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リアクション
■■■其の四
0
傷も大分よくなりオルレアーヌ・ジゼル・オンズロー(おるれあーぬじぜる・おんずろー)は、暁津藩家老である継井河之助の邸宅で、養生していた。これも久坂 玄瑞(くさか・げんずい)の手当の成果である。
縁側で二人並んで座っていると、そこに当主がやってきた。
「具合はいかがか?」
「幸いにも大分良くなりました。――何故、助けて下さったのですか?」
「わしは未だ子供だから、手配書の事など忘れてしまえる。だが子供であっても、負傷し倒れている者を、見過ごす事はしてはいけない。決してしはしない。わしは単に子供に許された特権と偽善を発揮したに過ぎないよ」
オルレアーヌが指名手配されている事を知っている様子の家老に対し、玄瑞が身構える。
「そう怖い顔をしないで下さい。先生は怖いなぁ。先生と名の付くお人はみんな怖い。怖いと言えばシャンバラも――その上、エリュシオンも」
くすくすと笑って見せた幼い家老に対し、決意するようにオルレアーヌが視線を向けた。
「確かに私は、シャンバラの人間です。ですが、全てが終わった後にシャンバラの人間をマホロバに必要以上に干渉させない様に尽力致しますし、老中暗殺の咎はこの地で受けるつもりでいます。何なら、手配中の私の身柄を暁津藩主に差出し、その信用を担保に幕府へエリュシオンに対する攘夷を働き掛けてくれても一向に構いません。エリュシオンをマホロバから叩き出す為なら、私は喜んで礎になりましょう。ですので、どうか――エリュシオンに対する攘夷の為、起って下さいませ」
彼女は続ける。
「私は、エリュシオンの息が掛った瑞穂藩にマホロバを乗っ取られようとしているにも拘らず、権力闘争に明け暮れる幕府に対し老中を排し挙国一致で売国奴たる瑞穂藩とそれを煽るエリュシオンを討つべしという事情で老中を排したのです」
オルレアーヌは考えていた。
――幕府は相変わらず瑞穂藩に対して不利な状況にある。攘夷の為には幕府やシャンバラからの援助の他に、そうした反瑞穂、反エリュシオンの諸藩が連帯し立ち向かう必要性がある、と。
「人の生き死にの事など、子供のわしには分からない。起つ事などなおのこと。藩主様のお考えの一つもわかりません。そんなわしには、貴方をどうにかする資格も力もない。貴方はただ、怪我をして倒れていたお姉さんだ」
伏し目がちに飄々と微笑んだ暁津藩家老は、高い空を見上げたのだった。
一羽の黒い鴉が飛んでいく。
1
どこからか鴉が一羽飛んできて、瓦の上で羽を休めた。その黒い瞳が向く先は、逢海屋にたむろする不逞浪士――攘夷志士達と、集った新撰組の面々だった。
両ノ面 悪路(りょうのめん・あくろ)が左右非対称な笑顔で笑う。
「汚名を浴びて猶、己の潔白を証明するでなく他者を踏み躙る貴方。敢えて言いましょう。どの面下げて平和を守る? 未だ答も見つけておらずに」
その声に、紳撰組局長近藤 勇理(こんどう・ゆうり)が息を飲んだ。
「話は終わりか。御高説はありがてぇが俺達紳撰組は民衆の生活を守る為の組織だ。てめぇの言う事がどれほど正しかろうが、その手段と存在に民衆が不安を感じる以上てめぇらは俺達の敵でしかねぇんだよ……」
その隣から一歩進み出て、紳撰組の鬼の副長と名高い棗 絃弥(なつめ・げんや)が声を上げた。
「そうよ勇理は悪くないは」
そこへ楠都子がやってきた。
「どうしてここに……まだ傷が治っていないだろう?」
勇理がそう声をかけると、紳撰組の制服をきっちりとコートのように着込んでいる彼女は、苦笑するように肩をおさえた。
短いスカートを纏っているせいか、制服の下の衣は見えず、代わりに妖艶な生足がのぞいていた。
「勇理が疑われているっていうのに寝ていられないです」
「負傷者が動いては足手まといになる。大人しく屯所で寝ていたほうが良い」
罪と呪い纏う鎧 フォリス(つみとのろいまとうよろい・ふぉりす)が、紳撰組の文武師範として冷静にそう声をかけた。
「だけど……」
「フォリスの言うとおりだ。都子は――……屯所を守っていてくれ」
「勇理……わかったわ」
肩をさすりながら、悲しそうに笑い、都子が歩き始めた。
そして暫く彼女は一人、暗い夜道を進んでいった。
