。そこへ斬りかかった海豹仮面に対し、邪魔をするように三道 六黒(みどう・むくろ)こと黒龍がフルムーンシールドで一閃する。
 かろうじて交わした海豹仮面の後ろから、紳撰組の隊士達が集中攻撃をする。
 すると黒龍は、黒檀の砂時計で加速された歴戦の防御により、全ての攻撃を弾いた。
 そして、勇士の薬で限界まで速度を上げた状態で間合いを潰し、ヴァジュラの絶零斬で襲いかかってくる。
 それを、氷藍が受け止める。
「黒龍、ここは俺一人で充分だ。朱雀と首領の元へといってくれ」
「とてもそうは見えぬが」
「……――朱辺虎衆の繁栄を願っての俺の意思だ」
「しかし」
「行け。今ではお前を信頼している。――青龍の如く、嫌、青龍以上に」
笑み混じりの白虎のその声に、音を立てて六黒は唾を嚥下した。
「朱辺虎衆が四天王は一人、白虎が出る。何が不満か! 力の神髄、見せてくれよう」


「……分かった」
 多勢に無勢である。だが、確かに白虎は強い。黒龍はそう自分に言い聞かせ、白虎に向き直った。
「何か伝える事はあるか?」
「嗚呼、沢山ある。一つ、女には気をつけろ、二つ、二元論以外が存在すると夢想するのは勝手だが、善悪は官軍から見た一つきりしか存在し得ない、三つ、個よりも集団を、一人よりも世界を選べ、と。皆首領に伝えてくれ。そして黒龍、しかとお前も心しよ」
せせら笑うようにそう言った白虎は、抜刀していた刀の柄を握り直すと一歩前へと出た。
「早く行け。他の者と、浪士達も逃がす大役、お前に任せた」
「しかと引き受けようぞ」
 そう告げ、黒龍は、戦ヶ原 無弦(いくさがはら・むげん)両ノ面 悪路(りょうのめん・あくろ)、そして取り憑いている虚神 波旬(うろがみ・はじゅん)に目で合図を出した。
 無弦は、悲しみ・怒りの歌で支援後、二本の刀を使い分け、見えぬ刃――無光剣、飛ばす刃――七支刀の高速抜刀――ガントレット効果による居合術を発揮していた。
「ふん、所詮は目に見える者ばかり追う俗物……」
 何度か同じ言葉を繰り返しながら戦っていた彼は、ふと思う。朱辺虎衆首領の事を。
 ――梅谷の死は偽装。何かを為すため。
 ――そう、それは朱辺虎衆の首魁として動くためではないのか?
 だから彼らは、梅谷の遺体工作に力を貸すべく久我内屋と協力し手配したのだ。紳撰組の名を貶める悪路の策として、事件前の時点で梅谷に近藤 勇理(こんどう・ゆうり)の刀を奪い、凶器として使用を提案したのである。
 悪路もまた考えていた。
 ――梅谷は姿を隠し久我内は恩を売り、悪路は紳撰組を貶め朱辺虎衆への手土産が出来る。三方得とは正にこのこと。
 黒龍が造り出した退路を、彼自らが進んでいく。二人は、黒龍こと六黒と、憑依している波旬について、走っていった。


 場に残った白虎はといえば、長い槍へと得物を変え、紳撰組の隊士達に襲いかかっていた。
 棗 絃弥(なつめ・げんや)がそれを、海神の刀で受け止める。
 その隣から罪と呪い纏う鎧 フォリス(つみとのろいまとうよろい・ふぉりす)が、両手に一本ずつ持ったウルクの剣で襲いかかる。
「っ」
 息を飲んだ白虎に対し、レティシアがカニばさみで、足払いをかける。
 それをかわした朱辺虎衆四天王に対し、着地地点を狙って海豹村 海豹仮面(あざらしむら・あざらしかめん)が剣を振るった。
「くっ……」
 劣勢である現状に、朱い牛面の奧で、白虎が唇を噛みしめる。
 その喉元へと、絃弥が刀を突きつけた。
「紳撰組副長、棗 絃弥(なつめ・げんや)が介錯してやる、ここで逝け」
 直後――牛面をつけた朱辺虎衆四天王の一人、白虎の首が宙へと舞ったのだった。






 逢海屋から逃げ、屋根伝いに走っていく朱辺虎衆の者達を追うようにフィアナ・コルト(ふぃあな・こると)は、暗い扶桑の都を疾走していた。
「討ち入りのせいか、数が多いです」
 フィアナが青い瞳を細めながら、美しいポニーテールを揺らした。
 そんな彼女の元へ、朱辺虎衆の者達が棒手裏剣を投げつける。
 足下の地面を抉ったそれらから飛び退いた彼女の元へ、後ろから音を立てずに朱辺虎衆の一人が斬りかかろうとした。
――その時の事だ。
「フィアナ! これを受け取れ!」
 数歩後ろの軒下で様子を伺っていた相田 なぶら(あいだ・なぶら)が、背負っていたフィアナの武器を投げる。
 受け取った彼女は、鞘から剣を抜いた。
 ギギン、と高い音が響く。