すると――一人、暗闇で腹痛を訴えるように蹲っている者がいた。
「? どうしたんですか、大丈夫?」
「……」
都子が声をかけるが、反応は返ってこない。
「……ここで何をしているの?」
しかしその声に返ってきたのは、ブラインドナイブス及び、蹲っていた天神山 葛葉(てんじんやま・くずは)が隠し持っていた銃とその弾丸だった。
実際には、今は玉藻が表に出ている。
「…ッ! と、葛葉がストレスで寝やがったから、この玉藻様が戦闘は殺らせてもらうぜ? っても、鍬次郎の旦那が、紳選組って連中を騙す為にあまり顔を見せない様に――要は人質役だ」
すんでのところでかわした都子に対し、そのとき新たな声がかかった。
「てめぇこそ、なにやってやがる」
浪士たちを逃がしていた大石 鍬次郎(おおいし・くわじろう)が、都子の姿に気が付いて声をかけた。
「わ、私は……」
「なんだって知ったことか、裏切り者」
鍬次郎の声が響き終わる前に、音のない弾丸が、都子の足元を狙った。
東郷 新兵衛(とうごう・しんべえ)のスナイパーライフルだ。
新兵衛は、隣接する旅館の屋根の上に決めた狙撃ポイントから、光学迷彩とカモフラージュで隠れながら弾幕援護を行う。
――……まあ、情報撹乱の応用で……近藤 勇理(こんどう・ゆうり)が暗殺に関わっていると、噂を流したのも…自分の仕事だったが……。……正直、本当に正直に言って、あの外道が楠都子に…執着する理由なぞ、どうでもいい。だが……お嬢を不機嫌にさせた……報いは受けてもらう……パートナー共々……。
そんなことを考えながら、彼はシュープシューターで都子を狙った。
腕を負傷した都子が、後ろに一歩退く。
すると鍬次郎が、一歩大きく踏み込んだ。都子が地に転がって、それをかわす。
砂埃があたりに舞った。
彼は、殺気看破とスウェーで都子の反撃を捌きつつ、黒刀・無限刃安定の炎熱攻撃と達人の剣の二刀流で実力行使の体術を使い、彼女を狙う。退路を探している都子の後ろでは、 斎藤 ハツネ(さいとう・はつね)が構えていた。
――ハツネは鍬次郎を護ろうと思うの……。
そう考えながら彼女は、光学迷彩で姿を消しつつ、ブラインドナイブスとヒロイックアサルトを用いた。
都子の後ろから強襲する。
――……本当は壊したいんだけど……今回はちょっかいを掛けるだけなの。
彼女がそんなことを考えていた時だった。
ナラカの蜘蛛糸が煌き、チェインスマイトが炸裂する。
都子の周囲にいた人々が驚いて顔を上げると、そこには久坂 玄瑞(くさか・げんずい)がたっていた。
「楠さん、逃げますよ」
玄瑞は、都子の立場が紳撰組内で悪くなるような行為をすることが多かったが、それは決して彼女の死を望むものではなく、攘夷を志してのことだった。
その騒ぎを聞きつけて、周囲から紳撰組の者達らしき足音が響いてくる。
不服そうにスッと目を細めながら、ハツネが煙幕ファンデーションを放った。
「……お嬢が逃げる為の時間稼ぎだ……悪く思うな」
近場の屋根の上では、新兵衛が、事前に逢海屋の周りに仕掛けた油による破壊工作を、クロスファイアを起点に発動させたのだった。
2
志士達と紳撰組隊士達が互いに構え、抜刀する。
キン、と残響が周囲に谺しては消えていく。
竹刀とも木刀とも違う音がした。
「やるねぇ」
そんな人々の少し前では、ヘイズ・ウィスタリア(へいず・うぃすたりあ)と白津 竜造(しらつ・りゅうぞう)が向かい合っていた。 竜造は、アユナ・レッケス(あゆな・れっけす)を装備している。
「三道 六黒(みどう・むくろ)――今は、黒龍かぁ? あいつには思うところもある。いつぞやの殺し合いの続きがしたい。だが、紳撰組。てめぇらが邪魔だ」
喉で笑うように告げた竜造は、すでに把握済みの逢海屋の間取りを思い浮かべながら、口角の片端を持ち上げた。
そうしたここ数日の軌跡と『歴戦の立ち回り』を利用して動き回りながら、彼は『敵』を観察していた。
――強そうじゃないか。
『百戦錬磨』の勘で紳撰組の中心人物を見出した竜造は、ヘイズの攻撃を『竜鱗化』した身体で受け流しつつ、彼を目がけて『金剛力』を付与してぶった斬ろうと踏み込んだ。
短く呼気をして、ヘイズは優雅な身のこなしで、それをかわす。
「竜造さん」