 その逆側の路地を追いかけながら黄泉耶 大姫(よみや・おおひめ)は、声を上げていた。
「……先程、心地良い琵琶が聞こえておったのう……そのなりで琵琶に似合う舞でも舞うてくれるのかえ? ……マホロバ人をこれ以上相争わせ都を乱さんとするのであれば
容赦はせぬぞ」
「黙れ、我々はマホロバの事を想って居るんだ! 話しをしている暇など無い!」
 屋根の上から手裏剣が飛んでくる。
 とっさに大姫は、『奈落の鉄鎖』で屋根の上の敵の動きを封じた後、『轟雷閃』で斬った。うめき声が聞こえ、一人が屋根から落ちてくる。
 ――だが。
「っ」
 思わず大姫が息を飲み込んだ。
 後ろから別の朱辺虎衆の人間に、肩を短刀で貫かれたのである。
 咄嗟の事だったが僅かに避ける事が出来た為、首元の太い血管は守る事が出来たが、それでも彼女の躯からは紅い雫が流れ出し、瀟洒な着物の布を汚していく。
 頽れた彼女は、地に手をついた。
「はずしたか、しかし、とどめだ」
 愉悦混じりに朱辺虎衆の一人が笑った時、そこへ待ち合わせのため駆けつけてきた紫煙 葛葉(しえん・くずは)が、光条兵器を使用した。
 朱辺虎衆の一人が、それを避けるように屋根の上へと飛んで乗る。
「……、……」
 声が出ない葛葉は、慌てて重傷を負った大姫を運ぶ事にした。


 その様子を、陰から東條 葵(とうじょう・あおい)が見守っていた。彼は、東條 カガチ(とうじょう・かがち)の横に立っている。先日の事もあり、朱辺虎衆を警戒していたカガチは、葵の姿に安堵するように吐息した。
「なんだなんだ、情け無ぇなぁ。見てるだけとは」
 そこへ――キン、そんな鉄扇の音が響く。
 見れば芹沢 鴨(せりざわ・かも)がそこには立っていた。
「鴨ちゃん」
 カガチが声をかけると、火の気があがっている逢海屋の方へと視線を向けながら、芹沢が再び鉄扇を広げた。
「随分と派手にやらかしてくれたみてぇだな。朱辺虎衆とかいう連中は」
「面白い写真を撮ったんだ」
 葵がそう言うと、芹沢の一歩後ろにいた藤堂平助が画面を覗き込みながら眉を顰めた。


 彼らがそんなやりとりをしている路の少し先、『叢雲の月亭』では、その頃ウィング・ヴォルフリート(うぃんぐ・う゛ぉるふりーと)が唸っていた。
 ウィングは、サイコメトリを駆使して、梅谷才太郎と思しき遺体と、青龍という寺崎屋討ち入りでなくなった遺体を検分していた。
「嗚呼、敵から狙われそうな位置ですし、向こうから来てくれれば楽なのですが。情報源にもなりますし」
 そんな風に呟いたウィングは、正面に構えている七篠 類(ななしの・たぐい)尾長 黒羽(おなが・くろは)に向き直った。
「それで結果は? 結果が出たと聴いて、こうしてきたのですが」
 勿論紳撰組討ち入りの話しは、扶桑見廻組にも入っていた為、そわそわするように類が尋ねた。
「――首の無いご遺体……こちらの方は、真にマホロバを憂いていた方の亡骸ですが、残念ながら梅谷才太郎ではない」
 その言葉に、類と黒羽が顔を見合わせる。
「青龍の遺体からは何か分かったのかしら?」
 黒羽が尋ねると、ウィングが映像化して、生前の青龍の様子を見せた。そこには仮面をつけずに朗らかに笑う青年がうつっていた。
 飢饉で苦しんだ幼少時、亡くなっていった兄弟姉妹、そして――。
 そこには憎悪があった。
 この世に、この世界に対する憎悪だ。
 渦巻く思念が、映像を、赤と緑を初めとした彩りこそ豊かだけれど、どぎつい色で覆っていく。
 ――恨んでやる、殺してやる、消してやる。
 ――死にたい、消えたい、やり直したい。
 そんな思考が明るい記憶を塗りつぶしていき、最後は混ざってただの黒へと変わった。
「彼は、死に場所を探していたのでしょうね」
 最後の青龍の記憶には、三道 六黒(みどう・むくろ)を逃す事で、ここで死ぬ事で、嗚呼救われるのだという、神々しいような安寧の気持ちが移り込んでいた。
「合間にある朱辺虎衆の記憶も、皆、仄暗い。どうやら彼らは、思想ではなく、国を慮るわけでもなく、この世界を恨んでいる者達の集団であるようですね――あるいはその気持ちを、過激派に利用されているのかも知れない」
 ウィングのその言葉に、類が目を細めた。
「そんな人々が、もう出ないように――皆が幸せに暮らせるように、我々扶桑見廻組も紳撰組も組織された」
「少々遅かったのでしょう、彼らにとっては」
「青龍は、確かにあっさりと散ったと聴きますわ」
 黒羽が嘆息しながら、そう述べる。
「問題は、梅谷才太郎の現在の居場所でしょう。思い入れのある土地を、そう簡単に離れられるとは思えない」
 ウィングの声に、類が長い瞬きをした。
「時間は勝手に過ぎていくけれど、現実からは逃れられない。だからきっと梅谷才太郎も、どこかで今宵の現実を受け入れて、そう、視て居るんだろうな。――あるいは、太極を」
「これはご依頼ではない私見ですが、梅谷才太郎は坂本龍馬ではない。この『現在』、先見の明を持ち、太極を見据えるは、大局を眺めるは、貴方でしょう」
 扶桑の龍馬と名高い類に対して、ウィングはそう告げ微笑んだのだった。