動き回る事が可能であるため、アユナが細い声をかけた。
「おぅ」
その声で、アユナのスキルを思い出した竜造は、『軽身孔』や『先の先』を用いる。
ヘイズは手の甲でかすり傷が付いた頬をぬぐいながら、目を細めた。
こめかみからは汗が滴ってくる。
その内に、レティシア・ブルーウォーター(れてぃしあ・ぶるーうぉーたー)達三番隊も抜刀し、加勢する。
海豹村 海豹仮面(あざらしむら・あざらしかめん)たち六番隊と黒野 奨護(くろの・しょうご)達先発隊はその隙を付いて、奥へ奥へと朱辺虎衆を追って先に進んでいた。
囲まれたため、竜造は、『等活地獄』による周囲攻撃を行った後、『光術』による目くらましを炸裂させる。――潮時だった。
その頃逢海屋の外では、不意に上がった火の気に、如月 正悟(きさらぎ・しょうご)と近藤 勇理(こんどう・ゆうり)が顔を見合わせていた。
そこへ家宅捜索を行っていた弐番隊の土方 伊織(ひじかた・いおり)とサー ベディヴィエール(さー・べでぃう゛ぃえーる)、そしてサティナ・ウインドリィ(さてぃな・ういんどりぃ)が咳き込みながら外へと出てきた。
「はわわ、このままだと証拠品なんかも燃えちゃうかもしれないですぅ」
伊織の声に、勇理が大きく頷いた。
「それよりも扶桑の都に火が広がったら大変だ」
「火消しを呼ぶか?」
棗 絃弥(なつめ・げんや)が具体的な案を挙げると、サティナが頷いた。
「その方が良いかもしれんが、早い消火が鍵となる。ぬしらが呼びに行く間、わしらは裏口をしかと見張っているから、何隊かに消火活動を願おう」
「そうですね」
ベディヴィエールもまた頷く。
「四番隊と五番隊と七番隊に消火活動を頼もう」
勇理が言うと、絃弥が視線で指示を出す。
「弐番隊は裏門警備、一番隊と三番隊、そして六番隊は続けて討ち入りを続行しよう。不逞浪士たちを逃がしてはいけない」
悩むような視線を一時だけ浮かべた後、勇理が屹然とした声を出した。
そんな中、火の気が忍び寄りつつある一階のはずれでは、先発隊の黒野 奨護(くろの・しょうご)と柳玄 氷藍(りゅうげん・ひょうらん)、そして徳川 家康(とくがわ・いえやす)と皇 玉藻(すめらぎ・たまも)に対して、火の気に感づいたレギオン・ヴァルザード(れぎおん・う゛ぁるざーど)とカノン・エルフィリア(かのん・えるふぃりあ)が声をかけていた。
「このままだと火がくるぞ」
レギオンの声に、奨護が刀をふるってから振り返る。
紳撰組の制服である洋装にあわせた革靴が、畳仕立ての逢海屋の室内で音を立てた。
まだ火は見えなかったが、畳の若い緑が、茶色い泥で汚れていく。
けれどそれはある種の『清め』に必要な、志を賭した討ち入り故だ。
ザワ、と音がして、奨護の手により障子が、ふすまが開かれる。
「だけど俺は、俺達は紳撰組の先発部隊だ!」
「そうだな」
同意した氷藍が、次の障子を開けようとした。
その時の事だった。
「えィァアアア!」
不逞浪士の叫び声が響き渡った。
衣が障子にすれる音がする。対峙したレギオンが、相手の動きに合わせてすばやく動いた。
同時に海豹村 海豹仮面(あざらしむら・あざらしかめん)もまた敵に合わせて体を動かす。
ガサリ、カサリと衣擦れの音が響く中、タタタ、ダダダと足運びの音が止まない。
「はァァァァっ」
「でぇぇぇい!」
バチン、ガチン、キン――そんな鈍い音と高い音が交互に響いては消えていく。
きき手を付き身を回転させ、レギオンは向き直った。
その正面では、海豹仮面が刀で敵の刀を受け止めている。
そこへ襲い来る白刃に向かい、家康が構えた銃を発砲する。
サイレイサーが音を消す。だからパスッと軽い音だけが響いて消えたが、すぐにその後、額に穴を穿たれた浪士のうめき声と血飛沫の舞う音が辺りを劈いたのだった。
「そろそろ本当に逃げないとまずいぞ」
氷室 カイ(ひむろ・かい)がそう声をかけると、雨宮 渚(あまみや・なぎさ)が退路を視線で示した。
「こちら側の道なら安全そうだわ」
「行きましょう」
カノンが言うと、玉藻が大きく頷いたのだった。
「恐らくその先に、朱辺虎衆の連中もいるはずだしな」
レギオンのその声は、煙の中に解けるように消えていった。
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