 その頃、斎藤 ハツネ(さいとう・はつね)大石 鍬次郎(おおいし・くわじろう)、そして天神山 葛葉(てんじんやま・くずは)東郷 新兵衛(とうごう・しんべえ)は、 他の面々とは異なり、微川亭へと逃げ込んでいた。
「すみません、相席になりますが」
 すいている店内にしては珍しいその言葉に、少し警戒しながらもハツネ達は進んでいく。
 するとそこには、藤村某こと藤原 優梨子(ふじわら・ゆりこ)の姿があった。
「あなた方が『首刎ね犯さん』ですか」
 彼女が干し首を携えながらそう告げて笑うと、細く吐息して鍬次郎が正面の席へと進んだ。
「別に捕まえようって言う腹づもりじゃありません。ただちょっと、お酒を酌み交わしてみたくて」
 だから店主に話しを通しておいたのだと言って彼女は笑う。
 そうして運ばれてくる様々な料理の前、彼女達は暫しの間、『首』にまつわる談義をしたのだった。





 八咫烏の面々と朱辺虎衆の面々が、互いの姿を追うように走っていく。
 その光景を眺めながらテルミ・ウィンストン(てるみ・うぃんすとん)が嘆息した。傍らには、一緒に調査していたディアー ツバキ(でぃあー・つばき)と合流した九頭 屍(くがしら・かばね)の姿がある。
 折を見て、朱辺虎衆を追いかける事から離脱した橘 恭司(たちばな・きょうじ)が地を踏んだ時、そこを狙って朱辺虎衆の一人が、手裏剣を投げようとした。
 同様に彼らを追っていたテルミが、それに気づいてハンドガンで朱辺虎衆の手元を狙撃した。
「くッ」
 うめき声が聞こえ、恭司を狙っていた一人が屋根から落下する。
「助かった」
 驚いたように胸をなで下ろした八咫烏の一員である恭司は、テルミに対して視線を向けた。
「キミは?」
 恭司が問うと、テルミが緑色の髪を揺らしながら柔和に微笑んだ。
「申遅れました。私、教導団のテルミと申します」
 テルミに纏われている状態のディアーが細く息をつく。すると屍が首を傾げた。
「キミも朱辺虎衆を追っているんですな?」
「嗚呼。ならば目的は同じか。どうだ? 事務所で情報交換といかないか」
 こうして彼らは、八咫烏の仮の住処へと向かったのだった。
 そこには、どこから聞きつけたのか、紳撰組の九条 ジェライザ・ローズ(くじょう・じぇらいざろーず)座頭 桂(ざとう・かつら)、そして九条 レオン(くじょう・れおん)の姿もあった。
 またその場には秋葉 つかさ(あきば・つかさ)の姿もあった。
 八神 六鬼(やがみ・むつき)が応対している様子である。
「流石将軍家お抱えの忍者部隊、情報が豊富と見受けられますね」
 ロゼという愛称の、紳撰組は諸士取調役兼監察方が呟くと、恭司が嘆息した。
 こうして彼らが集めた朱辺虎衆の情報交換が成される事となったのだった。
 彼らはウィング・ヴォルフリート(うぃんぐ・う゛ぉるふりーと)からロゼが購入した情報も踏まえ、朱辺虎衆とはなんたるか議論する。
 どうやら出自は、それこそ紳撰組同様、問われていない様子である。
 けれど共通しない事柄として、彼らはこの扶桑の都、ひいてはマホロバを恨んでいるらしいという事が明らかになった。強い負の感情を抱いているらしい。
「現在の朱辺虎衆を初めとした敵や、不逞浪士達の会合場所は池田屋か――それに、暁津藩の一部が陰で関わっているのか」
 恭司の呟きに、テルミが腕を組む。
「だとしても、まだ物証がありません。物証といえば、オルレアーヌ・ジゼル・オンズロー(おるれあーぬじぜる・おんずろー)は、指名手配書がでまわったというのに、ここの所姿が見えませんね」
「それはこちらで気になる事があるんだ――暁津藩家老の、継井河之助宅」
 恭司が応えると、ロゼが興味深そうに微笑んだ。
「背後関係を探りたいですね、当たり所がよければ生きているでしょう」
 つかさが、捕まえてきた朱辺虎衆の一人へと視線を向ける。
「さて、運良く生き残ったようですね……あらいざらい吐いていただきますよ?」
 彼女の笑みは残忍だった。
「まずは生爪から剥いでいきますか? ふふっ大丈夫吐いてくれれば楽にしてあげます」


 その頃、暁津藩家老、継井河之助の邸宅には、ルシェイメア・フローズン(るしぇいめあ・ふろーずん)が、ベルフラマントで姿を隠し潜入捜査をしていた。追いかけてきたアキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)も一緒である。
「わからんのう――しかし、貴様少し邪魔だ」
「ルーシェこそもう少しつめてくれ」
 揃って物陰から、オルレアーヌ・ジゼル・オンズロー(おるれあーぬじぜる・おんずろー)達が出てくるのを待っていた二人は、押し合いになり次第に口論に発展していった。
「だから邪魔だと言っておろうが!」
 ルシェイメアが思わず高い声を上げ、ハリセンを構えようとしたその時の事だった。
「おぬしら、何をして居るんだ?」
 そこへ未だ少年である暁津藩家老、継井河之助が姿を現した。
 二人は揃って息を飲む。
「――そうか、松風公からの祭り後の宴の知らせの使者じゃな。鬼城家後見人殿を伝令に使うとは、松風公もやりおるなぁ」
「……ちがっ――」
 否定しようとしたルシェイメアの口をアキラがふさぐ。
「そうだ。楽しみだなぁ」
「頭を垂れた方が宜しいか、後見人殿。我が家はただの一旗本」
「暁津藩の家老ともあろうお方が何を言っているんだ」
「では、今宵の夕餉の用意をさせましょうか」
「結構です。――帰るぞ、ルーシェ」
 強引にパートナーの手を引き、アキラは、暁津藩家老の邸宅を後にした。
「ちょっと待て。何故帰るのじゃ!?」
「侵入したところを見逃してもらったんだから、穏便にすますのが礼儀ってもんだろ」


「帰して良かったんですか?」
「未だ何もみられてはおらぬしな。そう、おぬしの姿も」
 アキラ達を見送っている暁津藩家老の背後で、天井から降り立った朱辺虎衆の一人がそう呟いた。――朱雀である。
「流石に指名手配犯やおぬしの姿を見られればまずかろうが、例えそうなったとしても、我は知らぬ存ぜぬ狙われていたのだと言って通せよう」
 くく、と、喉で笑う継井河之助は、子供の風体には似合わぬ老獪な瞳で、朱雀を見た。
「いい加減面を外したらどうだ? 紳撰組隊士、楠都子殿」
「……」
「皆池田屋へ逃げたというのに、コチラへ待避された貴方に敬服する。今頃、八咫烏の瞳に、あの店は見張られている事だろうからな」
「私は、本当は紳撰組の屯所に戻って、勇理の言いつけ通り、あそこを守ろうと思っていたんです」
「それは結構。しかしその傷、眞田藤庵先生に見てもらって良かったではないか」
「継井様は、何をお考えなのですか?」
「何か考えている人間が、誰かをかくまったりするものか。何も考えていないのじゃ、くくっ――」
 楽しそうに笑った子供は、月の光に透けて茶色に見える髪を静かに揺らした。
「おぬしこそ何を考えている? 紳撰組の味方になったのか? 朱雀殿」
「私は……ただ……」
「紳撰組としてオルレアーヌ・ジゼル・オンズロー(おるれあーぬじぜる・おんずろー)を召し出せば、名も上がろう。朱雀として私を利用してもそれは同じ事。保身にはしるは楽しいか?」
「私には嫌いな者が三つあります。一つ目は、勇理をそそのかす馬鹿、二つ目は地球の野菜、そして最後は、生意気な子供――貴方です」
「無関心でいられるよりは、嫌われる方が良かろう。何、わしはおぬしになぞ何の興味もない」
 こうして、暁津藩家老宅の夜は更けていったのだった。